第1回 こちら異世界ウィルス堂 烏川 ハル 様
※イベント内容にもあるようにこれは「分析→評価」の結果であり、決して作品を否定している訳ではないのでご了承ください。
「こちら異世界ウィルス堂」 烏川 ハル 様
https://kakuyomu.jp/works/1177354054889343434
1、物語の総論
●最初に読んだ所感として、ターゲットは「知識を増やす事に喜びを見出す人」だと感じました。
当イベントでは文献にあるプロットの骨組みやシーン、物語の構成、合理性、キャラクターなどを元に評価を行うので、的外れな評価になるかもしれません。その辺りはご容赦ください……。
・簡単な要約。
「希望の就職が出来なかった主人公がウィルス堂にて奮闘する」
実際は奮闘まで行ってないのですが、行動を起こすきっかけを与えるならこうしたプロットにした方が物語が生まれやすいと思いました。
・恐らく主人公は上流階級で、中流かそれ以下に落ちて来た訳なので、もう少し成り上がり感じを出せるとメリハリが出たかもしれません。
・文字数が比較的少ないので現在の行動原理になる過去を描写する時間はないのですが、暗喩か一言あると主人公に深みが出るかなと思いました。(主人公は所謂医者になろうとしているので、過去に助けられなかった人が居たとか)
行動原理がないので物語の軸になるキャラの目的が存在しない→目的がないとゴールが生まれない→そのためドラマも生まれない、となります(悪い意味じゃありません)。
(例ですが、この物語だったら主人公は夢を諦めきれないまま嫌々働きつつ、店主や仲間(ルビーなど)と苦難を乗り越え(街にウィルスが蔓延するとか)、最終的にずっと相入れなかった店主と和解。功績を称えられ夢だった医療士の就職が引手数多だが、ウィルスの勉強や店主や仲間と一緒に居たいと思い、それを拒否して店に残る。くらいが定石になるでしょうか)
ですが、この作品の主軸は知識、雰囲気や世界観を楽しむ作品としての側面を視野に入れて読み進めました。
そして、それは合っていると感じました。知識を食べる教科書的ニッチな作品。正直一般向けではないですが、好きな人はハマると思います。
ただし、作者様が「もっと読者を物語に引き込みながら読ませたい」と感じているのであれば、起承転結(または序破急)は意識した方がいいかもしれません(人は物語の方が頭に入って来るらしいので)。
・上記の通りキャラクターやストーリーを楽しませると言うより、知的欲求を満たす作品に感じたので、転生要素はいらないかもしれません。(例えば隣の大陸のめちゃくちゃ凄くてめちゃくちゃ変人の学者、と言う方が世界観的にしっくりきます)
物語はドミノ倒し(前の情報が次の展開に関係しなければならない)になっていないといけないらしいので(文献より)、転生者である事のメリットが見受けられませんでした。
この物語の舞台(異世界)事体がこちらと同じ知識レベルで二人に語らせた方が途切れなく(遺伝子ってわかるか?等)すんなりいったかと思われます(何か特別な信念があって書かれていたらすいません……)
・キャラクターが淡々と会話を繰り返すだけでは読者は飽きてしまう可能性が高い(特に説明系は)ので、何かについてキャラクターを語らせる場合、必ず動きがなければなりません。(文献より)(例えばコーヒーを飲む仕草とか、公園を歩きながら話させる等)
核となるウィルス談義の時、キャラクターに目立った動きがなかった為、興味のない読者はブラウザバックしてしまう可能性が高いなと感じました(去る者追わず、なら勿論問題なしです)。
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2、各論
●プロローグ
掴みがちょっと弱いかもしれません。
参考書籍には「消しても問題がない場合、そのプロローグは要らない」と書かれています。
この時点ではタイトルにひかれてウィルスなど物語の世界観に興味がある読者が多い可能性が高いので、主人公らしき女の子も気になりますが、先生が空を見上げた時に「今日は絶好のウィルス日和だな」的な意味深な事を付け加えておくとより後の展開を読もうと言う気になる気がします。
●1話
主人公は目指す道(医療士)があるが、思い通りにいかない(就職先がない)。
フリーター(冒険者)になりたくないので(動機付け)、(仕方なく)向かう。
ここは説得力があります。
(どうでもいい余談。進めやすいストーリーだけを考えるのであれば医療士に絶対なりたい!→なれない→逆境に抗いつつなれる道を見つける→その道をまた潰される→また違う道をみつける→また潰される……的な流れが定石かな思いました)
>『庶民』ということなのでしょう
わざわざ『』で協調していますので、この時点で魔法学院は貧乏では入れない、そして主人公はそこそこの裕福層で育ちが良いと判断します(物腰の柔らかい雰囲気や「王都」と言う単語からしても)。
この世界ではわからないですが裕福層が中流辺りに就職するのは普通不服と考えるだろうし、主人公は目標を妥協してきた訳なので、もうちょっと嫌々に思いながら行くとドラマ感(現実味?)が出るかもしれません。(でも作品の雰囲気的にそこまでリアルな描写はいらないのかもしれない)
この時点で主人公のキャラクターはまだわからないので、「前向きで明るく、逆境に強い子」や「簡単に妥協しちゃう子」などの印象を与えると思いました。
ただどこか庶民を見下す態度があるので、もしかしたら高飛車な所もあるのかな、と読者に想像させる気がします。
一話「だけ」ではそんなイメージですが、その前にプロローグがあるので恐らくは「良い子」なのだろうと予想出来ます。(よくある定石ではこの後、やはり主人公はお嬢様的に浮世離れしていて、見下していた町の住人に対し屈辱的な扱いを受ける、等の試練があると思います)
●2話
・主人公が入店した時、
「店は昼からのつもりだったんだが……」
と店主は言っていますが、開店していなかったら扉は閉まっているのでは?と気になりました(冒険者が居るし、前話でゴロツキと言う言葉もあり、治安の良し悪しに関わらず悪党はいるらしいので戸締りはするかな、と。お店だとお金もあるから余計に……)。
ただしずぼらなキャラクターと言う事が想像できる(服装等)ので、鍵をかけ忘れたのだろう、もしくはこの街は治安が良いのだろう、と解釈します。
(余談ですが、扉が閉まっていて「あれ、開いてない……?」からの、何度もノックして「あのっ、すみません!」で、のそっと怠そうに店主が出てくる感じでも雰囲気あるかなと思いました)
・「ん? お嬢ちゃん、それはメモ書きのようだが……。ここへ来るための地図みたいだな? だったら、もう用済み、ただのゴミか。俺に捨てさせよう、って魂胆かい?」
ここは少し、喋らせ過ぎな気もします。根拠は、参考文献では「語るな魅せろ」が基本で、キャラクターには出来るだけ喋らせない方が美しい、とありました。
地図、と言われれば「あぁ、見ていたメモか」と読者は勘付くので、前半は入れなくても大丈夫な気がしました。
(これはどうでもいいですけど、先生のキャラ的に「お嬢ちゃん、こりゃ珍しい紹介分だな」とかニヤリとする返しをしてきそうだなと感じました)
●3話
・「いや、名乗る必要はない――」
主人公が大して反応を見せないので、多分柔らかい口調で言ったのだと判断します。
ですが字面だけ追うと「バッサリと遮りました」とあるのでちょっとドライな印象を受けます。
前話で慌てる主人公に対し笑顔で落ち着かせてくれた事を考えると、行動にチグハグ感を覚える演出に見えました(でもこの時点では判断しきれない)。
仮に少しでもびっくりしているのであれば(この辺りで従順な印象も受けるので、上司に対して何も言えなかったと言うのはあるのかもしれませんが)せっかくの一人称なのでもう少しリアクションがあるのが自然かなと思いました(私が意図しない受け止め方をしていたら聞き流してください)。
・その『ウイルス』というのが、
と言う分から主人公は無菌操作もウィルスにも明るくないようでしたので、二つ続けて聞いた時に無菌操作だけを地の文で出してしまうと「ウィルスは知っている」もしくは「ウィルスは世界的には常識」と言う印象を与える気がしました。
無菌操作、ウィルス。と同時に出してしまう方が自然だと感じました(細かすぎる気がしますが、一応……)。
●4、5話
・ポイント稼ぎに躍起になる主人公ちゃん。恐らく魔法学院では優秀な人が多く、競争が激しかったのだろうと予想出来ます。希望の就職が決まらなかったと言う事は、超エリートではなし、コネがある程有力な家と言う訳ではないのでしょう。少し親近感が沸く背景です。
・揚げ足を取る感じになってしまうのですが……無菌箱に手を突っ込む場合、まず手を消毒しないのかな、と思いました(素人意見ですし、割とどうでもいい)。
滅菌の場合除菌や殺菌と違ってほぼ全ての菌を殺す訳ですが、人体にとって無害な菌も殺す場合解毒魔法が効くのかどうか、と言う細かい所が気になってしまいました。(魔法、で片付くのでほとんどの人は気にしないと思いますが……)
・ファンタジー物と思わせつつ、ここで転生者と言う新しい設定が出てきますね。
設定の良し悪しはさておき、参考文献では(起承転結の場合)物語に三つ転機があると書かれています。これが第一の転機であれば三話くらい早いですが「物語を飽きさせずに読ませたい!」と言う作者様の熱を(勝手に)感じたので、個人的にはこれで良いと思いました。
ただし最初に書いた通り全部読んだ後だと、この設定は要らないと感じます。
●6話
転生者はたくさんいるのか現時点ではわかりませんが、規模は分からないものの王都(首都)に居た魔法学院の主人公が驚くと言う事は、転生者の特殊技能「人間離れした超能力」は重宝されそうな気がしました(王都に歓迎されるとか)。
バレてない、としたら迂闊にバレるような発言はしないし、特別扱いされるのが嫌らしい人物なので、もしかしたら拒否したのかな、と。
死ぬ前はポスドクとかで自分のやりたい研究ができなかったから、一人で没頭したいのかもしれない……だとしたら真っ直ぐなキャラクターだなぁ、と言う所まで想像しました(後半は主観)。
町に居る理由がさりげなく語られたら良かったかもしれません(特殊なウィルスがこの街に居るとか)。
●8話
・この辺で、この物語の方向性とが見えて来た(確定した)ように思うと思います。(ざっくり分類すると「魔法を現代の科学で表現する」系統のお話、でしょうか)
この知的な雰囲気をここまで取っておくのは勿体ない気がします(プロローグや序盤では予想出来ないイメージなので)
理由は参考文献だと天地人に関する事が根拠で、世界観や人物、舞台を早めに知らせておく方が良いと書かれています。(このジャンルが好きな人が最初から寄って来る、もしくはここに来るまで離れない)。
●9話
この辺りまでで、主人公がほぼ活躍していません。世界観を説明するモブ的役割なので、もう少し主体性(物語に積極的に関わる感じ)が欲しいと感じます。
理由は既に起承転結の「起」が終わっている(終わろうとしている)ので、この辺りで物語が結末に向かって転がり始めるような展開が欲しいな、と思いました(参考文献より)
そろそろ、各キャラクターが何処に向かおうとしているのかが欲しくなります(物語が動く動機)。せめて店主である先生が主人公に何かしらの無理難題を課す等の試練があれば、物語の方向性が見えるので読者が迷子になりません。
●11話
・物語の本筋に関係ないのですが、前話の「生きているとはどういうことか」の答えが書かれていないので(ウィルスを扱っているので場合によってはこの作品のテーマかな?とさえ思いました)その答えは先生の口から聞きたいな、と感じました。
→12話で語られる生物の定義、と言う事で決着がついているなら忘れて下さい。
・この辺りから本格的にウィルス談義(定義の説明)に入って行くので、ストーリーやプロット的な分析は少なくなります。
●15話
>転生者の特殊技能に関する話で『冒険者のステータスに関わる遺伝子をウイルスに組み込んだり』というセリフ、ありましたからね。あそこで私が「ん?」という態度を示さなかった時点で、遺伝子という言葉が普通に使えること、わかって欲しかったです
こ れも、ちょっと説明的すぎるかもしれません。「さっきも言ってたじゃないですかっ」くらいが自然で、スマートのような気がします。
●16話
>「……その免疫効果を利用した治療法が、ワクチンの投与ですね。病原性の低い病原体とか、病原体の一部――それだけなら発症しない――とかを投与することで、免疫効果を高めよう、って理屈です」
生ワクチンと不活ワクチンの違いはどう見分けているのか、気になりました。そんなこと言いだしたらウィルスの種類とかバクテリアでも形質転換できるとか(二十一話で出てきましたね)キリがないので、細かい事かもしれませんが……。
●18話
お客さんが来るタイミング(イベントが発生するタイミング)がちょっと遅く思います(既に物語後半なので)。
これまで話をして来た間に挟むなりするともっと物語に抑揚が付くと思いました。(序盤から終盤まで何もなかったので、具体的には中盤くらい)
各場面(シーン)には目的を設定する必要があり、それを無駄なく終わらせることが求められます。(例えばマフィアの麻薬取引のシーンなら、麻薬取引が「目的」なので終わったらマフィアはさっさと捌けるはずで、そこでお喋り等するのはいらないリアクションな訳です(それが伏線になるなら別))
●19話
・ウィルスの次は蛋白質の半減期のお話ですね。このまま新キャラクターのルビーが居なくなるのはもったいないのですが……「何のために出て来たのか」と言う疑問が残ります。物語の性質上、無駄なキャラクターは統合するか、減らす(文献より)らしいので、今後出番がない場合主人公が担うべき役割だったかもしれません。
・ルビーがはいはいと言う形で話を止める場合、タイミングが遅く感じます。喋り出してから数秒くらいが自然でしょうか。「読者に情報を教える為だけのキャラ」に見えてしまうのは作者の意図が見えてしまいます(文献より)。
●21話
・再びお客さんですね。もう一つイベントを用意しているのであれば、やはりウィルス談義の途中に入れ込んだほうが良いように思います。
しかもトラブルを呼びそうなお客さんなので、物語的にはかなり美味しい展開です。
店主や主人公はどうなってしまうのだろう……と思わせるキャラクターなので、序盤に登場すると(主人公が来てすぐ)刺激があって良かったと思います。
●25話
・これまでなかった情報が出てきました。詠唱、精霊、魔法の属性。の三つです。
実はこれは……やってはいけない行為だったりするのです。
物語に関する情報(世界観、設定、キャラ、道具、その他諸々)は作品が始まって、全体25%までにすべて出し切る方が無難とされています(文献より)。世界観を既に確定している読者が「えっ、こんな設定あったの?」と混乱してしまうからです。
なので、できればもっと序盤に出すか、もしくは伏線にならない場合この設定自体を省いて良いと思われます。
●26話
・前話同様、先生のこの能力も伏線があれば全く問題ないのですが……終盤でいきなり出すのは基本的には御法度になります。
デウスエクスマキナと言う展開であり、狙ってやらない限り物語でやってはいけない事の一つらしいのです(かみ砕いて言うと、読者の知らなかった情報で物語を片付けてはいけない……ミステリーを例にするのであれば、最後に判明する犯人が作中で一度も登場していない、などです)
●27話
・物語的には先生が熱意をもって後継者を探している(これも事前に知らせるか暗喩したい情報です)ように思えたので、その説得力のある理由が必要になると思います(過去に何かあったとか?)。
余談ですが、主人公以外にもっと前から募集はしているはずなので、していないにしろ、その説明が必要に思われます。
各論は以上になります。
―――――――――――――――――――――
3、作品の強み(弱み)や個性だと思う所(主観多め)及びまとめ
・とにかく設定が面白いです。
回復魔法は体内の病原菌も元気にしてしまう。(8話)等、ウィルスが題材なだけあって発想が希少、切り口が斬新。
掘り下げればWEB小説前線で戦える設定だと感じます。
ご存知の方も多いと思いますが、ストーリーもキャラクターも、異質なもの同士を掛け合わせると人は興味を惹かれるらしいです。
(例えばストーリーでよくあるのがJK×〇〇。キャラクターだったら極道×〇〇)
そしてこの作品もその使い方が巧みです。異世界物は絞りつくされた感がありますが掛け合わせるものが「ウィルス」となるとあまり聞かないので「おっ、なんだろう」と思うのではないでしょうか。
(軽く調べましたところ、異世界とウィルスが関わるのは数件しかない(多分))
・戦略的にPC読者ではなくスマホ読者を意識しているのか、一話一話が短くサクっと読みやすく(大体千文字)、スキマ時間に読もうと言う人も多くなると思います。
最近はスマホの方が見ている人が多い(※)みたいなので、吉と出る戦略だと思いました。
※参考文献↓(なろうの記事です)
https://ncode.syosetu.com/n3630fb/7/
・その他細かい所や主観的な事
・よくある事ですが、冒険者をフリーターと言うのは面白いですね。逆にこの世界のフリーターを冒険者と呼んでもいいかもしれない。(一話)
・前話通して女の子が所作が可愛い。
あれが、今日から私が働くお店です!(一話)
顔の前で小さく手を振りました。(二話)
私はブンブンと首を縦に振りました(九話)
返事をしながら私は、シャキンと背筋を伸ばしていました(十話)
甘いお菓子を思い浮かべて、少し頬が緩んだ私の前で。(十一話)
作者様は女性の可愛らしい仕草を頭で想像して、文に起こすのがとても巧みです。元気で可愛らしい女の子が、力いっぱい動いている姿を想像させます。頭撫でたくなる。
・ですます調は純文学感出ますが、柔らかい印象を与えるのでこの作品的に正解だと思いました。普通の一人称だともう少しシリアスな印象になっていたと思うので、説明が多いこの作品には向かなかったかもしれません(それはそれで味があるかもしれない)
――――――――――――――――
以上です!
個人的に生物の話(作中ではウィルスは生き物ではない立場ですが)は好きなので、楽しく読ませていただきました。
何度も申し上げますが、素人の分析や評価なので……気に食わない所があったら「高田はわかってないな……」くらいに思って頂けると助かります。
烏川ハル様、素敵な作品をありがとうございました!
次の第二回は、音乃様の【色眼ノ使命】―《黒幕》を探し出せ、《赤眼》に狩られる前に―を拝見させて頂きます。
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