015 再会した三人娘

「え? いやいや、ダメよ。レベル10以下は参加できないの」


「スライムを倒す経験値稼ぎじゃもう限界だ。効率が悪い。かと言って、獣の民に武器を向けることはしたくない……。なら、領土戦で勝てば、同じだろ」


 経験値を得る条件は敵と判断した者を倒すこと……つまり、戦闘不能状態にさせることであって、殺す必要性はない。

 なら、領土戦で相手を倒しても結果は同じだ。


 ただ、スライムと違って難易度は跳ね上がるし、モンスターよりも、相手のレベル次第によっては難易度が判別しづらい。

 確実性はないが当たればでかい――考え方が賭博と変わらないのだが、それに縋るほど、追い詰められているとも言える。


「まだ相手のレベルが見られるスキルを持っていないじゃないの」

「そんなの、一緒にいく誰かに教えてもらえばいいだろ。アンナとかな」


 そこでプラムの名を出さないあたり、カムクらしい。

 それが彼女に多大な勘違いをさせてしまっていることに、気付きもしない。


「深追いはしないって約束するよ。倒せる相手がいた時だけ、戦うようにするから」

「いや、あのね……」


 メアリーの否定を遮ったのはプラムだ。


「一度くらい、いかせてあげれば?」


「プラム……?」


 アンナが彼女の考えに疑問を持っていたが、口を挟む隙間もなく、


「わたし、今日はちょっと買い物したくて。領土戦が少し面倒だなーって思ってたんだよね……丁度いいからクーくんに任せちゃおっかなっ」


 弾んだ声でお願いをされたら、断る理由がカムクにはない。


「いいだろ、メアリー」


「ま、いっか」


「え、メアリーも、いいの……?」

「アンナがついているなら、ね」


 アンナに注目が集まった。


「頼む、アンナ。ほら、おれの分、一個やるから」

「私、食い意地を張ってるように見えるの……?」


 そう言いながらも、差し出した一口サイズの果実を、ついばむように受け取った。


「……分かった、いいよ。一緒……にね」



 領土戦、とは。


 ギルド対ギルドの領土をかけた戦いである――というのが大多数の認識であるが、実際は少し違う。

 どちらが勝とうが、かけた領土が無条件で奪えるわけではない。


 そもそもマスターを名乗る三人のカンストランカーに惚れ込んだ者たちがそれぞれの領土内にいるのだ、その信仰とも言える信頼を崩した上で、自身のマスターを信頼させる条件が整わなければ、領土が移動することはない。


 領土、と一口に区切っても一枚岩ではないのだ。

 人員を引き抜くことは容易でも、領土は難しい。


「じゃあなんのための領土戦なんだ?」

「エンターテイメント……だって。メアリーと同じ、カンストランカーの一人が、ゲリラ的におこなわれてた野蛮な戦いを公式にしたみたい。騒ぎが定例化すれば、いざ本当の戦いが起きても町の人たちがパニックにならないだろうってことだと思うけど」


 ないよりはマシ、と言った程度のものだろう。

 本当の目的は、公式にすることで場所、タイミングを組めることで、人の流れを操作することだ。


 その場所に店を出せば観覧客は寛容になってお金をいつもよりも落としてくれる。

 経済を一時的に高速回転させることを意図としているのだろう。


 それだけではないだろうが、ギルドとしてはこの戦いに利は少ない。


 あるとしたらチームではなく、個人として。


 他ギルドの人材確認、個人の経験値稼ぎ、レベル以前に、戦い方、戦闘においての動き方を学ぶ場でもある。

 それは両ギルドとも暗黙の了解であり、経験値狙いであるなら徹底して潰すし、立ち回りを学びたいだけなら軽く流す……定期的におこなわれているので参加者もぐるぐると周回はするものの、ギルドが隠したがる人材は当然、参加することはない――そのため同じ顔ぶれが揃うことも珍しくなかった。


 大半は、面倒なこの会合を疲れないように流すことが目的である。


「じゃ、今日はカムクをサポートするように動くか」


 一週間、という日々の積み重ねのおかげで、顔馴染みになった剣士クラスの青年が、仲間を引き連れて作戦を立てた。

 カムクとアンナを含めた十名の上位ライセンスが、メアリーのギルドから参加する。


 対して。


 相手はピエロ・ブラックのギルド――しかし、参加人数は十名が上限と決められているためそれよりも多くなることはないが、それにしても相手の数が少な過ぎる。


 三名だ。


「……………………え?」


 その三人の姿が確認できる距離まで近づいて――アンナの顔が真っ青になった。


「あ、やっぱり『夢魔』の陣営に媚びを売ったんだね。だよねえ、バロック・ロバートに頼っても、簡単に見捨てられそうだもん、アンナは」


 手足にだけ装備をつけた肌色が多く見える、全体的に軽装な金髪の少女――と。

 隣の緑髪の少女が、カムクとアンナに気付いて小さく手を振った。


 さらに隣にいた、太くごつい剣を背負う黒髪の少女は、相変わらず無愛想に、こっちを見ようともしていなかった。

 遠い景色をぼーっと見つめている。


 右から、ベル、ステラ、ダリアである。


 懐かしい相手との再会だったが、言わずもがな、会いたくなかった三人である。

 すると、カムクの体重が隣に寄った。

 引っ張られたのだ。


 服の袖をぎゅっと掴まれていた……その手に、アンナは自覚がないようだ。


「知り合いなら流すか?」


 様子を後ろから見ていた仲間たちがそう提案したが、


「いや……、加減はしない」


「カムク……?」


「言ってやれ。お前らが見捨てたアンナには、もう絶対に裏切らない仲間がいるってな」

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