037 系統最強
「そん、な、ことのために……?」
信じられないとばかりに、アンナがベル、ダリア、ステラを見た。
釣針尻尾団として一緒に生活した日々を思い出す。
楽しかった……いや、除け者にされたり囮にされたり無視されたり散々だった気がする。
アンナが生みの親だと知った上でやっていたのだとしたら、未来での不満がここで発散させられていたのだろうか……?
「そんなことって。あたしたちにとってはアンナの幸せがなによりも優先だったよ?」
「じゃ、じゃあ! なんで私のことをいじめてたの!?」
「嫌だった? 悲しかった?」
「そんなの当然――」
「だからこそ、あたしたちに任務の失敗を理由に捨てられたあとで、カムクから差し伸べられた優しさに惚れたんじゃない?」
思い出す。
居場所がなくなり、一人ぼっちになり、生きるか死ぬかで本気で迷っていた時――、
……汚い身なりを気にもせず、カムクが助けてくれた。
きっかけはそこだ。
それ以来、カムクを意識するようになった。
彼と仲の良いプラムも含めて、共に生活した日々はかけがえのない宝物になった。
その居場所を取り戻すために命を懸けて奔走したりもした――いくら恐ろしくても、逃げようとは一切思わなかった。
それくらい、彼女にとっては大切な居場所だった。
……ベルたちは、勝てないから気持ちを押し殺した、と言ったが、三人の輪を壊したくないという気持ちの方が強かった。
カムクとプラムが結ばれた先に、アンナが混ざることができても、多分、カムクとアンナが結ばれた先に、プラムは輪に混ざってはこないだろうと直感したからだ。
プラムはきっと遠慮する。
そういう潔さがある。
アンナにはないからこそ……勝てないのかもしれないけど。
「だからってプラムを――」
「だからー、言い訳しなくていいって言ったじゃん。ここでごねたところで未来からきたあたしたちは全部分かってるから。どれだけ強がったところで死ぬ間際でアンナは絶対に後悔する。何度、見たと思ってるの? 意思疎通できるせいで平行世界でのアンナの死に際まで見て知っちゃってるんだから。……分かりやすく言おっか? プラムを救えなかったカムクを何千何万回とこの目で見て、後悔するカムクを救おうとしているあたしたちが今更『自分でやり遂げる』って言い出すカムクの言葉を信用できると思う?」
アンナがもしも、その光景を目の当たりにし、同じように過去へ飛んでカムクを救おうとするなら……確かに何度も失敗し後悔している彼の言葉を信用しないだろう。
好きな人の幸せのために手段は選ばないだろう――でも。
でも!!
「……やめ、てよ……っ!」
たとえ未来で後悔がなかったとしても。
今、後悔をしていたら、結局、同じなのではないか……?
「今だけだよ」
ダリアが太くごつい剣を振り上げた。
「悲しくて痛いのは今だけで、時間が経てば幸せだけが待ってる」
プラムに振り下ろされた剣を腕で受け止めるカムクには慢心があった。
バロックに勝てた、という、致命的な隙である。
二周目であった彼よりも、レベルが低い三人の少女たちに、負けるはずがないと思っていた――。
しかし、
「経験を得て、肉体、精神が成長したことでレベルが上がってるって分かってる?」
ベルの質問に「なにを今更」とカムクが答えると、
「じゃあさ」
視界が真っ白に染まった。
強烈な光がカムクを襲ったのだ。
瞬間、悲鳴を上げる前に彼の顔面に衝撃が走る――殴られた、と倒れた後で分かった。
だが、殴られたにもかかわらず、カムクに一切のダメージがない。
戸惑いながら、時間を経て、見えてきた視界の先に。
白く輝くベルの姿と、逆に、真っ黒に染まった鎧を身に纏う、ダリアの姿があった。
「武闘系統最強――武神クラス」
「剣士系統最強――暗黒騎士クラス」
その二人の後ろに。
見た目はそう変わらないものの、複数の杖が背中に輪を作り、ゆっくりと回っている。
……ベルが太陽だとしたら、ダリアは底のない穴の深淵。
そしてステラは、神々しさを身に纏っていた。
彼女もまた、クラスが上がっている。
「魔法系統最強――大賢者クラス」
レベルも当然、99になっている。
周回というシステムがあると知った以上は、重要なのはレベルではなく『何周目』になるかだが……果たして。
「一応、一周目じゃない?」
その言葉にあっさりと気を抜いたカムクを嘲るように、ベルが。
「でも数値は色々いじって、うーん、これって何周目なんだろうね?」
「嘘……?」
遠巻きに見ていたプラムが思わず声を上げた。
「桁が、違い過ぎる……っ!?!?」
「さてさてさっきの続き! 体の成長に合わせてレベルがあるならじゃあさ――」
「数値をいじれば、それに現実が追いついてくるってことにもならないかなー?」
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