第2話 新しい生活と幼馴染


 転生して、早いもので5年の歳月が過ぎたが、未だに慣れずにいた。


 朝の身支度をしていると、鏡には、金髪に碧眼の少年がいた。レイ・カトリック。 

 ……それが、今の名前だ。


 元霊能者・心開 明から転生しが、私は仏教徒だ、何の因果かカトリックとゆう苗字になった。


 生まれた瞬間から記憶があるので、最初はかなり苦労した。


 動かない体、話せない口、自由にならない事が沢山あった。彼女がいなければ地獄だった。


「レイちゃま、朝ごはんですよ?」


 元気な声で幼馴染のアイカが、起こしに来てくれる。

 メイドで働いている姉のエリカと一緒に、カットリック家で住み込みで働いている。


赤い瞳に、赤いショートカットのキャットピープル族。猫の獣人だ。

 

 カトリック家は、イングシア帝国の辺境伯で迫害されている、多くの獣人を保護・雇用して助けていた。


 アイカと姉のエリカも、村を追われている所を、カトリック家で保護し、メイドとして雇っている。


 アイカとは、赤ん坊の時から一緒に暮らして来た家族で、いつも一緒にいる。


「ありがとうアイカ、行こ?」


「あい」


 2人で手を繋いで、いつも食堂に行く。オレの、1日はアイカで始まっていた。


「おはようにゃー」


「おはよう、エリカ」


 エリカは、7歳年上で金髪に赤い瞳で、最初に見たのはエリカだった。

 語尾に「にゃー」と言う。方言らしい。


「食事の後は、どうするんですか?」


「特には決めてないよ、アルル」


 アルルは、アイギパン族、羊の獣人で、おっとりしていて、よくお菓子をくれてる。


「坊っちゃん、遠くで遊んでは、ダメですよ」


「わかったよ、マコ」


 マコはポチ族、柴犬の獣人。オレの教育係で厳しそうだけど本当は優しい。

 朝ごはんを手早く片付けるとアイカを呼んだ。

 

「アイカ、行こう!」


「あい」


「今日は、探検しよう」


「レイちゃま、遠くはダメですよ」


 アイカが、頬を膨らませて抗議してくるが、ただ可愛いだけだ。


「わかっているよ、だから敷地内で探検するんだよ、問題ないだろ?」


「それなら……」


「ほら、行くよ。アルルからお菓子を貰ったんだ。いい場所を見つけて食べよう」


「あい、レイちゃま」


 敷地は結構広い。カトリックの敷地は、未だに把握できなかった。

 ベンチを見つけて、花畑を見ながらお菓子を食べる。


 気づくと花畑に黒いモヤが動いているのに気がついた。


「おいしいれふ、レイちゃま……」


 隣で頬にお菓子を詰めて、リスのように食べている。


「落ち着いて食べるんだ。喉に詰まるよ?」


「んー」


「ほら……」


 クッキーを喉に詰まり、慌てるアイカの背中を叩いて飲み易くする。


「ここで待っていてくれ」


「あい」


 素直にベンチで待つ、アイカを置いて花畑にしゃがみ込み、黒いモヤに手を合わせるとモヤは消えた。


「レイちゃま……」


「どうしたんだい……」


 ベンチにいるはずのアイカが、いつの間にか後ろにいて、服を引っ張る。

 振り向くと目の前には、野犬が3頭いた。屋敷内に紛れこんできたようだ。


「逃げるよ、……走るんだ!」


「あい!」


 ワン、ワン、ワンーー


 石を投げて牽制するが、犬の足が早い。ちょうどいい所に、子供1人が入れる程の大きなツボがあった。


「ツボに入って、目と耳を閉じるんだ。いいね」


「レイちゃまは?」


「大丈夫だよ」


 大きな瞳からポロポロと涙を流す。アイカの目元をハンカチで拭いたあと、後ろから押してツボに入れた。


 犬が追いつき、噛みつこうとするが犬は動けなくなる。


「お前達、よくもアイカを泣かせたな」


 犬は異様な雰囲気を察して逃げようとする。

 だが動かない。霊能力は、今でも使える。


 地球で子供の時、人とは違う存在が見える事にすごく苦労したので、今は隠していた。


 犬にデコピンを思いっきりする。

 犬は吹き飛び逃げ出した。


 キャン、キャンーー


「レイちゃま? 大丈夫ですか?」


 怖がりながら、ツボから顔を半分だけ出して、外の様子を確認するアイカ。


「大丈夫だよ、犬達は帰ったようだ」


「うわーん、レイちゃま……」


 鼻水と涙とよだれで、顔をクシャクシャにするアイカの顔をハンカチで拭くと頭を撫でながら。


「よく頑張ったね。今日は帰ろっか?」


「あい」


「お菓子まだ、あるけど食べる?」


「あい、さっき花畑で何をしてたの?」


「う〜ん、おまじないかな?」


「おまじない?」


 意味が分からずにアイカは、不思議がっていた。


 2人でお菓子を食べながら歩く、前世のオレには考えられない事だ。昔は、そんな当たり前に出来た事を、自分で壊してしまった……


 転生する前は、妹がいたがあいつは大丈夫なのだろうか。アイカを見ていると妹を思い出す。


「ありがとう」


「?」


 不思議な顔でお菓子を食べるアイカを見ながら救われる思いがした。


 そんなある日ーー


 オレの兄2人が来た。三男のグレイブ・カトリックと四男のスタング・カトリックだ。


「オレはグレイブお前の兄だ」


 小太りの傲慢なヤツだった。


「スタングだ。兄さんに逆らうなよ」


 グレイブの後ろから話しかけてくる。完全に取り巻きだ。


「はじめまして、グレイブ兄さん。スタング兄さん。レイです」


「わかってるじゃないか」


「なかなか、話ができるみたいだな」


 偉そうに話す2人に嫌気がさすが、兄だから我慢していた。


「レイちゃま……」


 走ってきて、背中にくっ付くアイカを見た2人が信じられない事を言い出す


「なんだ、この獣人は。獣臭いと思ったら……」


「レイ……獣は、飼育小屋に入れないとダメじゃないか?」


 背中でアイカが声を殺して泣いていた。


「うっ……うっ……うっ」


「アイカを、悪く言うのはやめて下さい!」


「レイはわかってないな、獣人は獣と同じでしつけが必要なんだ」


「父上や兄さん達はそれがわからないんだよ」


 あまりの言い草に奥歯を噛み締める。アイカ達獣人が、迫害を受けているのは知っているが、目の前で差別的な事を言う腹違いの兄達に怒りを覚える。


「私はこれで失礼します。行こうアイカ」


「……」


 震えるアイカの肩を抱きながら、帰るオレにグレイブが叫ぶ。


「今だけだからな、汚い獣人と遊んでいられるのはな!」


 この一言に我慢の限界が来て、グレイブの足を念力で折ってやった。


 バッキーー


「ギャャャーー!」


 遠くからグレイブの叫び声が聞こえた。


「レイちゃま……アイカが一緒にいたらダメなの?」


「オレはアイカとずっと一緒だよ」


 泣くアイカを見て、絶対にこれからも守らなくちゃいけないと思った。


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