報告書.7
6月16日
検査の結果、肩の骨の修復が確認される。
鱗も再生し見た目は元に戻った。
外での運動の許可が出るが、万が一を考え量を少なめにと厳命される。
何はともあれ久しぶりの外出、いつになくテンションが上がる。
私専用の低酸素マスクが開発されたらしいのでテストも兼ねて付けて貰う。
当たり前だがちょっと苦しい。
しかしいつか高地任務がくる可能性もあるので今の内に慣れておかねば。
運動用のヨガマットを抱えて、いざ太陽の下へ。
本日は快晴。
体質的に紫外線を浴びなければならない(らしい)私にとっては絶好の日和。
遠くの方で隊員達が隊列を組んでランニングをしている。
厳しい訓練をこなす彼らには常々敬服する。
自室代わりの格納庫は運動の間、清掃して貰うので扉は開けっ放し。
空気の入れ替えにもなって丁度いい。
周りの職員の方々を踏みつぶさないように気を付けつつマットを広げたら、まずはストレッチから。
怪獣になっても準備運動がいるんだろうかと毎回疑問に思うが、スポーツ選手のルーティンみたいなものでやらないと動きに思い切りが出ない気がする。
座って腕を伸ばしていると向こうからジープが一台走ってきた。
後部座席にはカメラマンの
会うのは久々だが相変わらずエネルギッシュな笑顔をしている。
私の怪我で撮影が延期になったのだが元気になったと知るや早速、撮影許可を申請してきたらしい。
行動の早さに舌を巻くが、基地広報も許可を出すのが早過ぎやしないだろうか。
しかし私よりも基地の方々との付き合いは長いという話だし、色々宣伝して貰ってるのでそこは信頼の成せる業ということだろう。
主に戦車や戦闘機などを主体に撮影しているが、次の題材は私だそうだ。
怪獣は意外と海外ではメジャーなモチーフらしいが日本では本格的な写真集は出ていないらしい。
怪獣大国と言われながら日常に根付いていないのは由々しき事態だと使命感に燃えているようだが、逆に日常的過ぎて珍しくないからじゃないのか、と私は思う。
しかし『根付いていない』=『必要以上の忌避』と考えれば納得出来る。
諸外国に比べて日本はとにかく自衛隊員へのアレルギーが激しい印象がある。
当然そこに近い位置にいる私に対しても悪感情の方が強いだろう。
しかし世界でも殺した数より救った数の方が多い国防組織は自衛隊だという話を聞いたことがあるし、迷彩服を見るだけで嫌悪するのは大いに悲しい。
彼らだって人間だし、いなければ日本はとっくに様々な脅威に蹂躙されていることを考えれば、せめて『ご苦労様』の一言くらいはかけて欲しいものだ。
私の写真集がそんな彼らの印象をより良いものにしてくれることを願っている。
ただ、どこのジャンルになるのかという疑問は尽きない。
準備運動を終えて早速筋力トレーニングに入る。
私は背びれの関係上、寝転べないので基本的にプランクで鍛えている。
体幹も安定するらしいし、このフォームを広めた人は天才だなと思う。
尻尾の上げ下げ運動も同時にやる為、恐ろしくキツいが。
怪獣になって筋力が上がったが、ついでに体重も増えたので結局一回で耐久出来るのは30秒と普通レベル。
初めてやった時、教官が『え?』と困惑していたのが割と今でも悲しい。
簡単に強くなれる程、人生(怪獣生?)はそんなに甘くなかった。
加えて今日は低酸素マスクをしている為、早くも呼吸が荒くなってくる。
効き目があるのはいいことだが中々高いハードルを設けてしまったものだ。
ちなみに左肩はまったく痛まなかったのできちんと中まで再生したようだ。
また自由に動くようになって一安心である。
藤戸さんは私の苦しみとか関係なくシャッターを切り続けていた。
ただし脚立に乗り降りし、走ってアングルを変えたりカメラを変えたりと忙しくなく動いている様子を見るに、こっちはこっちで別の大変さがありそうだ。
サポートに来ているお弟子さんも大荷物を背負って藤戸さんを追いかけていたし、きちんと休める時に休んで欲しい。
基地内では建物に振動が伝わるので走る運動が出来ない。
久しぶりに荒れ野を駆け回りたいが、そこは我慢だ。
一応予定は組んであるので楽しみに待つとしよう。
最近フリスビー射出装置が出来たらしいので早く見たい。
休憩を挟みつつ二時間ほど体を動かして終了となった。
私が水を飲んでいる間も藤戸さんは手を休めない。
以前、休憩中の何がそんなに珍しいのか聞いてみたら背びれから陽炎が出ていたそうで、とても映える写真になるという。
博士によると私の背びれは放熱板のような役割を果たしているらしく、熱光線を放った後もそう言った現象が起こっていたそうだ。
自分の体にはまだまだ知らない機能が備わっているなと感心し、実は空も飛べるんじゃないのかと聞いてみたが、それはマジで無いと念押しされてしまった。
少しは夢くらい見たかった、悔しい。
それから他愛もない会話を交わしつつ『折角だから、お弟子さんも撮ってみれば?』という私の思い付きにより撮影が延長となった。
えらく恐縮されていたが貴重な機会だからと存分に撮って貰った。
藤戸さんはお弟子さんの写真に『おお、良いんじゃない?』とちょっと素っ気無い感想を漏らしていたが、後で厳選して送って貰うことになった。
こちらも楽しみだ。
全ての作業が終わり、藤戸さん達は次回の約束をしてジープで帰っていた。
筋トレも写真撮影も私が社会で生きていく為に必要な仕事だ。
それが出来る怪獣である事に感謝して今日一日を締め括りたい。
追記:
写真集はやろうと思えば、どうぶつコーナーにも置けるらしい。
異彩を放つのでは。
コメンタリ:
コ「出ました。報告書では初登場での藤戸さん!この方とも付き合いが長いー」
は「私の次くらいに長いよね。目を付けるのも早かったもんなぁ、何でか知らないんだけど、この人は親しくなるのが上手なんだよなー」
コ「割とギラギラしたタイプなのにフランクっていう矛盾したバランスを成り立たせてる人ですからね。初対面から私にグイグイきて当時はちょっと引きました(笑」
は「あははは(笑。でも凄い良い写真撮ってくれるんだよね。一目で『あ、これすげぇ!』ってびっくりしたもん」
コ「ねー。格好良く撮っていただいて本当にありがとうございます!写真集は書店とネットの両方で販売しておりますので、ぜひ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます