第8回 人狩り / なはこ 様 後編

●二章二話


>出会ってまだ数日だけれど、あの人を失いたくないと思った。


 優しいから懐いたと言うのもありますが、結局は内面の自分が「寂しい」からと言うのが大きいですね。十歳の女の子なので、年相応の反応です。留まる危険よりも一人で居る危険(寂しさ)からを怖いと思う……走り出すのも無理はない説得力です。



>『パーニクになるなら、わしをここで下してくれ!』


 どこまでも自己中心的な感じが獣としてブレていなくて凄く良いなと思いました。人とは違う「異質」を感じる表現です。



●二章三話


>「君のような美しい精霊成りと、光栄だよ」紬は、男が何をしようとしているのか、ようやく理解した。


 こ の ロ リ コ ン 共 め ! (バックベアード)


 と言う冗談は置いておいて、前話から紬が一人になってしまいますが、このシーンが物語的に絶対に必要かどうかが疑問です。輪廻草を語らせるにも、人の醜さを見せるにも(結局ラストを考慮するとあまり関係がないので)はぐれる必要はあったのでしょうか(紬的に)。

 この事件が伏線にならず、秋雨の所へ行く事への関係も含め絶対に別行動にしなければならない理由がないので、退屈を防ぐだけの展開に見えて勿体ない気がしました。(伏線に気付いてなかったらすいません……)

 そして三人称とは言え、紬の視界が悪いせいで情景描写も薄く、ちょっと状況が分かりにくく見えるようにも思います。



・何故紬の場所をヒスイが特定できたかに疑問の余地が残りますが、多分土竜ですかね?でも出来れば明確な理由があれば説得力が増すと思いました。



●二章四話


・蜜蜂と輪廻草は一話の半分を使ってまで詳細を説明する内か、ちょっと疑問でした。そう言った外道なものをシュウが使っている事だけを説明できれば良いようにも思います。

 それに、この話を聞いている時の紬はなんだか機械の様でした。情報を引き出す為だけの装置に見えます。(~~ですか?~~ですか?を繰り返す)

 世界観や雰囲気が出るので悪くはないのですが、説明が長すぎて若干怠い印象がありました(文献より、演出でない限り説明が連なる時はキャラに動きが必要)



・物語の長さ的に起承転結の「起」が終わる辺りなので、この辺りで物語がクライマックスまで繋がる様な事件が起きると良いと思います。

 関連性の弱いイベントが偶発するだけでは一つの物語として盛り上がりがないので……。



●二章五話

 戦闘機が好きなのでどうしても紫電樹が紫電改に見えてしまう(どうでもいい)。


 大樹に村が出来るというのはファンタジー感あって頗る良いですね……涎が出るくらい好き。しかも、


>紫電樹は、現在の大和で最も過去の文明に近い暮らしをしている町らしい。


 世界観的にはここが技術の最先端と言う訳ですから、ロストテクノロジーを集結したスチームパンクな感じを妄想します。

 これが長編小説だったら絶対ここで妙な機械を研究している変人が仲間になる所ですよ。ここの舞台の話をもっと見たかった(評価ではなくただの感想)。



>「大事な事だ。正直に話してくれ」


 一応伏線の部分ですが、ヒスイは本気で紬に気遣っていたんだろうなと言う、そんな気がします。人狩りとして紬を見極めつつ、本当にお腹が空いているなら遠慮して欲しくないと言う気持ち……二週目以降に読むと切なくなるシーンです。

 この回最後の「たくさん食べな」でヒスイの気持ちが推し量れます。



>好奇心に任せて表面を撫で回す。すべすべとした手座りは、いつまでも触っていられそうだ。


 各論に入る前にあえて書かないと言いましたが、ここは明記せざるを得なかった……。

 紬がわくわくしながら腕を控えめに広げて机を撫でつつ、足をパタパタさせている情景が目に浮かぶようでした。可愛すぎるし、それを想像させるこの描写が凄すぎる。



>「まだですかね?」


 電車に乗った子供が目的地まで待てない感じを彷彿とさせる可愛さ。女の子(子供?)の可愛さを表現するのが上手すぎます。



●二章第六話


>「お会いに。な……るそうです。応接……間へどうぞ」


 普通なら自分を殺すかもしれない相手を面会には通しませんが、絶対に手を出せないと言うシュウの慢心ですね。恐らくは自分の思い通りの人生をずっと過ごしてきたのだと想像します。

 尊大な感じや、見た目を気にするナルシストな所など、自尊心の欠如か欲望に忠実か、悪役にぴったりな性格です。

 人間の醜い所を見る事がこのシーンの目的だと思うので、成功していると思いました。

 


●二章七話

・初戦は圧勝、二回戦目は厄介な敵でちょっと手こずると言うのも良くある展開で、分かりやすいですね。シュウもいい感じにキモイです。


 ただここもほぼ圧勝なので、もう少し苦戦して意味のある試練を与えると良かったかもしれません。戦闘の後の報酬になりますし(文献より、戦闘の後は物語の主軸に関わる報酬がなければならない)

 巨狼の依頼の時もそうですが、シュウと対峙した事で何か気付きを得るとか、アイテムや知恵が手に入る、次のシーンに繋がるヒントを得る、等の報酬があるとより彼らと戦った事に意味と説得力を与えられます。物語上絶対に戦わなくてはならない相手になっていませんでした。

 (一応このあとシュウと関係するエリに会う訳ですが、あれも偶然の産物なので)


 物語にはシーン(出来事や葛藤)とシークエル(その出来事に関するキャラのジレンマや決断)があります。

 戦闘の場面は明らかにシーンにあたりますので、それに対するキャラクターのシークエルが必要のように思います。

 シークエルが無いため、余計に「今の戦闘に深い意味はあったか」がおざなりになります。物語の主軸に関わるシークエルが入っていれば、ただ物語を進める上でとりあえず起こったイベント、になる事を防げます。



>人狩りは、人を狩れる。が、人以外を狩ってはならない。


 世の理的には、そして人狩り的には、さらにヒスイ的には精霊成り、及び紬はどっちなのでしょうか……狩るから人なんですよね。と言う疑問を、ラストにもう一度語ります。


>熟れた桃の皮みたいに


 ここもやはり果実の比喩ですね。見つけるのが楽しくなってきます。



・シュウを倒した道具ですが、この中盤に伏線なく出て来たのでどうも違和感が残ります。

 今後使われる事はないし、使った事が後の伏線にもならず、それを作れるたった一人の精霊と言うのも出てこないので、シュウを倒す為だけに出てきたご都合的便利グッズに映ってしまいました。

 せめて最初に紬へ銃を見せた時、他にも武器はあるようなことを仄めかしておくと良いかもしれません。



●三章一話


>「すなわち世の理の根幹となる」


 この世界では大樹が神、その御触れが理、と言う感じなので盲目的に従うのも無理はない事がわかります。

 この説明がなくても理に縛られる事については納得は行っていましたが、これをヒスイが語った事により「ヒスイが強くそれに縛られる」事の説得力も得たように思います。



>「行き場をなくした……何故ですか? 何故行き場をなくして……何をしたんでしょう?」


 精霊成りの説明にはなりましたが、紬の出生に関わりそうな……意味深に書かれている部分は物語には出てこないように映りました。二人の旅路に絡めていければより面白くなるように気がします。



>「それだけで私の寂しさは、どこかへ行ってしまうのです」


 これが一生懸命な強がりだとしても、十歳の女の子にしては聞き訳が良すぎるように映ります。半ば達観してしまっている気がして、物語的には微妙な気がします(文献より、キャラが悩むところを読者は見たい)。

 ここでどうしても帰りたいと駄々をこねていたら、ヒスイの感情をもっと揺さぶれたのかな、とも考えました。



>楽しいよ。だが、同時にお前を村に帰してやりたいとばかり考えている。


 ここで明らかにヒスイが葛藤している事が分かるので、妙のこの後の煽りが効いてきます。ここで悩む素振りを見せて欲しかったのですが、修羅場と言う事もありそこを深くは描写できませんでした。

 寡黙な男なので、ヒスイが何を考えていたかもう少し知らせた方が良いかと思いました。



●三章二話


>故にヒスイは、自身の浅ましさや卑劣さをヒスイに見せたくはないのだろう。


 ここの後半の「ヒスイ」は「紬」ですね?募集要項に誤字脱字等は修正しないと書きましたが、さすがに気になったので。


>ヒスイと旅をする事が理ならば、ただついて歩くだけで終わりたくはない。


 特に信念もなく故郷にまだ未練のある紬が、こうまでしてヒスイに依存(協力)したくなる過程のエピソード(変化の話)がもう少し欲しかったように思います。

 この作品の中だけでは紬が悩んだ上に自発的に物語を動かすところが少ないので、どうしてもただ付いて来ただけに見えてしまいこの価値観にいたった理由が弱く映りました。


>「だから隣に居ます。それが私にとっての譲れない理です」


 この思いも食欲に負けてしまうあたりが、「人の信念は欲望に負ける」と言うメッセージ……この作品の良い皮肉部分に思います。



・翡翠色を宿す赤子が出てくる訳ですが、ちゃんとすぐ前にその伏線となるヒスイの体について触れているのはさすがだなと思いました。

 もしかしたら逆の展開もアリかな(赤子→そう言えばヒスイも……)と思いましたが、そうすると赤子をご都合的に出したようにも見えるのでこの順番で大正解ですね。



>昼も夜も変わらずモノを見られる。尋常のモノではない。


 夜も歩ける理由が出てきますね。やはりしっかり考えられているな~と思いつつこの辺は読んでいました。


>生き方を選べない事は辛い。


 私の中でこの作品のテーマの一つでもある「不条理」が出てきたかな、と感じます。生き方を選べないのは紬も同じことで、逆に欲望のままに生きては狩られると言う真実も孕んでいます。

 我々とはまったく違う世界なのに、不条理は大して変わらないのも皮肉な所です。



>「私は、何時かここに戻ってきて、種を撒こうと思います」

>「……そうさね。桜の苗木でも埋めようかね」


 ハッピーエンドにするなら、これが伏線ですね。是非そっちのルートも見たいと、個人的には強く思います。



>「二人で……また来れたらいいな」


 ラストを考えるとフラグになってしまうのですが、ここも明確にヒスイの信念へのブレが見れるので(しかもその信念の下地になっている人狩りになった理由まで書いてある)、ここを次からシークエルとしてもう少し掘り下げて欲しいなと思いました。

 彼が悩めば悩むほど、ラストの悲壮感も増すと思います。



・三章は割と説明回だった訳ですが、結末を考慮するとヒスイの過去はいらなかったかな、と言う可能性も考えられます。

 いや、明かにヒスイの身体的特徴は異質なので語られるべきなのですが、物語のゴールと絡めた、伏線的な話にした方が良いように思います。

 ただこの話だけが挟まれてしまうと作者の「この辺でヒスイの過去を知らせておこう」と言う意図が見えてしまいますし、読者的に「へぇ」で終わってしまうので、勿体ない感じがしました。



●四章一話


>と、呟きながらヒスイは口元を緩めたが、何故だか寂しげに見えた。


 伏線ですね。初見はわかりませんでしたが、結末を意識して書かれている事が見受けられます。これでさすがにあのバッドエンドは予測できないので、物語後半ですのでもう少し不穏な表現が欲しいかもしれません。



>「何時か仕返ししますからね!」


 ここ最初は伏線っぽいなと思いましたが。違いましたね。ベタですけど仕返しするっていったじゃないですか、みたな台詞がラストにあったら面白いな~なんて思いました。

 それと結構長い事虫に付いて語っているので、出来れば後に何か出てくるとよかったかもしれません。このエピソードが微笑ましいので、それだけで意味はあるのですが。



●四章二話


>「この子は、精霊成りでね」


 この発言はヒスイにしてはちょっと迂闊な気もしますが……情報を漏らして敵をおびき寄せる作戦だったのかなと考えました。

 ヒスイなら「もしかしたらこの女が人狩り殺しなのでは?」と言う配慮くらいは思いつきそうな気がしますし。

>言いながらヒスイは、ズボンのポケットから小袋を取り出し、茶色い粒を齧った。

 と、一応警戒している色を見せているので、やっぱりそう言う事なのかと思いました。が……

 四話にて、

>最初の想定外は、ヒスイが偶然入った定食屋の女将が犯人だった事。

 とあるので、やはり迂闊感が否めません。ちょっと疑問が残りますが、紬の事で頭がいっぱいだったのかな、と勝手に補完します。



>もう二度と、両親とは会えないのだろうか?


 微妙な迷いがまだあるので、さすがにヒスイについて行くと言う覚悟にもブレがあり、強がりだった可能性を考慮します。



●第四賞三話


>『腹は、減っていないか』 妙の指摘通り、ヒスイは過保護に思える程、紬の腹具合を案じてくれた。


 各シーンの描写から庇護欲的な観点からも声をかけているのですが、ここではそれが伝わらないと言うのは悲劇的です。ある意味すれ違いの展開にも見えるので上手いと思いました。



>ある日、用があって紫電樹の町に行った時、偶然その人を見かけて、娘が居ない事に気付いた。何が起きたのか察したわ


 精霊成りがどの頻度で発生するかはわかりませんが、こう言った事例もあるので精霊成りは連れていかれれば殺される等の噂があっていいようにも思います。

 その事実の真相はとりあえず別として、何故本当に死地があると知っているのか、死地へ送り出している事を妙が確信しているのかが疑問に残ります。

 仮に全て憶測で物を言っているなら、ただのヤバい奴と言うか……直接人狩りから聞いたとか(多分この線が強いと思いますが、わざわざこんな機密情報を人狩りが話すとも思えない)、連れていかれた精霊狩りが死ぬ所をその現場を目撃した、とかならわかりますが、その情報がなかったのでこのままでは説得力に欠けます。



●第四章四話


>「でも狩るんでしょう?」 妙の瞳に浮かぶのは、憎悪でも嫌悪でもなく、眼前の人狩りに対して抱く憐みだった。「それが理さね」


 もしかしたらヒスイは死地へ連れて行く気がなかったのかとも思いましたが、連れて行く気はあったようですね。

 ここで「いや、連れて行く気はないさね」となったら、ラストは同じでもまた違った物語になりましたね。

 

 連れて行く気があったので冒頭ではバッドエンド、と表現させていただきました(作者様的にはどうでもいいと思われる)。



>こいつは拳銃と言ってね。


 同じ銃なのでシュウの時ほどではありませんが、これも最初に仄めかしておく方が無難な気がします。



>「人の心も、人の世も、歪に思えて仕方がない」


 作者様の声のようにも思えます。

 そしてこれはこの作品を最も反映する言葉とお見受けしますので、出来ればクライマックスもしくはラストに語らせた方が読者へ刺さるのかなと思いました。



・何故かいきなりヒスイが聞いてもいないのに御心表明する事にちょっと説得力がありません。そしてここはもうちょっと妙に頑張ってもらい、かき乱してほしかったと考えます。

 ヒスイはこう思っていますよ、と言うだけのシーンになってしまったので、物足りない印象を受けます。出来ればこの後のシークエル部分で妙の事を反芻する、等があればここにもっと意味を与えられる気がしました。

 この後はただひたすら紬が闇落ちするだけなので、勿体なく思います。



・それを言うのは無粋だろ、と自分でも思いますが……この街の自警組織はどうなっているのかなとちょっとだけ思いました。

 人が多い街だし、女性が四人も殺して死体遺棄を成功させるって結構大変に思います。が、世界観的にこれは割とどうでもいいですね……。



●最終章一話

 >ヒスイの運命を案じ、憐れんでいたのだ。


 ここは綺麗に伏線回収がキマったので思わず唸ってしまいました。そういうことかー!って感じです。中々に芸術的。



>「迷子かい?」


 総論でも書きましたが、ここでのハルの登場はさすがに都合が良すぎました。もっと序盤から関わっていたり、噂が合ったり、なんならちょくちょく旅の中であっている、くらいの出番がないとこの重要な役割を任せる事が出来ません。

 私の分析評価の全ては「可能性がある」と言う気持ちで書いていますが、ここだけは「不味い設定」だと断言できます。


 そしてこれから闇落ち展開になると全く予測できなかったので、この辺からガラリと作品が変わったように映ります。

 しかも不自然なくらいに変わって行くので(ヒスイも全く出て来なくなる)、読者的には悪い意味の驚きとおいてけぼり感を禁じ得ませんでした。


 それにしてもこの声掛けが実は木の養分にしようとしていたのだと考えると、ちょっと恐ろしいですね。



>「ぜひ食べてみてください。一人で喰うには、多く作りすぎてしまったので」


 これも良く考えたら毎日シチューを作って、人が迷子になるのを待っていたと言う事ですから、蟻地獄のような男ですね。シュウとはまた違った気色悪さを感じます。



>「……はい、そうです」


 この吐露までに至る過程が死ぬ程上手いですね。

 警戒からの疑念、そして体が温まる事により縋っていたものを思い出させ、現実を突きつける事で諦めを口走る。心理描写がめちゃくちゃ丁寧で紬が喋ってしまうのも納得できます。



●最終章二話


 本来ならこっからラストに向かって勢いを落とさずに走り抜けるべきですが、ここで緊迫していた流れが打ち切られてしまうので、少し拍子抜けをしてしまいました。

 それはこのあと作者様がやりたかった展開的に仕方がないのですが、それはつまりプロットに無理がある事を示しているような気がします(あくまで参考文献的に)。



・果物の金臭い香りは……鉄の臭いだったんですね。鉄と言ってしまうとバレバレなので、成程と言った感じです。



>『ふむ。微かに残っているが……しかし妙な匂いのする家だ。』


 土竜が気づかなかった理由に少し納得いきませんが、果実のせいと言う事でしょか。


>「僕は、あの時、理がひどく理不尽だと知った」


 実際父とは同類な訳ですが、恐らくハルは紬と同じように父親に食べさせられた可能性は高いですね。ハルもハルとてやはり理に翻弄されている訳です。

 ただやはりぽっと出感が強いため、こいつは誰なんだ?と言う疑念が物語への熱中を削いでしまう可能性は高いと思われます。



●最終章三話


 展開の是非は置いておいて、紬を闇落ちさせるまでの悪魔のささやきは目を見張るものがありますね。先に果実を食べさせると言う狡い手を使ってきますし、十歳の女の子に容赦がないのも悪役感が合って良い。

 ハルが何故、食い扶持が減っても、紬を巻き込むくらい寂しがっていたかの描写は必要に思いましたが、展開的にここでは無理ですね。



●最終章四話


>「人の血を吸って育つ輪廻草は、精霊を惑わせず、人をよく惑わせるんだ。辿り着きたい者は辿り着けず、辿り着きたくない者は辿り着く。故にあの人狩りは、ここへは来れない」


 これは序盤にあった輪廻草の時にさりげなく説明しておくべきでした(なかったように思います、多分)。今ここで出されてしまうとご都合的に映ります。



>「……紬の居場所は、あなたの隣だけです。どこにも行きませんよ」


 ヒスイに言っていたようなことを言っていますね。

 やはりハルは禁忌を破る人狩り等の設定で序盤から出しておいて、ヒスイと徹底的に逆を行く存在に書いておくなどした方が存在も際立つ気がします。

 余談ですけど軽く寝取られ感ありますね(違うけど)。



>「父さんや爺さんが大切にしてきた木を……お前が来たせいで、こんな事に」


 いきなりその理論へ行きつくのはさすがに突拍子もないので、きっと果実が取れなくなってきた頃から「紬が来たせいで……」と思っていたのだと推測します。

 それをこの段階で不自然なく、さりげなく見せるのはかなり難しいように思うので、書かない選択肢は正解だったかもしれません。



●最終章五話


・最後、紬から依頼を受けて紬を狩る訳ですが、ちょっぴり腑に落ちませんでした。

 これも無粋っちゃ無粋で、「紬は人だが、依頼を受けるのは演出」と言えばそれでおわりなのです……が、最後に気になりましたので一応(聞いて欲しいだけ、かもしれない)。

 先に前提を四つ、それから仮説を二つ挙げます。


 前提、


1、人狩りは、人を狩れる。が、人以外を狩ってはならない。(二章七話)

2、紬は、最早人ではない。(三章一話)

3、紬から依頼を受けてから、ヒスイは狩った(エリの例から依頼がなくても狩れる)

4、2に関しては紬がだけの話で、精霊成り全体の話ではない。


『仮説1』 4が否定される場合(紬(精霊成り)を人外扱い)、1においてヒスイは大罪人になった。

 もしその場合ヒスイには凄まじい葛藤があったと思いますが、それが描かれなかったので引き金を引く事への説得力が感じられません。


『仮説2』 4が正解の場合(紬を人扱い)、2は言葉の綾として、3においてわざわざ依頼を受けたことの説明が付かないように思います。さらに

 ・人からも依頼は受けられる

 と言う事実が発覚します。


 が、作中で人から依頼を受けるシーンはありませんし、いくら理を外れているとは言え人から依頼を受けて人狩りを行うとただの殺し屋になってしまう気がするので、作風的に何か違うような印象を受けます(獣や精霊が依頼をするからこその人狩りの異質さが際だつ……気がする)。


 最終話の台詞に

>「お前は、化け物なんかじゃないさね。人とは、そういうものなんだ」

 とありますが、前提の2が言葉の綾ではなくそのままの意味の場合、一応これはヒスイの優しさから言ったものと考察します。


 結論、


 仮説のどちらが採用されたとしても少し納得が行かないような気がするので、紬が人でなければ大罪人になってしまった事への心理描写、紬が人であれば仮説2の人から依頼を受けられる事について作中で触れる方がいいのかなと思いました。

 上記した通り紬が依頼をするのは「演出」としてしまえば片付いてしまう事なのですが、世界観が素晴らしい故に気になってしまったので一応書かせていただきました。この指摘についてはさすがに自分でも細かすぎかよと思います。


 偉そうに考察を書きましたが、私が伏線や設定を見落としていたら申し訳ないです。無視してください。



>紬の右手を開き、薬莢を握らせると、


 最後、薬莢をね……やはり渡すんですね……。

 引き金を引かせたのはお前だと。

 これはこれで無慈悲でグっとくるものなんですが、薬莢を紬に握らせず、無言で自分の懐に閉まう展開もかなり深い意味になるかと思いました。



・おやすみ、はヒスイの紬を思っていた心情が知れてこれはこれで良いのですが、物語のテーマに絡めて、あえて殺した後に「お前は化け物じゃないさね」と言う等、最後は意味のある台詞が欲しいと思いました。



・余談ですが、最後村は豊穣になるわけですが……予てからずっと、それこそ紬の内面の欲するものレベルで村が豊かになれば良いのにと願っていたら、また違った感慨深いラストになりましたね。闇落ちさせた説得力も増す。



・最後になんとなくこう感じたので、七大罪へのこじつけです。


「傲慢」ヒスイ(あるいは精霊)。理を守るためとはいえ悪さをしていない精霊成りを死地へ送るのは、そこまでしていいのかなぁと、ある意味傲慢な気もします。

「憤怒」妙。復讐心に捕らわれている。

「嫉妬」シュウ。美しくありたいと言う若きへの嫉妬。

「怠惰」エリ。ドラッグに溺れる。

「強欲」物語最初に狩った青年。金欲。

「暴食」紬。最後は我を忘れるくらいに食欲に振り回される。

「色欲」紬が犯されそうになった時出てきた人間(無理がある)。





 各論は以上になります。



―――――――――――――――――



3、作品の強み(弱み)や個性だと思う所(主観多め)


・作者様は伏線お化けです。緻密に考えて書かれたことがわかります。一回目より、二、三回目の方が伏線を発見できて面白い。

 言い訳になりますが……重ね重ね、伏線が凄く多いので拾いきれず的外れな分析をしていたら本当に申し訳ないです。気に入らなかった場合コメント欄にてご教示願えれば水を被って反省します。


・地の文はプロの其れです。読みやすいし描写も旨い。個性まで確立されている。

 完成されているので趣味レベルの細かい所まで突かない限り、指摘する所は全くありません。と言うか、私如きが指摘するのは失礼な段階です。書き慣れている感じがひしひしと伝わります。


・拝見し終わった結果、総括するとこの作品が日の目を見ないのは「運」です。断言出来ます。バッドエンドは一般受けしませんが、好きな人は居るので話題にはなるはずです。

 WEBにはこう言った作品が多くありすぎですね……。


・参考書籍の観点から色々と偉そうに指摘を書かせていただきましたが、結局は好みの問題だと思います(元も子もない言い方)。個人的に「人狩り」は結構好きです(高田が狂気を好きなだけかもしれない)。


・失礼な物言いになってしまうかもしれませんが、客観的に、売れ線と言う意味でこれをハッピーエンドに書き換えてジャンルをファンタジーに変えるか、最終章をもう少し丁寧に書き換えて悲劇に変える場合、高い確率でウケる気がします。


・タイトルで損をしている可能性があります。硬派すぎる印象を受けるので。

 今のタイトルでは星の数ほどある作品と差別化できず、キャッチコピーもいささか分かりにくく地味です。(サムネ?ではタグまでわからないので)

 邪道ですが、戦略的には

 「人狩りのヒスイ ~精霊成りの少女と破滅の旅~」

               ――――和風ポストアポカリプス。

 と、情報を前面に出した方がクリックが増える気がしました(主観)。



――――――――――――――――――――


 以上です!


 個人的に悲劇とは何か、バッドエンド、メリーバッドエンドとの違いは?等について深く考えさせられ、学びの多い作品でした。

 この作品は違いますが、世間には初めから最後まで胸糞悪くなる事を目的に書かれている物語が一定数あり(嫌われ松子の一生とか)、それを愛好する人への心理にも興味が湧きました。

 色々と自分をアップデートできた気がします。

 この作品を見る事が出来て本当に良かった。




 最後に再び申し上げますが、素人の分析や評価なので……気に食わない所があったら「高田はわかってないな……」くらいに思って頂けると助かります。


 なはこ様、素敵な作品をありがとうございました!





 次の第回は、 ❅銀花❅様の「春という季節には…?」を拝見させて頂きます。

 

 

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