6/8 A-6 誰かにとってのエンドロール

 俺が田辺と共に作り上げた脚本は、ほとんど参考にした作品通りのあらすじになっている。


 つまり魔法の鍵を軸にしたファンタジー作品だ。


 もちろん、下敷きと変えた点もいくつかある。


 まずは主人公の性別、ここはやはり河村さんに合わせて女子にしておこうと思った。


 あとは短くするために諸々削った。

 元の作品は十五分くらいあったが、素人がいきなり作るには長すぎる、と思ったので開ける扉の数を削った。


 この前、借りて読んだ指南書にも「まずは短い時間の作品を完成させるところから始めよう」と書いてあったし妥当なところだと思う。


 一番の変更はセリフを書き足したことだ。


 全編、無声で作るのは難しいのではないかという田辺の提案からセリフをつけた。

 実際、初心者である俺にとってはこちらのほうが作りやすいだろう。



「ま、とにかくこれを元に絵コンテを作ってみましょ」


「それって、専用の紙みたいなのいるんじゃないの?」


「心配しなくても用意してあるわ」


「なら良かった。じゃあもうひとつ。アニメーションの原画って専用の道具いるんじゃないの? 光る机とか透ける紙とか。さすがに映研の備品にはないよね」


「それも今度持ってくるから大丈夫よ。少し古いけど、十分使えると思うわ」


「なんでもあるんだね」



 そういうことなら心配はいらないのだろう。



「うんうん、面白くなってきたわね。そうだ、一応顧問に報告しておかないと」


「顧問って、たしか森本先生だっけ」


「そうよ。その様子だとどうやら未来でもまだこの学校の先生みたいね。じゃあ待ってて。話をつけてくるから」


「うん」



 バタン、と河村さんは出て行った。



「なんだ、渡瀬だけか?」



 河村さんが出て行ってすぐ、開けっぱなしの窓から麻倉が顔を出す。



「今日は早かったね、麻倉。もういいの?」


「ああ、今日はもういいってことにした。まったく疲れた」



 不機嫌そうな麻倉は上履きを雑巾でぬぐってから、窓枠を乗り越える。



「なぁ、渡瀬。体操服ってなにをするために必要だと思う?」


「突然なんの話?」


「ただの雑談だ。体操服を持参してこいって言われた場合、どんなことをさせられるのか想像してみてくれ」


「そりゃ体育じゃないの? 少なくとも運動だと思うけど」


「だよなぁ。いったいなんなんだろう、筋力で除霊するのか? 力業? それともサトミの正体を探るためには体力が今以上に必要なのか? うーん、わからん」



 麻倉は独り言をブツブツと言いながら、組み立てたパイプイスに腰を下ろした。


 事情はよくわからないが、なんだか大変そうなことだけはよくわかった。


 それからしばらくが経って。


 戻ってきた河村さんは「絵コンテは自分がやる」と言ってくれた。


 今日が金曜日であるため、次に七年前へ来れるのは三日後の火曜日になる。

 俺たちは月曜日に部室へ来ることもできるが、その日は七年前だと日曜日なので河村さんがいない。


 三日の別れと考えると非常に名残惜しかったが、麻倉に引きずられるように俺は元の時間へと帰ってくる。


 時刻は六時前。



「あ、ちょっと待ってて。高垣先生にDVDを返してくる」



 麻倉と田辺にそれだけ言って、職員室に続く廊下を小走りで進む。

 本当はもっと早く返しておけばよかったんだけど、今日は中々会えなかったのだ。



「高垣先生」



 ちょうど職員室前の廊下に、高垣先生はいてくれた。



「DVD、ありがとうございました」


「あぁ、わざわざありがとう。役に立った?」


「はい。特に魔法の鍵のアニメが好きでした」


「あれ、あたしもスタッフの一人なのよ」



 そう言われてみると、クレジットに「高垣葉子」という名前があった。

 珍しい名字だが、まさかあれが高垣先生だとは思っていなかった。



「すごく面白かったですよ! ああいうアニメが作りたくなるくらいでした」


「ありがとう。本当に、がんばってよかったわ」



 高垣先生はやわらかく微笑む。

 瞳が若干うるんで見えるのが、なおさらその笑みの魅力を引き上げる。


 窓から差し込む夕日が、高垣先生を明るく照らす。


 その光景は、今まで見てきたどんなものよりも綺麗で。


 たとえば俺が映画を作るなら、ラストシーンはここにするだろうと思うほどの魅力があった。

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