第3回 私を小説家に連れてって (私小連 : ししょうれん) ―― 十八日間のラブストーリー ――/大木 奈夢 様 後編


続きです!




●5話

・北瑠が入ってくるまでの三人の会話が物語に関わらないので……カットして良いと思いました。

 いきなり北瑠が入ってくる方が読者が北瑠の話だと準備できて、気合入っている感も際立つので。


>なんとなく小説家を目指しているんだという実感が、やっと湧いてきました」

>目を輝かせながらそう言われると、

>なんだか私、小説家を目指すというのがとっても楽しくなってきました。明日のテーマも楽しみなんですが、どんなテーマですか?


 元々田舎に帰りたくないと言う理由だけで小説家になろうとしているので、たった数日談義を聞いただけで目を輝かせるくらい目指す、となるのは説得力に欠けます。せめて「主人公が褒めてくれるから」みたいな内的な描写が欲しいと思いました。

 毎回終わり際に「次はどんなテーマですか?」とあるのですが、機械感が増す気がします。血の通ったキャラクターではなく、作者が喋らせていると言う雰囲気(次の談義のテーマを読者に知らせる為、と言うご都合的)が前面に出てしまうので……。

 この時点で北瑠と言うキャラクターがちょっと好きになってきている私としては、彼女が可哀想に思えてきます。もっと生き生きした自由な彼女が見たいのです……!


>「まだそんな段階じゃないよ。まず簡易プロットを提出して、それに対するアドバイスをもらうのさ。それで、ある程度担当者さんとのコンセンサスが取れたら、出版社内で会議にかけられ執筆の許可が判断されるのだけれど、その許可が出ないことには執筆しても無駄になってしまうんだよ」


 ここも読者に情報を、次の台詞展開の為、と言う作者様の意図が見え隠れするのでキャラ同士が喋っていない印象を受けます。

 聞いていないことまで喋ると説明的すぎでちょっと不自然なので「いや、まだだよ。まず簡易プロットを提出するだけ」これくらいで会話の目的が達成されると思いました。



>そうなんだけど、~~

 ここからびっしり8行LH探検隊のあらすじが語られますが、伏線にないので長すぎるか、カットするか、編集者さんの前で読者に知らせた方がシーン的に最適かなと思いました。(文献より)

 って言うか普通にLH探検隊が面白そう。



・ちょっと数か所だけ、順番に北瑠の台詞を抜き出します。この辺は完全に主観です。

>「それってどんな内容なんですか?」

>「そのサークルは、なんのサークルなのですか?」

>「LH探検隊って?」

>「分りました。それで、そのプロットで通りそうなのですか?」

>「それじゃあ、まだほとんどこれからってことですか?」

>「文章にするまでにはいろいろとあるのですね」

>「分りました。じゃあ先生、明日はちゃんと頑張って下さいね」


 恐らく不自然なオウム返しが多いからだと思うのですが(私の感性の問題も多大にあるのですが)……最初のような天真爛漫な様子はなく、会話を進める為だけの感情がないゾンビのような印象を受けます。

 これはちょっと失礼な物言いになってしまうかもしれませんが……この辺は北瑠に命を吹き込もうと喋らせている気がしないのですが、どうでしょう……。

 ちなみに小説談義の時は、毎回このような印象を受けました。


>デートのこの場面も、非常に勿体ないです。ラブコメメインではなく、ラブコメを使った小説談義になっています。


>動物図鑑はテーマ的にもかなり使えそうな道具だと思うので、もうちょっと話題に出ても良かったかもしれません。LH探検隊がボツりそうな時のきっかけになる等。


>先に有名になった小説にあやかりたいという気持ちも分らなくはないのだが、あまりにもそういう傾向の題名が続くと、いくら何でも節操がないように感じられて、うんざりとした気持ちになってしまう。


 あるあるですね~。

 ただ溢れかえる本の中でいかに題名だけで情報を与えるかと言う戦略でもあるので、一概になしとも言えないんですよね。



●6話

・そろそろ文字数的に起承転結の起が終わる所なので、ちょっと物語が動き出しますが、ゴールが弱いと感じました(最終的にゴールではなかったのですが)。失敗したらすべてを失うくらいのインパクトが欲しいです。


>遥さんは『忙しい、忙しい』と言いながらバッグに荷物を詰め込んで、俺の分の伝票も持って支払いを済ますと、出版社へと戻っていった。


 これがもしかしたら遥の照れ隠しだったのかなとか思うと、かわいく思えました。店を出てから「誘っちゃた……ラブホに」とか好意があるなら「よし、誘えた……!」みたいな(ただの妄想)。


・この後謎の背景描写が入りますが、LH探検隊に絡める等があるのはよいのですがちょっと長すぎてテンポが悪くなる気がします。


・後半の喫茶店のシーンですが後に北瑠をLHへ誘う伏線の為だけに用意したシーンだとすれば、贅肉が多すぎる気がします。後の話に影響しないので、カットしても大丈夫……です。

 どうしても意味を持たせるのであればトモちゃんにアクションを起こさせる、とかでしょうか。

 この時点では遥の役割がまだ不明瞭ですが、あの一瞬で魅力的に映るキャラだし、恋愛模様に絡める事も出来るので、6話は彼女のお話をメインに掘り下げた方が良いかな~と思いました。


●7話

>たった一日、間があいていただけなのに。


 徐々に心を寄せている演出、巧いですね。違和感なかったです。欲を言えば昨日一日フリーだった北瑠の行動を見る回を作って、彼女と遥に恋敵になる為の接点を持たせる、とかすると伏線的にも物語が進むかなと思います。(文献より。各キャラの裏の生活のお話)


・ここで小説談義がまた始まりますが、やっぱりここで長々と話すのはジャンルミス感あります。淡々と進みますし、相変わらず北瑠もオウム返しなので「萌えで覚える〇〇の基本」みたいな本を読んでいる気分になってきます……。



>「それって、どういうことですか? その人は先生のなんなのですか?」

 総論で書きましたが、人間は思考、行動、発話の順で動くようになっているらしいので、主人公が別の女の人とラブホに行く事実を知ったらまず発話の前に「北瑠は俺の発言を聞くと、猫が驚いたようにビクっと体を跳ねさせた」みたいなクッションがあると情緒が出ると思いました(文献より)。


>後半、せっかく大学の話(ここの内容は意味があるのか?)ができるのでそのまま外的な理由である「何故田舎に帰りたくないのか」を話せる大チャンスだと思いました。


>「先生、すごいです。本格的なテーマですね。今からとっても楽しみになってきました」


 これも言わされている感じがあって、嘘臭いと言うか……不自然でした。人は感情が高ぶると言葉が出てこないらしいので(文献より)言葉より行動で示せたらよいな、と感じます。



●8話

>「そうですか。それじゃあ仕方がないですね。わかりました。北瑠は大人しく、明後日まで待っています」


 冒頭の無理を押し通すぶりを見ると、やっぱりあの感じのキャラが変わっています!(キャラが激変する様なイベントもなかったので)

 私もついて行きます!くらいのことを言ってくれそうなのですが……むしろここまで素直なら黙ってついてくるのでは?くらいの事を想像させるくらいです。

 実際、そうして三人で出会って、拗らせた方が盛り上がりもあるかなと思います。


>「でも今は、LHじゃなくてカップルズホテルっていう方が、主流だと思いますけど」


 LHを聞くのは初めてではないので、ここで指摘するのは不自然です。いうなら最初かなと。


・もうそろそろ中盤ですが、未だに家に来て、談義して、何事もなくさようなら、が繰り返されているのでラブコメとしては進展が欲しい所ですね。雨が降ってきて、お泊りイベントとか(ベタ過ぎるけど……)



●9話


>ビッグドリームへ早めのランチを食べていくことにした。

 これ本気で関係ないですけど、ビッグドリームがビッグボーイを連想させて変化球の飯テロになってます(これ書いてる時午前2時でした)


>北瑠が小説家になったら、一緒にこられるかな? などと、ちょっぴり淡い期待や希望を持ちながら。


 ここ凄く良いですね。本来なら伏線などに使えそうです。やはり北瑠も小説の才能があって、遥に才能を見出され、そこに恋愛が絡まり……と言うストーリーを想像させました。

 ただ前半の喫茶店の下りが物語に今回のシーンの目的(遥と会う)と関係ない気がするので、もしかしたらいらないかもしれません。


>今日は小さく手を振るだけなんて。


 めっちゃ乙女意識してますやん……可愛い。こういう絶妙な変化を表す仕草、巧いです。こういうのもっと欲しいです(個人的要望)。


>「当たり前じゃない。この前、一度だけ付き合ってあげるって約束したでしょ。今日は午後から珍しく空いていたので、調査に付き合ってあげようと思ったのよ」


 ちょっとだけ説明的すぎるような……。あとの「この後どうします」の動揺から察しても、明かに慣れていないし緊張している(願望)と思うので「そうよ。約束したでしょ」と、口数少なくて良い気がします。


>「えっ、遥さん。眼鏡をかけていないのも、髪型を変えているのもLHの調査のためだったのですか」


 主人公わざとかって言うくらい聞いてきますね。事の最中に絶対「気持ち良い?ねぇ、気持ち良い?」って聞いてくるダメなタイプの男ですね(どうでもいい)


・カップルズホテル、が前話から出てきましたが、物語の最後まで関わる事がないので、なくても良い設定かなと思いました。


>「事前に調べておいたわ」


 行く(やる)気満々じゃないですか……と言うのは置いておいて、完璧主義な性格、と言うのが見て取れます。こういう何気ない所で性格を表していくのは凄く良いと思いました。きっと遥は旅行も有名店を念入りに調べるし、ディズニーランドでは効率を最優先で考えて回るタイプかもしれない。



>「だって……こういうところは、男性がエスコートするべきところでしょ。ほら早く行って。他の人にジロジロ見られて、恥ずかしいじゃないの」


 (あれ……遥、可愛くね?と高田はこの辺から思い始める)

 緊張+顔を赤く染めながら言っていると思うともっと良いですね(主観、と言うより趣味か)


>中に入ると一階はフロントになっていて、受付の人が丁寧に応対をしてくれた。


 その前の台詞含め、あまり他の人とはすれ違わないしラブホはあまり受付に人がいない気もしますが……もしかしたら高級ラブホって人居るんですかね?(どうでもいいかも)


>部屋に入るなり見つけたベッドに早速腰かけて、


 普通だったら誘ってるのか?って思っちゃいます。


>「もしかして、LHに来るのは初めてなんですか?」

>前から一度、こういうところに来てみたかったのよ。

 と前に言っているので、いくら鈍感とは言え気付くかと思います。


>その時何故か、北瑠の猫のような目から溢れる大粒の涙が、俺の脳裏に蘇ってきた。


 さすがに唐突過ぎる描写で、二人はそこまで良い感じになっていないし、主人公も可愛いと思っているくらいの段階なので、ここは説得力に欠けます。


>遥さんも俺も顔を見合せたまま固まってしまい、次の言葉がなかなか出てこない。しばらく沈黙した後、遥さんは何か意を決したように切り出した。


 と言う訳で、主人公が男を見せて押せ押せで行けばワンチャンある展開だった訳ですね。遥は完璧主義だし何があってもいい様に、今回はほぼ間違いなく勝負下着を着けているのだろうな、と想像させます(想像するな)。


>「また今度付き合ってあげるから」


 「このヘタレ、でももう一度チャンスをあげる」と言われているような気がしますね。

 ラブコメ的にはもう少しお近づきになる展開か、彼女が実はちょっと気があるみたいなのを主人公が気づく、みたいな描写があると展開的に良かったと思います。

 物語の長さ的には丁度中盤にあたる9話がこのLH調査なので、この展開でもっと物語が転がって行く事件が欲しいと感じます(文献より)



●10話


>でも、どうしてあの時、北瑠の涙顔が浮かんだのだろう。


 もし9話のシーンの目的が「遥をきっかけに主人公の気持ちを気付かせる」と言う事をやりたかったのであれば、弱い気がします。遥が可愛いだけの回だったので……。


>今まで北瑠にはずっと振り回されっぱなしで、途中悪魔(魔女)のように思ったり、女郎蜘蛛のように思ったり、地雷のように思ったりで、まあ未だに疑心暗鬼ではあるけれど、反面どこかで愛おしく思う気持ちもある訳で、そのことが今回AEB(自動緊急ブレーキ)として働いたのかも知れない。


 この文章だけでは、ここの理論は「?」となる気がします。

 北瑠を煩わしく思いつつ、どこか愛おしい→それが遥を襲わなかった理由……ちょっと飛躍しすぎで、意味不明な気がします。読解力不足かもしれませんが……。


>三十年落ちの軽自動車に付けても、勿体ないだけという気がするのは俺だけだろうか。


中々に失礼でちょっと笑ってしまった。




・ここが最高に凄くエモくて印象的なので、全部引用してしまいました。

 朗読で聞きたいくらい美しい文章です……リアルに何度も読み返しました。濡れそぼっている、で終わるのが本当に余韻が素晴らしくて気持ちいいんすよ……。目を瞑ると情景が浮かぶと言う、マジでそれです。日本語のポテンシャルを最大限に引き出している。ほめ過ぎると嘘臭いんでもうやめますが、ほんとに、村上春樹並みなんです。


 ちょっと興奮してしまいましたが続けます。

 ここは北瑠に会う前に見せるのが最高ですね。深くて良い演出。もっとここの描写が欲しいくらいです。勿体ないです。「ベンチと雨」と言う恋愛物にもってこいの小道具が揃っているので、さらに間接的に主人公の心の変化などを暗喩できる気がしました。

 今まで春の陽気だったのに、天候がいきなり変わると言う事はこれから確実に何かあると言う演出になります(そうならないと雨にする理由がない)。事実主人公はちょっと憂鬱な気分の様です(少し説得力が足りない悩みですが……)

 「満開を控えている桜も、今は我慢のしどころと、じっと耐えて濡れそぼっている」とありますので、ハッピーエンドを予想させますが、途中に何かあるんだろうな、とくみ取る事が出来ます。これから訪れる悲劇の予兆(クライマックス)ですね。ただその場合まだ十話なので、早すぎますが……。


>「マスターありがとうございます。さっき起きたばっかりで、まだ朝飯を食っていなかったので助かります」


 ここは説明的で不自然な気がします。「あぁ、助かります。お腹空いてたんで……」くらいで十分読者に伝わるので(細かいですけど……)。


>強い口調でそう宣言をした。苦し紛れである。「先生、今日のテーマは何になるのですか?」

 ここはぶつ切り感があります。これまでの会話がなかった事のように進んでいく印象を受けます。せめて苦し紛れで様子がおかしい事に対して、北瑠が何かリアクションをする方がいいかなと感じます。

 リアクションを取らせるのが嫌であれば、

「…………で、先生。今日のテーマは何ですか?」

 くらいの意味深な間があると、北瑠は勘ぐりつつ「まぁいいか」と思ったのだな、と読者に思わせる事が出来る気がします。


>最初の頃、この講義が非常な苦痛であったにも関わらず、今では講義をすることがすごく楽しみになってきた。


 これが北瑠と話せるから楽しみなのだと気づく、と言う流れならよかったのですが、↓


>北瑠が弟子にならなかったら、俺はここまで小説について、その書き方について、今のように真摯に考えていなかったかも知れない。北瑠のおかげで、小説家としての初心に戻れたような気がする。


 と続いてしまうので、やはりラブストーリーではなく完全に小説談義が目的になっています。勿体ない……。


・このあと三人でラブホに行くまでの会話がありますが、マスターが介入する必要性を感じません……どういう機能を持たせようとしてマスターを配置させたかは推し量れませんが、やっぱり喫茶店の店員は一人で良い気がします。


 そしてこの間は終始会話に贅肉が多すぎる気がします(文献より)

 恐らくこのシーンの目的がはっきりしていない為、伏線のない意味のない会話をしてしまうのかなと考えました。(現実や、舞台とかではギリギリありかもしれせんが、文字の物語なので……)


 贅肉の例ですが、

>「でも先生。どこのLHにいくのですか? この近くの駅前にあるのは、知っている誰かに見られそうで、さすがに恥ずかしいんですけど……」

「北瑠ちゃん、安心して。少し離れた郊外型のLHに私の車でいきましょう。車なら、知り合いに見られる心配もないし、そんなに恥ずかしくはないでしょ」

「トモちゃん、車を出してくれるの? ありがとう、助かるよ。車なら駐車場から直接部屋に行けるので、三人で行っても怪しまれずに済むからね」


全体的に説明が多く不自然なので、

「先生、どこのLHに行くのですか?この辺りのはさすがに恥ずかしいんですけど……」

「私の車で遠くのLHに行きましょう。それなら問題ないでしょ?」

「お、車出してくれるの?助かるよ」

 これでストーリーを進めるのに十分な情報が手に入ります。「この辺り」と「恥ずかしい」だけで「近辺のラブホに入るのはまぁ、そうだよなぁ」と読者は察するので逐一説明する必要はないと考えます。車なら駐車場云々も、物語的、読者的に要らない情報なのでカットして平気と判断します。


>外に出ると、朝から降っていた本格的な雨はすでに止んでいて、

 ここで止んでしまうので、勿体ないかなと思います。そう何度も都合よく物語の中で雨は降らない為、この演出がもう使えなくなってしまうので……。もしくは降らせるタイミングが早すぎたかもしれません(さっきの春雨を向かい風の春風に変更するなど)


>ラブホでの三人のイベントは微笑ましくて良いしラブコメ的に需要があります。

 ……が、長すぎる気がします。伏線になる訳でもなく、そして肝心の物語が全く進展せず、次につながるような事件も起こらないので読者的には「結局何がしたかったのか」と言う疑問が残ったまま終わってしまいます。

 構造的に言えば、小説談義がLH探索に代わった、と言う現象が起きただけなので、結局物足りない印象を与えてしまうと思いました。


>北瑠を送れば、次はトモちゃん家だ。

 ここは逆に淡々と進みすぎている気がします。一応既にそこそこ北瑠の事が気になっていると言う設定なので、「ここがアイツの家か……」みたいな感慨深さを感じる描写が欲しい所です。


>『牧村智美』になるのか。


 伏線にならない限り、ここでフルネームを出す必要がありません。描写等は別ですが、基本的に読者が「へぇ」で終わってしまう情報は書かなくて良いとされます(文献より)


>「ママ。本田さんのお弟子さんと一緒に、小説の取材に付き合っていたの。今、お弟子さんと別れたところなのよ」


 このセリフは一から十まで全部話しているので、めちゃくちゃ不自然です。これを言われたら「こいつ弁解してるな」って思われる可能性が高いです。「友達皆で飲んでて、送ってもらったんだ」くらいが自然です。

 そもそもここで物語に全く関わって来ないお母さんを出す必要がないので、ここのシーンはトモちゃんを一人で家に帰すだけ、そして恋愛的に拗らせる為に使うべきで、お母さんを出す事により全てが台無しとなります。さらに、登場人物は物語の25%までに全員出しておく必要があります(文献より)

 せっかく「トモちゃんの車だから北瑠を先に返すしかない」と二人になる口実を得られたので、トモちゃんと何かあって、それを北瑠との恋愛模様に絡めるべきでした。

 いや、ここはほんとに、何ゆえお母さんが出てきてしまったのかがわかりませんでした。勿体ない……!



●11話

 もう物語もかなり進んできていて、恋仲になりそうなキャラたちと全員ラブホに行った……にも関わらず、主人公は呑気にラーメンとか小説談義の事を考えています(せっかく北瑠について悩む描写があったのに!)

 これで前話でラブホに行った意味が無くなってしまいました(文献より。物語は前の情報が次の情報に繋がるドミノ倒しでなければならない)

 再び書いてしまいますがこの展開は小説談義物なら正解で、ラブコメ的には不正解です……。


>一通りの予習を午前中にすませると、俺はビッグドリームに行く前に、前から買い置きをしてあったカップラーメンで昼食をとることにした。


 ここからいきなりカップラーメンの持論が12行続きます。序盤の会話と会話を埋める意味のある地の文ならまだしも、ここでいきなりカップラーメンの持論をぶっこむのは蛇足感が……せめて一緒に食べたサンドイッチの事とか、コーヒーくらいが良い気がします。

 前にラーメンが大好物だと語っていたとか、LHではなくラーメンの小説を書こうとしているなら多少ぽっと出感は薄まる、と言う感じでしょうか。


・マスターを騙す二人の小芝居が始まりますが、ここも物語的には必要ないので要らない印象が強いです。シーンの目的に沿っているような気がしないので……。(と言うよりかは、11話全体のシーンの目的が見ていて判断できませんでした)



>「説明するとなると難しいな。要するに本来、根本的で重要としている内容にしなければならないのに、いつの間にかその本筋から外れて、あまり重要ではない些末な内容にすりかわってしまったり、或いは逆の内容に取りちがえてしまうことをいうのだけれど、


 談義からの引用ですが、正にその通りで、作者様が考える作品のターゲット、その表現方法、それに寄ってくる読者がマッチングしていないように感じました。(つまり、作者様がラブコメを意識して書いている場合はプロットの方向修正が必要で、小説談義をラブコメで見せようと考えている場合、ターゲットミス)



・マスターから焼き肉の話でトモちゃんの気持ちを知る、と言う事ですが、第三者が知らせてしまうと何のイベントもなく過ぎ去ってしまい、主人公にもサラっと受け流されてしまい、そのシーンが必要だった理由がありません……。

 あとで北瑠について悩む描写があるのですが、そのシーンでは一行だけ悩んでいると言う情報があるだけで、すぐに次の小説談義を北瑠とし始める、と言う展開なのでもう少し心理描写を書かれた方が良いかもしれません。ちょっと人間味が無さ過ぎてサイコパスに見えます。


>前に、遥さんとぎこちなくなった時もそうだが、今回のトモちゃんのことはその比ではなかった。これで北瑠ともそうなってしまったら、俺はどうすれば良いのだろうか。


 それぞれとあまり交流がないせいか、主人公が悩んでいる姿に共感できず、ネットのニュースを見ているような感覚になってしまいました。やはりラブコメは人間ドラマなので、込み入った複雑なエピソードがもうちょっと欲しいと思います。



●12話

>なんだかバカをみた気分である。

 何の関係の変化もなく、主人公の内面も変化はなく、悩んだだけ骨折り損、現実ならそれでよいのですがこれだと前話悩んだ意味が丸々ないので、マスターの下りも要らない、となると11話丸々カットしても物語に支障がない事になります。

 数少ない葛藤要因ですので、ここで簡単に解決させず、物語と絡ませていく方が良かったと思いました。


>動物図鑑を伏線として使っているので、動物図鑑が最初に出た時点で猫を拾ったエピソードを話し、今回再び持ち出した時に最初とは違う感想を言うなどして主人公のヒロインに対する気持ちの変化を示す、等の使い方が出来るかなと思いました。


12話も基本的には主人公の関心は自分が書く小説に向いていて、ラブコメの主人公とは思えない素振りを見せ続けています。途中の談義もやはり伏線等ラブコメ物語に関わらない話でしたので、動物図鑑のくだりを除いてその他を全部カットして問題ない……と考えられます。



●13話

 長さ的に起承転結だと転くらいなので、逆転ホームラン並みのハプニングが欲しい所です。一応起こったイベントとしては「LH企画が上手く行きそうにない」と言う事になりそうですが、転にしてはインパクトが弱すぎる上、何よりラブコメに関するイベント(北瑠に関するイベント)ではないので転にはならないと言う事になります。


>「今のままでは恋愛もコメディもやっぱり中途半端だと言われても仕方がないのよ。もちろんラブコメというジャンルはあるけれど、主体はどっちなのか、どちらにスタンスを置くのかは、見直した方がいいと思うの」


 遥の台詞ですが、これはそっくりそのまこの作品に言えて、恋愛物なのか小説談義なのか中途半端になっています(どちらかと言うと小説談義よりですが)。


・遥ともちょっと気まずい感じがあったにもかかわらず、小説の話だけして終わってしまいました。色々起こせたと思うので、勿体ないシーンです。



●14話

>実はキスをすると変身してしまうという設定で。

子猫はヒロインの比喩なので、この辺を伏線として使っていけたら面白いですね。


 この小説談義は二人のエピソードとして使えるので、最初に出した方が良いと思います。この時点でまだ初々しいので使うとしたらかなり前半。

(恋愛小説を書く為に、疑似的に恋人になる、って言う展開もありですね。ベタですけど)

 今回の場合もう後半なので、少なくともここでは出来れば二人は既にかなり惹かれ合っていて、でも一緒になれない壁が存在しているくらいが良いと思います。


・最後、二人が小説を同時に書き始める、と言う展開ですが、これもさっきの例と絡めるなら疑似恋愛を始めつつお互いが恋愛小説を書き始める、と言う展開であれば結構ロマンチックだと思いました。話逸れますけどこの話面白そうじゃないですか?(うるさい)



●15話

 ここも……この15話も、丸々要らないかも……。(LHの内容をここで公開する理由がないので、カットして良い、かと)


 明記はされていませんが主人公の語り(地の文)を見ていると、この15話の時点でこの作品のゴール(主人公の目的)が「企画倒れを阻止する」になってしまっているので、ラブコメでもさらには小説談義でもなくなっています。

 例えばこれがヒロインの書く小説と何かリンクしているとか、物語で隠されていた主人公の過去を反映しているとか、何かの伏線になっているのなら勿論例外です。

 最後までこうブレてしまったのは、やはり最初にこの作品はどういうお話なのかが明確になっていないからだと判断します。



●16話

 物語は起承転結があり、転と結のあいだに更に最大の山である「クライマックス」が入ります(文献より)

 つまりここがそのクライマックスな訳ですね。

 ちなみに悲劇の前にはそれを予兆する物が欲しいので、14話の時点で二人が恋人になってしまうとか、もしくは絶縁するくらい喧嘩するとかした後にこのイベントが来た方がもっとドラマチックになります。

 なんの前触れもないので、読者的にはドキドキハラハラすると言うよりかは、「……え?」と言う衝撃とは違った「ポカン」とした印象を受けます。



>北瑠は、元々軽度の心臓病で


 と言う事であれば「小説談義で口論になった時、胸を抑えて苦しそうにする」等の「絶対に何かある」と読者に知らせておくほうが良いと思います。

 そうすれば読者に不安を植え付けられるので、それ以降二人の幸せそうなシーンやヒロインが健気に主人公を思うシーン等があれば「(でも多分心臓弱いんだよな、大丈夫なのかな)」と際立ちます。

 疲れやすい、だけだとクライマックスの伏線として弱いと感じました。



・>北瑠の小説家になりたいという夢は、まだ始まったばかりである。


 これまでオウム返しだったせいか、ただ熱心に談義を聞くイエスマンに見えたので、夢と言うよりかはまだ田舎に帰りたくない為の手段にしか映りませんでした。エピソード不足と、談義を語る事に偏りすぎ(そのシーンの目的ミス)が原因と思います。


・最後のシーンですが、主人公は散歩が趣味だし、アパートに戻らず夜遅くまで歩き回っていた。で終わらすなど、またはこの時点で初めて出会ったベンチに座って、出来ればヒロインとの思い出のアイテムとかして一人黄昏れたまま日が暮れる。

 とかで終わると悲壮感と感情移入感が増すと思いました(主観です)。



●17話

 これまで全く伏線を張ってこなかったため、物語がどうしようもなくなってしまいます。主人公は行動できず、ただ待つだけ。

 例えば遥が何か手掛かりをつかんでいるとかあると、北瑠の元に突っ走っていける、などの行動が起こせるのですが。


>『先生。私は諦めませんから。必ず戻りますから』


 ここはヒロインが絶対に小説家を目指す!みたいなエピソードがないので、あまり心に響きませんでした。

 ちなみに小説を題材にしているので、仮に解決方法があったとしても小説関係でなければならないと思います(小説談義の時の話がきっかけになるとか……)




●18話

>「先生。お待たせしました」


 クライマックスとは、一番重要な所です。

 物語はクライマックスに「その作者が言いたい事」「書きたいこと」が詰まっていて、そのほんの数ページか数分を書く為だけにそれまでの過程があると言っても過言ではないらしいです(文献)。

 ですが……結局最後も何のドラマもなく終わってしまいましたので(主人公が焦っただけ)、この作品は最大の山場がないと言う物語として致命的な欠点があります(勿論、エンタメ小説の話です)

 本来主人公の苦難や葛藤を書き放題の所を省いてしまい、カタルシスもなく一番カットして行けない所をカットしてしまったので、恐らくほとんどの読者が「あれっ、終わり?」となる可能性が高いと思います。



>「それに、先生と私の恋愛小説は、まだ完結していませんから。先生、もう逃げられませんよ」


 こう言うセリフが聞きたかったのです。この路線でずっと進めていたら……と思いました。


 ここからは余談ですが、終わりのシーンは自分の部屋と言うより、

 主人公がそれこそ迷子の子猫の様に『肩をすぼめるようにしてベンチの端に遠慮がちに座って』いる所をヒロインが『お兄さん、どうかしましたか? 何か困っているんじゃないですか?』

 と声をかけて再会した方が、粋な演出になると思いました。つまり冒頭の出会いの対比です。クライマックスと冒頭は鏡になっているので、納得のいくラストになるかなと思いました(文献より)。


・ちなみにあれだけ引っ張っていたLH探検隊はどうなったのか、とか、結局遥やトモちゃんの存在意義がかなり曖昧だった、など……全体的にモヤモヤして終わってしまいました。






かなり込み入った感じになりましたが、各論は以上になります。


――――――――――――――――――――――


3、作品の強み(弱み)や個性だと思う所(主観多め)及びまとめ



・地の文がプロのそれです。とにかく物量も凄まじい。特に情景描写は完成されているレベルで巧すぎです。めちゃくちゃ読みやすいし、書き慣れているなぁと感じます。

 ほんとに場面によってはそれこそ名立たる文豪に劣らないレベルな気がします。どうしたらそんな情景描写書けるんですか?山とか登ればいいですか?サボテン飼えばいいですか?

 ただその中で、どこか物語を進行させる、読者を楽しませると言うエンタメの目的より「会話と会話を何とか地の文で埋める」事が目的になっている様な箇所が見受けられたので、ちょっと勿体ない印象を受けました。

 作者様は恋愛とかそう言うのより、純文学よりの感性をお持ちだと思ったので、そちらで勝負するとかなり強いのかなと感じます。WEBと言うより、芥川賞等を狙う路線の方が才能を活かせる気がしました。


・物語の構造云々を無視すれば編集者とラブホに言ったり、三人でラブホに行ったり(ラブホばっかり)するところは普通にほっこりするので、日常を描くのは得意なのかなと思います。遥の控えめに腕を振るシーンだけで遥に心持っていかれたので。


・もう一つ勿体ないのは、一話一話の文字数がちょっと多いと感じました。

 これについては「可読文字数」で論じている面白い記事があるのでそちらを参考にしていただければと思います。


※「カクヨム」「小説家になろう」で投稿する際、1話の文字数はどれ位がいいのか?

https://textfield.net/toukouki/shosetsu-mojisuu


 私の場合WEBでの戦い方が最初よくわかっていなかったし、斜に構えていたので「そんなもん知らん、やりたいようにやる」と尖っていたのですが、やはりWEB小説読む人たちはスキマ時間でサクっと読める物を探していたりするので、多くても5000文字が限界だなと感じています。

 作者様が「いや、これで行く」と言うのであれば私如き何も言う事はないのですが、一応より多くの人に見てもらうためにここで助言させていただきます。



―――――――――――――――――――


 以上です!


 今回は本当に……高田は何様なんだ?と言うのが自分でも感じられるくらい熱が入ってしまったのですが、この作品が面白くなるならこうだ!と言う自分なりの信念をかけて臨みました、それだけは伝わってもらえれば幸いです。

 今回の分析評価がどうしても見逃せない、そこだけは一言言いたい、と思われましたら遠慮せずにコメント欄に返信ください。全て真摯に受け止めこれからの糧とします。



 個人的に小説談義の部分が教科書を抽出したくらい優秀なまとめ方なので、もしかしたらたまに参考文献として引用させてもらうかもしれません。



 最後に、何度も申し上げますが、素人の分析や評価なので……気に食わない所があったら「高田はわかってないな……」くらいに思って頂けると助かります。




 大木 奈夢 様、素敵な作品をありがとうございました!







 次の第4回は、気力♪様の残響世界の聖剣譚 -VRMMOで鍛えた力で今を生きるこの世界を守ります-を拝見させて頂きます。


 

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