第2話 シャドーピープル


 船での行方不明事件は、続いていた。


「船員がまた、消えたらぞ」


「怖いわね……この船、大丈夫かしら」


 乗客にも不安が拡がり初めていた。

 

「これ以上、行方不明者が増えると暴動が起きるかも知れない……なんとかしないと……」


「そうですね。私達なら、大丈夫ですが、戦うすべを持たない人は、恐怖を感じているはずです」


 朱音がオレの意見に同意する中、楓が話に割り込む。


「せやかて、相手が分からないなら、どうしようもないやん」


「誘い込みますか、エサを用意すれば食いつくんじゃないですか?」


 朱音の意見て、オレはある作戦を思いついた。

 船員達から、聞いた話だと真夜中に船外、甲板とかに移動した時に消えていた。



♢♢♢



 船員の姿に変装した、オレ、雫、朱音、楓は船外を回っていた。

 龍之介には、念の為に変装して待機してもらっている。


 しばらく巡回していたが、何も起きない……

 その日から、真夜中の巡回が日課になってきたある日の事……


「いい加減、解決しないと辛いわ〜」


 楓がげんなりしながら、溜息をつく。雫達は、交代で、昼の特訓、勉強会、真夜中の巡回をして疲れ始めていた。

 オレも、特訓以外はやっているが日頃から、慣れているので、余裕がある。


「レイ殿は、余裕そうだな」


「そうですね。合衆国にいる時は、数倍の仕事をしていますから、正直。楽ですね」


 オレの言葉に、雫達はげんなりしていた。


「黒い、真っ黒なブラックやん」


「合衆国は、出来たばかりの国ですから。最近ようやく安定し初めたんですよ。じゃないと、国外に出れなかったんです」


「レイさんは、やっぱり大統領なんですね」


 朱音の言葉に、気づいた。合衆国が自分の日常になっていた事に……あたりまえの場所だと離れてわかった。


「そうですね。オレの国ですから……」


 自然と笑顔で答える事ができた。


 波の音に紛れて、何か海から跳ねるような音が聞こえ。


「聞こえましたか?」


「船尾の方からだ」


 船尾に行くと顔色の悪い船員と上半身が金髪の美人、下半身がタコのスキュラ族が船員と争っていた。


「あんたら、返しなさいよ。私の大切な……」


「そこの、スキュラ何をしている! その人を離しなさい!」


 雫の言葉に険しい顔をした、スキュラの女が船員をタコ足で縛り始まる。


「コイツら、人間じゃないから、シャドーピープルだから!」


 その時、縛られていた船員が黒い煤になって消滅した。


「レイ殿、悪霊ではないか?」


「雫ちゃん、シャドーピープルは悪霊とゆうよりも、異次元のガス状の生物かな?」


「朱音ちゃんは、物知りやね」


 とりあえず、スキュラ族の女性は戦う気がないらしい、名前は非常に長いからスーでいいと言われた。

 スーさんは、奪われた物を返して欲しいと言っていた。何でも、船員が盗んだので取り返しに来たら、たくさんシャドーピープルがいたそうだ。


「あんたら、ヤバイくらい強いでしょ。危険だから、様子を見てたのよ。私、スキュラの戦士だから、わかるわけよ」


 オレ達に、警戒して現れなかったのか。


「スーさん、何を取ったんだい?」


「私の卵! 5個返して欲しい!」


 なるほど、そりゃ取り返しにくるな。


 スキュラの卵は、珍しく高値で取り引きされるようで、産みたてのを盗んだようだ。


「あるとすれば、倉庫だが良いのか? スーさんが産んだ卵でも、通用しないぞ」


「所有権を主張しますね、間違いなく」


 雫と朱音の言いたい事は、分かるがオレは合衆国の大統領、彼女の味方だ。


「じゃあ、盗みますか。スーさん、良ければ合衆国に来ませんか? 法的にも物理的にも保護しますよ?」


 人間の法が適用されない、獣人とモン娘の国が合衆国だ。大統領のオレが言うから間違いない。


「無茶苦茶な理屈やな……」


「テロリストを匿う国みたいですね」


「悪いのは、盗んだ船員だかな」


 雫達は、若干引きつつ、理屈は間違えていない事は理解出来るが、素直に受け止める事が出来ずにいた。


 倉庫に行くと鍵がかかっていたが楓がすんなり開ける。


「このくらいの鍵なんて、秒で開くわ」


 なんで、ピッキングをマスターしているのかは謎だが、聞かない事にした。


「大金になる卵が5個、笑いが……」


 雫が瞬時に動き、漫画でよく見る首トンッをして船員を気絶させる。


「凄いですね、リアルで初めて見ました」


 感激するオレに朱音も同意する。


「私も、初めて見た時は感激しました。楓ちゃんがやったら、首が無くなりましたから」


 それって、ギロチンみたいになったって事かだよな。力加減が難しいんだな、やっぱり……


 近くにあった、鏡から黒いモヤが出て、気絶している船員に、近づいて行く。


「鏡を割って楓ちゃん!」


 楓が、短刀を鏡に投げると鏡は割れ、黒いモヤも消えてなくなった。


「鏡が、シャドーピープルの出入り口になっていたんだな」


 オレ達は、割れた鏡とスーさんの卵を回収してから、スーさんのいる船尾に行った。


 スーさんに、合衆国がどれほどいい所なのかを力説すると、合衆国に行く事が決まった。


「よし! 新たな国民を勧誘したぞ!」


 これで、水路拡大計画が早まる。合衆国では水中等で暮らす獣人やモン娘の為に水路を大胆に広げる計画があるのだ。


「どこの世界に、大統領が勧誘する国があんねん」


「楓、ここに居るぞ」


「レイさんは、型破りな大統領ですね」


 スーさんに、こんな事があるかもしれないと作った、水に濡れても大丈夫な書状に、ウォル兄さん宛に書いて渡した。書状には、オレ専用の印が押されている。


「合衆国の人間に見せれば、手続きをしてくれますよ」


「ありがとう、大統領さん。君の国に家族で行くから、よろしくね」


 風呂敷で卵を包んだ、スーさんが海に返って行った。こうして、行方不明事件は、解決した。

 

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