第23回 ノア / 柊月様

※企画内容にもあるようにこれは「分析→評価」の結果であり、決して作品を否定している訳ではないのでご了承ください。


「ノア」

柊月 様

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894628963


※今回は七千字程度の短編なのでいつもは分けている総論と各論を混ぜて書いています。


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1、物語の総論


●ターゲット


「中世世界観でドロドロな恋愛が好きな女性向け(少し大人向け)」


 と判断します。

 世界観が中世なので非現実みがあってドロドロも案外ソフトに見えトロトロくらいになっていますが(何それ)、現代の恋愛ものとして描いたらかなり生々しくなる作品ですね。それだけ人間がリアルに書けているのだと考えます。

 少し大人向けと書いたのはただの拗れた恋愛ではなく、文学的な「苦み」が最後に含まれているからそう表現しました。えっちだからと言う意味でありません(わかってる)。

 ちなみに個人的にはこの作品の「旨み」は現代版の方が活きそうな気がしないでもないですけど、それはそれで好みの問題と言うかただの主観であり書評と関係ない感想なので聞き流してください(じゃあ書くな)。



●簡単な要約(ログライン)


「過去に追いつかれ愁う主人公がトラウマに再び直面するが、心の拠り所である相方と共に、自身の生い立ちを受け入れるか否かと言う問題と愛に対しての姿勢を考える(もしくは再確認する)物語」


 終始メロドラマな感じの雰囲気ですが最後の一文で全部持っていかれる、これぞ短編の醍醐味!って感じの面白い締め方なので結末は要約には入れられませんが、ざっとこんな感じなのかなと思います。

 色々な捉え方が出来たり、違和感を孕んだ終わり方が好きな人には超オススメですね。高田は読み終わった後「良いやん……」と浸りました。



●テーマ(命題、コンセプト)


 ここは毎回恒例、高田の勝手に深読みコーナーとなっております(つまり客観的な書評と全く関係ない)。


 「ノア」は読後に綺麗なものから歪んだものまで色々思い浮かびましたので一言では形容できない為、あえてそのまま書きますが


「フィリアと〇〇フィリアの中間」


 って印象が個人的にしっくりきます(意味不明ですね)。

 フィリアは直訳すると愛ですが、私の中で日本語での感覚の愛とはちょっと違ってもっとなんかこう、いい意味でも悪い意味でも綺麗事を排した感じの愛みたいな単語が思いつきませんでした。

 なので〇〇フィリアがもっとしっくりきます。〇〇の中には何が入るかわかりませんが、大体性的倒錯の意味になるのでそのままの意味じゃないですけどそれがなんか近い。

 でも純愛要素もあるし……みたいな、なのでその中間がこの作品の重要な命題かなと感じました(伝われ)。

 作者様は120%そんなこと想定して書いていないと思いますが、そんな複雑な何かを高田は感じ取りました。逆に発見としてそう言う側面も秘めている作品なんだと頭の隅にでも置いていただけると幸いです。



●主人公について


・文献だと、ちょっと亜種ですが所謂「ヴァージン型」の主人公ですね。本来は自己実現を目指して頑張る系の話です(シンデレラとか)。大体ヴァージン型主人公には「枷」がつき纏うのですが、ノアも身分と言う枷が邪魔をしています。

 「ノア」の場合は短編ですし自己実現や欲望、目的までは細かく描く事はありませんでしたが、似たような性格だと考えます。もし中、長編になったらノアは強かに立ち振る舞いつつ周りを優位に動かし上手く行きかけるもあまりハッピーではない終わり方をする印象です(これは妄想)。これはこれで面白そう。


・多くの主人公には欠落(加害、喪失、目的)があり、それを外的、内面的な回復(奪還)をするために物語が進みます。


 ノアの場合

外面→号外からの逃避

内面→ジェイドの愛


 が目的かなと思います。

 外面は明記されていないのでちょっと微妙ですが、どちらかと言うとディランの目的に近いのかな。外面は物語上のストーリーを進める為の材料で割と柔軟な解釈でいいので、そう言う事にします(勝手に)。

 それより内面がこの作品のキモですね。この感情が「ノア」の全ての元凶でもあるし物語の原動力であり面白さの材料です。


 余談ですがこういった主人公の目的には理由があるとより説得力が出るのですが(この作品の場合何故そこまでジェイドにこだわるのか)、短編なので恐らく構成的に要らないです。中編くらいを想定する場合に何処を掘り下げようかな~、って時にここの選択肢があるよな、と言うどうでもいい分析。参考までに。



●敵について


 敵と言うと大仰なものに聞こえますが、主人公の目的を阻害する事象全てを言います。つまり外面と内面の敵がいます(一緒の事も多い)。

 ノアの場合外面の敵は国、内面の敵はジェイドそのもの若しくはディラン、もしくは自分って所でしょうか。

 外面のストーリーは割と本筋に関係ない構成なので敵が国と言うのは大したことではないのですが(本来はかなり厄介な敵となるのでこれはこれで参考文献的に素晴らしい)、特筆すべきは内面の敵が面白いですね。

 私が勝手に分析した物ですが愛情を捧げている相手(ディラン)が一応敵になるんですよ。だって彼がいなかったらジェイドが手に入っていたんですから。ここがめちゃくちゃ上手い、似たジャンルと差別化できる誇るべきコンセプトです。


 内面と外面の話に少し戻りますが、ほぼ全ての物語は最後にこれが達成されるか否かが描かれます。大体内面の目的が達成されるとハッピーエンド系、逆がバッドエンド系です(主観)。

 「ノア」の場合外面の目的は達成されましたが、内面は達成されていません(号外からは逃れた物のジェイドは手に入らない)。なので手放しでハッピー!と言う終わりではありませんね。

 大衆向けエンタメはハッピーエンドを好みますが、これは小説的な面白さと言うか、こういう一癖ある終わり方なので個人的には好きです(嫌われ松子の一生みたいな所謂胸糞系は好きじゃないですが)。




●物語の構造&各論


ここから本編を引用しつつ書いて行きます。



>「号外!号外!国一番の大事件だよ!」


 事件から始まるのは良い掴みだと思います。掴みについては突き詰めていくと正解なんてなくて晴れて迷宮入りしますが、平凡に始まるより遥かにマシです。競争激しいWEB小説では特に。


>「いらっしゃい、ビリー」


 冒頭からディランの他にビリーが出てきます。守銭奴感を出していますけどディランのピンチには必ず駆け付けてくれる系の良い奴キャラ臭が凄いです。

 ここで一つ参考文献から、物語上必ず必要でない限り削るのがスマートだと言われています(活字なので読者の混乱も防げる)。

 そしてキャラクターの役割は「主役」「モブ」「エキストラ」とあり、エキストラには名前すら必要ありません。

 以上を鑑みるとビリーは情報を提供する重要なキャラクターですが、名前が絶対に必要かと言われるとそうでもありません。物語の本筋に一切絡んで来ないからです(しかも冒頭は重要人物が出てくるセオリーみたいなのがあるので、この二人が主要人物かのような錯覚まで与える危険性があります)。

 ノアやディランに焦点を当てたい場合モブが増える程主役が霞んでしまうので、ビリーはもっとキャラを薄くして「号外を持ってきて情報を提供するエキストラ」くらいにするか、もっとストイックに考えるとディランが自分自身で号外を読んでこの事を知る、と言う見せ方でも良い気がします。

 キャラクターは絶対に必要な人にだけ名前を与える、と言うのが基本らしいです。



・短編なので長編以上にテンポが大事ですが、初っ端ディランが物語に巻き込まれて行くので良い感じです。

 全部読めば主人公はノア(ですよね?)と分かるのですが、最初に出てくる人物が主人公である事が多いのでちょっと混乱しました。個人的に初見では物語のゴール、つまり主人公の目的(この場合ディランだったので逃亡や逃避)がすぐに知らされる形になり「お、こういう話か」と心の準備がされましたが、実際は彼の物語ではないんですよね。

 一応ノアがメインのイベント(号外)なので主人公に降りかかる災難と言えば災難なのですが、構造上ノアが号外を知る訳には行かないので、そうしない形でノアを冒頭に引き釣り出して物語に巻き込まれて行く感じが出せるともっと違和感なく主人公の主軸がブレなく進むのかなと思いました。

 例えば冒頭は基本的には主人公の日常を見せる事が多いので、ノアの現在の社会的な立場を動的に描写しておくとかでしょうか(めっちゃ細かい話なので聞き流す程度で大丈夫です)。



>ノアはその夜、久し振りに悪夢に魘された。


・そして不吉なフラグを立たせる流れ。対立で読者の不安(つまりワクワク感)を煽れる素晴らしい流れです。


 と、ここでちょっと先ほどの補足。かなり主観です。

 先ほど書きました物語のゴールを「逃避」と判断した読者に限り、この後のノアの回想は些か長く映ります(1900文字なので全体の三割を占める)。個人的には回想の途中まで読み進めて「あ、これはノアがメインのお話なのか~」と気付き出したので、やはり始まりがちょっと勿体ない気はします(ディランがメイン)。

 読み進めるとこの小説の見せ場はそっちではなくこういった人間ドラマだと分かってくるので、見せ方を前後する方が無難かなと考えます。重ね重ね、あくまでこの辺は個人的な意見です。

 これは短編ですが三幕構成なら一幕で掴みと物語の導入(号外から回想前まで)、二幕でその作品の売りの部分(ノアの回想シーン)、三幕付近で起承転結で言う転の部分からラストまで駆け抜ける(ディランの裏切り)と考えると割とかなり良くできているので、物語の導入部分をビリーではなくノアとディランに出来ない物かな~と提案して見たりします。

 誤解されそうなので明記しておきますがこの作品の始まり方が悪いと言う訳では決してないです。ただの一読者からの一例でした。



>『ノアーリア嬢、夜会は楽しんでいるかい?』→察してるだろ帰してやれよ!

>『リア、大丈夫?』→今優しくするなよ!

>『……ノアーリア嬢、ゆっくり休んでくれ』→泥棒猫の案に乗りやがったな!


 このようにジェイドが終始クズなんですが、政略結婚で仕方ないにしても少なからずノアを想っていれば人としてここまでする必要がない気がするのでこの男の何処に惚れたかが謎で彼をシバきたくなりました(悪い意味じゃなくて感情移入出来て楽しい)。

 ここは短編なのでキャラの掘り下げが出来ないのが痛い所です(後に地の文で政略結婚だったと知らされる程度)。



>ディランは困惑する愛しい妻の頬を一撫でして苦笑した。思い出すのは悪夢に魘される中、必死に、縋り付くように王子の名前を何度も呼んでいたノアだ。


 ディランの気持ちを考えるとめちゃくちゃ闇が深くて私の性癖に刺さります(黙れ)。目の前でノアがジェイドの名前を言っている所をどんな顔で見ていたのか、その辺の描写とかあったら最高だった(黙れ)。



>辺境伯は決断した。

>ノアーリアが望むのなら、ディランとの婚姻を了承しよう、と。

>ディランはそうしてノアーリアを貰う権利を得た。


 そういえばノアを「探せ」との号外ですがパパとかその側近くらいは二人の所在を知っていそうですが、どうなんでしょう。隠しているにしても調べられてどこかしらから洩れそう。とこれは多分誰も気にしないかなり細かい所なのでスルーしてくだしあ。



>何度だって「ノア」って呼ぶよ。


 切なさ、賢明さ、一匙の狂気、人の弱さ、嫉妬、愛情、切り取って形容すればいくつも感情が出てくるこの一文……超エモい。

 ここの名前と地の文を交互させる書き方に暁佳奈氏の「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の中に出てくる表現と似た物を感じました。繊細さと焦燥感が入り混じる絶妙に良い魅せ方に思えます。好き。



>「お嬢様は第二王子殿下をお慕いしていますね?」


 この何度も敬語で接するのが最高に女々しくてウザくて人間臭くて好き。シンプルに嫌味だし、かまちょだし、自分を選んでほしい一縷の望みを賭けている感じがリアルにいそうな男子でエクセレントです。

 最初にノアールア様と発言した時の衝撃も、幕が変わった感じがありありとわかる中々良い演出に思います。



>「なら、傍にいて。ディランが、私の傍にいて」


 小説の最後を考えるとここで咄嗟に引き留めたノアの行動ですが、確かに愛していてはいるのでしょうがそれと同時に「またジェイドに捨てられるのでは」と言う保身もある打算的な行動だったのかなと思っていまいます。しかも無意識に。仮にそうなら凄い女性です。



>背徳感を間に置いて。


 ラストのこれがマジで好き……。この部分がこの作品を普通とは違うものに落とし込めていると考えます。このまま終わってしまうとなんの面白みもないハッピーエンドですが、こうして毒を残す事でただのシナリオから「小説」と言うエンタメに昇華していると感じました。

 面白いのはこれはどっちが(もしくは両方が)抱いたか明記されない所。そして罪悪感ではなく「背徳感」と言う言葉選びの業が深い(題名が「ノア」と言うのもこの辺に関わっていると思います)。


 罪悪感だったら普通に理解できる感じで終わるのですが、ここがより抽象的な「背徳感」で終わらせる事に意味があると考えます。辞書的な意味はないですが、背徳感って何となく「悪いと分かっていてもその行為をやってしまう快感」みたいな感じ有りません?(私だけ?)

 そうだとするとこのラストの背徳感が一気に国語の教科書になるんですよ……。結局人間の汚い部分、素面の部分ってそこだよねみたいな、深いやつ(語彙力)。

 そして重要なのが「間に置いて」。

 ここな!(勝手にテンションが上がる)。つまり二人の間に背徳感があるんです、それがどれくらいの空白かはわかりませんが間違いなく「距離」があるんですね。それが縮まるのか破滅へのフラグなのかは妄想の範疇ですが、そう言った今後を予測させてくれるのも一粒で二度おいしい読み物になっています。

 個人的にビターエンド好きなだけですが、こういう終わり方は余韻が残って凄く良きでした。




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2、作品の強み(弱み)や個性だと思う所(主観多め)、及び雑談。



・こういう割ともっとエグくして行けそうなドラマ凄く好き。もっと長め、中編くらいで読みたかったです。それくらい長いともっと闇落ちして人として行くとこまで行ってしまった二人が見れる……そんな妄想をさせてくれるくらいのラストでした。


・タグの提案があればとの事でしたが「NTR」とかどうですか(黙れ)。でも割とそこそこな数が見に来る可能性があります、需要と供給のバランスが取れていない気がするので(カクヨムでは)。


・書評でも散々書きましたが最後の一文がとにかくエモ散らかしてます。ネタばれになるので書けませんがこの書評を読んで気になった方は絶対に後ろから読んではいけません(そんな人居ないと思うけど)。


・この後を引くクオリティを保ったまま中編~後編になってノアの生涯を人間臭く、且つより文学的に昇華出来たら間違いなく金を払ってでも買う。



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 以上です!


 最後に再び申し上げますが、気に食わない所があったら「高田はわかってないな……」くらいに思って頂けると助かります。もしくはコメントにてご指摘下さい。



 ノア様、素敵な作品をありがとうございました!




 次の第回は、MST様の「Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─」を拝見させて頂きます。

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