第16回 マグネティックマン / めがねびより 様

※企画内容にもあるようにこれは「分析→評価」の結果であり、決して作品を否定している訳ではないのでご了承ください。


「マグネティックマン」  めがねびより様

https://kakuyomu.jp/works/1177354054890605700


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1、物語の総論


●ターゲット


「二十代~三十代、戦後昭和の裏社会もの、ハードボイルドものが好きな男性」


 と判断します。中々ニッチです。

 舞台が昭和なので、少なくとも十代はターゲットじゃないと思いながら読み進めました。江戸、明治、大正などと違って昭和って元号はちょっと異質だと考えます。何故か昭和だけが「現代人の若者向け」ではない印象が高田にはあります。

 例えば江戸であれば時代劇や剣豪もの、明治であれば維新ものや文豪もの、大正はよくSFとかスチームパンクで使われる(これ何故なんですかね)。

 昭和も戦争などあって平成、令和とはだいぶ異なりますが、昭和生まれはまだ大量にご存命ですし、絶妙に時代が近いのでどこかファンタジー感が薄く、古臭さだけが目立ってしまうのかなと思います(個人的な分析)。どうしてもノスタルジーが出てしまうんです。

 事実、昭和が舞台のキャラクター小説って中々見なくないですか?あってもラブコメとかなので、現代でやればええやんってなってしまうんですね。


 あっ、誤解のないように明記しておくと「マグネティックマン」はその辺りを上手く利用できているので、昭和である必要がないみたいな根本的な問題は回避しています。「昭和が舞台の作品が見たい」みたいな企画があったら激推し出来るレベルです。

 ただ昭和と聞くとやはり十代は離れて行ってしまいそうな気がしましたし、下手すると二十代前半も寄ってこない……そう言う意味では勿体ないかな~とも思います。凄く完成度の高い作品なので。



●簡単な要約


「過去に因縁のある主人公が、自分を見つめ直す事を覚え、幸せや人生の意味を見つけていく物語」


 と要約させていただきます。

 舞台が昭和の横浜裏社会、そしてマグネティックマンと言う題名からは想像できないくらい王道の成長物語です。


 裏社会で生きてきた常識知らずで体も普通じゃない主人公ですが、好きな女の子の事や親と上手く行かない事など、普通の生活をする人と変わらない悩みを持っている。つまり思春期の子供の葛藤は普遍的なのだと言う事を気付かせてくれる物語でした。



●テーマ


「幸せ」


 色々メッセージがありましたが、何だかんだこんな感じかなと思います。

 三人が映画を見ているシーンで「自分の幸せは自分で見つける」と言っている所が特に印象的です、「あ、ここテーマだな」と直感的に感じました。事実主人公の行動理由はこの概念に根差していますし、ヴァイスも罪悪感などはありますが何だかんだレンの幸せを想って動いていました。


 面白いのは同じ理由で日常生活(幸せ)を破壊されたレンと蓮實が、全く逆の信念を持つと言う所です。と言う定石を見事に踏襲しています。



●物語の構造


・作者様は小説を書く上で基本的な構造は勉強なさっているとお見受けします。それくらい定石どおりに事が進み、読んでいて好感が持てました。

 そのため地の文や展開にほとんど無駄がなく、スルスルと読み進められます。


・細かい事は各論でも触れますが、掴みは完璧でした。めちゃくちゃ良かったです。ただ掴みが終わってから二章過ぎまではちょっと失速する印象を受けます。

 いや、失速するのが普通なのですが、巻き込まれそうで巻き込まれない展開が続いてしまい物語の主軸(ゴール)を示すのに時間がかかってしまった印象を受けます。動きは無くても良いのですが、緊張感に欠けました。

 この理由はすぐ後に記述します。


・作者様はキャラの登場のさせ方を心得ているので、出すべき時に出されています。場面の目的に沿っていないキャラは出てきません。つまり、物語の進行を無視してキャラ紹介の為だけに人物を出すと言う愚行を犯していません。今までの書評を鑑みても、結構多くの方がやりがちなんですよねこれ。

 そんな中、一つだけ気になった所があります。

 人物の役割は主役、モブ、エキストラとあるのですが、中でもエキストラは通りすがりの人物だったり、物語通して出てこない様なモブ以下のキャラです。

 それを踏まえた上で、新しくそこにキャラクターを登場させるべきか、名前を上げる程のキャラか、悩むべき所がいくつか見られました(龍神会の面々や中学の時の友達など)。

 ここの細かい所は各論でその都度触れます。


・中盤、ネックレス事件でレンが傷つき飛び出します。さらにこのタイミングで裏社会の敵(ラスボス)をぶつけてくるので、この展開は盛り上がる必須条件ですね。

 、面白くなります。物語では定石で、無理やり感もなく進行していました。エクセレント。


・ちょっと細かいのですが、終盤への緊張感を増す方法の一つとして、と言う技術があります。この作品では物語の中盤で蓮實の襲撃によりバケモノ具合を見せているので、これも完璧です。


・起承転結の「転」のあとは、物語が終わるまでノンストップで盛り上げていく事がベストです。これも成功していますね。本当にプロットの作り方にほぼ無駄がない。



〇物語の文法はモデルがいくつかあるですが、近況ノートのコメントにて「ヒーローズジャーニー」の例はご覧頂けたようなので、今回は「千の顔を持つ英雄(ジョーゼフ・キャンベル著)」にてマグネティックマンを見て行きたいと思います。

 と言うよりこの作品は正に「子供が大人になる話」なので、神話的側面を持つ「千の顔を持つ英雄」の方が参考になると思いました。


・冒険への召命……龍神会からの依頼(2章第10話)

・召命の辞退……シンプルにその依頼を断ります。足を洗いたいと。

・超自然的なるものの援助……非日常的な物と言う意味ですが、操の存在ですね。裏社会で生きてきたレンにとっては彼女の存在はとても眩しく、裏社会にとっては表社会が非日常です。援助とは違いますが、彼女の為に金を稼がないとな、と言う動機づけが得られます。上手いですね。

 ちなみにこの援助してくれる役割の人物は「庇護者」や「母性」の側面を持ちます。操は子供っぽいレンにとって母親のような役割を演じていたので、正に定石通りと言えます。

・最初の境界の越境……襲撃に成功します。

・鯨の胎内……主人公はどっぷり非日常に使っていきます。この作品で言うと我々表社会に触れて行く訳です。普通に働いたり、操の友人に会ったり……って感じです。


・試練への道……ここが物語で一番長い中心です。主人公の目的(物語のゴール)は定まっているので、その目的に向かい、敵に邪魔され、それを乗り越えた先にまた敵が、を繰り返してストーリーが進行して行きます。起承転結の「承」に当たる部分ですね。

・女神との遭遇……これは操なんですが、そもそも超自然なるものの「庇護者」として存在しているので、新キャラではないですね(ここで初めてヒロインと関わる物語も多いです)。この辺で映画館の話を挟んでもいいかもしれません。

・誘惑者としての女性……女神と主人公が結びつくところです。操は友達には辞めときなよ、と言われつつも「レンを信じる」と愛情を深めて行きます。

・父親との一体化……このタイミングでヴァイスの話になります。水無瀬との対談の後、仲直りします(プロット的には勝利の話や遊園地デートが若干長いかなと思いました)。

・神格化……父親を象徴的に殺します。それにより新しい自分の糸口を見つける展開です。一応レンはヴァイスの本当の過去を知り、死のうとしますね。このあとなし崩しに戦闘へ入って行くのでここではちょっと曖昧な感じですが、後にちゃんとこのことを踏まえて、新しい価値観を手に入れます(少年院に入る決意)。

・終局の報酬……なんとか強敵蓮實を倒し、裏社会との決着をつけます。やつはラスボスに相応しいしつこさでした。


・帰還の拒絶……レンはこのまま表社会に帰るのではなく、自首します。

・呪的逃走……一瞬ですが、ヴァイスが引き留めようとします。ここはちょっとこじつけ気味ですが。ヴァイスの意見にもうちょっと心が揺れたら、この項目が際立つのかなと思います(要らない気がするけど)。

・外界からの救出……帰還の拒絶を理由にするなら、本庄の役割かなと思います。表社会へ復帰する為の「お勤め」を提供してくれるわけなので。

・二つの世界の導師……非日常から日常へ導いてくれる最後のキャラクターです。言わずもがな操ですね。彼女がいたからこその少年院に入る事を決意で来たと言う事です。

・生きる自由……本編では描かれませんでしたが、出所すれば水無瀬の元で堅気として真っ当に仕事をし、操と暮らしていける本当の自由が手に入るでしょう。


 と言う訳で概ね当てはまっていました。

 一つだけ、これを参考にするとお分かりいただけると思うのですが、一番最初の「冒険への召命」が二章の冒頭となっています。ここで初めて物語の導線が引かれる為、恐らくここが少し前に書いた「勢いが落ちる」原因になります。掴みの後は二章に入るまで物語がどう転がって行くか、読者は予想できないのですね。

 プロット的には前後しますが、できればレンが日雇いに行く前にこの「召命」のエピソードを挟めるとPV数アップに繋がる(読者に逃げられる可能性が減る)のかな、と思いました。

 じゃあ具体的に「掴みの後から二章まで」の話をどこへ挟むかと言うと、「試練への道」の部分です。軽く動機づけをした後に龍神会との襲撃のイベントを仄めかし、日雇い、からの襲撃。そしてデートしたり操との絆を深めつつ、しかし上手く行かず……と言う展開の方がスムーズに流れる可能性は高いと考えます。




●主人公について見て行きます



・主人公には欠落(加害)があり、それを回復(逃避)する為に物語が進んでいきます。さらに欠落には外面上の物と内面上の物があります。


 レンの欠落は、


外面→堅気として生きて行きたい

内面→操と暮らしていきたい(化け物である自分を受け入れてもらいたい)


 こんな感じかなと思います。

 ヴァイスも気づく事ですが、足を洗いたいと考えているのは化け物扱いされる事の苦痛や、悪事を働く罪悪感、そしてそんな自分を受け入れてくれそうな操と一緒に暮らしたいからですね。

 内面の葛藤がストーリー上の行動理由になっているので、とても説得力がありました。


 最終的に目的の達成、不達成が描かれる訳ですが、詳細には書かれずとも恐らくは望みの未来を手に入れる事が出来たのかなと思います。

 蛇足感は出てしまいますが、極短いエピローグ(原稿用紙一枚くらい)で出所後の二人を遠くから知らせると言う選択肢もありますね(ここは趣味の問題)。

 個人的には本作品のようなビターエンドの方が好きです。


・レンはどことなく「モブサイコ100」の主人公を思わせる、凄く応援したくなる青年でした。

 彼はヴァイスとの親の心子知らず展開、21話のお金に関する勝利とのやりとり、水無瀬の会話、本庄に殴られ叱られる……など、レンは大人たちから色々な価値観を聞いて、素直に受け止め、考え、成長して行きます。

 最初は素直に受け止めるだけ、という状態から最終的に自分で考え、答えを出せるようになる。キャラの成長的には百点満点でエレガントでした。とても丁寧です。

 ただし中盤でほぼその悟りに至ってしまうので、ちょっと早いかなと思います。もうちょっと悩ませて悩ませて、終盤で(できれば蓮實を倒した後、蓮實の台詞か何かで最終的な気付きを得る)ようやくその新しい価値観に至る方がカタルシスもでかいかな~と思いました。



●敵について


・敵は外面上のものと、内面上の物がいます。これは別々だったり、一緒だったりします。


 レンの場合は

外面→堅気として生きて行きたい

内面→操と暮らしていきたい(化け物である自分を受け入れてもらいたい)


 なので、外面上の敵はヴァイスや龍神会。内面上の敵はそれに加えて自分の体や過去(犯罪歴)ってそんな所でしょうか。まとめると出生と金欠ですね。

 堅気として行きたい→金がないと言う壁を乗り越える為に最初はストーリーが進行し、その中で操と暮らしていきたいと言う目的も阻害され、最終的に内面の問題も乗り越えていくと言う進行でした。外面も内面も同じような敵なので分かりやすかったです。


 ヴァイスは敵と言っても愛情故なので、とても説得力のある強力な壁となっています。彼も中々の闇を抱えていそうですが、これはレンの物語なので、変にヴァイスの葛藤を描かない事も非常にグッドな点でした。


・蓮實の役割も中々良かったです。

 設定的に完全にレンの影なので、一歩間違えばレンもそうなってしまう危うさを示していました。ちなみに、それを留めたのは操ですね。

 対する蓮實は操のような存在はおらず(居たのかもしれない)復讐に支配され、レンと同じような生い立ちでありながら徹底的に欲望へ突き進む。ある意味可哀想な奴です。

 ですがそこに魅力があるんですね。圧倒的な悪役はカリスマがあります。何気に私は蓮實が一番好きなキャラクターでした。初登場時の「やべーやつ」感は半端じゃなかった。サイコパス!



●各キャラクターの役割


ヴァイス……支援者、賢者

操……支援者

勝利……贈与者

本庄……支援者、(警官なのである意味敵対者)

蓮實……敵対者


 重要人物だけに端折りました。

 支援者は主人公支援する者、贈与者は贈与物を送る者、賢者は物々交換で何かを授けてくれるものです。

 ヴァイスは親代わりなので支援者でありつつ、仕事を与えてくれる代わりに金を一部渡す(物々交換)。

 操はほぼ無償で支援してくれます。

 勝利は仕事仲間で自分を助手として、さらに後半は住まいも贈与してくれます。彼も面倒見が良くて三枚目的な立ち位置なので、キャラが立っていると思います。

 本庄は犯罪がバレれば敵だし、蓮實から守ってくれる正義の見方でもありますね。これ、面白い設定。敵であり支援者って役割は結構難しいと思います。

 蓮實はレンよりも長く生きて人生経験があるので、敵対者以外の役割を与えてあげても良かったかもしれません(敵であり、賢者みたいな)。



●主人公は日常から非日常へ行く事により物語がスタートします。


 ちょっと話が被りますが、レンにとっては堅気の世界が非日常です。操に関わっていく事で非日常へ冒険して行きます。

 非日常では主人公に行動の制限があったりしますが、レンの場合は左腕を隠す事ですね。ないよりは全然良いなのですが、制限がちょっと甘いかもしれません。左腕が義手だとバレた瞬間決定的に何かが終わる、くらいの試練があっても良いかも(当然なくてもいい)。


 最終的に日常に戻ってきて、目的を達成する為に何を失ったのかが描かれます。

 将来的には堅気として行きていくこと、操と暮らしていく事を獲得しました。その代わりに少年院でお勤めすると言う代償を支払いました。

 磁力を扱う能力や幻肢痛を失っても良かったかな~と思いますが、これはこれで釣り合っているかなと思います。犯罪歴を放置する事もなく回収するラストも気持ち良いです。



●その他


・作者様のやりたい事を詰め込み過ぎた感じがちょっとありました。

 ラブコメ、ダークヒーロー、ハードボイルド、裏社会物。それぞれが均等に盛り上がればよかったが、些か中途半端に映ってしまいました。せめてメインにやりたい事を据えて、サブ的に他の事をやると言う方法を採用しても良いかも。


・前半部分ですが、裏社会に追われると言うよりどうやって一人で生きていくかの方が困難としては強く描かれているので、「ダークヒーローもの」のエンタメ寄りと言うよりかは「一人の少年が自立する」、どちらかと言うと純文学的なテーマが強い傾向に映りました。

 題名やキャッチコピー、あらすじ的には「アクション」を推していると思うので、内容との差異がちょっと気になる所です(それが悪いと言っている訳ではない)。

 中盤以降は蓮實が台頭しだすので、裏社会の側面が強くなります。ここからは完全にアクションですね。





総論は以上になります!



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2、各論


●1話


>桜木町から根岸へ向かう路面電車


 地域感ある書き出し、良い!路面電車って言うのも浪漫がある。移ろう物って何故かこう、粋な物として映りますよね。機械も民族も。


>「これで最後……」


 この意味深な台詞から、レンの異様な格好の描写。興味深い主人公が出て来て、何かしらの任務に向かうっぽい事を知らせ、そして異質な存在を示しつつサクっと終わらせる。今後が気になるので掴みは大成功。読者に「お、何が起こるんだ?」と興味をひかせるのに無駄のない流れです。


>今日は行きの電車賃しか持って来ていなかったため、スッカラカンだと。


 この時点で金欠や、この先お金に困る事が伏線的に示されていますね。

 冒頭から主人公は何か悩んでいる様子で、逃避型の主人公と言う事が分かっています。さらに皆に怯えられる挙句、金もない。踏んだり蹴ったりで非常に良い始まり方だと思います。


>「まったく、オーパの奴。いつまでも子ども扱いして……」


 ここで主人公は大人になろうとしている→成長しようとしている、と言う分かりやすい主人公象が示されます。冒頭でこれだけの導線が引けるのは読者に優しいですね。


・この辺りで鈴木、佐久間、木島、と出てきますが彼らに名前がいるかどうかは微妙な所だと思います。この後出てくる勝利は重要なモブですが、この三人はエキストラ寄りのモブです。鈴木、アニキ(佐久間)、オヤジor社長(木島)の方が覚えやすいし、混乱も防げるかなと思いました。

 そもそも鈴木と佐久間の役割は合体できるような気もします。


>金庫の前にたどり着くと、傍にいるチンピラたちすら存在しないかのように、右手をポケットから出すと、金庫の中身をレインコートの内側へ放り込み始めた。


 大胆過ぎるw

 ですがこれは、とても良い演出です。いきなり襲撃などせず、あえて普通に振る舞う事で「取るに足らない相手」だと読者に感じさせることができます。さらにレンの「やる気のなさ」も分かります。


>スバル360


 てんとう虫とは渋いチョイス!

 このあとのリンカーンのくだりなど、作者様の車好きが伺えます。余談ですが私も結構好きで、昔は友達のシルビアとか借りて乗ってました(どうでもいい)。

 車の話は物語の主軸と関係ないのでやりすぎると贅肉になりますが、これくらいなら雰囲気を作る小道具になって丁度良いですね。


●2話


 カーチェイスがハラハラドキドキですね。

 物語最初から逃亡のシーンで緊張感があり、追われている理由も明確なので集中できます。クレーンの所は最後蓮實を倒す時の伏線にもなっているので、無駄がなくてスマートに感じます。

 ここは言う事なしです。


●3話


・操の登場回ですね。ヒロイン等、主人公の大切な物を冒頭に示せておけると、その存在が危機にさらされる事を読者は予感します。カーチェイスで完璧な掴みを終わらせた後、早い段階で出すのは得策に思います。

 そして読者にレンが恋している事を伝え、早々に場面を切り替える。シーンの目的以外の事を書かない、とてもテンポが良い書き方です。


>レンは活気ある店先でのやり取りを端っこに佇んで眺め、じっと待っていた。


 外見も相まって、ちょっと危ない奴に見えるw 知り合いじゃなかったら確実に警戒されますね。



・この回ではまだレンがヴァイスの言いなりであることが示されます。反攻する姿勢を見せますが、折檻を受けて黙ってしまう。この段階では「子供」なのです。厳選されて物語が展開されていく事が伺えます。



●4話


・ここで再び操の登場なので、もしかしたらこの回で初登場させる展開でも良いかもしれませんね。場面展開は出来るだけ少ない方が良いかもしれない。もちろん、この作品の通り3話で操をチラ見させる展開も悪くないです。



>『お? 色気づいたのか操ちゃん! 隅に置けないねぇ』


 作者様がよく採用している表現方法ですが、これいいですね~。

 新しいキャラクターや、誰かが会話に突然入り込んでくるとき『』を使用しています。これは誰が喋っているか分かりやすいので、読者に対し親切だと思いました。このやり方パクってもいいですか?(嘘です)


・この後レンと操の馴れ初めが地の文で説明されてしまいますが、モロに「ザ・説明!」って感じなのでもうちょっとよさげな示し方を模索した方が良いかもしれません。ここだけダイジェスト感が前面に出るので、ちょっと違和感ありでした。

 詳細な説明は要らないと思うので、軽い会話のキャッチボールで馴れ初めの概要を知れるだけで読者合は満足できると思います。



●5話


・4話で本庄を登場させ、5話につなげる、巧い手ですね。この辺が、私がキャラ紹介の為だけにキャラを出していないと言った理由です。


>茂ちゃんと呼ばれた交通課の刑事


 ここもエキストラの時と同じ指摘になります。彼はもう出てこないので「交通課の刑事」だけで良いですね。



>「困りましたねぇ。こんな軟弱だとは。そうは思いませんか? 鈴本君」


 いいですね~このサイコ具合。「主人公に迫る脅威」って感じがビンビン伝わります。


・この時点で重要人物が出そろいますね。物語に出てくるキャラや設定などは前半の25%の内に出す事が良いとされているので、この条件もクリアです。


●6話


 レンはここで無理やり反攻に出ます。操がきっかけですね。裏社会と操と、同ストーリーが進行するのかが示されました。


>強力な磁力発生装置によって、レンは30メートル程先からじりじりと引っ張られていく。


 この辺も最終決戦の伏線ですね。初見ではここは必要な場面かなと思う所も、ほぼ全てが伏線になっている事に驚きました。よく練られていますね~。



●7話、8話


>「ダメだ! 俺、料理苦手だ!」レンは頭を抱えた。


 この辺のレンが可愛らしいですねw見ていて面白かったです。


 7、8回は通して日雇いの話ですが、まだ物語が完全に進みだしていないので、物語の主軸としては脱線が多いかなと感じます。この二回だけかなりスピード感が失われ、若干の「何を見せられているんだろう」感が出てしまいました。

 恐らくここの場面の目的は金を稼ぐ事を経験させる、金の価値を知る、後に日雇いを妨害される事で襲撃に参加させる動機づけ、ラストバトルへの伏線、この辺りが重要であとは別の場面でも紹介できるので(レンがドイツ語喋れるとか)、そこに限定してささっと済ませる方が良い気がします。



>和子、寿美子、照代


 この友人達も三人登場させる必要性を感じませんでした。照代一人でも物語上支障がないので、後の二人はどうしても蛇足感が否めません。

 もし三人出すのであれば、物語上友達が三人居なければならない理由を発生させなければなりません。


>ウエスタンだか、ロカビリーだか知らねえが。そんな不良な恰好じゃ、操に近付けさせねぇぞ!」


 ロカビリーが不良と言う価値観に時代を感じざるを得ないw

 今じゃお洒落に取り入れられたりしてますよね。時代は巡り巡って来るものですな。


●9話


・この辺で物語が動き出しそうな予兆を感じるので、巧くこの辺をもう少し先に出しておきたい気がします。やっぱり日雇いの前かな~って感じがします。物語の導線が引ける為、関係ない話が多少あっても退屈さを感じません。


・明が出てきますが、ここもエキストラの条件と同じ指摘です。


>「えー!!」


 鈴木も中々に不憫キャラですねw



●10話


・ここで更に新開と言う映画監督のような名前の男が出てきます(関係ない)。さすがに物語にあまり関わりのないチンピラのキャラが多すぎる気がしました。

 少なくとも明と新開は同一人物で良いと思います。

 と言うより、このシーンは鈴木一人でも成立するので新開は余計なキャラだと考えます。



●11話


>「おいボウズ! どうした?」

>声のした方を向くと、昨日のジョージさんに似た歯抜けの中高年男性。


 ここの数行のくだりはカットしても物語上問題ないので、要らないと思います。仮にどうしても書きたいのであれば、ジョージに似た、ではなくジョージで良いでしょう。エキストラとは言え出来るだけキャラクターは削った方が全体的に美しく映ります。

 さらに言ってしまうとこの後操に慰められるシーンも要らないかな……。この前にわざわざデートのシーンを挟んでいるので、決意の揺らがない動機は既に得られています(しかもこの後すぐにまたお店のシーンです)。

 描写が少なすぎる不安があるかもしれませんが、要らないシーンを挟む方がデメリット大きいです。この二つの場面を削るだけで大分テンポは良くなると思われます。


●12話


>「オーパ!」レンが叫んだ。「半分寄こせ」


 もう完全に反抗期ですね。初々しい少年の感じが見ていて心地よいです。


>勝利は馴れ馴れしく、レンの肩に腕を廻した。


 そこそこ重要なキャラ、勝利が出てきます。ここで更にいきなり新キャラを出すとちょっと不自然なので、一番最初にリンカーンを進めてきたキャラと同じ、と言う風に冒頭を伏線的に使えると良いかもしれません。ぽっと出感がなくなります。


●13話


 ・襲撃のシーンですね。蓮實の時と軽く対比になっている気がします。レンは普通に鎮圧しますが、蓮實はこれでもかと言うくらい破壊的。こういう所は重要ですね。

 戦闘シーンは無駄がなく、そして何よりも「わかりやすい」と言う完璧な出来だと思います。目が滑る事無くアクションシーンを魅せられるのは凄い。


>レンは用心棒の仕立ての良いスーツとスタイルの良さを見て、「キマってるなぁ」と感心し、日曜のデートに来ていく服をどこで手に入れようかと目の前の事から意識が離れた。


 のん気かw



●14話


・服装に関して中々詳細な情報が出てきます。作者様のこだわりの部分とお見受けします。

>結局、ジャケットの他に、ハンチング、ワイシャツ、革靴、ネクタイ、財布などを店員に言われるがままに買わされたレンなのであった。


 そしてレンは流れるようにカモにされると言うw(お金あるから問題ないけど!)


>女子に素気無く対応され勝利は心臓にヒビが入る音がしたような気がした。


 勝利ほんといいキャラだよなぁ。レンとはまた違った癒し要素があって好きです。


・後半の大金に引かれるところは重要な伏線なので、成金になってからすぐに示せたことは得策に思いました。


●15話


>いつもオーパが、朝はご飯と御御御付に決まっとる! とか言ってたから」


 あんたほんとにドイツ人か!?笑


>「私は、節子さんが自分幸せは自分で見つけるってカッコイイなって」


 総論でも触れましたが、ここは重要な所に思えます。これを聞いたレンがちょっと反応を見せる、なんて言うシーンがあっても面白いのかなと思いました。


●16話


>蓮實は、闇カジノの残骸の中から18金で出来た長方形の断片を拾い上げた。


 伏線回収ですね。この伏線がなくても蓮實なら気付きそうですが、この発見でレンの存在が確実なものとなりました。



●17話、18話


言う事は特になしです。19話で拗らせる為の伏線が積み上げられていきますね。


●19話、20話


・物語的にヴァイスが良い試練を与えてくれます。これによってレンの内面の葛藤がより深いものになり、物語を盛り上げていきます。

 正直な所ここまでちょっとばかり緊張感が足りない(盛り上げが足りない)気がしたので、これまでの主人公への困難がもしかしたら足りないのかも、と考えます。


・物語の中盤で物語の主軸に関わるイベントが起こるので、タイミングが良いと思います。出来れば物語の中で大きな事件が均等に三つくらいはあると丁度良く山があって読者が退屈する事を防げます。



●21話


>「お前が、話すよりなんぼもマシだよ! ちゃんと誤解といて仲直りさせてやるから任せとけ!」


 勝利、いいやつですね~。チンピラにしとくのは勿体ない。


・ここで上手い事レンと蓮實を鉢合わせるのは面白い展開です。テンポよく見せられていると思います。

 この辺りからはラストまでスピード感もあって、凄く読みやすいです。


●22話


・気になったのは戦闘シーンで結構擬音を使用されるのですが、これについては賛否両論あります。個人的にはわかりやすい表現方法の一つとしてありだと思っていますが、どうしても安っぽい感じが出てしまいます。

 安っぽさを防ぐのであれば一話に一回くらいが違和感ないでしょうか。多用するのはちょっと疑問です……シリアス作品なので(でもこれは趣味の問題です)。


 あと、今更ですが毎回引きを作って終わらせていますね。読者を飽きさせない工夫を感じられます。


●23、24話


・初めての強敵!って感じで緊張感が心地よいです。


>運河に落ちた蓮實の捜索は、翌日には台風の接近もあり、2日後に行われた。


 ちょっと台風がいきなりすぎるので、これより少し前に「台風が近づいている」旨を読者に知らせる必要があります。ニュースでちらっと流れたり、勝利から聞く、と言う簡単な方法で大丈夫です。ご都合展開を防げます。



>「俺の左腕はいったい何処へ?」


 これも旨い手ですね!物理的にも、抽象的にも何か主人公にとって大きな戦いがあったあとは体に変化が起こる展開が定石です(失恋したら髪を切るとか、修行の成果に消えない傷を負う等)。

 後に出てきますが、レンにとっては左腕は過去の象徴であり、皮肉にもアイデンティティでもあります。後々左腕を受け入れる事で過去の自分を受け入れる事が出来る訳ですね。

 その為に一時的に失くし、その事を強く意識するキッカケになる訳です。ここは素晴らしい、凄くグっとくる粋な演出!


●25、26話


・束の間の、偽りの幸せって感じです。主人公が新しい価値観に目覚める為に一時的に逃避行動に入る物語はとても多いですが、この作品もここで似たような展開になっています。定石通り!


>「腕が無い方が、襲う意味だって無いよ」


 ここがちょっと気になります。

 蓮實は「血筋を絶やす!」と豪語していたので、腕がなくても普通に襲われる気がするのですが……どうなんでしょう。



>「やっぱバカじゃん! って、わ! 物を投げつけるな!」

>「お前よりマシだよ。勝利!」

>「野郎! 仕返しだ!!」


 いつの間にか兄弟みたいな関係になっていて微笑ましいですね。最初出て来た時は他のチンピラと同じモブだと思っていたので、ここまで愛嬌が出るとは思いませんでした。


>「いや。理想はみんな平等は良い事だけど、ソ連を見ても、組織内での権力闘争から独裁に至る人間本来の醜さが有るかぎり、それは無理だろうとオーパが言ってました」

>「ほう。君のお爺さんはリアリストなんだね」

>「ユダヤ人なので、スターリンが嫌いなだけです」


 レンがインテリっぽい事を言っていますが、自分の意見と言うよりかはヴァイスの受け売りなので客観的な意見ですね。天然で阿保っぽいイメージのギャップがあるようでないのが巧い所だと思いました(記憶力は凄いけど)。



●27話


・超重要な回です。作中一番大事だと言っても過言ではない気がします。


>――いったい俺は、誰のために、何のために生きているのか?


 自分の幸せは自分で掴み取る、と同じくらいレンのテーマですね。考えるまでもなく操と言う答えが導き出されるので、違和感ありません。



>「レン! 我が息子よ!!」

>「こんな爺の父親イヤだよオーパ……」


 高田は家族ものに弱いせいか、ちょっとだけほろりと来てしまいました。レンがひたすら良い子です。ヴァイスはクズですが子供の育て方は上手いようですねw



>『大変だ! 赤レンガ倉庫で大規模な爆発が有ったみたいです』


 反抗期の子供が父(的存在)と和解したところで、その父へ危機が!と言うこれも定石の展開です。

 さらに、物語の長さ的にこの辺が起承転結の「転」なので、「お、わかってるな~」って感じで読み進めました。恐らく作者様は意識してこのタイミングでこのイベントを起こしたのだろうなと予測します。

 「転」からはラストまでノンストップで行くのが理想的とされますが、正にそう言う展開になっていました。テンポ良しです。



●28話


>「接合手術をすれば、奴でも使うことが出来る。奴は見張っていたのじゃ、ワシがお前に腕を付ける手術をするところを」


 ここで気になったのは、流れ的に蓮實が自分で手術をすると言う事ですが、片手で出来るものなんでしょうか。それにその設備や、技術を保持している事にちょっとご都合的な印象を受けます。



●29話


>レン君、君を殺すのは止めにしたよ。もう、私にとって脅威じゃないからね。その代わり、私と組まないか?」


 元々はレンの父親を相当に恨んでいて、血筋を絶やすと言っていたので……最初の殺意を考えると、仲間に引き込もうとするのは違和感が残ります。それとも言葉の綾、冗談でしょうか。いや、それにしては描写が本気過ぎるしな……。

 ちょっと違和感が残ります。


●30、31、32、33話


・この辺りの逃走劇はターミネーター2を思わせるしつこさで、ハラハラしました。ラストに持ってこいの強敵です。

 激戦が続くので、構造的にはあまり言う事はありません。長さも丁度いいと思います。


>「ハマの警察なめんじゃねぇぞ!」


 本庄、元ヤン疑惑w


>「あー! 俺のスーパーカブ!!」


 いいですね~勝利。緩急をつける意味で凄い扱いやすいキャラ。



●34、35話


 クライマックスの後は極力短く終わるのが良いとされます。

 この二話で後日談をさっとやって終わるので潔く、好感が持てました。殆ど無駄もなかったように思います。





各論は以上になります!


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3、作品の強み(弱み)や個性だと思う所(主観多め)、及び雑談。


・完成度はとても高いです。webあるあるですが、クオリティとPV数が結びつかない代表的な作品かと思われます。

 伸びない理由は恐らく……時代背景、題材、題名、が大きいのかな。ですがそれが良い!って人も必ずいるので、何を間違っているとかそう言う所はないと考えます。


・そう言えばマグネットマンではなく、マグネティックマンなのですね。英語のニュアンス的には大分変わるように思えるのですが、何か意図的なものでしょうか。

 それとは関係なしに、マグネットマンだと「ロックマン」に出てくるから……とか?


――――――――――――――――――


 以上です!


 最後に再び申し上げますが、気に食わない所があったら「高田はわかってないな……」くらいに思って頂けると助かります。もしくはコメントにてご指摘下さい。



 めがねびより様、素敵な作品をありがとうございました!





 次の第回は、wagasi様の「彼岸橋」を拝見させて頂きます。

 

 

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