第6話 国家反逆罪


 カイン兄さんは、しばらく本館に残り毎日のようにみんなですごしていた。


 軍で働いているが、まとまった休みが今年は取れたらしく、今日も4人で街に来ていた。


「たまには、買い食いしながら、散歩も楽しいもんだな」


「そうですね」


 出店にあった兎に良く似た、ホーンラビットの串肉を食べている。


「レイパパ、おいしい」


「ココちゃん、顔が肉汁だらけですよ?」


 アイカが、ハンカチで拭いてあげる。


「アイカママ、ありがとう!」


「お前達を見ていると親子のようだな、レイは父親かな? はははは……」


 からかうように、笑っているがアイカは顔を赤くしている。


「しかし、レイが元気そうで良かったよ。安心した……」


「オレは、いつでも元気ですよ」


「マリア殿がレイをかなり過保護にしていたからな、心配していたんだ」


 カトリック家は本館と離れが3棟あり、オレ達は本館から1番遠い離れに住んでいる。


「過保護なんですか?」


「離れから出ないように言われてなかったか? マリア殿ならありえる」


「私達はレイ様が、離れと敷地内から出さないようにずっと言われてましたよ?」


「本当に? 湖とか行ったよ?」


 アイカは、溜め息をつきながら。


「ハァ、マリア様や私達も一緒でしたよ?」


「確かに……」


「レイには姉がいた事を、マリア殿から聞いたか?」


「いえ、……知りませんでした」


 姉は″リリーナ・カトリック″。

 リリーナが生まれて里帰りに、お爺様の家からの帰り道に馬車が大事故で壊れた時にオオカミの群れに襲われて、リリーナは攫われた。


 護衛がオオカミを追いかけ、巣を見つけてオオカミを倒したがリリーナは、居なかったが沢山の子供や赤ん坊の骨が見つかった。


「あの頃、マリア殿はひどく塞ぎ込んで、父上も心配してな……。ずっと離れで暮らしていたが、その頃に、ご懐妊されたんだ」


「オレに、姉さんが……?」


「レイが生まれてからは、父上も余り合わせないぐらい過保護になったんた。オレ達は、全く会わせてくれなかったからな」


「そうだったんですか」


「まぁ、今は一緒に遊べるし、ココのようなかわいい子もいるしな」


 オレの頭を撫でながらニカッ笑うカイン兄さんと別の話をしながら買い物や食事をみんなで楽しんだ。


「カインーー! カインーー!」


 遠くから、三人組の冒険者が走ってくる。


「よう、マーシュ久しぶりだな?」


「久しぶり、じゃないですよ? 来てるなら、ギルドに遊びに来てくれよなー」


 オレ達が、置いてけぼりになっているとカイン兄さんが気付いてくるた。


「コイツらは昔からよく連んでるAランク冒険者の″銀翼″だ!」


「彼等は?」


「弟のレイと、従者のアイカだ」


銀翼達は驚きながらリーダーの銀髪の男が名乗る。


「銀翼のリーダーをしている。マーシュです、よろしく……」


 マーシュと握手した後2人も紹介してくれる。

 魔道士のサイに盗賊のサイアス。

 2人と握手した後、銀翼別れた後、帰宅した。

 

♢♢♢


 寄宿学校に行く為、帝都まで旅をする事になった。


「帝都までどのくらいだっけ?」


「15日はかかるかな?」


「カイン様。20日ですにゃ」


「エリカちゃんは手厳しいなー」


 カイン兄さんは適当に答えてエリカに訂正されていた。


「帝都はどんな所なんですか?」


「帝都は異常にキナ臭いな。市民街では犯罪者が横行して、人攫い、殺人、強姦、人身売買が裏で行われている! エリカとアイカは1人で出歩いたらダメだよ? いいね?」


「「はいにゃー」」


 少し青ざめながら答える2人。

 エリカは最初こない予定だったが父様と母様が心配して来る事になった。


「貴族街は比較的に安全だが気をつけてくれ。カトリック家は、戦争反対派と獣人擁護派になっている」


「そうなんですか?」


「カトリック家は大派閥だ。レイにはまだ早い話だが、時間があるから良く聞いてほしい。馬車の旅には丁度いいしな。」


 イングラシア帝国はたび重なる侵略戦争で、疲弊しきっている。貧富の差が広がり失業者が増えて、餓死者が出ている。


 上層部は侵略戦争を更に進めて、戦争奴隷の獲得に、物資や食料と財宝を強奪すれば良い、と考えているが、カトリック家はまずは各領地の経済地盤を安定させれば、失業者はなくなり餓死者はなくなり、帝国は安定すると訴えている。


「戦争より領地の安定を考えるのが、貴族ではないのですか?」


「普通はな。帝国の上層部は犯罪組織と繋がっている。兵器や傭兵を帝国に売る《死の商人》。奴隷や獣人や貴重な生き物を貴族達に売る《奴隷商人》。麻薬や肉体を強化する薬物を売る《麻薬商人》。帝国の上層部にワイロをばら撒いている」


 カイン兄さんやウィル兄さんは父様に協力して帝国の内部にいる、犯罪組織の撲滅と敵対派閥の説得にずっと力を注いでいた。


「捕まえば、いいのでは?」


「無理だ! 証拠はもみ消され証人は暗殺される!」


「「にゃ!」」


「すまない。2人共……」


 カイン兄さんは今まで歯痒い思いをしていたようで、泣きそうな顔をしていた。


「カイン兄さん……」


「そこの馬車、止まれ!」


 馬車の前に軍馬に乗った騎士団達が道を塞ぐ……

 馬車からおとなしく馬車から降りると騎士が1枚の書類を取り出し叫ぶーー


「カイン・カトリック及びレイ・カトリック! 貴様らには国家反逆罪と違法薬物の売買の他に多数の容疑が掛けられている! おとなしく縛につけ!」


「ふざけるな! 貴様達はどこの所属だ!」


 カイン兄さんが怒りながら叫び騎士に詰め寄る。


「逆らうか、抜刀!」


 騎士団が剣を抜き切りかかってくる。


「カイン様、危ない!」


 エリカがカイン兄さんを庇い背中を切られ血が吹き、オレの顔に飛んだ。

 倒れるエリカに叫ぶアイカ、目の前が赤くなる。

 オレの中で何かが切れた。


「なんだ? 動けない? 魔法?」


 金縛りで動きを止めて。

 オレは念力でリーダーの騎士を空中に上げ握りしめる。


「な、何が? グハッ! お前か! お前がやっているのか? 止めろ! やめてくれ!」


 そして、潰した。


 バッギ、バギ、バギーー


 鎧がグシャと潰れて血が雨のように降る。

 腕や足を捻じ切る。


「ぐぎゃーーー! 助けてくれ! いや、助けて下さい! お願いしまっ……へ……」


 叫ぶ騎士の頭を弾き飛ばす。

 青ざめる騎士が泣きながら言った。


「あ、悪魔だ……お前は悪魔だ!」


「……黙れ!」


シュンーー


 払うようにうるさい騎士を首を弾き他の騎士の足元に転がした。

 腰を抜かしガタガタ震える騎士に留めを刺そうとする。


「レイ様……おやめ下さい……」


 エリカの声が聞こえてくる。


「エリカ、大丈夫か!」


「……レイ様……血が止まらない……にゃ」


「クッ.…止まらない!」


「カイン兄さん!」


 カイン兄さんとアイカが血を止めようとしているが止まらずにいた。

 自分の服を破り縛っているがたちまち赤くなっていた。


「血が止まらない! オレの荷物から薬草や傷薬をもってきてくれ。……早く!」


 慌てるアイカが馬車からカイン兄さんの荷物を取りに行き運んでくる。

 

「う……薄汚い獣人が死んだところでなんだってんだよ! たかが獣人だろうが!」


「はぁー? お前、今なんて言った?」


 完全にキレているオレに、震える騎士が叫ぶ。

 

「こんな事をして、タダで済むと思っているのか? お前達、カトリック家は終わりだ!」


「黙れ!」


 うるさい騎士の片足を折り呻く騎士を、上から叩き潰す。

 上から以上に強い圧力により地面にめり込んでいった。


 額に油汗をかきながら手当てをする、カイン兄さんが傷を縫いながらエリカに呼びかけていた。


「我慢してくれ」


「……」


 エリカは布を噛み締めて痛みに耐えていた。

 ココとアイカがエリカを元気つけている。



 手術はなんとか成功したが油断を許さない感じだった。

 

「カイン様、お姉ちゃんを助けていただき、ありがとうございます」


「いや、いいんだ。オレが不用意な行動をとったせいだ。すまない」


「カイン兄さん……オレは……」


 カイン兄さんがオレの頭をポンポンとしながら優しく言った。


「よくがんばってくれた、ありがとうな」


「カイン兄さん……」


 オレは泣いていた。今までの緊張せいか、安心したのかはわからないが涙は止まらなかった。

 


 





 

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