第22回 プリムスの伝承歌-宝石と絆の戦記-  / 流飴様 前編

※企画内容にもあるようにこれは「分析→評価」の結果であり、決して作品を否定している訳ではないのでご了承ください。


「プリムスの伝承歌-宝石と絆の戦記-」  流飴様

https://kakuyomu.jp/works/1177354054890882474


※未完なのでキリの良い第5曲までの評価になります(約十万字、文庫本一冊分)。


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1、物語の総論


●ターゲット


「中世ヨーロッパ風の雰囲気が好き、熱い主従関係が見たい、背景として戦記が動いている作風が好きな読者」


 もっと浅い所を攻めれば更に幅広い層をターゲットにできそうですが(美男子の絡み、宝石好き等)全体的にはこんな感じでしょうか。

 主人公の境遇や敵国の王子の冷徹さなどのシリアス部分はありますが、綺麗なところの良いとこ取りをしているからか物語通してあまりダークサイドがない華やかな印象です(悪意がワザとらしくなく自然と言う事)。


 読んだ所までではまだ物語は終わっていないのですが、個人的にはゲームのテイルズシリーズをやっている気分でした。大きな力や宝石の枷に翻弄される主人公と徐々に加わる個性的な仲間達、さしずめテイルズオブジュエルといった所か(何それ)。

 最新章までのお膳立てがあり第6曲からどんどん盛り上がってきそうなので、出来れば完結してから一気読みしたい作品です。



●簡単な要約(ログライン)


「国(家族)が襲撃されて激しい逆境に立たされる無力な主人公は止む無く逃亡するが、星影団の団員となり国を盗り返す決心をし、妹が殺されてしまう前に自分の運命を受け止め変わっていかなければならない物語」


 と要約します。作品のあらすじとほぼ被っていますが、ちょっと主人公の内面の要素を取り入れてみました。

 またあとで書きますが乗っ取られかけている国を奪い返す、妹を助けると言うのはストーリー上のお話で、もう一つの見どころはその裏で描かれるリアの内面が変化する物語です。王子なのに存在否定されるし家族は殺されるし国は乗っ取られるし……ザ・主人公と言う過酷な人生を背負いこまされています。素晴らしい。



●テーマ(命題、コンセプト)


「自己肯定」「運命」


 リアは不遇な環境で育ったせいか中々自信や貴族に抗う気概もなく半ば(保身から)達観している主人公ですが、それは自己肯定感(自尊心)が低い為かもしれないと考えます。

 テーマは冒頭で主人公以外のキャラが何気なく語る物ですが、定石通り最初の方で従者のクラルスが、

「リア様。あまりご自身を蔑さげすまれますと陛下と騎士団長様が悲しまれますよ」

 と言っているので、最終的にリアはどんな自分も肯定できるようになる物語なのかな、と感じます。



 「運命」に関しては無理やり言語化して見ましたが、とにかく壮大な物を予感させるものです。

 宝石に選ばれると言う逃げる事は叶わない、無理やり表舞台に引き釣りだされてしまう設定。しかもそれは天災に似たどうしようもない被害であるとともに、自らの運命を切り開く為の道具でもある。そしてそれが外面の物語(戦記)と内面の物語(リアの成長)両方に関わる……これを運命と呼ばずして何と呼ぶ。


 ちなみに注目なのが、これはクラルスの物語でもあるんですよね。守りたいものがあり、主人とともに自信も過酷な運命をなぞる境遇にある(原石貰ったりしてる、過去が辛い)。

 個人的にはクラルスの過去の話なんかをスピンオフで見たい(作中ちょっとだけあるけど)、リアに負けないくらい壮絶な過去持ちなので。



●主人公について


外面の目的→立派な騎士団長になる、宿った石をどうにかしたい、国と妹を取り戻す、

内面の目的→状況に抗えるようになる。自己肯定? 自信がない(無力)? 勇気が欲しい


・ストーリーを進める上で主人公にかかせないのが外面的に欲しいものと内面的に求めているものです(内面の目的がない物語も結構ありますが、読者を深く感動させるには必須の項目)。

 それを前提として、リアの場合外面は非常に分かりやすいですね。国の奪還と妹を救う事です。壮大且つ熱い目的(恐らく海外のファンタジー小説だったら400ページとかになるやつ)。

 内面の部分は分かりやすく言うと主人公が克服すべき性格的な欠点なのですが、これはまだちゃんと判明していないと言うか、確実な描写のされ方じゃなかったのでクエッションマークを付けておきました。

 偉大な両親に才能のある妹、周りからは虐げられて何も感じていない訳がありません。リアは隠すのが上手いだけです。そんな片鱗をクラルスに対してはちょくちょく見せるので、この戦争を通して周りから認められるような完璧な自信を付ける(テーマ)と言う成長を見せるんじゃないかなと予想しています。貴族に対しても堂々と物を言えるようになる。


 ちなみにラスボスやライバルは主人公の影の部分だったり、正反対の存在として書かれます。まだラスボスかどうかは分かりませんが、心優しいリアに対しガルツは完全に真逆の性格、定石をなぞっていてグッド。

 この定石の設定はちゃんと意味があり、最終的に相手と対峙した時、もしくは戦い勝った後に赦すか赦さないかの選択を主人公へ迫ります。そこで自分とまるで違う価値観にどう対処するかでそれまでの物語の答え(大体物語のテーマが多い)みたいなものが提示されるので、そのリトマス紙としてこの定石設定があります。

 私は勝手に「運命」とテーマを深読みしたので、ガルツはガルツなりの運命に対する確固たる信念を持っていて、最終的にリアとぶつかった時にそれが深いテーマへ昇華する……みたいな化学反応があると面白いですね(妄想)。

 「影」と言いましたが仮にリアとガルツが根底では同じような信念を持っていた場合、もし女王制度ではなくリアが恵まれた環境に生まれていた時にガルツと同じ運命を辿っていたかもしれない、と言う事も暗に想像できます。年は離れている二人ですが面白い関係です。

 優しく健気なリアも好きですが、個人的にはカリスマ性を感じるガルツの方が好き(聞いてない)。



・外的、内的な目的は最終的に達成か失敗かを見せる事になります。

 リアの場合外面は国を取り戻して妹を助けられるかどうか。物語の雰囲気的にハッピーエンドっぽいので、恐らく達成されると予想されます(主人公の成長や物語の起伏の為に終盤クラルスが死ぬ予感はしますが……)。

 内面は私が予想する所自信や勇気を持つって印象ですので、外面が達成されればほぼ間違いなくこっちも得るでしょう。カクヨム作品を結構読んでいる高田ですが、終わりが気になる作品の一つです。


 ちなみに外面と内面の目的、この二つを比較すると割と外面の達成はどうでもよかったりします(言い方)。

 むしろそれがないとその作品で何を見せたかったの?と言う一番聞きたくない声が読者からあがります。

 なので、外面の目的は達成されなくても内面は達成される、みたいな話はよくあります。「プリムスの伝承歌(以下プリムス)」の場合、国は守れたものの妹を救えなかった(もしくはその逆)が、自信や勇気は完全に身に着ける事が出来た、みたいな感じになるでしょうか。

 お察しかもしれませんが内面だけ達成されるときはビターエンドになりがちです。ちなみに外面だけ達成されるときはバッドエンドかメリーバッドエンドでモヤっと終わる事が多い気がします。「プリムス」の場合国や妹を救えたものの、リアは特に変わらず今までの不遇な環境のまま終わる、って感じですね(モヤっとしますよね?)。


※内面の変化は絶対に必要、とか強い言葉を使ってしまいましたが例外も存在します(遍歴物語など)。


 これは余談ですが外面の目的は内面の目的が理由になっていると説得力が増します。「プリムス」の場合は単純に妹の命が大事と言うのは当たり前ですが、承認欲求や自信をつけたいがために国の奪還をすることでそれを得ようと積極的になっている(本人は気付いていない)と考えると、争い事をしたくない彼の原動力の一つになると思うので破綻せずに納得できます。



・不遇な環境にも負けず、腐らず、心から民を想う純粋無垢な主人公です。この時点で好感度はアゲアゲですね。高貴な身分だがまだ未熟な感じが主人公感を増して良い感じ。個人的な趣味としてはとことん闇落ちさせたくなるキャラです(聞いてない)。

 そしてリアはその環境に雁字搦めにされている反面、環境に身が守られている(衣食住の保証)訳でもありますので一見ヴァージン型の主人公に見えます(リアが周囲に反対される夢などを持っていたら完璧にヴァージン型だった)。

 しかし途中からは大事な物を取り返す(守る)ヒーロー型になって行きます。恐らく国を取り返した後は何かしら重要なポストに就きそうなので(恐らく騎士団長)、復讐劇と成り上がりの要素をミックスした主人公って印象、中々興味深い設定です。


※ヴァージン型……自己実現を目指す主人公(目的は内側に向く)

 ヒーロー型……何かを救う為に動いている主人公(目的は外側に向く)



・設定での壁の与え方が上手い


 物語上の壁と対立は多ければ多い程面白くなるわけですが、リアへの環境からの圧(性差別)や途中からは身バレ身してはいけない言うタブーなど、頑張った所で逃れられない枷が結構効いています。

 ただそこで勿体ないのは対立に対して能動的な場面がちょっと少ない事でしょうか。クラルスが過保護と言うのも大きいですが、物語が十万字過ぎた時点でもリアは些か受動的なのでもっと自分から立ち向かい壁を崩す姿勢であったり、組織にとって問題行動を起こすようなシーンがあっても良いかな、と考えます。

「周囲の期待に応えるだけじゃない、周囲の悪意にへつらうだけじゃない、自分の運命は自分で決める」みたいな熱い変化がリアには似合いそうです。



●物語の構造


 この項目に関して「プリムス」は要素として大変面白いので細かめな指摘になっています。「ふーん」くらいで読んでくれて良いかもしれない。


・大抵の物語は主人公のいる日常(失われる運命)から非日常に行く事で転がって行きます。

 「プリムス」の場合日常は住んでいる国での話、非日常は国を襲撃された後だと思いますが、その中で最初に主人公の大事な物を知らせそれを危険な目に遭わせると言う定石があります。「プリムス」はきちんとそれをやってのけています。

 リアは貴族から敬意をはらわれていないと言ういきなり不遇を知らせるプロット的に良い展開の中、心の拠り所である両親や妹を読者へ紹介。「あ、これ家族が危ない目にあうやつやん」と予想できるので緊張感を煽れる訳です。これは上手い見せ方。


 そして日常に迫る危機を予兆させる物があると良いとされます。不穏な空気がする伏線みたいなやつですね。それは何かというと最初にミステイル王国でガルツに会った時の嫌な感じです。何か仕掛けてきそうな予感がバシバシ伝わってきました。

 物語が転がり出した時にはご都合主義を避ける為主人公は新しい世界へ行く事を躊躇わなければなりません。ヒーローズジャーニー的には「冒険の辞退」と呼ばれる所ですが、リアは襲撃されている時に逃げろと言われますが強く拒みます。更に星影団からの誘いも最初は拒みます。その後ようやく重い腰を上げて新しい世界へ飛び込む決意をするので、ここは非常に説得力がありました。心優しい彼の性格上これくらいお膳立てして丁度いいと感じます。



・一つだけ構造に関して危険な部分があります。

 主人公の日常を見せてから非日常に突入する……と書きましたが、完全な非日常に入る頃は大体物語全体の二十%前後くらいが良いとされます(かなり重要)。

 まだ終了していないので何とも言えませんが、物語も中盤は過ぎていると思うので短くても今から約倍の二十万文字くらいで終わると仮定します。すると遅くても二~四万文字くらいで襲撃が来ないと読者は退屈を覚える可能性が高いです。


 ちなみに、

 リアが最初の拝命を受けるまでが約5700文字

 遠征が終わって約28000(つまり遠征自体は約22000文字)

 そこから夜会前までで43000文字

 第3曲の入り口(敵襲)で48000文字


 と言う事で、ちょっと物語の転がり出すポイントが後ろかなと考えます。

 これの解決方法はたった一つです。ちょっと残酷な言い方ですが……リアの最初の視察を丸々カットすると劇的にテンポよく進む事を約束します。

 客観的な理由は参考文献から、三つあります。


1、非日常前の「日常の世界」はただ垂れ流すだけではアウト。主人公の境遇を知らせる、物語のテーマを暗喩、これからのお話のお膳立て(伏線等)……など、物語のゴールに関係するシーンを配置する必要がある。


2、物語の主軸(「プリムス」の場合国の奪還や妹を救う)に関すること以外は書かない方が無難(脱線するから)。


3、物語はドミノ倒しのように前の出来事が次の出来事へ関わっている事が求められる。


 この条件を鑑みると、最初の視察をカットしても物語の構造上ストーリーにほぼ影響しないので、少なくとも物語の導線が引かれる前にやる話ではないと判断します(多少伏線がありますが、追放された後でも可能なものと考えます)。

 ここを丸々カットしてもうちょっと贅肉を削ると見事に二万文字を少し超えるくらいで非日常に突入できるので、プロット的にはかなりスピード感が出る配置になります(約二十万文字くらいで完結するなら)。

 視察の話はリアとクラウスのキャラが立っているし色々と面白い要素がたくさんあるのですが……もしエレガントに物語を纏めたい場合はこの方法を採用するのも一つの手だと考えます。


 ちなみに物語の導線を引くタイミング(主人公の欲しいものを知らせてそれに向かっていく所)ですが、早ければ早い程良いです。

 これが遅ければ遅い程ずっと物語の着地点が分からないので、ストーリーが進んでいるのかいないのか読者には判断がつかないと言う所です。「何を見せたいのだろう?」と言う気持ちで読み続けるので逃げられてしまう可能性が高くなります。

 読者の関心は1ページ目でいきなり掴み、その後ずっと離さないように工夫しなければなりません。後でどんなに面白い物語が待っていようと読んでもらう前に居なくなってしまうからです。



・困難が少ない


 物語が順当に進んで行ってしまうとドラマが発生しないので、主人公に目的を用意し、それを邪魔する展開(そして簡単には突破できない)を何度も何度も用意してあげると読者のハートを掴める物語に収まります。


 そんな中リアの「必要とされない」と言うのは万人が共感できる辛い境遇なので、いらない王子だと存在否定される設定は物語的にめちゃくちゃ映えます。私も大好物です。

 しかし凄く勿体い事に……その設定が活かしきれていませんでした。


 主人公と言う存在は火の粉が常に降りかかる運命なので、ちょっと恵まれ過ぎている、つまり虐め抜けていない可能性があります(心の支えはないか、あっても一つくらいが良いかもしれない)。

 クラルスとは険悪(後に仲良くさせる)、両親には大事にされず、セラしか心の拠り所がない……と言う方が今後の展開の説得力や緊張感、期待感がさらに強くなります。

 ですがクラルスとの関係は非常に尊いものがあるので、この作品の場合はそっちを優先させた方が良いかもしれない。その場合リアはセラを家族として慕っているがセラは余りリアを好きではない、みたいにすると救いに行く動機は失われません。これはもちろん定石をなぞる場合の一例です(と言うより私の妄想)。

 「いらない」と言われているこの設定をもっと前面に出せると(そしてもっとリアが気にしていると)困難が増して更に物語が映えると考えます。


 と、対立や困難について色々細かい事を書いてしまいましたが、25話以降の対立の大きさは凄くダイナミックです。国や民衆が相手、しかも濡れ衣と言う最悪のコンボ。敵は大きければ大きい程面白くなるので、やはり是非ともこれは最初の方に欲しいイベントかな~と感じます。



●敵、対立するもの


 外面と内面で敵は一緒だったり違ったりしますが、外面はガルツ(ミステイル王国)や騙されている時の自国の民衆ですね。事実上、国二つが敵。相手がヤバければヤバい程面白くなりますが、中々用意できない対立ですね。戦記物の分かりやすい最大のメリットって感じでしょうか。上手く利用していて好き。

 

 リアの内面の敵は予想が合っていれば「自分」になるでしょうか。勇気や自信が持てない、主体性が薄い自分。手垢のついた葛藤に思えますが、それだけ多くの人の共感を呼べる確率が高いので良い採用だと考えます(さらに一般人ではなく一国の王子なのでこの欲しいものは尚更磨きがかかる)。




総論は以上です!



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2、各論


●あらすじ


 このあらすじは……作者様は非常に難しい方法を取ったなと考えます。

 何が一番難しい(というより危険?)採用かと言うと、このあらすじで重要な部分を「ネタバレ」してしまっている所です。

(これは感想も入ってしまいますが、「城が襲われる」と言う超重大イベントは物語の中で知りたかった……)


 貴族が脱税するなど不穏な空気の中、視察遠征に行き大事な物と引き離される展開や隣国に行くシーンで間接的に攻め込まれるのを予感させて読者の不安を煽れたはずですが、結局はどうなるか(タイミングまで)分かっているのでそこまで緊張感がなかった気がします。むしろその転換部分が気になってそれまでの文章に対し目が滑ってしまう危険性も……あるかも(主観強め)。

 読者的には襲撃のタイミングを知らずに「プリムス」を読み進め、物語の中でリアと一緒にその衝撃を知る方がワクワク、ハラハラできる気がするのですが……どうでしょうか。

 逆にその転換点を知っているからこそ読み進める方もいると思うのでどっちがいいと言う結論は出せないのですが、私はそこは「とある大事件」くらいに仄めかす程度の方が関心を引けるし驚きもあとで与えられる印象を受けました(エビデンスはないですが……)。

 基本的にはあらすじでざっくり説明してしまうのはありですが、次の話の掴みがあらすじを踏襲しているのでその部分が掴みにならないと言う副作用まで出ています(同じ情報が二度出ているだけ)。なので、第一話の掴みを変える必要も出てきます。


 ちなみにあらすじをプロローグととらえると、カットすべき可能性が高いです。参考文献では「削っても物語に影響しないプロローグ(っぽい物まで)は原則入れない方がスマート」とされます。テンポが悪くなる為です。

 


●第一話 貴族


・あらすじがなければ緊張感と好奇心を持たせる掴みなので素晴らしい始まりなのですが、やはりあらすじで知ってしまっているので……衝撃がありませんでした。

 上記しましたがここで緊迫をさせたい場合はあらすじをカットするか、この先の謎を知らせる様な読者が知らない掴みを採用する方が良いかもしれません。



>「そんなに落ち込まないでください。確実に成長をしていらっしゃいますよ。リア様」


 この小説のヒロインの登場ですね(違う)。男性なのにママみが凄い。辛い時に甘えたい(キモい)。

 クラルスは体を張るのはもちろんですが、作品通して一度もリアを(ほぼ)否定していない所なども忠誠心の権化なのだなと感じるとともに、作者様のキャラの作りが一徹されていて素晴らしいと気づかされます(ルフトの名前の呼び方とか)。



>「立派な騎士団長になれるのか不安だよ」

>騎士団の最高位を継ぐため、それに見合う強さが求められていた。


 遠目ではありますが主人公のちょっとした目標を知らせる、そして今は上手く行っていないと言う情報は読みやすいです。これからの困難も描きやすいですしね。


>クラルスのくせ毛のある暗緑色の髪と、


 クラルスだけではないのですが、作者様はこういう色の表現力、語彙力の豊かさが半端じゃないです。お恥ずかしながら存じなかった単語を勉強させていただきました。


>近年、貴族の発言力が強まっている。


 いきなり伏線が張られている事がわかります。第一話から不安材料があると読む手が止まらないので良き。


>彼に言葉をなげかけたが、目を合わせようとはせずに横を通りすぎていく。相変わらずのことなのでため息も出ない。


 総論でも書きましたが、不遇な状況が一発で理解できる素晴らしい一話でした。物語のラストは第一話(と言うか序盤)の鏡になっている事が多いので、もしかしたら今後のリアの功績を見て掌をくるっくるにして貴族がリアを敬う様になるのかもしれないな……とか妄想します。



●第二話 王女


・不遇を知らせた直後に心の支えになっていそうな妹の登場、この演出はエクセレントです。この場面により二人の立ち位置とキャラも紹介できていると言う一石二鳥。あとルシオラも。


>彼はセラの前にうやうやしくひざまづき、饒舌を披露している。


 ここのシーンは恐らく万人がこの感じの悪い貴族を嫌いになるし、リアを応援したくなったんじゃないかなと思います。ありふれた場面ではありますが中々秀逸。


>貴族は言葉を詰まらせ、おたおたとうろたえていた。


 ざまぁ味噌カツ定食30円!(古い)

 ここはセラが格好いい。


>名前を呼ばれた貴族は僕に会ったときと同じ大股で、


 台詞ではなくこうした仕草でキャラクターの心情が見えるのは上手い表現。

 王の御前なのに「大股」、明かに敬っていない事を示しています。言葉よりも態度に出るのが人間ってものですね、血が通っていていい感じ。



●第3話 宝石


>「……よい心がけですね」

>母上は少し寂しそうな表情をした。


 これは主人公、リアの成長を意図している訳ですが、二周目に見るとなんとなく伏線っぽいなと思いました。このあと襲撃を受けて逃げる、つまり親離れをそのままの意味で暗喩している気がします。



●第4話 拝命


>不意にクラルスの手が耳に触れる。

>「しばらく触れることをお許しください」


 尊い(直球)。同時にクソ熱いシーン。

 ここは個人的に「プリムス」で三本の指に入るくらい好きな所です。二人の関係性はほぼ明かでしたがここで完全に信頼関係が確定します。

 それに書き方が巧みだからか耳を塞いで二人が立っている絵が浮かびます。



>「リア様、お疲れですね」

>「あっ……。ごめん見苦しかったね」


 溜息を吐いたことを見苦しいと表現するリアの「立派でいなきゃ」と言う心構えが感じられて好きな台詞。そしてこういう場面でやはりかなりストレスになっていると言う事が明らかに。

 父上なら弱音を吐かない、なんて気持ちで耐えているのかと思うと本当に健気です。



●6話 船旅


>「……言わせておけばいいのですよ。リア様が気に病むことではありません」


 場面の目的はクラルスもあまりよくは思われていないと言う事を読者に知らせる所ですね。リアもそうですが二人して容姿も身分も良いので嫉妬の対象にされやすいのがわかります。このままでも十分ですが陰口に対する二人の反応が違ったりすると差別化が計れて良かったかもしれません。



●第7話 視察1


 あからさまに怪しい野獣が出てきます。さらに

>野獣ってこんな街の近いところまで来るの?」

 と伏線っぽく書かれていますが、多分これは貴族が街の為に何もしていない事への紹介ですかね。

 総論でも言った通りこの視察は物語のゴールに関わっていない所なので物語の主軸に関する伏線はいれないか、入れるのであれば視察自体をゴールに関係ある話にしなければなりません(細かいけど一応……)。



●第8話 視察Ⅱ


>僕たちは足早に街へ戻る。


 そういえばここだけではないのですが、作者様は場面転換のやり方が非常にスマートです。エンタメの物語では贅肉を削ぎ落すのが原則良いとされるので、サクサク読み進められて好印象でした。場面転換を決断できずダラダラとやってしまう作家さんて以外と多いんですよね。


 あと謎解き回に近いものがあって読んでいてわくわくしました。一応ジャンルは戦記ですがこういうのがあっても普通に映えますね。






後編に続きます!

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