第6回 修学旅行で出逢った、君と… / もってぃ様
※イベント内容にもあるようにこれは「分析→評価」の結果であり、決して作品を否定している訳ではないのでご了承ください。
「修学旅行で出逢った、君と…」 もってぃ様
https://kakuyomu.jp/works/1177354054888590698
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1、物語の総論
・ターゲットは「10代後半、20代前半のちょっとファンタジー要素のある恋愛好き」
と判断しました。
・簡単な要約
「本当の自分をさらけ出せない主人公が、同じ境遇のヒロインを助ける」
こんな感じかなと思います。
読後はなんとなく「君の名は。」を想像させます。
・個人的にめっ…………ちゃくちゃ惜しい作品です。いじったら名作になるやつですが、はずしているところが一点だけあります。これは長くなるので、ちょっと後に書きます。
・恋愛物は出会いが最悪か、最初から何となく惹かれ合っているものが多いのですが、この作品は後者ですね。たった一日だけなのに、その惹かれ合う感じの説得力があったのは地の文の雰囲気で感情移入が容易だったからだと思います。
・等身大の二人の物語が絡み合うので、もっと掘り下げられる気がしました。
とにかく最初からわくわく感が凄いです。恋愛、と言うより二人が成長する為の冒険ものって感じで読んでいました。
修学旅行中での出来事と言うタイムリミットがあるのも、緊張感が出て良い演出になっている思います。
物語にはどうしようもない枷があってそれに登場人物は苦しめられる訳ですが、タイムリミットによりそれが上手く利用されていたように思います(文献より)。
・複数のヒロインが出て来てすれ違いや嫉妬が云々、と言うより、二人の人間ドラマに重きが置かれています。
なので、初見の印象は修学旅行でお母さんとの問題を中心に、二人が人間的に成長する物語…………と思いきや、後半がファンタジーになってしまうので、チグハグ感に読者はちょっと混乱するかもしれません。
終盤でいきなり物語が変わって、これまで積み上げてきた静謐な純文学的雰囲気がなくなります(後半復活します)。親や本当の自分と向き合う深い人間ドラマがやりたかったのか、ファンタジーな恋愛物がやりたかったのか、中途半端な結果になってしまいました。惜しいと言ったのはこの点です。
せめてファンタジー要素を入れるのなら序盤から小出しにして行かないと、騙された感じがしてしまい良くないと考えます。プロローグは単純に意味不明なままでした。
・序盤を見ていると中里の欠落部分は「本当の自分を出せない事、そしてそれを取り繕ってしまう事のストレス」でありそれを主人公と共に回復する為の物語、に見えたのですが、出来ればラストの死にたくない理由にそれを絡めて克服する事ができれば、内面の成長も綺麗にまとまると思いました。
・クライマックスが過ぎたら極力すぐに終わる方が良いとされます(文献より)。余韻を持たせられない上に、クライマックス(作者が言いたい事、やりたい事の部分)を過ぎれば物語的にその後はほぼ蛇足だからです。
短いものをパっとやって終わるのが理想らしいです。もちろん、それは読者にとってですが……。
ここはWEB上なので作者の自由。しかし仮に世に本として出る場合(つまり売れる為の編集が入った場合)「また逢えて」の部分は5だけを残して後はバッサリカット……くらい削られると予想します(あくまで例です。読後感と内容を基準にそう思いました)。
・タカムラとマチですが、彼らの目的や存在理由が明確ではないので、中里を死の淵から引き戻す際の装置になっており、ご都合的に映りました。
出すとしてもマチだけで問題ないので、タカムラは要らないと思われます。(主人公が動けないシーンは、タカムラがいなくても説明できそうです)文献には出来るだけキャラクターは削る様に書かれていました。
・地の文ですが、基本は三人称なのにちょくちょく一人称になっているのが気になりました。更にその時宮崎と中里が交互に喋るシーンもあるので、どちらが語っているのかわからなくなります。
世に出ている本でそう言う書き方の小説はない為、出版社が採用していないと言う事は得策ではない可能性が高いです。個性があって私は嫌いではないですが。
というより一人称の書き方がめっちゃ上手いので……これは個人的な趣味になってしまいますが、三人称よりも一人称で通す事をお薦めします。作者様の強みでもあると考えます。
・「出逢ってから8」までは「お母さんに会う」と言う目的が一区切りしたので、ここから新たな目的を主人公たちに与える必要があります。
そうしないと読者が迷子になってしまう為、今後そのシーンが描かれる目的を明確にしなければなりません。
その為「出逢ってから9~12」続きの「出逢ったから1~3」は二人に感情移入できる良いシーンですが、物語の構造上意味のないものになってしまうので、主人公の外的な目的を与えるなどしないと読者は宙づり状態で何を見せられているのかわからなくなります。
その為「修学旅行でお母さんに会う」と言う問題をもう少し掘り下げて、引っ張る方がプロット的にもブレがなくなるので無難だと考えました。
ただの修学旅行ではトラブルが起きない→葛藤(ドラマ)が生まれない、となります。
・「出逢ってから」の後半部分が物語中盤なので、この辺りで事件などのイベントが欲しい所です。これが中里が消えてしまう所ところだとテンポもバッチリだと思います。
・起承転結の転、もしくは序破急の急の始まりが中里の事実だと思うので、タイミング的に適切だと思いした。全体の75%くらいに挟むとされているので(文献より)。
ただしここで主人公とお母さんで三者面談していたことに疑問が浮かびます。お母さんは手紙を寄越すくらいなので、中里が入院している事を知らないと言うのは流石に無理があると思います。
・物語の長さ的には「出逢ったあと4」くらいでクライマックスの盛り上がりが欲しい場所です。(これは細かい指摘かも)
・結局中里のお母さんの問題が解決しておらず、最初の手紙の内容も明かされませんでした。ここは回収しないとご都合的に映ってしまいます。
・軸となる主人公とヒロインを見て行きます。
主人公の欠落(欲しいもの)
外面 ヒロインの力になりたい
内面 自分を好きになりたい、本当の自分を出したい
ヒロインの欠落
外面 母に会いたい
内面 主人公と同じ
と分析しました。自分と同じような相手を見て、自分に気づいて行く様は巧みでした。王道ですがなかなか難しいので。
物語はこの欲しい物を埋めるために動いて行くのですが、同じ悩みを持たせることで二人をダブル主人公のように描かれていました。
ヒロインについては両方達成され、最後に冒頭との変化を示せていました。
しかし肝心の主人公、最終的に内面の成長が描かれませんでした。ヒロインを手に入れた所までは良い物の、自分を出せない事の悩みは何一つ解決していません。そこまで切り込んだほうがより深い小説になると思います。
二人の現在に与えた過去がちゃんと描かれているので、感情移入ができました。この辺省いてしまう方が多いので。
物語に不可欠な主人公への敵(葛藤要因)ですが、「中里の事情」かなと考えます。本来は内面での敵も欲しい所ですが、作品には出てきませんでした。もし出せていれば最終的に主人公の内面の成長も描けたのかなと思います。(親父が登場するとか)
・物語には「賢者」と言う役割のキャラクターが出てきます。(ジブリで言うトトロや湯婆婆)このキャラは物々交換で主人公に力やアイテムや知恵などを与える訳ですが、マチがそれにあたると思いました(見方によっては命を与えたので)。
その場合、先に中里からマチへ何かプレゼントがあったようなエピソードがないとご都合的に映ります。猫なので、昔保護した事がある猫、みたいな話があるとマチが協力した事の説得力がグっと上がります。
通読した結果、マチが協力した理由が見当たらなかったように思います。
・物語は日常から非日常に流れて行きますが、修学旅行がそれに当たります。修学旅行での二人のやりとりは素晴らしいもので、冒険に近いワクワク感を感じる事が出来ました。そこに恋愛が絡んでいく訳で、良い題材だと感じます。
非日常に出た後主人公の行動に対して制約やタブーがつきものなのですが、これが冒頭で言ったタイムリミットに当たります。定石どおりで素晴らしい。
そして作中で日常から最も遠い場所を禁忌の場所と言いますが(鶴の恩返しの覗いてしまうシーンなど)、これは描かれませんでした。中里の後を追ってしまい、消える所を見る→マチと出会う。みたいな展開が挟めると定石に沿えるのでより面白くなるのかなと考えました。
・物語は最終的に主人公は何かを失い、その代わりに何かを得る事が多いです。ヒロインであれば母との決着をつける等で何かを失うシーンを作れたかもしれませんが、主人公は何かを失うシーンを作るのは難しいと判断できます。
もうあと何個か、物語的に小道具があると良かったかもしれません。
余談ですが、主人公が何かを失う場合、話の冒頭でそれが示されている事が多いらしいです。
総論は以上です。
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2、各論
●プロローグ
マチとタカムラが出てきます。
ここは後から見れば伏線とわかりますが、初見ではよくわからないだけなので掴みが弱ように思います。ミステリーでは冒頭には死体を転がせとまで言われます。
中里が誰とは知らせずに事故に遭うシーン等の方が何が起こっているかわかるので、現実に馴染みある場面の方が良いように思います。
序盤ですが、まだ名前も覚えていない段階で視点を一話一話変えるのは得策ではないと感じます。あまりこういう書き方をする本はありません。
読者的に混乱するので、登場人物の把握にいっぱいいっぱいで物語に集中できませんでした(プロローグを含めると2話の時点で既に10人出ている)。映像作品ならありですが、活字だと少々キツイです。
出来れば主人公サイドを終わらせてから、中里サイドを書く、と言う風にした方が無難と考えます。
●出逢う前1
>「際限なく求めるんじゃなく、自分に必要なもの、必要な量を知る、
いきなり物語を象徴するテーマのような物が出て来たので、注意して読んでいたのですが、これに関係しそうなキャラやシーンは出てきませんでした。(主人公が僕は僕のままでいいんだ的な成長があれば良かったのですが)
物語の主軸に関わらない事は極力書いてはならないらしいので、出来ればここはメインの二人が成長した後に到達する心理等を伏線的に示す格言の方が良いかもしれません。
(例えばこの格言なら欲望のままに振る舞っていた主人公が成長の過程で節度を知るようになる、等)
>水曜の7時間目、
年代と地域により課外授業を6限目、7限目、0限目等呼ぶようです。5限目までしかない高校も多くあるようです。
一人称なら主人公の主観に故問題ないと思いますが、三人称ならば多少の配慮が必要に思われます。「放課後の課外授業」で統一するとか。
高校生のラブコメ物はかなりのターゲット層が見るので、その辺りは濁した方が無難かもしれません。
・須藤、塩屋、五十嵐、と出てきますが、一話にキャラクターを出し過ぎている気がします。途中全く出て来なくなるので、再登場した時に覚えていない可能性が高いからです。
それと、この三人の役割は一人のキャラクターで纏めても物語的に問題がないので統合した方が良いように思います。その方がキャラが薄くなるのを防げますし、何より読者が混乱しません。
須藤とか結構生き生きとしていて可愛いキャラクターなので、彼女が寺の娘と言う事で三人の役割を纏めて良いような気がします。
>5月の最終週の水曜日。修学旅行を1週間後に控えた、進徳館高校2年D組の教室。
このような実に感慨深い締め方がお上手で、物語がふんわりとします。地の文の巧みさがちょくちょく垣間見える所がこの作品の良い所ですね。
●出逢う前2
・ここで更にヒロイン意外に高杉、藤崎、と出てきます。ここも同じく、高杉と藤崎はキャラを統合できます。
どうしても出したいなら名字だけにする等の配慮がいります。例えば三人いて、苗字名前があるのに地の文では名前呼び、だとすると読者的には六人に見えるので、情報過多かもしれません(まだ覚えてないので、一度戻って苗字と名前を確認する必要がある)。
>その発想はなかったというふうに、何度も小さく横に首を振った。
こういった女の子の所作が多いので、作者様は可愛い女の子の書き方が非常に巧いなぁと思います。
>「──京都、会いに行くんなら協力したげる」
そういえばこれが具体的にどう協力したかが書かれていないので(一緒に住所の場所を探した?計画を立てた?)物語の進行に関係するシーンとして挟んだほうが自然かと思いました。そうでなければ後半のこの会話は要らない事になってしまうので。
そしてかなり重要だと思うのですが、結局手紙の内容が語られずに物語は終わってしまうので、そこを明記しないと母親に会わせるだけのご都合展開に見えてしまいます。
●出逢う前3
>「楽しみだね?」
断言しない辺り、主人公を少し伺っているような言い方になっています。?をつけるだけでそこまで表現するのは、非常に素晴らしいと思いました。
>口を尖らす母。我が母ながら少女みたいなところがある。
この辺りから地の文に一人称が混じって来るので、読者の混乱を防ぐために人称を意識して書いた方が良いと思われます。
>つまり甘えてるわけだ、オレは……。
自己嫌悪に入るので、ここで主人公の欠落部分が見えてきます。冒頭に悩みを見せられると読者は共感しやすいので定石どおりです。人づきあいが苦手な少年、実に等身大で健気そうな感じが恋愛物の主人公にぴったりです。
>「女の子が交通事故に巻き込まれて──」
初見の時に微妙に伏線っぽいなとは思いましたが、やはり伏線でしたね。
こういう伏線だか違うのか、ギリギリの表現は後で気づいた時に「成程」と気持ち良くなれるので楽しいです。
●出逢う前4
>小さくため息を吐いた。
──大きな家……。
この流れがめちゃくちゃいいですね。手紙、溜息、大きな家、と続く事で明記していないのにそれらが繋がっていることがつたわります。まだ出てきませんが、家の事をよく思っていないのだろうな、と言う事が想像できます。
しかもこの大きな家、と言う台詞の前には「無駄に」と言う心の声が入っている事がわかりますし、広く感じるのは母がいないからなのだと、二回目に読むとわかります。凄く良い演出です。
>差出人住所をメモ帳に控えて、封書の方は元の郵便受けに戻しておいた。
何気に中里が強かだと言う事が判明します。それに、内気そうに見えるのに会いに行ってしまう程母に飢えていると言う事もわかります。ここも感情移入ポイントですね。
●出逢う前5
・この回は今まで三人称だったのにいきなり一人称になっていて、かなり違和感がありました。統一した方が無難です。
・榊、小林、岩田など、今後出てくることのないキャラクターに名前を与える必要はありません。
物語には主役、モブ、エキストラという役割があり、一瞬しか出ないエキストラにあたるキャラは名前や容姿の説明等はいりません、読者にとって無駄な情報になるからです(文献より)。
・ちょっと残酷な言い方ですが、ここは物語の主軸(二人の恋愛)や、物語の伏線もないので、丸々カットして大丈夫な回となります。
二人がとうとう出会うぞ、と言う盛り上げる為の演出だとすれば、そもそも出会う前のシーン自体は既に十分なので……どちらにせよ要らない事となります。
●出逢う前6
ここも丸々5と同じ指摘になります。
ですが仮に、この時点で事故に遭う事をほのめかす描写をいれておくと(前回の主人公と違い夜まで記載がない、など)、5にも意味が出てくるので、そこでようやく5と6の存在意義が出てきます。
そしてそれなら意味深で不気味な伏線を張る事に成功するので、読者の興味をひく事も出来たと思います。
●出逢う前7
・同じ指摘になりますが、エキストラに名前が付いているので「女子四人」だけで問題ありません。モブくらいのキャラなのかと読者が勘違いしてしまうので。
同様に、順番を譲るおばあさんもエキストラなので「ありがとう」と台詞を与えるのは勿体ありません。にっこりわらってお辞儀をした、と地の文に書くだけの方がスマートで読者の視点もぶれません(細かいですが、一応……)。
・そう言えばどういう経緯で中里が事故に遭ったのかが明確にされていなかったので、それは整合性の為にも描かれなくてはならないシーンだと思いました。それに絡めたドラマチックなシーンも用意できると思ったので。
・ここで起承転結の「起」が終わります。ちょっとカットした方が良いように思う所は明記しましたが、次にすぐヒロインと出会うので分かり易くキリのよい終わり方だと思いました。
●出逢い1
>ちょっと顔を赤らめペコリと一礼して傍らを通り過ぎる。
やっぱり可愛い女の子の表現をさりげなく挟むの上手いですね。一文だけ引用しましたが、このシーンだけでももっといっぱいあります。
一つ一つは書きませんが、出逢いのシーンは褒める場所しかない文句なしのシーンですね。目的に沿って物語が進行しているのを感じます。
●出逢い2
微笑ましいシーンが続きます。
>「一緒に行こうか?おれ ──あ、もし良ければ、だけど……」
普通ならこんな出会い頭で不自然だと言う所ですが、それを感じさせないくらい違和感がありません。たったこの短い行数でそう思わせられるのはかなり上手いと感じます。
二人の思考や行動が丁寧に描かれてきた賜物ですね。(この主人公ならそうするし、このヒロインなら受け入れるよな……と言う説得力がある)
>「何も買わないで出るのは、やっぱりよくないですから……」
良い子ですよね……。いい子キャラが好きと言う私を差し引いても、心が動かされる読者は多いと思います。
よく外見ばかりを細かく書く作者様がおられますが、もってぃさんはそうではなくちゃんと内面で引き込んでくるシーンが多く、ぐっときます。
●出逢い3
>「わたし、“なかざとひろえ”っていいます。──A組です」
もし同じクラスだったらバレてしまうので、先に聞いたり名前を言うのは不味いですね。中里は本当の自分は病院に居る(死にかけている?)と知っていてバレないように行動すると思うので、ちょっと不自然な気がします。
逆に主人公が先に自己紹介をして、名前を聞かれた時に言い難そうにするなどして伏線にすると良かったかもしれません。
>「いりませんか?」
やはり実は年上なだけあってちょっと会話をリードしていますね。やり取りが初々しくて良き。
>きゃーと、宏枝は赤くなって俯き、手のひらの上のタブレット菓子を慌てて口に放り込んだ。
可愛い(直球)。
●出逢い4
>ベルが鳴りドアが閉まったタイミングで、良樹のポケットで携帯が震えた。
超大正解のタイミングですね、これは。二人が出会い、親密になりつつ目的地へ。ちょっと落ち着いた所で……と言う、早すぎず遅すぎず、違和感のない絶妙なタイミングに思います。
今時の高校生がスマホじゃないのはちょっと不自然な気がしますが、それがどうでもいいくらいメールって言うのが何かいいですね。これがラインだと何の味もなくなってしまうので。
●出逢い5
>──そか……。思い出になるんだね……。
初見では何の伏線かなーと思って見ていましたが、二回目に見るとかなり切ない台詞だったことがわかります。
●出逢い6
>「今日は、いい思い出だけ、いっぱい作ろう」
ここがとても深い、めちゃくちゃ上手い言い回しになっています……!
何故なら、普通に考えたらちょっと変なんですね。いい思い出、いっぱい作ろう。が自然で「いい思い出だけ」と言うどこか含みのある言い方。
中里は自身がいなくなってしまうことを知っていたし、事故に遭った事を覚えている、それが「だけ」と言う言葉によって深層心理から現れている訳です。これは現国の授業で先生が線を引く所並みに深い表現です(わかりにくい)。
●出逢ってから1
>──たぶん……、これは“好き”になった、ってことなんだろーな。
重ね重ね言いますが、この説得力が凄いですね。恋愛物で「え、もう好きになっちゃったの?」みたいな不自然なシーンがあったりしますが、ここはすんなり受け入れられました。
既にメインの二人への感情移入も成功しているので、全く違和感なかったです。
>何でもいいから応えることで、彼女がどこかに隠してしまった表情をまた見せて欲しいと、そんな想いが先に立っていた。
主人公は自覚していませんが、彼女を応援したいと思うのは好意だけではなく、自分と似ている彼女を応援したい、と思っているのですね。
後に出てきますが「どこかに隠してしまった表情」は彼も持っているので、自分を救う意味でも助けたいと思う、絶妙な心理描写が入っています。
物語の25%くらいには何かのイベントが欲しいので、ここでお母さんに合わせてしまうと言うテンポもかなり良いと思いました。
●出逢ってから2
>良樹は、そんな笑みを知っている。
ここは彼女のぎこちない笑みをする理由に気付いてしまう事で寂しいと言う気持ちと、そんな笑みをさせてしまう自分に不甲斐なさを感じています。一気に二人分の心理描写はここでしてしまう訳ですね。
>宮崎くん……。こんなわたしに付き合ってくれてる……どうして
>君は、あんな風に他人と接することができるのに……。
自分の評価と他人の評価は違う物ですが主人公はそんな一般的な理由ではなく、自分と同じような境遇(親に問題があった)なのに、自分にはできない振る舞いをする彼女を尊敬している訳ですね。
中里の心情までは計れない故にここでは踏み込めませんが、とにかく力になりたいと考えている事は納得できます。
●出逢ってから3
・母と出会ってしまう訳ですが、入院中の娘が何故、と言う驚いた様子もなく、さも当然のように「宏枝なのね」と返すのは不自然……ですね。
入院中であるのに驚かない理由……としたらマチと何かコンタクトを取っていると考えるのが自然ですが、その理由はわかりませんし、描写もない。
舞台が京都なので、妖怪のせいにするもの悪くない気がしますので、そうするとマチの正体は妖怪の一種……みたいな設定を練って行くと舞台が京都でなければならない理由にも結び付けられますし、よりご都合主義を回避できるのかな、と妄想しました。
●出逢ってから4
ここでも手紙の内容は出てきませんが、後の台詞からするに
──いまになって宏枝を寄越すなんて、
とあるので、宏枝を寄越す様に言った訳ではないようです。
そして
「お金がいるのよ」
とあるので、恐らくはおばあさんに仕送りを頼む手紙だったのかな……等を想像させます。(宏枝に関係ないので、おばあさんが言わなかった理由にもなる)
>「弁護士を交えて話しましょうと、“あのひと”に伝えて」
「あのひと」が中里の父なのかおばあさんなのかは最後まで明らかになりませんが、とりあえず第三者の主人公が苛立つくらいに「せっかく娘が来たのに、汚いお金の話」ばかりをしている事は文面からわかります。
中里はそんな母に嫌気がさして飛び出していく訳ですね。
と言う訳でコンタクトは失敗に終わります。
今後お母さんにまつわるエピソードが出てこない訳ですが……
ここは中里の性格に影を落とした原因であり、物語の核と言っていいくらい内面の成長に大きく関わる所なので、このまま問題を未解決にして物語を終わらせるべきではありませんでした。
和解なり、精神的に完全に離別する等の変化を見せ、最後心から笑えるようになる、と言う成長を見せる方が説得力があったように思います。
(最後の成長する理由がまだ生きていたい事を実感すると言う理由なので、これまでの物語と関係なく、理由が弱く感じました)
●出逢ってから5
ここの「出逢ってから5」は全体を通してかなり丁寧に描かれている事がわかります。この状況で話しかけ難い主人公が、身の上話をしたいと思う過程と、それに至るまでの二人の心理描写。とても短いなかでまったく違和感がありません。
>「ごめんね……。嫌な想い、させちゃって……」
愚痴や泣き言ではなく、まず相手の心配をすると言う、本当にいい子なのだなと言う事が伺える台詞です。巧い。
>──優しい戸惑いと、ささくれ立った警戒の色……。
主人公が身の上話を始める際、ここも中里の性格と心理描写が良く表れています。話を受け入れる準備をしようとしつつも、「ささくれ」立つ「警戒」の色。言葉選びも秀逸。
そして、
>「だから中里の気持ちが解るとか、一緒に泣いてあげられるなんて、そんなふうには思ってない」
気持ちがわかるからこそ、これを肌で察してか、すぐにフォローに入る主人公。ゆっくり紐解くように話を再開します。この主人公だからこそ喋れない台詞なので、とても説得力があります。
●出逢ってから6
病院が否定したのに何故主人公が取り違いを確信しているのかは疑問が残りますが、めちゃくちゃ重い過去が語られます。
>「自分を出さない、何考えてるのかわからないヤツだって」
ここでしっかり主人公、そしてヒロインの内面のテーマがしっかり明記されます。ここは見逃せない一文にですね。
二人が悩んでいる部分でしたので、ここを最終的に解決する流れにすると良かったかもしれません。
●出逢ってから7
>同じだ……わたしと──
ここの心理描写も死ぬ程上手いですね……。同じ二人なのにもかかわらず、微妙に互いの評価が違っていた二人が、主人公が心情を吐露する事により実は完全に同じだったことに気付く。
今までお膳立てしてきた計算式にここで解を出した感じで、気持ちが良い。
>──自分の中にいる自分を信じてあげられないと。
実によい気付きを得られたわけですが、これはまだ目標が出来ただけで実践できていないと言う所がキモです。
これを達成する為にこれからの物語があるのですが、この後ファンタジーに重きが置かれてしまうので、勿体ない展開になってしまいました。
●出逢ってから8
物語にはシーン(イベント)とシークエル(そのイベントの後の心理描写)があります。シーン(お母さんと会う)、シークエル(二人の心情を語り合う)と終わったので、物語の目的が今の所有りません。(出来ればシークエルの終わりが伏線となり次のシーンに繋がるのが良いとされます)
ここで次の目的を二人に与えてあげられれば、軸がぶれずに読者が迷子にならなかったかもしれません。(18時までの「思い出作り」の中で何か事件などを起こして次の目的を設ける等)
●出逢ってから11
>「うさぎ?」ちょんと揺らして見せる。
あ、ここ……。何気ない伏線だったんですね。この何気ない動作を後に持っていくのは気付きませんでした。
●出逢ったから1
>目を伏せて、肩をすぼめるように、少しの間固まる彼女。それからこくりと小さく頷いた。
ここはただ照れているだけかと思いましたが、二回目以降に読むとこの頷いた表情は困った表情であるだろうと予測できます。この後、現時点での彼女の中では永遠のさようならを言う訳なので……。
●出逢ったから5
起承転結で言う「転」ですね。何となく不穏な雰囲気が続いていたのでこの展開が来て「なるほど」と言う感じです。
しかしお母さんのシーンが終わった後は目的もなく話が進んだので、外面では思い出つくりと言う役割がありつつも物語を進めるものがなかったので、ここまでの場面は全て中身のない話になってしまいます。微笑ましいだけに勿体ない。
●出逢った後に2
この辺りでお母さんからあばあさんに電話などがあるなどして、物語上放置されている問題を絡ませていきたいとこです。
そしてこのクライマックスから主人公を巻き込んで、唐突にファンタジーにはいってしまうので読者は恐らく混乱します。ファンタジーにする意味は本当にあったのかを考えると、ないような気もしますので……霊的な怪奇現象程度にとどめておく方が良かったかもしれません。
●出逢った後に3
>「まだ若いのになー……そんなに死んじゃいたい?」
主人公と会ってあんなに前向きになっていたのに、死んでも良いと考えているのは少し違和感があります。
・マチの行動理由が終始読者に知らされないので、中里を助けようとする事への説得力がないのと「このキャラはなんなんだ?」と言う疑問から物語に集中できない、という現象が起こります。
●出逢った後に5
主人公とタカムラの会話ですが、ここで主人公が内面的に成長する何かに気付く等、物語として意味がある展開があればよかったのですが、なかったのでここは物語のテンポも落ちるし、特に意味のないシーンになってしまいます。
>「呼べばいい──」
と言うのも、もうクライマックスなので出来れば主人公が自発的に行動して欲しい所です。
そして同じ指摘になってしまいますが、タカムラが「何故助言するのか」と言う行動に説得力が見出せませんでした。
●出逢った後に8
>ああ、やっぱり、美緒に似てるんだ……
ここのシーンは「主人公が心の支えになった」と言う事を言いたいはずです。
これだけ主人公について盛り上げて、最後の最後で美緒に似てると言ってしまうと、ここのシーンで一番言いたかったことは「主人公が美緒に似ている」事だと言う表現になってしまい、非常に違和感が残ります。
そして中里が生還する理由がいきなりすぎてご都合的に映るので、やはりこれまで描いてきた心理的な葛藤に絡めた方が納得のいく展開だと思いました。
●また逢えて
このパートは総論で書いた通り蛇足感がありますので、せめて主人公と中里のその後をチラっとだけ書いて終わる方がスマートだし、余韻が残ります。スピンオフにする話を本編に組み込む本はあまりありません。
●また逢えて5
>「あはは……なんかへんですね──。わたしの方がお姉さんだったなんて……」
やはり中里的には一年経ってなかったんですかね……でもそうすると観光の中で時系列がおかしい事に気付きそうですし、マチが一年越しに復活させた理由も定かではありません。
疑問の残る展開です。
●エピローグ
ここはタカムラとマチのエピソードですが、続き物じゃない為、読者は完全に意味不明のまま終わります。ミステリーのように物語の中に答えがあり、深く考えさせられる終わり方であればよいのですが、謎を放り投げるだけではモヤモヤが残るだけなので、読後感が良くありません。
せめて「また逢えて」の二人のハッピーエンドで終わるべきだと感じました。
各論は以上です。
――――――――――――――――
3、作品の強み(弱み)や個性だと思う所(主観多め)
・作品の強みはほとんど各論に書いてしまいましたが……とにかく感情移入のさせ方、心理描写がエグいです。
作者様が二人の物語を微笑ましく見ている……その様子を文章に起こしている印象でした。特に中里の少女漫画顔負けの一人称はそうそうかけるもんじゃないです。
・後半ファンタジーになってしまいましたが、中盤までは京アニ辺りがアニメ化しそうな雰囲気でした。
―――――――――――――――――――
以上です!
タイムパラドックス系と言うか、時間軸がずれるお話なので考察に不備があった素直に謝ります。熟読したつもりですが、私の読解力不足です……。
最後に申し上げますが、素人の分析や評価なので……気に食わない所があったら「高田はわかってないな……」くらいに思って頂けると助かります。
もってぃ様、素敵な作品をありがとうございました!
次の第回は、永遠❆氷食少女 様の「LOVERS‼」を拝見させて頂きます。
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