6/22 B-17


「――死ぬかと思った。想像してたよりずっと大変だな」



 遠くでかすかに男の声が聞こえる。


 耳に水が詰まっているのか、声は途切れ途切れにしか聞こえず、身体は重い。



「そろそろ――が救急車に――を運んで戻ってくる頃だろう。こちらも早く撤収しよう」


「ああ、わかった」



 二人の男の会話が途切れる。


 オレは薄く目を開けた。

 夜空と花火の音が、意識をどんどん覚醒へと近づける。


 だがまだ近くにいる男の顔はわからなかった。



「心配すんな、あの子は無事だ。今、渡……仲間が救急車に連れて行ってくれた。よく頑張ったな。自画自賛していいぞ」



 男はどこか人を不愉快にさせる声だった。

 それは七年前に出会った自称父に似ている。



「そのご褒美ってわけでもないが、色々と手回しはしておいた。それとこいつは豆知識だが、田辺のばあちゃんはカステラが好きだ。覚えておくといい」


「それは聞こえているのか?」



 不愉快な声にかぶせるように、どこか聞き覚えのある落ち着いた声が聞こえる。



「聞こえてるさ。オレは経験済みだ」


「たしかにそうだったな。では合流して戻ろう」


「ああ。じゃあ、もうちょっと頑張れよ」



 足音が遠のいていく。


 まだ、オレの意識はもうろうとしていた。

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