第44話 新(婚)生活

※悩みすぎて遅くなりました。すみません。文章力が欲しい今日この頃。

※今日は43話と44話の二話更新です。最近暗い話が多かったので、雰囲気を戻したいです。よろしくお願いします。


 目が覚めた。

 家具類とその配置は同じだが、壁の模様や色が違うので一瞬自分がどこにいるのかわからなくなった。けれど、すぐに、ああ新しい部屋に移ってきたのだったと思い出す。

 昨日、あの後ですぐに僕の引っ越しが始まった。家具類は今まで使っていたものを持ち込んだ。侠舜がその方が良いと進言してくれたらしい。それから夜が来て、主上が来て一緒に寝たのだった。

 頭がはっきりしてきた。腰が怠い……。

 耳を澄ますと廊下の方はまだ静かで、なんとかいつも通りの時間に起きることができたらしい。良かった。日課になっている馬の雪の世話が始まって、今のところ遅刻せずにすんでいる。自分の役割だけはきちんと果たしたい。まあ、寝過ごしそうになっても雲嵐や侠舜が起こしてくれるから当たり前なのだけど。

 さて。

 隣を見る。大きな体が僕を抱きすくめる形で寝ている。

「奏凱さま、起きてください。そろそろ人が来ます」

 ……。ぐっすり眠っている。

「今日も訓練があるのですよね?悠午さまを待たせては失礼ですよ」

 今度は少し大きな声で耳元に囁くけれど、起きる様子はない。どうしようか。そろそろ起きないと雪の世話に遅れてしまう。雲嵐もそろそろ起こしに来るはずだ。この格好を見られたくはない。せめて着物を着ておきたい。

「奏凱さま?眠ってるところすみません。少しだけ体を起こして欲しいです」

 軽く体を揺さぶってみるが反応が無い。よほど疲れているのだろう。可哀そうなので、目覚めさせないように慎重に体をずらして、自分の体に巻き付けられている両手両足を外せないか試してみた。

 すると、わずかに隙間ができたと思った瞬間に、抱きすくめられる。

 そうこうしていると、扉が叩かれる。僕はどうしようと少し逡巡して、あきらめる。もうどうせ何度か裸を見られているのだから、今更だ。

「おはよう、雲嵐」

 扉に向かって声を掛けると、静かに扉が開かれて、きちんと着込んだ雲嵐が入ってくる。

「ごめん。とっくに起きてたんだけど、主上がぐっすり眠っていて……」

 雲嵐が納得という風に頷いた。

「すぐ起きるから」

「時間はまだあるので慌てる必要はないです。主上を起こさないよう気を付けて」

 小声で雲嵐が囁く。

「雲嵐、悪いけど床に落ちてる着物をとって。すぐ準備するから」

 雲嵐が拾い上げて僕に手渡す。

「急がなくてもいいです」

「うん」

 せめて見られても平気なよう、下穿きに足をなんとか通そうとしていると、主上の腕が邪魔をするように動いた。寝ぼけてる。

 僕はその腕をはずして、主上の両足から抜け出して片足を下穿きに通そうとすると、今度は太腿にがっしり挟まれて身動きが取れなくなった。どうしたものかと悩んでいる僕に雲嵐が声をかける。

「……それは、たぶん主上がわざとそうしているだけだと思います」

「余計なことを言うな」

 はっと気づいて振り向くと、主上が慌てたように目を瞑ったのが見えた。

「そうなんですか、主上?!」

 無言。

「寝たふりをしていたのはわかってますから」

「そんなはずはない。私は寝ている」

「起きてるじゃないですか」

「今起きた」

「良かった。じゃあ重いので腕と脚を離してください。朝の日課に遅れてしまいます」

 目覚めているのなら気を使う必要はないと、僕が無理やり起き上がろうとしたところを、両手で寝台に縫い留められ、大きな体が覆いかぶさってきた。

 にやにや笑っている。これは良くない。

「駄目です」

「何がだ?」

 主上の指が怪しく動いている。

「今なさろうとしていることです」

 意地の悪い表情になった。

「何故」

「雲嵐がいます」

「雲嵐がいなければいいんだな。雲嵐、退室しろ」

「そういうことではなくて」

 雲嵐が一礼して部屋を出ていった。それを確認する前に、主上の手の動きが大胆になる。

「ちょっ……駄目ですって。あっ」

 主上の指が的確に弱いところをせめてくる。

「いいから、私に任せておけ」

「私はこれから朝の日課があります。そんなことをしている時間も体力もありません!」

「若いくせに何をいっている」

「奏凱さまと一緒にしないでください。主上は元気すぎます」

「お前がそんな恰好をしているからいけないのだ」

「これはあなたが僕を脱がして、着物を着させてくれないからです」

「あーあー聞こえない」

「そんな子供みたいなことを言うのはやめてください。僕は雪の世話に行かないと」

「一日くらい行かなくて問題はないだろう」

「そんな無責任なことはできません。暁明も雲嵐も待ってます。それに、あなただって朝の訓練がありますよね」

「今日は無い」

「嘘ですよね、それ。そう都合良く、今日だけ訓練がないなんてことあるわけなっ」

「うるさい口はこうしてやる」

 口で口をふさがれて声が出せない。おまけに舌まで入り込んできた。湿った音が室内に拡散していく。押し返そうとする腕に力が入らなくなって、まずいなと思ったのが最後だった。



 その日僕は初めて朝の日課をすっぽかしてしまった。嫌な予感が的中してしまい、僕はこれからの生活に不安しか感じなかった。


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