第6話 絶望の出会い


 誰もが動けずにいた。


 フェンリルが、放つ殺気にその場の全員が話す事も動く事もできない。

 レイ達の後ろを走っていた、馬車がようやく到着してカインが飛び出すし、レイ達に並ぶ。


「フェンリルにマリア殿……いや……違う!」


 カインには、ただ1人思いあたる人物がいた。


「ま、まさか……リリーナなのか? ……お前はリリーナなのかー!」


 叫ぶカインの声に、レイは思い出す。自分の姉、狼に赤ん坊の時に殺されたはずのリリーナ・カトリックの事を思い出していた。


 フェンリルの上から、レイを睨みながらリリーナはレイに叫ぶ。


「お前が、お前が! レイか? 私が17年間、地獄の苦しみを受けていた時、ぬくぬくと生きていた! 貴様は! 私が、腹を空かして木の皮をかじり、泥水をすすり、共に育った狼の兄弟たちが獣人共に殺された! お前は、カトリック家で快適にいきていたのだろ?」


 涙を流しながら母の顔で母の声で怒りと憎しみを放ちながら、レイを怒鳴りつけるリリーナ。

 レイは心臓を鷲掴みされたような苦しみを感じていた。


「絶対に許さない、お前は苦しんで苦しんで絶望の中で死ねぇぇーーーー!」


 リリーナの鬼気迫る声に足が震える。気持ちが悪い胃液が逆流してくる。何より、母の姿と声で罵られるのがレイを何より苦しめた。


「私を助けてくれたのは、母さんとグランドだけ…」


 フェンリルの背中を優しく撫でるリリーナにフェンリルはクーンと鼻でリリーナの顔を撫でる。


「レイ・カトリック! お前の罪は何もしらず、何も知ろうとしなかった! それが! お前の罪だーー!」


 リリーナの声に膝から崩れて地面に胃の中の物をすべて吐き出す。


「ヴェーー、ゲッホッ、ゲッホッ……」


「レイ様!」


 レイの背中をさすりながらレイを労るアイカを見てリリーナは気がつく、アイカがレイの大事な人だと……

 フェンリルにリリーナは命令をしようとした時遠くから何かが近づいて来た。


「おっ、いたぞ! ラッキースターさがしたぞ!」


 巨大なヘルバウンドに乗る漆黒のオーガが大群のヘルバウンドと共に来た。


「大物食い様、お久しぶりです」


 今までとは別人のように笑顔で挨拶をするリリーナと段違いの強者の《大物食い》に恐怖していた。


「そちらの方は?」


「わたしは、鬼姫だよ! よろしく」


 鬼姫と名乗る女オーガも凄まじいオーラを放っていた。

 ガクガク震える、ウィンドラとナターシャは地面に座り込み、地面を濡らしていた。


「取り込み中悪いな、ラッキースター。オレ達、フランから丸5日走りっぱなしで、くたくたなんだ! 拠点に案内してくるか? グランドからのメッセージと辞令もあるしな!」


「グランド様から、直ぐに帰りましょう! 私すごく、楽しみです!」


 花のような笑顔のリリーナに、母・マリアが重なる。それが、何より悲しかった。


「お前、空いてるのに乗りな!」


 大物食いがグレイブにヘルバウンドに乗るように指示を出し、すぐに走り出しみえなくなる。

 レイ達は動けるようになるまでしばらく時間がかかった。


♢♢♢


 リリーナ達は、イングラシア帝国にある、拠点に到着していた。

 拠点の指令室に3人は集まっていた。


「わたしから言うかい?」


「オレが言う! 結構好きなんだよ!」


 キキがオウガに質問したが笑いなからオウガが答える。

 緊張しながらリリーナは座っていた。グランドからどんな辞令がきたのかワクワクしていた。

 グランドからの辞令ならリリーナは全て喜んで受けるだろう。


「ラッキースター、リリーナ・カトリックよ! 

我々は神に唾を吐き、反逆する! この世界を恨み、絶望した同志よ! 君は合格した! 我々は歓迎する! ようこそ秘密結社″ゴッド アベンジャー″へ!」


 大きな両手を高らかに広げてオウガはリリーナに宣言した。

 リリーナは心の底から嬉しそうにほほえんだ。


♢♢♢


 隠れ里に、戻ったレイ達はみんな暗い顔をしていた。無理もない。度重なる衝撃的な出来事に打開策が見つからなかった。

 中でもレイが1番、衝撃をうけていた。母と瓜二つの実の姉にあそこまで恨まれいたのと姉の言葉が母の言葉のように聞こえて心はズタズタになった。

 誰も話しかける事が出来ず。1人でそっとしてあげる事しかできないとゆう結論になった。


「………」


 暗闇の部屋で魂の抜け殻のようなレイはただ涙が止まらずにいた。

 アイカは静かに部屋に入りレイが寝ているベットに入り抱きしめながらレイに語り掛ける。


「覚えていますか? 昔離れでマリア様と私とレイ様で遊んだの事を……」


 あの楽しかった日々を。今はもう帰ってこない……全て手の平からこぼれ落ちて消えてしまった。


「でも、たくさん残っているんですよ。あなたが居たから、私やカイン様やココ……たくさんのレジスタンスの仲間達がいるんです」


 アイカの声が震えている。


「だから……自分を否定しないで……あなたが居なかったら、みんな死んでいたんですよ……だから、自分を否定しないで……」


「アイカ!」


 暗闇の中でアイカの光る涙と言葉にレイは救われた気がした。


「ありがとう、アイカ。オレはアイカが、いないとダメみたいだ」


「レイ様……」


 2人は長いキスをして夜が深けていった。


♢♢♢


 翌朝、隠れ里の扉を豪快に叩く音が隠れ里中に鳴り響いた。


「なんだ! 一体何が起きた!」


 飛び起きたレイは、窓を開けて外を見る。

  誰かが隠れ里の扉を叩き、人を呼んでいるようだ。


「レイ様! 前、前!」


 アイカが、シーツで身体を隠しながら顔を赤くしている。


「!」


 自分が、全裸だと気づいて、急いで服を着るレイを見てアイカは安心した。


「もう、レイ様は!」


 自然と笑みが溢れるアイカを見て、レイは嬉しくなった。


「あっ、急がないとアイカ!」


「そうですね、レイ様!」


 2人は、急いで服を着て門に行くと人だかりが出来ていた。


「レジスタンスのリーダーに合わせてくれ!」


 女性の声と共に、扉をずっと叩いている。


「オレがレジスタンスのリーダーだ! なんのようだ!」


 レイが、叫ぶと扉の向こう側の人物が疲れたように答える。


「はぁー! やっと来たか! すまないが大物喰らいと鬼姫について話をしたい! 私は君達に敵対するつもりは無い! なんなら武器を預けてもいい!」


 大物喰らいと鬼姫の名前を聞いてレジスタンスのメンバーはざわつくがレイが落ち着かせる。


「みんな! 落ち着いつくれ! わかった、小窓を開けるから武器を預けてくれ!」


 扉の横にある小窓を開けるように部下に知らせると武器が次々に渡された。どの武器も見事な武器だった。


「今、開けるから少し下がってくれ!」


 扉を開けた時、レイは目を見開いて驚いた。


「私は″ピースメーカー″のリーダーをしている、斑目まだらめ 雫。あなたがレジスタンスのリーダーか?」


 黒髪のショートヘアーの20歳ぐらいの日本人が立っていた。

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