第25回 夏、京都。その想い 切り取って… / もってぃ様

※企画内容にもあるようにこれは「分析→評価」の結果であり、決して作品を否定している訳ではないのでご了承ください。


「夏、京都。その想い 切り取って…」 もってぃ様


https://kakuyomu.jp/works/1177354054897013409


※1、今回時間がなかったため、深読みできませんでした!書籍と照らし合わせて気になる部分だけを抽出してます。なのでちょっと厳しめに映ります。


※2、純文学っぽい作品ですが、分析の参考書籍はエンタメ特化なので、純文学のつもりで書かれていたらごめんなさい(ほんとに)。


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1,総論



●ストーリーライン


 『自分に自信のない主人公が幽霊の千歌と関わり、彼女の目的を達成するために勇気を出して憧れの先輩と関わり、変わろうとするお話。千歌と先輩の正道には問題があり、その解決も対立として立ちはだかる。が、最終的にその問題も解決し少しだけ成長できた主人公なのだった』


 みたいな感じを描きたかったのかな、と考えます。

 これは感想ですが、誰が何をする話なのか、明確になるのがかなり後になっている、というより読み終わってからそうだったのかな?と思い返しての要約です。これを表現しきれたかと聞かれると手放しでイエスとは言えない部分が多々ありました(後述します)。


・ストーリー自体の目的は


 幽霊の思いを伝える事


・主人公の変化(内面の旅)は


 自分のために頑張れるようになる


 という感じだと思いますが、これも要約するなら……って感じなので、地固めが少し弱かったように思います。

 作者が明確に何を見せたかったか、がブレているように感じました。カメラという題材がエモい分もったいない!



●ターゲット


・騒がしいやつではなく、静謐な雰囲気のほっこりするちょい非日常の青春小説系が読みたい層、という印象。


・カメラ好き

 ただしカメラはアクセント、小道具にとどまっていたので、ここがコンセプトにぶち込めるともっとよくなると思いました。



●テーマ


 主人公が周りの人間を「大人」と言ったり、胸が大きくなる描写があったり、一皮むけようとしている系だと思います。深読みしてないので言語化は避けます。

 このあたりを作品のアイテムでもある写真(停止した時間、つまり幽霊=千歌)ともっとからめていけたらよりレベルの高い作品に仕上がるのかなと考えます。

 


●物語全体の分析


・圧倒的に困難が少ない。


 →目的に向かって順調に進みすぎてしまいました。もっと対立が必要に思えます。


・善人しかいない。


 →人間ドラマに重きを置く分、よりリアルな、胸糞悪い人が一人でもいれば作品に波が作れました。


・先の展開が予想できる。


 →良くも悪くも何もないのでどうなるかが分かってしまいました。

 例えば、千歌以外にもカメラなどに悪霊が憑いていて、どうにか除霊しないと主人公も先輩も死ぬ、くらいのインパクトが欲しいかもです。


・終始説明が多い。序盤は特に物語が進まない。


 →面倒でも、逸話で語るほうが読者は感情移入できます。

 もちろんカメラなどの専門的なものはがっつり説明が必要ですが、これは自己満にならないような読者への配慮が必要です(エンタメなので、物語に関係のある所までで十分です)。


・一人称と三人称が混在し、かなり頻繁に書き方が変わっている。


 →多い場所だと数行間隔でこれが行われています。

 これだと仮に内容が面白くても、読み進めるのが難しいです。理由は、出回っている小説と比べて圧倒的に読みにくいからです。

 一人称で難しいことを簡単な三人称でやって、三人称で難しいことを簡単な一人称でやってしまうのは、作者の怠慢に映ってしまいます。

 POVを一定にさせて書いた方が読者には優しいかと思われます。


 この弊害の具体的な例として二つ上げます。

1,一人称だったのに急に三人称で「一葉は」と書かれると主人公が自分の事を名前で呼んでいるように見え、かなり違和感がある。


2,誰が語り手なのかわからなくなり、どこから物語を追っていいのかわからない。


3、同じ局面を多方向から違う語り手が話すシーンがあり、その間、物語の進展が一切なく読者は同じシーンを見せられるハメになる。


 共通するのは物語に入り込めないという所です。

 三人称にも神視点、潜入型、カメラアイ、などいろいろ書き方はありますので、作品に合った書き方の模索をお勧めします。


・三幕構成は意識されてると思うので、要所のポイントの本質をもっと突き詰めていけたら尚よくなると思いました(PP1、MP、PP2の節目など、ただイベントが起こるだけでは意味がない)。


・余談ですが、初めの三話くらいで読者を鷲掴みにしないとWEBでは厳しいと考えます。小説以外にもyoutubeやSNSやゲームアプリやTikTokなど世の中にあふれかえってるエンタメと戦わなくてはなりません。吐き捨てるくらい転がっている無料のWEB小説に時間を割く人は僅かです。最後まで読めば面白い、という考えは捨てた方がPV数はあがると考えます。


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2、各論


●二


きっちりインサイティングイベント(心霊写真)が起こります。

が、そこから物語が進まず、同じことの繰り返しになります。

謎があるのはいい感じですが、この謎もすぐに知らせてしまう、しかも説明という形で。もったいないかなと思います。


●六


展開が少々強引に映りました。

バッテリーが一度切れたくらいなら、充電気を付けよう、くらいで普通は済む気がします。もう2,3回充電切れがあって、やっぱりバッテリーを買おう、となるのが自然かも。

デートさせるためのご都合的な骨組みがばれてしまいます。



●七


 幽霊とのやり取りは微笑ましいです。ただしここで過去の説明は得策ではないです。理由は、まだまだ序盤なので物語を進めた方が無難です。

 余談ですが現実と違ってキャラが気持ちを吐露するだけでは読者は動かない可能性が高いです。気持ちを話すだけでももちろん構わないのですが、そこを読んだときに読者が「へぇ。で?」で終わるのではなく「わかる」と思わせるような展開が必要に思えました。



●八


丁度文章的に二幕に入ります。区切りはいい感じです。

ですが明確なPP1がなかったので、超惜しいところです。面白い展開になっていきそうなのに、すごくもったいない。

参考書籍的な定石なら、主人公は七話の時点で読者が納得する形で非日常に飛び込んでいく(主人公の内面の問題が絡んでいる場合が多い)、もしくはどうしようもなく背水の陣って形で巻き込まれていく、ってことになります。その展開がはっきりとありませんでした。

ずるずると進んでしまい、誰が何をする話かはなんとなくわかったものの、その経緯に至った説得力がない。

→主人公を応援したい!と読者に思わせるきっかけがない。と言うことになります。


●タイムリミットの設定はいい感じです!



>『それで作ったのの一つをうちが試食してみたの』

>(千歌は、気を取り直したふうに一葉を向く)

>『うんうん』

>(頷いた顔の、話の行く末への期待感がすごい)


 これはカメラの画面越しという演出でしょうか。いきなりこのような地の文だったので説明を通り越して脚本みたいになっている印象を受けました。ここは作品中でも特にPOVがわかりにくい部分です。小説感があまりない(脚本的、という意味で)。

 ここはエモいやり取りなので、もったいない見せ方だと考えます。


・良い事と悪いことが交互に起こって起承転結の「転」まで緊張感を高めていくのが定石です。ここは上がる部分なので、次は下げるのがよくあるパターンになります。(続く



●九~十一


 続き)ですが、ここからストーリーが全然進みませんでした。なくても問題ないイベントはその作品に必要ない可能性が高いです。問題を起こしまくって困難増し増しにできるデートイベントなのに、何も起こらないのはエンタメとして逆に変です。各シーンには必ず作品をゴールに導く目的が必要です。



●十三


>自分のことになると、ぜんぜんがんばろうとしない

>──それで、似ているの……?


 相手を自分の鏡にする定石パターンです。わかりやすくていいですね。

 ただしトラウマ(人物のゴースト)紹介のシーンで、せっかくの感情移入させられそうなイベントなのにここも終始説明でした。細かく逸話で紹介したほうが読者の心を掴める可能性が高いです。(文章量はかなり増えてしまいますが)



●十四~十六


・MPまで上手くいき、あとは転落していく展開でした。ここは定石どおりですね。謎も残る感じだし、中盤の役割としては最低限果たせていると考えます。



●十七


・ここは分析というか、大分感想?よりになってしまうのでご了承ください。

 正道が最低だという理由に共感しにくかったです(勘違いだったとしても)。それほどに映像の精度が稚拙(作り物にしか見えない)なのだとしたら、明らかなそういう描写を入れた方が無難でした。

 映像が稚拙じゃない場合、死んだ家族がメッセージを送ってきたら多少は変な気持ちになっても、相手を無神経で最低だとこき下ろす結論に至るのはちょっと不自然に映ります。

 理由は、普段性格が悪いやつがこんなことしてくるならまだしも、仲良かった後輩が急にこんなことしてきたら普通は訳を聞くのが自然です。正道の性格的にも頭ごなしに否定しないと思うので、とにかく疑問が残る展開でした。



・途中から突然千歌の一人称になり、さらに三人称も混じっていて誰が語っているのか混乱しました。物語の主軸は主人公だと思うので、少なくとも焦ってここで千歌の心情を説明するのは早いかもしれないです。このイベントが落ち着いてからでも構わないかも。

 現状では一葉なのか正道なのか千歌なのか、どの視点で見ればいいのか不明瞭でした。あと重要なところなので、ここも説明ではなく逸話で見せた方が無難です。


●十八


 理由は置いておいて、構造上、上手くいかなくなっているのは定石通りですね。


●十九


・まだ二幕後半なので、主人公が自らなんとかしようとあがくところです。テーマ的にもここで成長をみせて欲しい。誰かに相談する、という受動的な行動はもうすべきじゃない部分でした。どんなアークの主人公でもMPでやべぇ!ってなった主人公は(結局あとで失敗するけど)自分で頑張ろうとします(もちろん例外はある)。


・>普通に考えて、いきなりそんなん見せられたら、そうとう悪趣味なイタズラや思われるかもなー


 全然知らない奴からやられたらそう。でも知り合いがやってそう取られるのであれば、一葉は「そういう酷いことをしてもおかしくないやつ」と思われていたことになります。

(実はそうだった、というのであれば急に文学的になりますけどさすがに違いましたね)



・>やっぱりこの仕打ちには納得できない、という一葉もいるわけね……。


 急すぎて誰の語りか判断に迷います。少し考えればわかりますが、物語に集中できないため、三人称にいろいろな人物の一人称を混ぜるのはやはりおすすめできません。(少しでも読者に考えさせる時点でアウトです)。

 せめて( )でくくるとかするとまだ読者に対して親切に思えます。


・死神のマチが完全に必要ありません。最期までストーリーに関係ない(いなくても成立する)。物語に関係ない人物は読者に負担を強いるので登場させないほうが無難です。



●~二十


わき道にそれず物語自体は進むので大丈夫でした。

気になるのは二人の問題の解決法が全く同じ(友人に相談する)ということ。これはどちらかを違う方法にしたほうが無難です。どちらも消極的解決なので、主人公を変えた方が良いかもしれません。



●二十二


・PP2、起承転結で言う転、どんでん返しがあったり、主人公がどんぞこに落ちるなどのシーンがありませんでした。


 そして三幕に入ったら通常はクライマックスまで目的に向かって駆け抜けるものらしいです。なのでこのシーンで千歌とのこれまでを思い返すのは物語が失速してしまうため挟むとしても二幕後半になると思います。



●~二十五


・おわかれが着々と近づいているのですが、定石ならここでやるべき内容ではないと考えます。

「かならず別れが来る系」のお話は三幕直前にこういった最後の晩餐的イベントを楽しみ、別れた後で、物語中にずっと伏線をはってきた何かに主人公は巻き込まれ絶望します。そこで別れるはずだった人物(この作品なら千歌)がその人物にしかできないことをして主人公を助けようとする、というのが三幕の定番です。

このシーンを三幕に持ってきてしまうと、クライマックス(作者が一番見せたい、やりたいこと)で盛り上がり不足となり不完全燃焼になる可能性が高いです。事実、そうなってしまいました。

『君の膵臓を食べたい』みたいなことがやりたい場合も一緒です。おぜん立てをもっとうまくやる必要があります。ハラハラがないのが問題です。



・千歌が普通にいなくなる

 ここが作品内で一番改変した方がいい部分かなと個人的には思うのですが、千歌が思いを伝えようとする→邪魔が入る、という構図がエンタメとしては一番盛り上がります。

 特に何事もなく千歌は成仏?してしまうので、肩透かしをくらった気分でした。



●二十六


 主人公が成長したのか、してないのか不明瞭で、物語の目的を最初に定めなかった弊害がここで出てきます。この作品で主人公の成長を描きたかったのか、先輩との恋をやりたかったのか、兄妹の絆を見せたかったのか、メインに据えるものが中途半端に感じました。



あと

>新澤だけが千歌のこと、撮れるんだったな

これの読者が納得する理由が出てきませんのでマイナス点かもしれません。千歌がお寺や神社の娘とか、小さいころから幽霊を写真に撮っていたとか、明確なバックグラウンドが必要になります。





駆け足ですが以上になります。改善点になりそうな部分だけ述べました。


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3、雑談。所感。


・ターゲットは誰か? この作品の売りは? そしてなぜそれが売りたりえるのか? などを言葉で説明できるようになると各論で触れた軸が定まるかもしれません。


・アイディアの話。純文学なら何も問題ないのですが、エンタメなら奇抜なアイディアが必要です。ストーリーが平坦なのでもっと対立やどんでん返しも欲しい。これは波風立てる物語じゃない、という主張があるかもしれませんが、読者の感情を引き付けるには必ず対立(ドラマ)が必要です。特に目立った対立がない物語は日記や説明書と変わりません。日記でいいのであれば、もっと純文学的に語るべきかもしれません。


・校正の話。三点リーダーは基本二個。一個で書いてある本もあるけど、やるなら統一した方が無難です。(一個の時と二個の時が頻出)。小説を書く上のルールみたいなものなので、「基本的な書き方を知らない人」=「面白い小説の可能性は低い」と思われても不思議ではありません。何かこだわりがあるのかもしれませんが、PV数を増やしたいならせめてタイトルくらいは直すべきかもしれません(こういうの個人的にはくだらねぇ規則だな、とは思います)。


・全体的に過剰装飾気味でした。三点リーダーや「――」。描写に力を入れていきたいのであれば、三点リーダー等に逃げず、これをきちんと地の文であらわしたほうが小説的評価は高まると思います。


・一つのセンテンスに乗せる情報は一つが無難です。もちろん、会話も。


・作品に対して明確な意図がないことは、やらない方が間違いはないです。今回の作品でいえば、特に必要のないルビや、わざわざ常用外の漢字を使う等。読者に無駄な情報を与えることになります。


・心理描写を説明で済ませてしまうところが多いので、逸話で魅せる事を意識した方がいいかもしれません。


・これは全体的な印象として、作者さんが物語に入りすぎて執筆されている気がします。なので三人称なのに三点リーダーが入ったりあまり見ない表現になるのかと分析します(ネガティブな意味ではない)。

 初稿はとりあえずそれでいいとして、推敲の段階でそうなってしまったところを客観的に直していければよくある小説の体になるのかな、と考えます。もちろん創作に正解はないので、外連味が強いままの地の文で行くぜというのであればそれでも構わないです。ただ読者の時間を奪っているので読者に寄り添った文章を多少目指しても良いのではないか、とは思いました。



・なんだか全体を通して指南的な意見に纏まってしまいましたが、これらは全て、作品を否定している訳ではありません。書籍をもとに良くするなら、を念頭に読んでもらえれば幸いです。気分を害されたらすぐ消します。


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※この企画は終わっていますが、近況ノートでご要望のあった作品を取り上げさせさせていただ来ました。

 もってぃ様、ご参加ありがとうございました。



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