第20回 ヨゾラとひとつの空ゆけば / 帆多 丁様 後編
続きです!
―――――――――――――――――
●第8歩
>「河が……下に見える……!」
うん、可愛い(直球)。ヨゾラの可愛さは無垢な子供に通づる物がありますね。
>背後から、炭を積んだ荷馬車がガラガラ、ポクポクと追い抜いていく。
物語の中でどうしても説明をしなければならない時は登場人物を動かしたり何かしらの描写があると良いとされます。そうじゃないと読者は設定資料集を読み進めるのと変わらないので退屈します。
ここでは説明の最中地の文でティータイムを挟んでいますが、これがただの地の文じゃない所が注目。たったこの一行で空気感が表現されています。恐らく「炭」「荷馬車」と言う名詞選びと擬音の使い方が巧みなのかなと判断します。台詞が多い分あえて地の文を減らしているのであればとても考えられているなと思いました。
>そういうのを『不思議なもの』って呼ぶんだ
少し前に専門用語云々の話をしましたが、この形容しようのない存在(幽霊?妖怪?魔物?)をあえて身近な呼称をすることに対して称賛を送ります。ここで無理やり言語化して造語にしてしまうと世界観が壊れてしまうような気がしました。もしかしたら作者様は専門用語は考えたものの、しっくりこないのでこっちの呼び方を採用したのかもしれません(どうでしょうか?)。
>「そしたら、アルルもその『フシギなもの』だ」
ただの会話の一辺ですが、な~んか伏線っぽいんだよなぁ……。
と言うよりまだ謎だらけで何よりこういう雰囲気ですので、全ての者が伏線に見えてしまう病にかかっている。そして恐らくそれが作者様の狙いなのだろう……。
>魔法使いの登録証
60歩ではまだ出てきませんでしたが、大きな国の中のお話なのですかね。その国が発行している物……もしくは魔法使い協会みたいなものがあってそこが出しているとか。
逆にこの登録証明を持っていない魔法使いは所属するよう勧告、処罰されるとかあるんでしょうか。妄想が膨らみます。
●第9歩~12歩
総論で言った展開の不備の話ですが、実は二か所「ヨゾゆけ」でちょっと不味いと思う展開があります。
その一つがここの連続4話分です。
この指摘、この短い間くらいええやん!って思われるかもしれませんが「ヨゾゆけ」の完成度が高い故に細かい所まで突っ込みたくなった次第です。高田もどうでもいい作品にここまで意見したりしません。愛情故で悪意はないです(前置きが長い)。
この9~12歩まで(アルルがドゥトーの所に着くいてから襲撃事件が起こるまで)一時的に物語が迷走します。と言うのは、主人公が目的を持っていないのでお話の着地点がなくなる→ストーリーが進まなくなる為に迷走します。
読む人は「何故これを見せられているんだ?」と言う印象を抱く可能性があります。この後からさらに面白くなっていくのにここで逃げられたら悔しいじゃないですか。
ここは仮でも良いので物語の導線を引いてから食事に行かせる、または夫人が街に居る事がわかれば後のお話(60歩までに限る)に影響ないのでそれ以外はがっつりカットする、などするとテンポよく進んだかもしれません。
・あと余談的に、全体的に含み(伏線)を持たせる場面がかなり(ほんとに!)多く見られますが、一応普通の物語ですとこれは伏線でない限り贅肉扱いになる可能性があります。ので、多分全部伏線なんだと思います。それはそれで凄すぎ、伏線の魔術師。
少し前の指摘と重複しますがその事へのデメリットをお伝えします。聞いたことのない単語は「なんだろう?」と言う好奇心の反面、多すぎると「なにそれ?また?」と思われる危険性も孕みます。
伏線っぽいシーンは今後ずっと覚えておかなければいけません。多ければ多い程回収時の面白さが爆上げですが、多用は物語への集中力を削ぐ要因にもなります。つまり諸刃のソード。
一応迷走した9歩~12歩だけでもいくつか例を挙げておきますので、御参考までに。
・9歩
「ドゥトーって、名誉称号? だったっけ?」→多分「500年前の~」の伏線かな。王国関係。まぁこれはあっても……。
・10歩
お茶を冷ますくだり。もしもしの由来。恐らく二つとも重要っぽい伏線ですが、色々と一章に詰め込み過ぎな気もします(つまりここでなくても良いシーン)。
・11歩
ドゥトー「ちょっとお客さんとお昼に出てくるよ。ギデは午後から舟だったな、お疲れさん」→登場人物は出来るだけ少なくする方がスマートで分かりやすくなります。ギデさんが物語の進行上絶対に必要かと言われると……誰かと統合できなくもない。
アルル「猫の使い魔を連れてる魔法使いには会った事あるぞ」→後々出てくるのでしょうが、そのキャラが出てくる直前の方が定石と言うか、グっとくる演出になります。このままだと読者は忘れてそのキャラがいきなり出てきたような印象になります(予言)。
・12歩
アルル「なぜかひどく酔っぱらうんですよ」→伏線じゃなければ要らない設定。
「あいかわらずだのー」「暇さえあれば描いてますよ」(ベブルの話)→名前だけですが一章には出てこないキャラなのでこれも脱線気味かもしれない。導線が引かれていない分、この辺は今後の説明の様で若干退屈に映りました。
「このあたりの土地神さまは?」「ファヤ様だの」→ここも同様です。伏線でなければ要らないし、伏線なら導線を引いた後の方が良い。
「穴の目」の話→同様の指摘です。ウーウィーの逸話がありますが、採用しなくても良いような……。
他の意味ありげな伏線はせめて章が終わる60歩までに回収した方が無難です(重ねて言いますが伏線でない場合ゴールがわからない間は贅肉になる可能性)。
何故なら数十万字前からの伏線をすべて回収して「この小説すげえええ!」っとなる頃には読者が一人もいない……と言う非常に残酷で勿体ない結果が待っているかもしれないからです。
一応明記しておくとこの辺の指摘は物語の構造だけを抜き取った合理的な結果です。雰囲気作りなどは若干無視された評価ですので絶対に正しい訳ではありません……。
ちなみに次の不味いと思う展開も言いたい指摘は同じです。出て来た時にまた書きますね。
・かなり余談ですが11歩の
>そうヨゾラが思った時、遠くから、どーーん、と長く低い音が響いた。同時に部屋に戻ってきたドゥトーは一言
>「お昼だの」
>と、あごヒゲをしごいた
ここについて物語の構造とは関係ない、校正的なちょっとだけ個人的な見解。
二回目は「どーーん」が何を意味しているかわかるし、初見でも少し後に大砲の事と分かるのですがちょっとしたアシスト(軽い説明)がない為なんの脈絡もないちょっとわかりにくい文章だった記憶があります。書き方の個性と言えば終わりなんですが、次に大砲の事が出て来た時にここの事を全く覚えていませんでした(もちろん人による)。
と言う感じの印象を覚えるシーンが何度かあったので、もしかしたら「ヨゾゆけ」では伏線を先行しすぎて読者が覚えていないパターンがいくつかあるかもしれません(完全な主観)。
ちょっと勿体なく感じますが、この意味不明な感じもスパイスの一つなのでどちらが良いとかは言えません……趣味の問題かも。一読者の意見って事で頭の隅にでも置いておいてもらえれば。
●第13歩
・ここでハラハラ展開が起きますね。絵にかいたような下衆マダム(言い方)が立ちはだかります。
ヨゾラの過去もちょっと知れて嬉しい反面、危険が迫って見るのが怖い。と言うかそんなにファー夫人の描写がないのに見終わった後はふとましくて厚化粧でめっちゃでかい宝石付けてるおばさんのイメージでした。想像力を掻き立てる文章。
>「美しいわぁ。はやく大きくならないかしら」
ヨゾラが元々小さいのか、年齢的に子供なのか、ファー夫人の知識がないのかわかりませんが、恐らくはヨゾラは体躯が小さい模様。可愛い。猫は正義。
>この近くに犬の気配はしないが、この女の近くにはいたくない
犬が居たらバレていたかと思うと、恐ろしや。
>鼻の曲がった男が忌々しそうにこちらを見下ろしている。目があった。直後、足が飛んできた。
>痛い!
はい極刑!(魔力を吸い込む音)。
いや、実際だったら魔力溜める間も惜しんで飛び掛かってるな……。
●第14歩
・全員のキャラが立ち、息をするのも忘れて一気に読んだ回でした。小さい猫と男三人が戦うってシチュエーションだけでもハラハラするし、ヨゾラが怒る動機が熱いし、ピンチに主人公が駆け付けるし……間違いなく神回でした。
>「ピファに手を出すな!」
気弱だが芯は真のウーウィー、ここで彼を好きになった読者も多いはず(私含め)。これだけの気概があれば後に出てくるハルも使い魔になれて本望でしょう。
>うめき声や「顔はやめとけよ」と言う声がする。
ボディーにしな(古典)。
>箱の男が短剣を握り直すのが見えた。
>「前足からだ、クソ猫」
お前の二次創作書いて酷い目に遭わせてやろうか(何その復讐)。
>アルルが喉を押す魔法を強めた。首を折るんじゃないかという力だった。
>「わかったかと訊いている」
それじゃ喋れませんよアルルさんw いや、分かってやってたのか……?笑
描写はされていませんでしたが、三人が必死に首を縦に振っている絵が思い浮かんでかなりスカっとしました。
・と言う訳でこの辺りでプロットポイント1(インサイティングシンシデント)が起こると妥当な訳ですが、正にこれがそうですね。この事件をきっかけにアルルとヨゾラは殺人事件に関わって行く訳です。
●第15歩
・前から言おうと思っていましたが、魔法を使うと塩が必要になると言うのが面白い設定ですね。
一気に汗をかくくらいの運動量が消費され、特に塩(ミネラル)が必要になる。恐らく脱水症状や熱中症みたいな症状になるみたいですが、そこから考察するに相当体温が上がる→代謝を上げて何かしているのでしょう。一瞬でフラフラになっているので、塩を考慮すると血液を消費しているのかもしれません。こう言う考察は楽しい。
・「とっておきの翼」「名前を付ける所からおかしい(しかも傍点つき)」などここも伏線満載です。別に皮肉とか悪い意味ではなく、「ヨゾゆけ」を細部まで見逃さないように本腰入れて楽しむ場合、シンプルにメモ用紙が必要です(現に私は伏線っぽい箇所をメモしながら読んでいる)。
●第16歩
>「アルル」
>「なんだよ」
>「おこってるの?」
> アルルは黒猫を見た。表情は、読み取れない。
>「いや……怒っては、いない」
>「なら、いいけど」
>ヨゾラは短くこたえた。
喧嘩中のカップルかな?
しかもこの「短くこたえた」って言う地の文でヨゾラは「いいけど」と思っていない事が伝わる感じ、素晴らしい。
>これは、どっちだ。俺の気持ちか、それとも、何かこの黒猫の能力なのか。
ちなみに寄生虫のせいで鼠が猫を怖がらなくなる事がありますが、それが人間にも寄生して猫好きになるとか言う都市伝説を聞いたことがあります。アルルはその寄生虫にかかったんでしょうか(違う)。
と言う冗談は置いておいて、これはかなり良いシーンですね。本当はだいじなものなのに疑いの目を向ける、定石の葛藤です。シークエル中なのでいきなり感もない。
>「また、後で」
鞄に詰めながらアルルが言うと……最初の話を思い出して感慨深い。何度も読みたくなるあの第一話。
●第17歩~第27歩
ここはちょっと厳しめの評価かもしれない。
前に書いた不味い部分のもう一か所はこの部分です。上記した通り、指摘内容は同じ「主人公の目的がない」と言う事です。
厳密には街そのものや街の人たちに愛着を持たせたり一章が終わるまでの伏線を張ったりキャラクターは動いているのですが、肝心のお話が動いていません。
普通の成長物語なら致命的なのですが、「ヨゾゆけ」はちょっと趣向が違うのでこれが絶対に良くないとは言えないのが難しい所です。
ですがこの辺のデメリットは前記した通りで、まとめると「テンポが悪く、退屈に見えがち」と言う事です。目的がない→敵がいないので葛藤がない→ドラマが生まれない、と言う結果に。
でもこういう普通の日常がニーズになる事も事実。後は作者様の信念や見る人の趣味に依存します。一応私は参考文献をもとに、ここを評価していくつもりです。
一応、シーンは目的に合わせて書く必要があります。例えば麻薬取引を見せたいところではそれを読者に見せてさっさと終わるのが鉄則です。その時にすぐに切り上げず物語とあまり関係のないお喋りをしたりするのは読者の混乱や退屈を招くのでスマートではないとされます。重複しますが伏線も多すぎるのはただ意味不明でエレガントに映らない可能性があります。
一応「各話の目的(60歩をゴールとするざっくりとした場面の目的)」かなと思う所をリストアップしてみました。ちなみに雰囲気つくりや世界観紹介(前半25%で終わらせておくことが理想)、一章の本筋以外(60歩以降)の伏線は進行上の目的にはなりません。
・17歩
ファー夫人と会う
・18歩
なし
・19歩
お囃子の音色の効果を仄めかす。銃声を聞かせる。
・20歩
ここは全部必要。
・21歩
ヤミモリの説明をする(出来ればここでヤミヌシの伏線を張る)。
・22歩
ゴーガンの息子の話をする。温泉は見せる(硫黄が伏線なので)。
・23歩
灯り屋の話を知らせる。ここは超重要なので場所が悪い気がしました。彼は重要人物ですし、彼の過去は読者に「これから何かあるぞ」と思わせられるインパクトがあるので、出来れば街に入ってすぐ(まだ導線が生きているドゥトーと会う前)に彼と邂逅させる方が迷走を避けられると考えます。
・24歩
ここは60歩までの話には関係ありませんが、わかりやすい明かな主軸の謎に関することなので知らせる。
・25歩
フィジコの説明は必要ですが、この場面でする話ではない気がします(プロットポイント1より前)。
・26歩、27歩
なし。微笑ましい日常のシーンですが、中盤で数千文字使ってする話ではないかな……(冒頭で言った通り、雰囲気を楽しむだけなら疑似的に旅をしているみたいで最高)
・あとは各話のヨゾラのナワバリに関する話や猫じゃない等の本筋に関わりそうな小話。
残酷な物言いですが今書いた目的以外は全部贅肉と判断します(もしくはプロットポイント1が過ぎた後にする話ではない)。こう見るとやはりキャラを目的なく動かすにはちょっと長すぎるかなと感じました(全部で約2万8千文字)。
二人の微笑ましいやりとりやヨゾラが可愛いシーンは全部入れるべきですが、唐突に発生するのではなく物語のティータイム的に入れたり次のシーンの伏線を兼ねて挟むとキャラの魅せ方も変わってきます(ちなみに中々上手く設けられている)。
・25歩
>「お前は、フィジコの事は知ってたよな?」
>「うん。ずーっと前に見せてもらったことあるよ。光と、熱と、力と、音だっけ?」
そういえばこの魔法の呼称の由来ですが、
魔法はラテン語の形容詞でマギカ→マジコ
科学は英語でケミカル→ケーミカ
光、熱、力、振動→物理→フィシス→フィジコ
であってますでしょうか。フィジコの方がより科学(人工的)に近い感じがしますね。今の所アルルしか使えない(ヨゾラもフィジコかな)珍しい魔法なのでこれも伏線っぽい。
●第29歩
・28歩の終盤から再び物語が動き出します。定石では中盤でまたプロットポイントが必要ですが、まさにこの真ん中付近で起こります(プロットポイント1に関する事なのでこれもクリア)。
で、ここから導線が引かれてどんどん王道展開になっていきます。ていうかここからが盛り上がりのメインとすると、今言った17歩~27歩の間が非常に勿体なく思います。ちなみに総論で中途半端と言ったのはこの辺が関わってます。
これからの展開→エンタメものの定石展開
9歩~12歩、17歩~27歩→日常物、ロードムービー、遍歴物語には持ってこいの話
この二つが一緒になっていると言う事は水と油を一緒にしているようなものでめっっっちゃ勿体ないんです!両方良質な書き方をしているから余計に!
例えば同じスタジアムで前半は野球、後半はサッカーをやり、観客は野球にしか興味ない人とサッカーにしか興味ない人を集めるようなものです(伝われ)。提供するエンタメを一貫出来ていないと言うか、魅せ方の偏りがあると言うか……。カレーと刺身をぐちゃぐちゃにまぜて一緒に食べる感じです。両方美味しいけど別々に食べた方が美味しいじゃないですか!(伝われ!)
これを解決するにはやはり見せるシーンの順番かなと思います。あとアルルの動機づけ。
>あのとき、殺さなかったからか。
この短い一文で色々なアルルの感情が読み取れます。そもそも殺す気はなかったけど、その判断が自分の身近な人間を傷つけてしまったと言う後悔、無力感、自分の甘さに対する憤り……。
すぐ自分の所為にする所がアルルは根っからのいいやつだなと感じます。同時に感情移入も促せる、本当に良い一文です。
>俺に、命令するな……!」
なりふり構わず感情をむき出しにするシーンは大好物です。普段感情豊かじゃないキャラなら尚更。血が通っているのをひしひしと感じました。
●30歩
>「あれは、儂が古い研究から作ったもう一つの体でな。遠隔身体というものだ」
詰まるところ分身ですよね。ストーリーの中で関わる話が最終的な謎に関わるのは物語の定石ですが、もしこれが隠喩として伏線となるならやっぱりアルルとヨゾラは分s……おや、誰か来たようだ。
>「登録証持ちの魔法使い」には、それぞれ「作品」と呼ばれる魔法がある。
と言う事はアルルの作品は、いやヨゾラの作品……おい、誰だお前なにをするやめあwせdrftgyふじこlp
>男声とも女声とも取れる、無防備な部分にするりと入り込んでくる蠱惑的な声だった。
ラガルトがyoutubeでASMRをやったら100万登録余裕ですねこれは……。
●第31歩
ここは大して指摘するべきところはないのですが、個人的な感想として……魔法陣に関する理論がめっちゃ良い。理系の高田としてはその世界特有の筋が通っている科学理論ほど目がギンギンになる事はないです。これは感想なので本筋に関係あるかないかは別として、こういうのは大好物でした。
●第32歩
>「そういうのが、少し、少しだけな。怖いんだよ。お前が、俺を操ってるんじゃないかって気分になる」
恐らく含みのある裏設定だとは思うのですが、それは置いておいてここの台詞は深い、深すぎる、深海。抽象度を上げれば自由意志の問題とかにも広げられる非常に興味深い文。結局は「納得」の問題なんだろうけど、現在のアルルの心情や今後の絆を試される様な緊張感さえ予想させます。
>「わたしも、ヨゾラになったばかりなんだ」
今のアルルの会話から続くヨゾラの台詞です。やり取りがエモ散らかしているのでここだけで読書感想文書けそう。
作者様が狙ってやっているかは推し量れませんがヨゾラが言葉をしっかりと知らない(思い出せない?)設定がもどかしさを増長させる効果を持っていますね。伝えたくても伝えられない。
さらに対比として、言葉を知っているからと言ってアルルも自分の気持ちを上手く伝えられている訳ではないので「言葉なんて飾り」と言うメッセージを感じます。恐らくは魂レベルの繋がりがある二人を隠喩しているような気もします(深読みすぎ)。
●第33歩
・この辺からラストまでの導線が確実に引かれましたね。まだ半分ありますが主軸に関係ない事は出来るだけ避けながら進むとスマートで、読者も離れにくいです。
>やだって言えるんじゃないか。
ヨゾラのアルルに対する評価ですが、中々意味深です。確かに、と思う反面表面通りの意味ではない事も示唆されています。一章のテーマである「勇気」と関係しているのかもしれません。
●第34歩
>「へーっくしゅん!」
>ヨゾラが今日で何度目かのくしゃみをした
可愛い。
ちなみに現実の猫は「プシっ!」みたいなくしゃみをするんですよね(どうでもいいリアルめくら)。
●第35歩
・ここで存在だけ仄めかされていたユニオーが出てきますね。中盤辺りでラスボスのヤバさを見せる(そして一度主人公はこてんぱんにされる)のが定石ですが、彼の人間性は知らせているので近いような効果を出せています。
欲を言えばアルルはこれまでせっかく多くの街の人に会って来たのでその都度ユニオーの悪い噂を聞く、と言うシーンを挟めると彼のキャラを引き立てる&何でもない日常回も目的をもつシーンに変わり贅肉化の回避が出来ると考えます。
>やはりぞっとしない。
これは校正の話なので企画内容の範囲外なのですが、何度かこの表現を目にします故、気になったので少しだけ……。
前後の文面からすると「恐ろしい、怖い」的な意味に取れるのですが、本来の意味は「面白くない」的な意味合いです。ここで使われるのも変ではないのですが、何だか違和感が残ったのでちょっと尋ねてみました(多分どっちの意味でも大丈夫と思われる)。
私の読み取り違いだったら申し訳ないです。
●第36歩
>他の人たちは何事もなかったかのように歩き出したり、話を続けたりしていた。
空砲後の街の人の反応です。生活感が滲み出ている個人的に凄く好きな一文。たったこれだけで街のエキストラ達に血が通ったような気がしました。同時に外国人が日本人の地震のビビらなさに驚く、と言う話も思い出します。笑
・ここからの話の引き込み方が圧巻でした。共感を呼ぶ方法にキャラクターが可哀想な目に遭うと言う技法があるのですが、それをフル活用されています(被害に遭った女の子と灯り屋の話)。
●第37歩
>ヨゾラが膝に飛び乗ってきて、アルルは我に帰った。なにをするのかと見ていたら、頭をアルルの腹のあたりにすり付けてくる。
初見では可愛さに気を取られて気付きませんでしたが、これは気を使ってくれているだけではないですね。無意識か否か、恐らくですが撃たれた部分をすりすりしてるんでしょう。「直感」とあるし。
>「猫の身体も、ってお前の身体はひとつしかないじゃないか」
伏線かな、多分……。
●第39歩
・表舞台では催し、裏では事件が動いていると言う定石が描かれています。お祭りの裏で誘拐、過去の殺人事件。ここでピファと言う役割が明らかになります、アルル達は裏にいるので、表舞台に関わっている人間が必要なんですね。日常と非日常のコントラスト、ストーリーの陰陽構図が素晴らしい。
●第40歩
>「すまん嬢ちゃん、しょっぱいのは苦手だったか」
腎臓に負担がかかるので猫にしょっぱいものは御法度だぞドゥトーよ(猫じゃないらしいが)。
>今は、少し違う。ムダで、ひどいと思う。ドゥトーの身体がめちゃくちゃになったのを見た時の気持ちは忘れられそうにない。
細やかですがキャラクターの変化が垣間見える良シーンです。急すぎず説得力があり、感情移入もしやすい。
●第42歩
>「死者が火葬にされないと、稀に周囲の魔力から生まれる事がある」
ちょっと細かい事ですが、この設定が些か唐突なので軽い伏線が必要に思います。物語に出てくる設定やキャラ、小道具などは前半の25%までにすべて出しておくのが理想とされますので、街に入った辺りでアルルがヨゾラにこんな事を語っておく……程度で大丈夫です。簡単に「あとで幽霊が出るんだな」と読者に知らせて置けばご都合展開を防げます。
・物語の構造に「最も危険な場所」と言うのがあります。大体物語の「転」なんかに配置されます。主人公がそこに入ると取り返しのつかない展開になるイベントの事です(例:鶴の恩返し。襖を覗いてしまう所)。
本来はここで象徴的に主人公が死んだりしますが、そこまでは行かないにせよこれも「転」付近で赦す事の出来ない所業を感情的に知らせる事、読者の代理的にアルルが憤怒し「絶対に捕まえる」と強い意思を持ってくれる事で一気に感情移入が成功していると考えます。
●第43歩
>しかし、魂を証明できた魔法使いはいない。
これもなんとなく物語全体の伏線っぽいです。どうだろう。
●第44歩
・躍動感のある地の文で通常時との使い分けが巧い。動的な文章は短く早く繰り返す事が表現しやすいといいますが、正にその教科書のような書き方でした。
・スピード感あふれる展開の中、起承転結で言う「転」、序破急の「急」の展開が発生します。文章の長さからしてもタイミングはバッチリ!
総論の指摘と被ってしまいますが、一つ欲を言えばヤミヌシと言う存在がいきなりすぎて予定調和感があるので伏線が必要です(多分なかった?見落としてたらごめんなさい)。
真のラスボスですから最初にヤミモリが出てきた時点で「何処かに王がいるらしい」みたいな事を分かりやすく且つ強烈に示唆する事が必要になります。
そうしておくとこのヤミヌシと言う存在が作中ずっと緊張感として付いて回るので、出て来た時の存在感も段違いに高まると思われます(ようやく出たー!みたいな)。
>ゆうきをだせ
第一章のテーマでもある「勇気」が出てきました。ゆうき、を言葉で学んだヨゾラの台詞だからこその特別意味が込められるシーンだと思います。
よく言われる「語るな魅せろ」の観点からは外れてしまいますが、こうやって力強く叩きつけるのもアリですね。
●第45歩、46歩
・おっさんが格好いい物語にハズレはない法則がここでも証明されました(持論)。ドゥトーはもちろん警邏長がいい働きをしていて素敵。
余談ですが召喚もののような迫力ある戦闘シーンですね。日常も白熱した場面も上手く書けるのは同じ物書きとして羨まし。
再び細かい事ですが……ハガネムシも伏線があった方がいい、かも。
●第47、48、49、50、51歩
倒したかと思ったらまだ生きていたラスボス、切り札を見せる主人公、街に迫る危機、終わったかと思ったら最後の最後で起こるアクシデント、意外性のある終結、伏線回収、悪役を断罪するカタルシス……これでもかと言うくらい畳みかけてくるクライマックス。
この辺の王道っぷりは半端じゃない、文句なしの超面白いラスト。初見では久しぶりに書評を忘れて興奮しながら読み進めました。
●第52歩
・指を奪っていたユニオーが引き金に指をかけたせいで手を失くして捕まると言うのは皮肉が効いていて良かったです。
一つだけ指摘を書くと、指を奪うと言うのはそこそこの異常行為なので、何故戦利品として指に執着していたかが語られると殺人の動機に説得力が出たと思います。
>「服、昨日と違くない?」
服は何かの加護だったり、変化の比喩としてよく用いられます。つまりこの事件を通してアルルの中で何か一皮むけた事を暗喩している訳ですね。
それは勇気だったりいろいろあると思いますが、
>「お前を落とさなくて済む」
とあるので、やはりヨゾラとの関係が変わった事を示唆しているのだと思います。もちろん、良い意味で。
定石だといずれ服を脱いで新しい自分に生まれ変わる訳ですが……この場合ヨゾラと離れて新たな価値観を得る、みたいな……そこまでが伏線だとしたらヤバすぎですね(むしろこの書評がネタバレになる)。
●第53歩以降
先に誤解のない様に言っておくとここからの各話非常に微笑ましくずっと見ていたいような日常回ですが……物語の構造としての評価をするとこれはNGとなります。
何故かと言うと、クライマックスのあとは出来るだけ簡潔に幕引きするのが良いとされる為です。
最大の盛り上がりの余韻がなくなるのと、本来クライマックスでキャラの目的が達成される&テーマを叩きつけて終わるので、それ以降は何をしてもほぼ蛇足になるからだそうです(極論)。
逆にクライマックス以降も語らなければならない事があるとしたら、それはもっと前にやっておくべきこと、もしくはスピンオフでやるべき事である可能性が高い。
このミス(ミスと言っていいか微妙だけど)は書評企画でもよく見られるので恐らく結構やってしまいがちな事なのだと思います。
自分のやりたい事をグっと抑えて読者目線になり作品の完成度を上げるか、自分のやりたい事をやれればそれで満足か……どちらを採用するかは趣味の問題です。
なので場面の目的を考慮すると、ユニオーの処遇、無事に祭りが開かれた事(内容ではなく事実のみ)、ハルの紹介(伏線でないならいらないかも)、今後の重要な伏線、旅立ちのくだり。以上のみを簡潔に済ませるだけで十分かと考えます。
・最後に気になった点を一つ、ファー夫人の役割についてです。
彼女はヨゾラとの因縁もあるしゴーガンと会食してるし、ファー夫人も次の話の伏線としてこの事件に一枚噛ませておくと登場した意味が与えられたと思います(殺人を隠すのに一役買ってたとか)。
このままだと別にいなくても物語が成立してしまう(ここに何しに来た?的な疑問)キャラになってしまうので、回収しきれていない存在かなと思いました。
この下衆マダムは主人公二人のお邪魔キャラなのでここで退場するのは凄く勿体ないかなと思います。とは言え恐らく後で出てくるのでしょうが、もうちょい一章の物語に絡める方が面白くなると言う旨です。
各論は以上です!
――――――――――――――
3、作品の強み(弱み)や個性だと思う所(主観多め)、及び雑談(独り言)。
・単純にレベルが高い(白目)。PV数が少なくても書籍化される作品はちらほらありますが「ヨゾゆけ」はそう言う意味で書籍化されてもおかしくはない感じがします。確実にコアなファンが付く。詰めが甘そうな場所は何ヵ所か指摘しましたが、レーベルの色が合ってプロの編集さんが付くなら書籍化の声がかかりそうな気がします(なんのエビデンスもない主観)。
・雰囲気の良いRPGの広大なフィールドを散歩している気分になれる気持ちの良い小説でした。最初からドキドキハラハラしたい人には多少向いていませんが、心穏やかな時にゆっくり活字に浸りたい時、そして今日はシリアスのあるファンタジーの世界に行きたい気分だな、何て時にはストライクゾーンに剛速球の作品です。
・今回の書評に当たり、遍歴物語や紀行文の評価の仕方を大変考えさせられました。(まだ読めていないのですが参考文献を新たに買っちゃったくらいです)。魅力的な作品でもうっかりするといつの間にか退屈になるし、とはいえ長い旅路の中でトラブル三昧じゃキャラだけでなく見る方も疲れてしまう(ジャンルは違うけど「錆喰いビスコ」とかはその辺クリアしてて凄い)。
でもこれは私小説ではないし、一応「日記」ではなく誰かが読む「お話」である以上他人の時間を奪う訳だからある程度楽しませる装置がなければならないと個人的には思ったり(この作品の話ではない)。
ので、やはり程よいキャラの目標設定やどうにか飽きさせない工夫が大事なのかなと妄想しています。ロードムービーでも主人公の最終的な目的がはっきりしている方がメリハリが付き困難も用意できるので緩急が生まれるのかなと。
ただし目標を設定すると旅物の魅力そのものを削がなければならないシーンが出てくるのでなんとも難しい……あかん、考えすぎて塩切れを起こしてきた。
この辺は参考文献と個人的な考えが半々です。この事について作者様のご意見をお伺いしてみたい。全く違う価値観で書いているのであればそれはそれで興味ある。
と言う訳で長い独り言でした。今回は私としても大変学びの多い回となり、作者様には大大大感謝です。
―――――――――――――――
以上です!
最後に再び申し上げますが、気に食わない所があったら「高田はわかってないな……」くらいに思って頂けると助かります。もしくはコメントにてご指摘下さい。
帆多 丁様、素敵な作品をありがとうございました!
次の第回は、佐倉伸哉 様の「春を照らすカクテル光線」を拝見させて頂きます。
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