第11回 「三界の魔術師」 / 油布 浩明 様 前編

※イベント内容にもあるようにこれは「分析→評価」の結果であり、決して作品を否定している訳ではないのでご了承ください。


「三界の魔術師」 / 油布 浩明 様

https://kakuyomu.jp/works/1177354054883695616


※完成度が高くドストライクのターゲットは大変満足だと思われます。ですがそれだと終わってしまうので、その辺りを考慮しての分析評価です(キャラクター小説向けの書評)。


※今回は前、中、後編です。かつてない物量になってしまった。


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1、物語の総論


・ターゲットは

「男女年齢問わず、中世の西洋が舞台のファンタジー戦記が好きな方」

 と、判断します。

 天秤にかけた場合ファンタジーより戦記がの方が数グラム重い印象です。がっつり戦争がある訳ではないですが。



・簡単な要約


「自身の秘密に悩む主人公が仲間達を守るために、敵国に対し暗躍する」

 このように要約します。

 出来れば「活躍」としたかったのですが、そうではなく、暗躍と言うのが重要な違いです。



・最初に少し個人的な感想を述べてしまうと、凄く面白かった……。適切な例えかわかりませんが、一つの大作RPGゲームをクリアしたかのような感動がありました。

 もちろん、書評はその色眼鏡を外して行いました。



・誰が見ても分かるテーマは書きませんが(友情等)、個人的にはこの作品に、

 「自分の信じるもの(信仰)」と「神と悪魔」

 を見出しました。


 この作品のキャラクター達は信仰する神や自分の信念に従うか、悪魔のような状況や人間に従うか、どちらかで描かれています。

 面白いのは「神」と比喩される主人公(とラスボス)にだけ信仰する神がいない上に、主人公(神)を信仰する者(仲間や国王)は皆救われて行く所。

 そしてラスボスに当たるタクマヌが「悪魔」のような人間と言うのも洒落が聞いていますね(神vs悪魔)。タクマヌが悪魔(非情な君主)に憧れていたと言うのも皮肉な所です。

 そもそも、シンって「神」の音読みですもんね。わかりやすいヒントでした。



・全体としては主人公やリリシャに大きな困難が少なく、ハプニングも欠いて、少し地味。ですが波打ち際に耳を当てる騒がしい水音と言うより、静謐に波が引き、水平線に津波が見えてくる様な悍ましい雰囲気で盛り上げてくる時があります。ただし、肝心の津波の高さがやや低い。

 読破した時の感想は、眠れない夜にお香を焚きながらミントティーでも侍らせ、アンティークの地球儀をなぞって、世界史の教科書に目を滑らせる感覚。

 寝る前にひとつまみするにはうってつけの良作ですが、昼間に一気読みするには些か退屈。良くも悪くも、そんな印象でした。

 その理由をこれから紐解ければ幸いです。



・小説と言うより「戯曲よりの小説」に感じました。

 シーンを演出や描写で伝えるのではなく、キャラの演技に全てを任せているような印象です。ですが活字故、実際には描写不足に感じる部分が度々見受けられました。

 この自主企画の他の書評でもたまに書いているのですが、読者にどれだけ想像力を期待するかと言う問題に正解がないので、この指摘が正当な物かは判断できません。

 なので、描写不足と言うのは主観になります。客観的に言えば一般書籍と比べると地の文が少ない傾向にあると思いますが、一応、一読者の意見として頭の隅に置いておく程度でいいかもしれません。完成度は間違いなく高いので。


 戯曲寄りだと思うもう一つの理由が「長すぎる会話」と「不自然な会話」です。

 本来キャラクターの台詞と言うのは、「どうしても喋らなくてはならない時に発する言葉でなければならない」とされます(文献より)。

 この作品の書き方の特徴として、


(長文の会話)

(数行の状況説明文)

(長文の会話)

(数行の状況説明文)


 この連続です。

 情景描写や心理描写を会話で済ませてしまう印象がありました。当然それは全く悪い訳ではないですが、小説の強みである描写を活かせないのは勿体ないと言えます。


 ちなみに不自然、と言ったのは会話を重視するせいか地の文で描写する事を会話で代用してしまう部分があるからだと考えます。

 例えばですが、自分の気持ちを「私は嬉しく思っているんだ」とわざわざ言ってしまったり、「私は今まで〇〇で、〇〇だと思っていたから、〇〇なんだよ」や「〇〇があったから、俺はこう思ったんだよ」等の説明的な会話は普通口に出さないものです。それらを仕草や描写や空気で読者へ伝える事が出来ると良いかもしれないと感じました。

 物語は「語るな、魅せろ」が美しいとされます(文献より)。



・方向性が中途半端に映ってしまいました。理由は、ファンタジー要素を最大限に活かしきれなかった為と判断しました。

 (これは私が正確に伝えたい事とは異なるのですが、ここで言う方向性はジャンルとお考え下さい)


 個人的に永遠に定義できないと思っているのでジャンル自体は重要ではないのですが、この作品が一般向けファンタジーなのか、ライト文芸として書かれたのか否かが気になりました。

 わかりやすい作品と安っぽい作品は紙一重だと思うのですが、一応ここはライトノベル(ライト文芸含む)で例えます。

 この作品を少し子供向けにして、国盗り要素(西方の国々を次々に纏める)などを入れ、安っぽい盛り上げを入れると「ラノベ」になると思うのですが、これを知的に、大人しく魅せた物が三界の魔術師かもしれないと考えます。

 史実を参考に緻密に練られたプロット、一般書籍向けの会話やストーリー、その中に魔術と言うファンタジー要素を残しているが、じゃあそれがどういう個性なのかと言うと……不明瞭。


 例えば「幼女戦記(多分ライト文芸と一般書籍の間くらいの小説)」なんかも国同士の戦争やきちんと練られたストーリーと知略、さらに魔法や神などから物語は構成されていますが、全員が魔法を使い迫力ある戦闘シーンの演出がいくつも描かれます。

 この作品では魔術師同士で魔術をがっつり使い合う描写が少なかったが故に、中途半端に映った……と判断します。

 主人公が先回りして暗躍し、全てを終わらせてしまうので大規模な戦いにならないのですね。じゃあどうすればよかったのかと言うと、明確な答えはないのですが、やはりもう少し魔術師同士の戦闘シーンを増やすべきだったかもしれません(もしくは知略戦)。



・シンの主人公感が薄いように映りました。

 皆が主役級の作品と、主人公が居ない作品は紙一重で、この作品は後者だと考えます(これはキャラの魅力云々とは別問題です)。

 理由はスタートからゴールまでの動かし方が「物語」にフォーカスしていて、「キャラ(特に主人公)」に焦点を当てていないからと考えます。物語を見せる為にキャラがいるだけで、キャラを見せる為の物語になっていない。

 よって世界観や物語の展開を楽しむ人は満足し、キャラクターのドラマを見たい人は物足りない可能性があると考えました。勿論これはニーズの問題なのでどっちが良いとか言う事ではありません。

 キャラクターのドラマとはキャラが悩む所らしいです(文献より)、そう言うシーンが少ない様に思いました。



・些かネクトが便利すぎて、主人公への困難が足りない気がしました。

 作者様もそう考えて制限時間を設けたのかもしれませんが、都合の良い時にネクトは起床しているのでその設定にあまり意味を感じられませんでした。

 この設定であれば、完全に頼らないで困難を乗り越える展開などがキャラの成長(シンの自立)に必要だと思います。

 なんならネクトが寝ている時は全く魔術が使えないくらい極端じゃないと中途半端に感じます。制限や苦難はあればあるほど物語は面白くなるらしいです(文献より)。


 (余談ですが、主人公に冒頭から知恵を与える系のキャラはストーリー途中で効力を失くし、それをキッカケとして主人公の変化を促す役割である事が多いように思います(ヒカルの碁の佐為、魔女の宅急便のジジ等)。



・主人公の内面的成長がほとんどありませんでした。

 これはなくても良いんですが、基本的にはほとんどの物語にある上、それを見たい読者は多いのであった方が無難と考えます(特に小説においては)。

 シンは奴隷から脱しリリシャと仲間を得ますが、最終的に内面は始まりと終わりであまり変わってません。表面上の目的は達成する者の、内面の成長はあってないようなものです。

 そう言う意味でドラクエ的と言えます(お姫様を救うと言う目的はあるが、主人公の内面の成長は描かれない)。そのため、どこか淡々と進んでいくイメージがりました。


 淡々と進むもう一つの理由として、シークエル部分がほぼない事だと考えます(文献より)。

 物語にはシーン(出来事、葛藤)、シークエル(シーンのせいで起こるジレンマ、決断)があるのですが、シーンのあとに何事もなかった様にシーンが始まるので、ただ物語を追うだけになってしまっていました。

 先程書いたキャラではなく「物語」にフォーカスしていると言うのも、これが要因の一つかと思います。


 この路線のまま、より良くする可能性があるのは何かというと、「水戸黄門」を追求すべきだったかもしれないと考えました。

 水戸黄門が「チート系主人公」の元祖とも言えますが、取り巻きの助さん格さんもあり得ないくらい強いので、そう言う作品は主人公を苦難に陥れるのが難しい。つまりシークエルが起きにくい、または起きない。

 なので、大抵周りの人間が酷い目に遭います(とばっちりを受ける訳です)。絶望しているキャラに対し可哀想だなと感情移入させ、それをチートで助ける事により読者がカタルシスを得る構図です(この印籠が目に入らぬか!)。

 主人公は一応行政レベルでそれをやっていますが、それだと物語に焦点が行ってしまうので、出来ればキャラに対して行う話も増やした方が良かったかもしれません。主人公も「活躍」できるので。

 ちなみにそれをやったのはセレナとサリアの時だけでした。



・キャラクターの性格が型に嵌りすぎている気がしました。

 「クセ」を省きすぎているので人間味がなく、親近感が沸くまでに時間がかかりました。特に主人公やネクトは完璧すぎてつまらないので性格的な欠点が欲しいと思います。

 例えばサボり性、手癖が悪い、うっかり屋さん、めちゃくちゃお子ちゃま舌、方向音痴……など、何でも良いです。キャラはギャップと欠点に愛嬌が出ます。



・三者が織りなす……と言う割にはネクトの存在感がかなり薄いように思います。シンとは凸凹コンビの相棒にしてもっと出しゃばって来る方がキャラが立ったかもしれません。今のままではいてもいなくてもあまり変わらない印象でした。

 ネクトとの友情も描けると良かったかもしれません。




●メインの二人と合わせて物語の構造を見て行きます


 主人公は欠如(加害)があって、それを回復(欲しいもの)する為に物語が進行します(文献より)。

 基本的にはその回復が物語のゴールになるので、主人公の欠如や加害は最後まで回復する事は本来ありません。回復したらそこで物語が終わってしまう為です。が、続く事も出来ます(後述します)。


・シンについて


 欲しいもの

外面→亡命。リリシャ、仲間を守りたい。不老不死の覚悟。

内面→自分を保っていたい。不老不死の伴侶。


 と判断しました。

 最初はトルジャから逃れる(加害からの逃亡)為に、亡命を目的としてシンは奔走します。

 この始まりであれば最後まで(一章終わりまで)安住の地に着く事が出来ず、戦争に巻き込まれる事で何度も何度も困難が張り巡らされる、リリシャなど大事な存在が危険な目に遭いつつ、目的地へ向かう逃亡物語。という流れが分かりやすいと思います(その場合は二章の最後で結婚)。


 ですが魔術学校で逃亡には決着が付いてしまうので、勿体ない流れかなと思いました。さらには学校に着いてから数話の間、これまでのような「逃亡する」と言う物語的な「目的」がないので、読者が迷子になる可能性があると思いました。

 一応この辺りから外面的な目的は上記の誰かを守る事にシフトして行きますが、やはり明確な物語のゴールが見えず、最終地点が不明瞭に思えます。

 (そう言う展開の話もあるので、読者を逃がさない為にはないよりあった方が良いと言う話です)


 内面的には、シンは二つの事を抱えているように見えました。文面に出てくる不老不死の事は分かりやすいですが、明記されていませんがもう一つの方も同じくらい重要な悩みに思います。

 それは何かというと、第三の魔術を使う自分をもう一人の自分として見ている可能性、です。そしてその自分を恐れています。

 そもそも、何故逃げる時にリリシャが必要だったかへの疑問が残るのです。ずっと恋をしていたならまだしも、本来は足手まといだから要らないはず。合理的なネクトなら必要ないと断言しそうです(そう言う価値観だから、と言われたらそれまでなのですが……)。

 信仰の問題があったとは言えシャールすら見捨てざるを得なかったのに、この重要な作戦に一目ぼれと言う理由だけで連れて行くのは説得力に欠けます。不老不死云々の悩みも、これから逃亡後に女性を見つけて行けばよいだけです。

 と言う訳で、全文読んで考察した結果、リリシャを連れて行った理由を示す文があります。


「あの娘は、お前の心そのものだ。お前は望めば、神にも悪魔にもなれる」


 このシャリアンの台詞、さすがに鋭いですね。この一言だけで人を見る目がある、人の上に立つ才能があると思わせられました。まぁ、それは置いておいて。

 前後を含めここの言葉を分解して行くと、シンはきちんと自分でコントロール出来ていない為、魔術に不安があるはずです。それは不安でしょうがない、自分が自分で無い感覚、実感がないのでネクトが関わる強い自分は「別の自分」として何処か見ている。事実、ネクトが居なければ扱いきれない。

 自分の内側に自分より強い存在がいる感覚って恐ろしいですよね。だからこそ、自分が自分でいられる証拠として、いる為の覚悟として「リリシャを守り抜くのは自分の意思だ」と見えるように主張する事で、自分を保とうとしている。

 これから旅立ち、第三の魔術を行使して行く中で、不老不死の相方を探す事よりもそう言う存在を探すのは急務です。と言う理由で、奴隷のリリシャは連れて行くのに持ってこいだった。

 この事は恐らくシンに自覚はないです。それ故深層心理では心の底からリリシャを守ろうと思っているのか微妙な気がしました。自己本位的な手段として相手を守りたいと思っているパターンな気もします(あくまで、連れて行くこの最初だけ)。

 ここまで全部、リリシャを連れて行く理由のこじつけと深読みです。


・主人公の内面や主体的な姿があまり語られないように映りました。冷静な性格とは言え人間なので、仕草で気持ちを見せるような描写が欲しい気がします。


・神話の構造的、心理学的にリリシャはシンの母親の役割に当たるのかな、と思いました。しかも不老不死を理由に姦通しないと言う象徴的な設定があります。

 これは古今東西の神話によくある話ですが、最終的に英雄になる主人公は父親と和解するか殺し(物理的にでも、抽象的にでも)、母親を(母親と知らずに)犯します。

 シンは最後国を救って影の英雄になるし、不老不死の悩みを解決(父の魔術と和解)し、リリシャと交わります(母親を犯す)。無理やりですが、ちょっと似てませんか?

 そうするとリリシャが盲目的にシンに愛を提供するキャラ(母親)である事にも納得が行く気がしました。


 これは結構重要なのですが、シンが自ら強い意思で父親の意思を継ごうとする納得の行く理由が語られていないように思います。「不老不死を元に戻す」研究も出来ると思うので、不老不死をやめようとする選択肢を取らない理由を作品の中で語らないと、少しご都合的に映る気もします。



・リリシャ(贈与者、助手)


外面→シンとの婚約、力になりたい

内面→恐らく語られていない


 リリシャは主人公ではないので構わないのですが、内面の欠如は物語に出てきませんでした。ただただ、狂気染みた愛でシンに尽くすだけです。その愛情の理由が内面の欠如として語られると、よりその狂信的な愛の説得力が増したと思われます(奴隷として育ったので愛に飢えていた、など)。

 奴隷でそう言う教育をされてきたから、命を救ってもらったから、と言うのは分かるのですが、最初から好感度マックスなのはちょっと説得力に欠けました。せめて一つで良いので惚れるキッカケになるエピソードが欲しかったように思います。

 


・リリシャが魔術を扱えるようになる必要性を感じませんでした。特に活躍する訳でもないので、絶対に必要な設定に思えません。

 むしろ弱いままにしておいて、言い方が悪いですがシンのお荷物にし、攫われたり危険な目に遭うなどのヒロイン的機能を発揮する方が面白いと思いました。

 正妻ポジションではありましたが、ヒロインらしさがあったかと言うと微妙です。



●物語の構造に触れたので、文献にある「物語の31の構造」に付いて当てはめてみます(プロットの分析です)。一応順番に書いていますが、この作品的に流れにそぐわない、なくても良いものは抜いています。あった方が良いと判断するものだけ空白で書きます。


〇一章

シンは奴隷戦士はなので逃げ出すことは許されない(禁止)

逃げ出す事を企む(違反→策略)

シンとリリシャは奴隷で三日後に死ぬ運命にある(加害or欠如)

ネクトの助けによりリリシャと共に亡命(派遣)

大使館にてヴェネトの船団に乗るように言われる(任務の受託)

シャリアンと共に船団を率いて出かける(出発)

第三の魔術を使い、任務を遂行(反応)

魔術学校への入学と、逃亡の終わり(獲得)

ブルゴー王国へ潜入(空間移動)

「  なし  」(標付け)※クライマックスの伏線になるようなシーンです。

ブルゴー王国の侵略を防ぐ(闘争→勝利)

リリシャとの結婚(加害or欠如の回復)


 本来この「加害or欠如の回復」よりあとにまだ続きますが、ここで物語が終了しても問題ないとされます。と言う訳で、いくつか抜けてはいますが構造だけで言うと一章の終わり方は完璧ですね(少し前に書いた通り、何の葛藤もなくリリシャが不老不死を受け入れてしまうのは少しご都合的なのですが)。


 ここからもいくつか続くのですが、主人公に焦点を当てていない為、二章はこの物語の構造には当てはまりません。定石ではない展開と言う事になります。

 当てはめると全く違う物語になってしまうのですが、参考までにやってみました。


〇二章

物語では出てきていない西欧諸国出身の、第三の魔術を使うペテン魔術師が現れ、完璧な証拠と共に、奇跡を起こしたのは自分だと主張。シャリアンやシンは冒涜的、または危険な魔術師として国を追われてしまう(追跡、脱出)

仲間や、大使館などの助けによりこっそり帰って身を隠す(気付かれざる帰還)

ペテン魔術師が実力と共にある事ない事いいふらし、トルジャの側近まで上り詰める。この場合タクマヌの代わりですね(偽りの主張)

どうやって誤解を解くか悩む主人公たち(難題)

シンお得意の「策があります」(解決)

その事により第三の魔術や不老不死の理解が深まる(認知)

ペテン魔術師の嘘を暴く(露見)※この時に一章の「標付け」が伏線となる。

シンは(認知)で得た気付きによりネクトが知らない様な魔術を発明(変身)

第三の魔術を使うのでペテン師も強いが、その発明で何とか倒す(処罰)

三界の魔術師の称号を得る(結婚ないし即位)


 曖昧なのでかなりザルな所や詰めるべき設定がありますが、31の構造を使ったら私の第一プロットはこのような感じです。安っぽい王道になってしまいますが、シンの主人公感は出ている気がします。

 この作品の二章ではノーラが攫われる事により物語が転がって行く訳ですが、シンと言うよりシャリアンが主人公格になっている印象を受けました。

 葛藤も解決してしまっていたので、クライマックスの盛り上がりもなく終わります。これだけ練られた世界観だったので勿体ないように映りました。



●物語には敵がつきものですが、表面上と内面の敵が出てきます。


 シンの表面上の目的は逃亡や、仲間を守る事なので敵はトルジャなどの国ですね。内面での障害は描かれていませんでいた。

 通常は外面上の目的を達成しようと足掻きつつ、内面の目的も進んでいく(成長していく)訳ですが、シンが葛藤を見せる素振りはほんの少しで、一章の最後にはあっさりと解決してしまいます。

 なくても良いとは書きましたが、より深い話にできそうな悩みがせっかくあるので、シーンを不老不死に絡めて彼をもっと追い込む方が面白くなると思います。(例えばリリシャが不老不死になる事を拒むとか)


 リリシャの場合ではシンの力になりたいと言う目的があるので、作品ではあまり描かれませんでしたが、その敵としては「自分の無力さ」だと考えます。

 序盤で魔術を使えるようになってしまった為、すぐにその目的が達成されてしまいドラマになりませんでした。

 魔術の才能がなく、戦闘では一切力に慣れずお荷物状態で「力になりたいのに……」と言うジレンマや悔しさを描けると良かったかもしれません。ヒロインとは言え表面上の目的があり、それがどうしても達成できないと言う葛藤はあった方が絶対に面白くなります。



●キャラクターには色々な役割があります。この作品は登場キャラが多いので、役割分担も様々です、重複したりもします(文献より)。

 例えば「依頼者」と言う物があります。これは主人公に依頼をする役割です。この作品で言えば大使館だったりシャリアンだったりフィーダルだったりします。イベントが始まるきっかけになる所ですね。

 「贈与者」と言うのはその名の通り何かをくれる人です。この役割がくれる贈与物は乗り物だったり、「助手」だったりします。シンにとってはリリシャが愛や伴侶として身をささげる(贈与する)贈与物でですね。

 フィーダルを「助手」として寄越す役割のキャラも贈与者になります。

 「賢者」と言う役割のキャラもいます。このキャラは主人公が何かを与える事により、アイテムや知恵や力を授けてくれます(ジブリの湯婆婆、スターウォーズのヨーダ等)。と言う訳で正にネクトそのものですね。魔力と知識の物々交換です。

 余談ですが賢者が出てくるのは主人公が新しい世界に飛び出した時、つまり序盤に現れる事が多いです。



●主人公が日常から非日常に行く事で物語は始まります。

 この作品で言うと最初に大使館に逃げ込むところですね。シンにとってもリリシャにとっても非日常へ旅立っていきます。

 その際旅立つのをためらうのが定石ですが、冒頭でシンはシャールを想い少し躊躇っていました。リリシャも一瞬ではありましたが動揺します。リリシャに関しては動機づけが甘い気がしましたが、納得はできました。


・非日常へ出発後、主人公の行動に対して制約やタブーがあったりします。これはネクトの睡眠ですね。先程も書きましたができれば半日ではなく、一日に一時間しか起きていない等の厳しい制限の方が面白くなります。


・最終的には日常に帰ってきて、目的を達成する為に何かが失われます。物語は失った物の大きさで得た物の大きさを表現しようします(文献より)。

 シンは最終的にトルジャに帰る訳ではないので、精神的な意味では仲間の元へ帰ると考えても良いですね(お爺さんになったシャリアンの元へ)。

 最初の日常と何が変わったかと言うと、周りにはシャールしかいなかったがたくさんの仲間が出来た、と言う事ですね。


 得た物は不老不死、失った物は仲間の命でしょうか(将来的には皆自分より先に死ぬので)。

 私が掲げたシンの「自分を保っていたい」と言う願望も、この頃には魔術師として実力も上がっていると思うので解決していると思います。物語で描かれてはいませんが。



●あっと驚く爽快感はないものの交渉場面はかなり面白いので、もっと込み入った頭脳戦のような物も見たかったように思います。



●これは聞き流しても良い余談的な事ですが、作品的に現代と価値観の違う所が多々あって気になりました。現代人と価値観が違う事に二つの危険要素を思いつきました。


 1、感情移入しにくい場合がある(死生観、当時としての奴隷の価値観等)

 2、物語の中では整合性はあるけど現代人としては整合性がない可能性が出る矛盾。そして物語に現代人がいない時に価値観が違う事を説明するのが不可能。


 例えば「攻殻機動隊」と言う超SF物ではノスタルジーを出す為に田舎の家はあえて今の造形のまま(監督の製作話)、「賭博師は祈らない」と言う18世紀ロンドンが舞台の小説では本来まだ警察と言う概念はないが分かりやすくするために「警察」と言う言葉を使ったらしいです(作者あとがきより)。

 設定をリアルによせすぎる事が作品の質を上げる事に直結するとは限らないので、目的の為に柔軟にする場合があるかもしれないと感じました。




――――――――――――――――――


総論は以上になります。




長くなるので中編に続きます!




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