スペシャルコメント:ウェンズデー

 拝啓、コゲラ殿。

 お元気でしょうか、お久しぶりです。

 このたびは『コゲラの報告書』の刊行、誠におめでとうございます。

 以前から書かれている事は存じ上げておりましたが、それが書籍となって皆様の元に届けられるということで微力ながら私も協力させていただきました。

 この本が末永く愛されるものになることを心よりお祈りしております。


 ―とまあ、堅苦しい挨拶はこのくらいでいい?

 取り敢えず、お疲れさんって言っておくわ。

 よくもまあ、こんなちまちましたことをずっと続けていられるなぁなんて思ったりもしたけど、こうして誰かが本にしたいって思うくらいのものなんだから、多分それなりに魅力のあるものになっているんでしょうね。


 まだ完成版を読んでないから何とも言えないんだけど、現行チェックの段階でも十分に面白かったから、発売したら私もダウンロードする事にするわ。

 最終的に一体どれくらい私の悪評を増やして書いたのか楽しみ(笑)。


 実際あなたには会った時から結構な迷惑を掛け続けてきたから、何を書かれていたとしても文句は言えないわね。

 私は会うたびに愚痴は言うし、自殺未遂も起こすし、正直誰もが私を見捨てるものだとばかり思っていたけれど、それでもアンタは私といるのが楽しいから生きてくれって言ってくれたわね。


 私相手にそれを言うって中々覚悟がいる事だと思うけど、アンタも物好きだわ。

 けど、あれから不思議と心が落ち着いてきてあんまりイライラすることもなくなってきたように思うわ。


 まあもしかしたら大して変わっていないのかもしれないけれど、でもこの前ウチの博士に聞いたら実際私は角が取れて丸くなったらしいのよ。

 別にアンタを頼りにしてるわけじゃ無いけれど、私は一人じゃないってことを自覚できたのかもね。

 正直、怪獣って孤独なものだとずっと思ってたから。


 実際、私達は何処の国でも基本は一匹で部屋の中でポツンとしてるんだけど、すぐ来れる距離のところにあんたみたいなのがいるってのは本当に幸せなことだと思う。

 あんまり言ってなかったけど感謝してるわ、ありがとう。


 だからってわけじゃないけれど今回の書籍化に当たって私の項目は出来る限り調整を加えない形での掲載をお願いしたわね。

 我が儘を聞いてくれてありがとう。

 結果的に会話をそのまま文章化するパートも出来たって言ってたから様式を崩してないか心配だったけど、逆にバリエーションが増えて読みごたえがあるって言ってくれて嬉しかったわ。


 アンタは私の愚痴にもわざわざ一つ一つ返してくるし、怪我した時も助けようとしてくれたり、根が真面目なんでしょうね。

 まあ、得てしてそういうヤツって損しやすいから人間時代モテなかったって聞いて納得出来たわ。

 せいぜい良い人止まりってところね。


 怪獣になってからはどうかしら?世界中から愛される存在になるといいわね。

 アンタ意外と寂しがり屋だって聞いたし、辛くなったら遊び相手くらいにはなってあげるから連絡を寄越しなさい。


 あ、それから私の挙げた化粧品使い切ったらしいじゃない。

 私のところに来る時は一切つけて来なかった癖に隠れて使っていたなんて生意気にも程があるわ。

 今度新しいのを用意しておいてあげるから化粧されに来なさい。

 少しは腕を上げたから期待していいわよ。


 さて、最後に読者の皆にも伝えておかなければならないわね。

 このコメントがどこに載っているかは分からないけれど、私に関する話は多分、身勝手で我が儘で凡そ皆に好かれる内容じゃあないと思うわ。


 それでも敢えて言うなら、これはコゲラと私と、そして出版に関わってくれた皆が良しとして出したものなの。


 昔の私なら過去の私の恥を世間に曝すようなことは絶対に反対しただろうけれど、今の私に至れたのも過去の私があったからで、そんな私を助けてくれた皆の事もきちんと世間に伝えたかった。

 だからコゲラが本を出すって聞いた時に真っ先に私の事は何も隠さなくていいからって言ってやったの。

 とってもびっくりしてたけどね、あいつ普段から飄々としているからちょっと気分が良かったわ。


 まあ、そんなこんなで色々言いたい事もあるかもしれないけれど、私に関する不平不満があるならコゲラではなく私にぶつけてきて頂戴な。

 全部無視して寝るから。


 それじゃあ縁があれば、またね。

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