第14話 主上との夜のあれこれ
主上は七日に一度僕の部屋で一緒に寝る。
そのときいつも布団の中で戯れに僕の、あー、あれを弄る。曰く成長を見るためらしい。最近僕に対する遠慮がないのではないだろうか。
それで逐一報告してくる。曰く最初の頃より大きくなって来てるらしい。毎日見てる僕には分からないかもしれないが、主上には一目瞭然だそうだ。いや、別に毎日見てるにしても、ものすごく注意してみてるわけではないし、本人よりも違いが分かる男というのはどうなのだ。
「でもまだまだ主上の足元にも及びません。」
流石に頻繁に話題にされると慣れる。羞恥心は二人の間では薄れかけている。
「まあ私は大人だからな。」
「はい。僕はまだ子供なので。」
「焦らなくてもすぐ大人になる。」
「だといいです。」
一つ口づけされる
「主上が大人になったのはいつでしたか?」
「そんなことを知ってどうする。」
「なんとなく、と言ったら納得していただけますか。」
「しない。」
少し考える。自分はなんでこんなことを聞いてしまったんだろう。
「たぶん、主上が私にとって、その、初めての人だからでしょうか?よくわかりません。」
主上が嬉しそうな顔をするが、すぐに神妙な顔で取り繕う。
「私が正直に話したとして、機嫌を損ねたりしないか?」
「大丈夫だと思います。」
「……十四のときだった。」
「え……。」
「十四のときだ。」
「聞こえています。聞き返してしまったのは、その、とてもお早かったのだなと思ったからです。」
「そうだな。お前と同じで閨の講義の一環で、父からあてがわれた知らぬ女と閨事をやらされたのだ。」
「皇帝って大変なんですね。」
「気分を害していないか?」
「いえ、ただ驚いただけです。あの、その時はもう……。」
いぶかし気な目で見てくる。
「生えてたんですか。その年で。」
やはりそこは気になるのだ。
「そうだな。記憶では十二のころにはすでに生えていたような気がする。」
「色々とお早いんですね。」
早ければいいというものではない、と言って主上は僕の髪の毛をすく。
そういうところが優しい。
主上に言われて、僕は今髪を伸ばしている。伸ばしたほうが似合うだろうと。
詳しい理由はいわないけれど、僕の髪を伸ばしたいのだ。でも、なんとなく宮殿にいる貴人たちを見れば察せられる気がした。
僕は身分のある人でないので伸ばす必要はないから、強制するわけにもいかなくて、だからあえて主上は伸ばしたほうが似合うと言ってくれたのだろうと思っている。
言われてしばらくしてから、恐らくそういうことなのだと僕は気づいたのだ。
主上は優しい。
「ところで主上。」
「……。」
しゃべることもできないくらい僕の首筋が気になるらしい。
「主上は僕と大人の関係になりたいと以前申しておられましたが、閨を共にするのが大人の関係ならば、身体はまだ子供ですが既に二度ほど経験してしまっている私は、大人なのですか?子供なのですか?」
動きが止まる。
「……それは私を責めているのか?」
「どういうことですか?」
じっと目を覗き込まれる。
「いや、悪かった。すまない。もうお前を揶揄ったりしないと誓おう。いやそれよりも、この前私が無体なことをしてしまった謝罪がまだだった。あの時はすまなかった。痛かっただろう。」
「もう三月も前のことです。お気になさらないでください。あの時は私も悪かったのです。お相子です。」
「本当は傷つけたくはなかったのだ。そうだ、何か望みはないか?私に叶えられることならなんでもよい。」
「特にはないと言ったら聞き入れてもらえますか?」
もう十分すぎるほど色々なものをもらっている。
「却下だ。」
「では……、一つお願いがございます。」
「申してみよ。」
興味津々の顔をしている。
「はい。一つだけ。あの、裸で眠るのやめませんか……。恥ずかしいです。」
「却下だ。」
「なんでですか!絶対普通じゃないですよこれ。」
「閨事もまだできないのだ。お前の裸だけでも味わいたい。」
「そんな理由だったのですか。」
「大事な理由だ。」
「でも……、以前から申し上げようと思っていたんですけれど、その、主上は辛くないですか?ずっと当たっているのですが。」
「気にするな。夜着を着ていても同じだ。」
「はぁ、そうなんですね……。お辛くはないですか?」
「秘密だ。お前も大人の男になったらわかる。」
「はぁ、そうなんですか。」
「だから早く大人になってくれ。」
あぁ、辛いんだ。
「約束できかねます。」
まぁそれもそうだと主上はくつくつ笑った。
「代わりに主上は僕にして欲しいことはありませんか。」
「お前が大人になったらして欲しいことはたくさんある。」
「んー……。子供の僕にもできることで何かございますか?」
しばらく悩んで主上は首を横に振った。
「では私もありません。お相子ですよ。」
「宝石も服も何も欲しがらない。お前はとても難しいな。」
そう言って強く抱きしめられた。
「……もう少し肉を付けて欲しい。」
僕は聞こえなかったふりをした。
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