第6話 新開 明


 1967年、昭和42年に新開 明は生まれた。

 オレは難産で母親の腹の中で、一度死んでから生まれたらしい。


 一度死んだせいか、子供の頃から霊と人間の区別が分からず、虚空に話しかけていた。


「明ちゃん、誰と話をしているの?」


「あの子だよ」


 壁を指差すが母には、見えない。


「???」


 オレに、両親は不思議と思いながらも、普通の家庭で育った。


 オレが6歳、命が1歳の時に、オカルトブームの世の中で、母親が興味本位でオレに心霊写真を撮らせて、番組に投稿した。


 それから、子役みたいに色々な番組に呼ばれるようになった。


 未解決事件を追う番組で、犯人に繋がる証拠を言い当て、行方不明者の遺体の場所を番組で当ててしまった。


 番組進行のお姉さんが、質問してくる。


「明君、この人は、悪い人で警察が困っているの、助けてくれないかな?」


「いいよ」


「じゃあ、地図と絵を描いて教えてね」


「ココと、これ」


 地図にある川を指差し、血のついたナイフと溺れている人を書いた。


 後日、調べて分かった。犯人は、2人殺していた。指を刺した場所には、重りを付け、沈められた行方不明者に、凶器が見つかった。


 オレは、やり過ぎてしまった事に後で気づいたが全てが、遅かった。家族の歯車がそれから狂い始める。


 一躍、有名になったオレは、『奇跡の神童』と呼ばれるようになり、TVで大活躍をするようになった、父親は突然の大金に会社を辞めて、ギャンブルや外に女を作るようになった。


 母は、命に依存するようになり、オレには、「ママが弱くてごめんね」と泣くようになる。母は、家から出なくなった。そして、新開家は崩壊した。


 瞬く間に、両親は離婚したが、大金を稼ぐオレを父は、離さなかった。

 

 妹は、母に引き取られ、父は母と命との、電話を禁止した。手紙だけが、妹と母との連絡手段だった。


 タレントとして、心開 明の芸名で、活躍する中で、離れて暮らす、命の手紙には、オレがヒーローのように書かれていた。その手紙が、荒んで疲れ切った心を癒してくれた。


 たまに、会う命は、オレによく懐いてくれる事が嬉しくて、プレゼントや遊園地、動物園、水族館に遊びに行った。


「命、楽しいかい?」


「明兄ちゃん、だーい好き!」


 楽しそうに走り回る、命が可愛くて、家族を壊した事が申し訳なくて、わかってはいたがドンドン甘くなっていった。


 しかし、母は人間不審になり、塞ぎ込むようになってしまった。離婚の時の、慰謝料と仕送りで生活には不自由はなかったが、心配だった。


 そんな日々が続く中で、父の借金や使い込みが発覚した。オレは、父を見捨てた……


 父がオレに言った。最後の言葉が「今まで、育ててもらった恩をわすれた親不孝者が!」だった。それ以降は、会っていない……


 母と命に、オレは一緒に暮らそうと言った時に、二人は喜んでくれた。


「母さん、命とオレの3人で暮らさないか?」


「良いのかい、明」


「前々から、ずっと考えていたんだ。母さんの事は心配だし、命と手紙で話していたんだ。母さんさえ良かったら、一緒に暮らさないか?」


「ありがとう、明」


 電話を切り、母は命に話をした。


「お兄ちゃんが、一緒に暮らさないかだって、良いかい命?」


「当然だよ。じゃあ、いきなり行って、明兄ちゃんを驚かせよう」


「命ったら、しょうがないわね」


 電話をした次の日、二人は交通事故で死んだ。


 飲酒運転をした。未成年の少年が、二人の乗った車に、正面衝突をしたせいだった。


 オレが、21歳。命が16歳の時だった……


 誰も、いない部屋で命と母の遺品を握り締めながら、ひたすら泣いた。


「オレが、一緒に暮らそうなんていわなければ、2人ともあんな事にならなかったのに……」


 そして、オレは仕事に逃げた……


 除霊した時、幸せそうに天に還る霊達を見ていると、命の手紙にあった、ヒーローになれた気がしていた。

 

 それに、普通の人が出来ない、自分にしか、出来ない事がオレの誇りだった。


 そんな時に、番組の中で霊や座敷童を生放送で写してしまった。


 番組プロデューサーから、使えないと怒らせる事が続き。仕事に対する熱は、冷めていった。


「明ちゃん、ダメだよ。コレ、ガッツリ写ってるから、使えないよ」


「えっ! 映ってるなら、良いじゃないですか」


「ダメダメ。お茶の間が、大混乱だよ。なんとかならないの明ちゃん……」


「わかりました。次は、頑張ります」


「軽いので、いいから。体の一部とか、微かに聞こえる声とか、頼んだよ」


 手加減をした方が、褒められる。疑問と違和感に悩む日々が続いた。そして、悩むのをやめた。


 番組では、手を抜いてこなす。


「明ちゃん、最高だったよ。今回のみたいのでまた、頼みますね。先生」


 笑顔で帰るプロデューサーに、なんとなく仕事の感覚を掴んだ。


 このプロデューサーとは、長い付き合いになった。オレが、最後のホテルでのロケも、このプロデューサーだった。


 そして、ロケバスで心開 明は死に、異世界でレイ・カトリックとして生きる事になった。


 

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