第3回 私を小説家に連れてって (私小連 : ししょうれん) ―― 十八日間のラブストーリー ――/大木 奈夢 様 前編

※イベント内容にもあるようにこれは「分析→評価」の結果であり、決して作品を否定している訳ではないのでご了承ください。


私を小説家に連れてって (私小連 : ししょうれん) ―― 十八日間のラブストーリー ――/大木 奈夢 様

https://kakuyomu.jp/works/1177354054883265381


●前置き。


※ジャンルミスのせいか、私の視点が悪いせいか、今回ちょっと突っ込みすぎかもしれません。偉そうに添削が目的なのか、というくらいになってしまいましたが、勿論そんなつもりは毛頭御座いません。

 ヒロインに感情移入して途中少しだけ感情的になってしまいましたが、それくらい本気で取り組みました。その部分も伝えたかったので、怒られる覚悟であえて消さずに書きました。どうかご容赦ください。


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1、物語の総論


●まず作品のターゲットは「小説を書いている人、または日常系が好きな人」だと認識しました。


・簡単な要約

「売れない小説家の端くれである主人公が、ぶっとんだヒロインを小説家に育てる過程の物語」

 一応こうかなと判断しました。

 これだけ見ると三谷幸喜の作品みたいで面白そうです。


・作者様はターゲットを見て「ん?」となったかもしれません……サブタイも「ラブストーリー」なのでその観点で読み進めましたが、4話まで読んでこれは「小説を舞台にした恋愛物語ではなく、ラブコメを舞台にした小説談義」になってしまっていると思いました。

 ですがカテゴリもラブコメなので、通してとして分析評価しました。その為ちょっとズレた分析になっている可能性があります。

 決して小説とはこうあるべきと言う評価とか、はたまた純文学的な評価ではありませんので「高田、お前シバくぞ」と思われたらコメントにてその部分を教えて頂けると幸いです。


・続きますが、ラブストーリーとあるので十中八九受け手は恋愛物を期待して読み始めます。読者様はきっと「キャラクターの恋愛が見たい」がために来ます。

 が、路線は小説談義(に見えてしまう)なので恐らくちょっと裏切られた気分になる可能性があります。

 小説談義に見えてしまう理由は二つ。


1、小説談義がストーリー(ラブコメ)にほとんど関係ない。

 つまり伏線になっていないのです。出てくるものは小道具ですら意味がなければならない、とされています(文献より)

 むしろこの大部分を占める小説談義が全て物語の伏線だったら、それこそ後世に語り継がれるレベルでヤバすぎです。


2、シンプルに小説談義が長すぎる。

 つまり物書き向けなのです。

 私個人はずっと「それそれ、そうなんだよね~」と普通に知識の再確認で楽しかったのですが、ラブコメが読みたいだけの読者は校長先生のお話状態で見る事になります。


 小説談義を意味ある物として登場させるなら、例えばですが……最初は二人が無理やり会う為、恋心を意識しだしてからは会う口実に、くらいの小道具として使う方が良いと思います。(談義が終われば会えなくなるので、それと同時くらいに勘違いとかでスレ違いさせて更に距離を置かせる等)

 もしくはテーマのラブストーリーに絡めて全部恋愛小説に関する談義にする、とか……。


 これは余談ですが主人公も物書きの端くれなので談義時に小説家としての矜持等を示せると良いし、その中に何故小説家になりたかったのか(内的な要因)が入れられると、キャラを掘り下げられ、談義が出てくる存在意義をさらに持たせられると思います。


・ちなみに小説談義の内容については王道はあるが不正解はないと言うスタンスなので、ほぼ触れませんでした(企画的にも)。


・ここからが非常に勿体ない所です!勿体ないが故に、ちょっと過剰にツッコんでいる気がしますが……勇気をもって書かせていただきたいと思います。


 それは何かと言うと「物語のゴール」がありませんでした。

 これはつまりプロットの時点で不備があったと言う事になります(エンタメとしてです)


 そのため敵(葛藤)が出て来ない(ドラマが生まれない)、シーン毎の目的が設定できない、シーンがドミノ倒し(前のシーンが次のシーンのきっかけになる)にならず……所謂「日常系アニメ」的な物語的にあまり意味のない会話劇が連なり、結局何の物語か分からなかった、と言う終わり方になっています。(重ね重ね、エンタメとしてです)

 なので、物語が終わっても主人公は何も達成せず、外面的に得た物もなく、内面的な成長もなく終わってしまいます。(文献より)


 売れない小説家が読書感想文レベルの素人を弟子に取ると言う題材は面白いので、大きなトラブルや物語の根幹になるクライマックスを作るだけでもかなり戦えるようになると思いました。




・主人公は、


>『三十にもなって、いつまで夢を追っているのだ』からのお金の話、

>それが売れない無名な新人作家にとっての現実だった。

 と言う事なので、外面的な主人公の葛藤は小説家として売れたい、と言う訳ですね。


 そしてその内面的な理由が描かれていませんでした(何故小説家になったか、小説を書こうと思った深い理由)。

 これがあるとストーリー展開が分かりやすくなるみたいです(文献より)。

 出来れば深い理由が良いですが、何でもいいので理由があって小説家になったのであれば、小説家として成功しようと言う外面的なストーリーが展開しつつ、内面的な理由のおかげで主人公の行動原理がブレない訳です(文献より)。

 内面的な物がないため外面のストーリーのみ追う事になりました。ドラゴンクエストで言うと姫を助けに行くと言うストーリーはあるが勇者の心情は一切語られない、と言った感じです。

 誤解のないように付け加えます!決してそれが良くない訳ではないのですが、作中にもある通りラブストーリーなので「心理描写」が必要で、そのためには内面の欠如(葛藤)が不可欠……となります。



・ヒロインの北瑠ですが、めっちゃ愛らしいこの子がまた勿体ないのです!


 彼女の外面的な目的は「田舎に帰りたくない」だと判断しました。

 そして北瑠も内的な理由が語られませんでした。主人公にべったり張り付くので、そこまでして、どうしても田舎に帰りたくない理由を知らせるべきだと思いました(ベタですけど許嫁が居るとか)。


 北瑠も内面的な欠如がない為に行動理念に深みが与えられず、途中から小説談義を主人公に喋らせるためのキャラ……人間味、血が通っている様子が描かれる事が少ない様に感じました。

 個人的に2話までは凄く共感できる魅力的なキャラクターに映りました。

 3話辺りから急に機械的になってしまったように見えるので、理由を二つ考えました。


 a、小説談義を引き出す為の装置的立場。

 小説談義をするために設置したキャラ、と言う作者様の意図を感じてしまい、どうしてもご都合的に見えてしまいました。

 何よりも、談義の時の彼女は「誰でも良い台詞」を喋っているので、モブと変わらないのです(文献より。キャラクターはどうしても喋らなくちゃいけない時にのみ喋らせるべき)。これはヒロインにやらせて良い役割ではないと感じました。


 b、個人のエピソードがほとんどない

 感情移入のポイントが少ない……かもしれない。


 と分析しました。

 ラブストーリーと言う事は主人公と双璧を成す超重要キャラクターなので、もう少し親近感が湧くの描写(難しいんですよねこれが……)や主人公とのエピソードが欲しいと感じます。

 天真爛漫っぽいこの子がどう考え、どう振る舞うか、もっと見たい!と言う気持ちでずっと読んでいました(主観)。

 この子は出だしが破天荒なので、そのまま小心者の主人公を振り回し、物語をかきまわすロキ的役割の方が物語にメリハリがついたかなと思います。

 

・主人公とヒロインは師弟関係。ラブコメ+師弟関係と言う物語の宝庫の様な設定だったので、ここを掘り下げても良かったかもしれないと思いました。


・ラブコメの王道と言いますか、二人への共通の困難があると良かったと思います。ロミオとジュリエットで言う「身分」みたいな。(つまり運命的に逃れられない「枷」です(文献より)。


・逆に、ヒロインは「小説がめちゃくちゃ大嫌い」だが、でも田舎に帰りたくないから仕方なく……でも小説の魅力に気づかされていく。とかの方が物語的には面白くなるかなと思いました。

 作者の思うようにいかないキャラクターの方が往々にして物語が面白い気がするので(これは主観)



・物語は日常から非日常に飛び出していくのですが(文献より)、主人公にとっての日常は喫茶店ですね。そこから「家に女の子が押しかけてくる」と言う非日常へ行く事になります。これは物語感があって良いと思いました。


・子猫と言う設定を活かしきれていないと判断しましたので、後半「動物図鑑」と言う本も活用していますし、主人公を別の動物か何かに例えるなどして物語と絡めて行くとより小道具として使えるかなと思いました。

 物語のあらすじに書かれているくらいの重要な情報なので、もうちょっと前面に出せるとより必要な比喩のように感じさせられるかなと感じます。


・せっかく恋仲になりそうな人物が三人いるので、もっと拗らせる事が出来ると思いました。

 特にドS編集者は主人公の「援助者(文字通り助けてくれる人)」や「賢者(アイテム、知恵、力をくれる人)」、「敵対者(壁、葛藤要因)」(文献より)にもなり得るかなり美味しい立ち位置に居るので、深い所までストーリーと絡めると面白くなるかな、と。

 LHでちょっと慌てる所とか最高に可愛いですし(関係ない)


・ベンチはかなりシンボル的だし恋愛向きなので、恋愛対象になりそうな女性達とここで小説に関するイベントを起こす等、豊富に使っていけたら良いなぁ、と思います。(シーンの適切な舞台。文献より)


・各キャラには機能(役割)があるので喫茶店に店員が二人いる意味がないかもしれないと思いました。マスターを女の人にして、一人だけにしても物語が成立するので、役割を合体させて良いと思います(文献より)

 (その場合、LHに行くだけなら他のキャラで事足りる為、企画倒れ等のピンチイベント時に「実はマスターは昔本を出してた」とかで助言役、支援者として絡ませたりする必要がありますが……)


・赤外線通信が出てきますが、時代背景が気になりました。

 と言うかスマホって赤外線通信できるんですね……知らなかった。



・これは表現の趣味の話になるので、文献の内容の紹介、あくまでそう言うやり方もあるなぁ程度に見て欲しいです。

 プロット的には関係ない、「会話の進め方」の話になってしまうので適切か分からないのですが。文献にあるので一応。

 人間は思考、行動、発話の順で動くようになっているらしいです(文献より)

 それを踏まえ、作者様のキャラ同士の会話の特徴が

 1→2→3→4→5

と、頭の中で組み立てられて進んでいる印象を受けます。

 例として7話を上げます(7話で気づいたので)


(編集との打ち合わせして来た事を主人公がヒロインに告げる所)

「あっ、そうでしたね。それでどうだったのですか?」

「予想通り、めちゃくちゃダメ出しされちゃったよ」

「そんなにですか」

「なんせ、担当の高木遥さんは、ドS編集者だからな」

「じゃあ、ボツになっちゃったのですか?」

「いや、企画自体は面白いから(中略)宿題をだされちゃったんだよ」

「そうですか……それじゃあ先生も、これから忙しくなるのですね」


と言う感じで、地の文もなく呼吸がない感じ、思考より発話が先の印象で進むのですが、


 実際のリアルな会話は1→2→3→4→5と言う所を1→3→5のように進むので、そう言う風に書いた方が自然らしいです(文献より)

 巧くできませんが、変換すると多分こんな感じになります。


(編集との打ち合わせして来た事を主人公がヒロインに告げます)

「あぁ、そう言えば……ちなみに、結果は?」

「予想通り、めちゃくちゃダメ出しされちゃったよ。担当がドS編集者だからな」

(ヒロインのあちゃ~的なリアクション)

「じゃあ、ボツ?」

(主人公首を振る)

「いや、企画自体は面白いから(中略)宿題をだされちゃったんだよ」

「……忙しくなりそうですね」


 みたいな感じに行くと、思考があってから発話がある感じするので、自然な感じが出るかなと思いました(出てますかね?)言っといてなんですが小説って言うより脚本っぽいな……。

 多分、余計なお世話かと思います。

 作者様の1→2→3→4→5的書き方もどこか純文学っぽさ、味があるので本当にこれは趣味とか拘りの問題です。少し気になったのと、文献の参考までにこういうのもあるよと言う紹介です……。




総論は以上です。(言いすぎな気がして冷や冷やしている)




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2、各論


●1話


>心なしか生を自己主張しているかのように見える。


 視界はその人の鏡と言いますし、主人公はポジティブに、生を自己主張したいのかもしれない、と感じます。


・春を表現するのに大木がどーんとあって描写も素晴らしいのですが、わざわざ木の名前を出す場合ストーリーに意味のある物だとより良いと思いました(文献より)

 例えばこれから子猫を拾うので、「マタタビの木」があったりするとそれらしいですね。


>肩をすぼめるようにしてベンチの端に遠慮がちに座っている。やや前傾姿勢で俯いたまま微動だにせず、何か思い詰めているように感じられた。


 春の生命力あふれる描写から、その対極にいる様な異質な女性。先程生を自己主張したい、と言っていたので声をかける理由になると思いました。

 そして冒頭とクライマックスは表裏一体なので(文献より)と、実はベンチで心臓を休める為に座っていた事を暗喩出来ると良い伏線になるかなと思いました。


>俺の心の中で秘かに眠っていた義侠心


 密かに眠らせていた、と言うと義侠心を起こせなかった過去があるのかなと思ってしまいますが、そう言う伏線であるならば面白いと思いました。


>実際の表情を伺い知ることができず余計にその思いが強くなる


 主人公は鈍感らしいので、勘違いの可能性もあるが……↓


>普段なら絶対にこんな気障ったらしい言葉は、小っ恥ずかしくって吐けない。


 春の陽気のせいで話しかける訳ですね。小心者、と言う事も後々わかるので、この行為は大分勇気がいる事だったんだなと分かって微笑ましいです。


>ややタイトなスカートの~


 ここから19行に渡って北瑠の外見描写が続きます。これは結構私の所感よりになるのですが……少し長いようにも思います。

 理由は二つ。

 

 a、シーンの目的にそぐわない。


 人物描写は勿論必要なのですが、今ここのシーンの目的は二人の出会いを描くことにあるので(文献より)、ここでの描写は最小限にしてこの後の喫茶店とか、家に押しかけて来た時に取っておく方がいいかもしれません。(この子はどんな外見なのだろう、と興味も続きます)


 b、今は最重要の掴みの部分だから。


 とにかく読者を逃してはいけない、冒頭の部分です。目的外の事が多いとスピード感がなくなる、と言う危険性が高まります。開幕すぐに個性的なキャラ(北瑠)で引き込まれているので、出会いの部分だけはとにかく展開だけを進める方が良いと考えます。



>俺の中で長い冬眠から覚めたばかりの義侠心が、


 あまり一般的ではない言葉がさらにもう一度出てきます。物語序盤は結構伏線だらけの作品が多いので(主観)、例えばこれが小説家になる理由だったりすると良いかもしれないと思いました。

 そして主人公はどちらかと言うと男らしい「義侠心」と言うより「看護師の慈愛」に近い性格だと感じます。鈍感(マイペース)、小心者、流されやすい、他人の期待に応えようとする等、一人っ子なのかなぁとか想像しました(偏見過ぎる)。



>「何か込み入った話のようですね。それなら、どこか落ち着いた場所に移動しませんか? 今から行きつけの喫茶店に行こうと思っていたところなんですよ」


 純文学的、舞台役者的で味があり小説的で個人的には好きですが、ちょっと説明的で不自然な気がしますので「……喫茶店、行きます?」の一言くらいがスマートかなと感じます。

 行きつけかどうかは、店のやり取りで読者に知らせた方が良いかもしれません(文献の「語るな魅せろ」)


・喫茶店の名前がビッグドリームですが、一読した所あまり物語と関係がある名詞に思えなかったので、これも名前を出すにはストーリーに絡めて意味を持たせた方が作品的に面白くなると思います(文献より)。


・マスターの外見もバスケのくだりは伏線もないので要らないかもしれません。

 登場人物が出る=その人物をその場で詳しく紹介しなければならないと言う固定概念がもしあるのであれば、それよりもシーンの目的を優先する方がプロットの構造上正解だと思います(文献より)

 出来ればここでは人物より、今後二人の重要な舞台になって行く喫茶店の描写が先でしょうか。


 余談と言うか、これはめちゃくちゃ細かい事で無視して良いんですけど……喫茶店に入る→マスターの説明→喫茶店の描写、より先に舞台である喫茶店を書いた方が読者の視点がバラバラにならないかな、と考えます(ここからはマスターがメイン、みたいに見える可能性があるので)。


・続きになりますが、トモちゃんはここで20行(ヒロインより長い!)使って描写が入ります。

 ここも最低限にして、トモちゃんと一対一で話す時とかに取っておくなどする方がテンポ良く行くと思います。1話は人物紹介と言うより主人公とヒロインの物語の発端を描く事がメインだと(読者が求めていると)判断しましたので……。


>「トモちゃんもマスターも、冷やかさないでよ。それにその呼び方も。俺の名前は文豪じゃなくて文悟なんですから。後ろを必要以上に伸ばさないでよ」


 ここは普段から呼ばれているなら、ちょっと説明的過ぎる気がします。一人称なので「ちょっと、冷やかさないでよ……」等、短く告げて、地の文で文豪じゃなくて文悟だと読者に知らせる方が自然な気がします。(結局北瑠は先生としか呼ばないので)

 ここまで説明的だと、北瑠に小説家と知らせる為に言ったようなご都合に見えてしまうので……


・あと余談ですが、主人公が何故最初に猫の比喩を多用したかが謎です。昔猫を飼っていた、元々大の猫好き等の裏設定がある、または子猫をシンボル的にするためにも喫茶店で「看板猫」を飼っていると説得力が出るかもしれません。

 普段からお店で見ていれば、主人公が比喩に猫を多用した理由に説得力が出ます。(できれば今後も猫にまつわる諺とか使って、テーマ風に絡めて行けると比喩に一貫性が出ると思いました)


・ここから24行に渡って主人公の悩みの種が続きます。

 これは主人公が何に悩み、そしてこれから展開していくであろう物語を予想させるので絶対に必要なくだりなのですが、いささか長い気がします(文献より)。

 (伏線にもなっていないので、売れない小説家の説明はここでは完全に蛇足です)

 重ね重ね同じ理由になってしまいますが「シーンの目的」的にこの後の「落ち着いたら、話せる範囲で話してみて」につなげる事が最優先です。

 出来れば喫茶店に入る→店内の描写→マスターとトモちゃんの存在を匂わせる程度の短い会話→「落ち着いたら、話せる範囲で~」→コーヒーを持って来た時に軽く二人の外見描写

 の順番の方が「出会った二人の物語が続いているし」、読者の興味が逸れずに読み進められるかな、と思いました。



>私、就職浪人になっちゃったんです。最後の頼みの綱が切れちゃったんです。


 物語に小説に出てくるものは全て関係がなければならないとされていますが(文献より)情報は就職浪人と言う事だけで良いかもしれません。伏線的に見えるかかれ方ですが、一読したところ「最後の頼みの綱」が出てこなかったので……。


>名前は冬咲北瑠といって、四年制大学をつい先日卒業してしまったらしい。


 どうしても冒頭にあるようなヒロインの外見描写を居れたい場合、ここならば違和感がない気がします。


>最後の最後まで就職活動を頑張っていた。


 ここで上辺だけでも、頑なに田舎へ帰らない理由(できれば深い理由)を仄めかせると良かったかもしれません。


 そして主人公の流されやすい小心者、義侠心があると言う性格だけではこの後の展開がちょっと弱いので、この北瑠の現在の状況を聞いて、何か主人公の中で「引っ掛かり(過去の自分と似ているとか、これも小説に絡めて)」があると、この後彼女を受け入れる事への説得力増すように思いました。


>「どうか私を小説家に連れてって下さい」

 ここでタイトル。この後北瑠がちょくちょく日本語がおかしい等の設定がないので明らかに意味深です。ここで言う意味深は作者様が意図して隠している物、しかも冒頭に来ている→恐らくテーマに関わる。と予想します。(目を引く為だけ、と言う可能性も考慮します)

 これは小説家と言う「場所」の意味を考えさせられます。甲子園に連れてって的なニュアンスも反射的に浮かぶ(タッチの影響凄すぎ)。

 北瑠の中では「小説家」と言うのが今までの人生と現実離れしていて、「夢のまた夢」である為とっさに出てきた、等が伺えます。

 もっと考察しがいのある興味深い一文なのですが、現時点では情報が少なすぎる為、頭の隅に留めておく程度にします。


 そしてここがおそらく主人公が日常を抜け出す分岐点な訳です!(文献)。

 おかしな日本語からヒロインのてんぱりぶりもわかるし、初対面でそんなこと言われるし、しかも拾ってきた自分の所為なので理不尽とも言えない。

 これが「小説家にしてください!」では何の意味もない平凡なストーリーになってしまって、この独特な言い回しが効くわけですね。


・ここでマスターとトモちゃんが絡んできますが、物語的にあまり意味のある会話でないし、何よりテンポ感が落ちます。二人の世界にしてあげて、どんどん二人を喋らせる方が良いかもしれません。


>やっぱりきっぱりさっぱりと断わることだろう。

 主人公は非日常に旅立つ時、一度「拒絶」をします(文献より)。これは定石通りで、説得力ある展開だと思いました。



>「だって、先生でも小説家になれたのでしょう? それなら私だって、なってもおかしくないじゃないですか」


 私だったら「表に出ろ」と言ってる所です。

 会って間もない関係ないのに「先生でもなれた」と言うのはかなり失礼ですが、それを一喝せず「そりゃあ俺だって……」と冷静に対応できる辺り凄く大らかです。

 ただ、ほぼ初対面で「先生でも」とそこそこの付き合いのような素振りになるのは少し違和感を感じました(主人公の事を何も知らないのに)。


>何があっても絶対に弟子になんかするものか

ラブストーリーの定番、「出会いは最悪」ですね。


>「先生。今、私のことを弟子って言いましたよね」

 主人公は恐らく「(仮に弟子だった場合)弟子がそんな事――」と言う意味合いなので、それを言質として取られた時に撤回させる事も出来たと思いますが、

>絶対に詭弁だ。そう思いながらも拒絶する理由が見つからない。周到に仕掛けられた、罠に嵌まってしまったらしい。

 と言う思考回路なので、そもそも公園からわざわざ北瑠を拾ってきてしまうあたり、主人公はかなり流されやすい性格と言う事が印象付けられます。


・ここでまたマスターとトモちゃんを絡ませますが、会話をカットしても物語に支障がないのでいらないかもしれません(文献より。物語の贅肉を落とす)。

 何より大事な「二人の出会い」と言う印象が薄れてしまうので……

 多分こうなってしまうのは二人を詳しく紹介してしまったがために、出さないと逆に違和感になるからだと判断します。その観点からもやはり二人の詳細はもう少し後で良いのかなと考えます。



>そんな単純な理屈にも反論することのできない自分が、どうにも情けなくてならない。

 冒頭に「鈍感」ともあるので、恐らく主人公はじっくり考えて、じっくり答えを出すタイプなのだろうなと予想します。逆にこれまでの行動から北瑠は即断即決即行動のような印象を受けるので、恋愛物の定石であるデコボココンビだなぁと思いました。


>右隣は空き部屋になっているのだが、

 初見はここいるかなーと思って読んでいたのですが、まさか伏線とは……。

>左隣は夜中に出入りしている年齢の分からない女性という以外の情報を、俺も持っていなかった。

 ここはこれで終わりで良いと思いました。この後に続く女性の描写は、後々出てこないのでカットして大丈夫だと思います(文献より。モブ以下のエキストラに当たるキャラは名前も、ちょっとした描写すらも要らない)


>「なんだか狭くて汚い部屋。それに少し臭くないですか?」

 デコボコと言った通り、やはり主人公とは真逆の感性。読者的に「この二人絶対合わないやん」と言う波乱を予感させるので、良い台詞だと思いました。



●2話

>「先生。いつまでも寝ていたらダメですよ。もっと規則正しい生活をしなければ。」


 これが「何時なのか」で二人の「生活感」が分かる描写になると思いますので、あったらよいなと思いました。一応マスターの出勤時間に出くわし「朝早くから」と言っていますが、ばしっと何時か書かれていた方が良いかなと思いました(これは細かすぎる指摘ですが……一応)。

 例えば主人公が「まだ8時だぞ……」と言えば主人公は少しだけずぼらな印象になりますし、それが5時なら北瑠めっちゃ早起きだな、等の血の通った背景が浮かぶ気がしました。

 


>有無を言わせない口調に逆らうこともできず、

 初見ではこの辺りで、主人公は「小心者、流されやすい、でもいい奴」的なイメージが定着しました。


>登さん――もといマスターのお言葉に甘えることにした。

 キャラを早く読者に覚えてもらうには、早めに名前を出して何度も呼ぶのが良いとされます(文献より)。それについては成功しているのですが、マスターに呼び方を戻す場合、このシーンは丸々意味が無くなってしまうので登さんで通すか、シーンをカットする方が良いと思います。

 それと物語の進行的にこの挿話が意味のない場面になってしまいますので(マスターの家族が絡む等あるなら別)、ここは丸々なくしてしまうか、今後物語に絡むイベントをシンプルに挟むのが良いかもしれません。

 掃除をするのに主人公を外に追いやる場合、このあと戻って来た時に、わざわざ主人公を外へ出した理由(小説談義のネタを拾ってくる等)があると良いと思いました。


・エロ本がみつかる訳ですが(ですよね?)、

>女の子の弟子がいるところに、そんなセクハラモドキのものは必要ないということです。

 と言う理由だと、

>今の先生にはもう必要ありません。

 が不自然な気がしました。今の先生に持っていては困ります、くらいだと思うので、読者を勘違いさせるためのご都合的台詞に見えてしまいました。


 スマホが出てくる時代にエロ本って持っていたり、赤外線通信だったり、主人公は結構アナログな人間だと言う事、あとエロ本を捨ててしまうくらい北瑠が純情な感じで、キャラが見えて良いなぁと思いました。


 このシーンは結構面白いので、部屋に帰って来る前に「しまった、ベッドの下――」みたいな感じでエロ本を匂わせておくと伏線的になってもっと良いかなと思いました。



>私が帰りに白ポストへ投函しておきますから

 これは北瑠がマジで言っているのか、レトロな主人公に対してユーモアとして言ったのかわかりませんが、スマホの時代に白ポスト知っている22才少なそうですね。(私、高田は小さい頃は普通にエロ本が落ちていたし、小学生の時に流行っていたのはB'zくらいの年齢ですが(濁しまくり)、これ見た時にあ~聞いたことある……けど何だっけ?と思いました。田舎住まいだからかもしれない)

 余談ですけどネットで写真を見た時に時代を感じました(有害図書!)。


>取り敢えず『小説の書き方』をネットで検索してみると、

 ここまで主人公はアナログな感じなので、そこは本屋とか図書館にいって調べる方がキャラのブレが少ないと思いました。


 そして小説の教え方ですが、ここで「主人公が小説家になった理由」があれば色々物語の方向性が決まると思いました。

 作者様が何故主人公にネットで調べさせる方法を取らせたのかは推し量る事ができませんが、例えば小説家として信念があるorない場合、


a、ある

 →主人公に作家としての信念があれば、最初に多少ノウハウも語っていたので、小手先ではなくまず自分なりの教え方をする(気がします)。


b、ない

 →物書きの端くれとしての矜持より面子の方が大事、つまり小説家に拘りがないようにも思えるので、主人公は自覚していないが実は小説家云々と言うより物語を紡ぐ事が好きなのかな、等を想像させる。


 など。


 少し込み入った話題になりましたが……物語のテーマで超重要な場面かと思いましたので、掘り下げてみました。



●3話


>翌日は、北瑠が来る前に部屋を抜け出して、


 まだ北瑠が居る訳ないのに、挙動不審のままそ~っと部屋を出てそ~っと鍵を閉めて来たコミカルな主人公が情景に浮かびます。そんな感じの描写があると粋だなと思いました。


>携帯用のノートPCを使って、

 結構昔からノートPC(ワープロか)ってあるので変ではないのですが、アナログな主人公と言う設定なので紙の原稿用紙にしたためてくれるとキャラの一貫性が出ると思いました。このご時世に紙かよ、と言うインパクトもありますし。



>あの可愛い顔の悪魔(魔女)が飛び込んできた。

 ここですぐ後に

>ただでさえ大きな目を猫のように更に大きく見開いて、

 とあるので、冒頭のエピソードと絡めて出来れば最初も猫の比喩の方が良いかもしれません。「可愛い顔の虎が飛び込んできた」等。


>ダイヤの原石なのかも。そんな予感めいたものが、俺の頭の片隅をかすめていく。

 そうなる路線も良かったかもしれません。実は才能がって、ぐんぐん自分を追い抜いていく。すると主人公の劣等感も煽れてドラマも生まれると思いました。(恋愛物の王道でもある、途中で仲がぎくしゃくするきっかけにもなる)


>北瑠は朝から走り回っていたせいで腹が減っていたのか、先に食べていた俺よりも早く食べ終わってしまった。


 後に病気があると分かる訳ですが、走り回って大丈夫なんでしょうか……。もしくは一人称なので主人公が勘違いしているか。だとしても後の展開的に「体に全く異常がない子」と読者に思わせるのは得策ではないと思いました、大事な伏線なので。

 あとこれは本当に細かくて気にする必要はないと思うのですが、循環器系に病気がある人は早食いするのは危険です。消化器系に負担をかけるので……(大多数の人は気にしないと思いますが、理系科目や病気に関しての整合性警察は結構五月蠅い人多いイメージなので、一応載せました)



>そうでないと田舎に連れ戻されちゃうんです」

 ここで小説談義に入る前に、インパクトのある「田舎に帰りたくない理由」が示されると良かったです。そこを物語の軸にしていいですし、小説と絡めて行くのも面白いと思います。


・この辺りから小説談義が始まる訳なのですが、総論でも申し上げてたのですがこれを「ラブストーリー」として分析評価する場合において、物語の展開に関係ない小説談義は要らない……と言う事になります(文献より。物語のゴールに関わらない事は描かない)。

 と言う訳で何度か通して読んだ結果、今後主人公と北瑠がやりとりする中で、物語(ラブコメ)に関わる小説談義はほとんどありませんでした……ちょっと残酷な言い方ですが、小説談義はほぼ全てカットして良い、と言う事になります。


※誤解のない様に明記させていただくと、談義の内容は基本に忠実な大変素晴らしいものです。教科書です、プロでも否定する人は居ないと思います。ただ残念ながらカテゴリエラーでした。勿体ない、非常に……


 さらに、これだけ破天荒と言うか、結構無茶を通してきた北瑠が小説談義の時だけいきなり素直になるのはやはり不自然です。生意気で調子乗った、斜め横の質問を投げかけて主人公を苛々させたり困らせる方がこれまで通りな気がしました。

 これまでとても魅力的だった北瑠が、まるで別のキャラクターの様に性格が微妙に変わって行くのも、この辺りからになります。


>「小説の中での出来事には、そうなるための理由がいるということですね」どんなに些細な出来事も、理由がなければ小説としては成り立たないのである


 談義の中に出てくるものですが、正にこれです。私があげた参考文献も同じ事を言っています。

 その「そうなるための理由」が重要で、物語のゴールに関係しているかいないかが「そうなる理由」を決めています(文献より)。


>「そこでその一のまとめだけど、


 最後、まとめてしまうなら余計にこれまで説明した事のストーリーへの関与がわからなくなるので、何か伏線があったとするなら、ここだけで良い、と言う事になります。


>女郎蜘蛛の巣に貼り付いてしまった昆虫のような気分になった。


 ここも、猫に絡めた方がテーマがブレず読者がイメージを忘れずに済みます(猫に咥えられた鼠のような気分になった。等)


>談義の後、後半でマスターとトモちゃんとの会話がありますが、ここのシーンの目的を明確にした方がいいと思いました。


(例えば会話をする中で、主人公が北瑠に対しての何かの「気付き」を得たりするなど……)

 仮に

 >『目から鱗が落ちたような』気分だった。

 と言う風にさせたい事だとしたら、目から鱗が落ちたような気分にさせる意味もあまりない気がしたので(省いてもストーリーに影響しない)、すると談義後の会話も全部要らない事になります。(後々トモちゃんを恋愛に混ぜるとして、ヤキモチ妬かせてそれを暗示する、など主軸に関わる目的があれば別です)


 3話を総括すると、これも非情な言い方になってしまいますがここのシーンはほとんどなくてもストーリーが進む+伏線もないので大胆に丸々カット、と言う事になります……


 恐らくですが上記の理由で読者が迷子になり、3,4話以降PV数がぐっと下がったのだと思います。逆に、それ以降は下がらずに安定しているので、ラブコメではなく小説談義を見に来ている可能性が高い、と判断します。

 理由は前の話より後の話の方がPV数が伸びている、言う稀な現象が何回かあり、そしてその回は小説談義がある回だからです。つまり、ストーリーの時系列に関わらず小説談義の回だけ他の回よりPV数が多い。

 これはもしかしたら作者様自らお気づきになられているかもしれませんが、一応明記しておきました。


 とは言え一応当企画的に、この後もエンタメのラブストーリーと言う視点で分析・評価を続けさせていただきます。



●4話


>まさか北瑠が俺のために、サンドウィッチを作ってきてくれたなんて。嬉しすぎて


 これまでの主人公の性格からここまで感動するのは少し違和感がありました。空腹で死ぬほど金がないとか、手料理(手料理と言えるか疑問だけど)に飢えていたとか、飢えているなら何故飢えているか……等、手作り系は恋愛事情と相性が良いので、それを含めて語られると良いなと思いました。


>「ありがとう。実はさっき起きたばっかりなので、まだ何も食べていないんだ。今コーヒーを淹れるから一緒に食べようか」


 ここは「ありがとう、コーヒー淹れるよ。一緒に食べよう」で今起床した事もまだ食べていない事も伝わるので、途中はいらないかもしれません。


>その幸せすぎる様子を事細かに述べても、犬も食わないし猫もそっぽを向くので割愛させていただく。


 ここは小説談義が物語の根幹なら正解です。朝食シーンをカットして、さっさと目的の談義に持ち込む。

 しかしラブストーリーなので、朝食を仲良く食べる二人が必要で、ラブコメを期待する読者も恐らくそっちが見たいはずです。朝食をとってお互いを知りつつ、読者に二人の内面を知らせて心理描写しつつ、その箸休めとして小説談義を挟む。くらいがバランス良いかなと考えます。


>やっぱり俺達の師弟関係は逆転している。

 と、何度か出て来るので思ったのですが、北瑠にも何か特技があったら良いですね。それで「(出来れば恋愛に関して)この事に関しては私の方が師匠ですよ?」みたいな感じで主人公をリードするとかあると……いいかもしれない(ただの妄想)。



・余談ですが……長い会話をする時にただ会話させるだけではあまり良くなく、キャラクターに動きが必要らしいです(文献より)ここだったら北瑠が大袈裟にリアクションするとか、一度トイレに立つ等。

 演出としてわざと多用するなら別です。会話だけに注目した方が緊張感が上がるシーンなど(誰かが死ぬ時とかは、よく使われる気がします)


・4話は途中地の文もなく会話劇のみなので、物語を進めると言うより完全に小説談義を見せる事が目的になっています。伏線があればよいのですが……。



>「先生、ありがとうございます。北瑠はどこまでも、とことん先生についていきます」

 そう言う性格と言ったらお終いですが、妄信しすぎで不自然な気がします。(最初先生「でも」とか見下すような発言もしていたので)


>これだから近頃の若い女は信用できない。まともに信用してしまうと、純情な大人はいつも振り回されてしまうのだ。

 まるでそう言う経験があるかのような振る舞いなので、伏線に見えてしまいます。もし地の文を埋めるだけに書いたのであれば、読者を勘違いさせてしまうかな、と思いました。


>「お店がすいている時間帯がいいので、午後二時からにしよう」


 これも趣味の範囲と言うか、かなり細かい事なのですが「お腹が空いている時間帯がいいので」は不自然なので特に要らない気がします(お腹が空いてるっていいましたよね?みたいな伏線回収が後々あるならアリです)

 午後二時くらいしよう、とだけ言ってあとは地の文で「お腹が空くくらいの時間帯だしな」と言う方が自然に思います。






と言う訳で、長くなるので後編に続きます!

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