報告書.2

 5月18日

 対怪獣用新装備の試作が出来たので博士と一緒に実験に参加。

 屋内兵器実験場に入るのは久しぶりだ。

 

 今回は人型サイズから10メートル級の怪獣の攻撃に耐えられる装備への、耐熱・耐衝撃実験とのこと。

 爪と熱光線の出番である。

 

 試作品の見た目は真っ白でつるつるしてそうなボディーアーマー。

 どう見ても某宇宙大戦のアレではないだろうか、という疑念が晴れない。

 こんな小道具みたいなものを作った研究員達は異様に眼が爛々と輝いている。

 彼らは正気なのか、煮詰まってネタに走ったんじゃないのかと不安になる。

 

 壊したら空気が最悪な事になるだろうが装備品は隊員の命を守る大切な存在。

 実験においては寧ろ手加減こそ命への侮辱に他ならない。

 心を鬼にして本気でかかることを決意する。

 体はトカゲだが。


 軽い準備運動の後、私の安全用の手袋と靴、マスクを外してもらいアーマーを装着したマネキンに対してまずは爪による攻撃を試みる。

 こちらの爪が剥がれないようにスナップを利かせて擦るように切る。

 1撃目、2撃目、切れない。


 以前同じような実験をした時に当時の装備品を真っ二つに割ってしまい参加した隊員達をドン引きさせてしまったのは私のトラウマの一つだが、今回のアーマーは表面が削れるだけで何度切っても中までは食い込まない。

 かなり滑りやすく作られており手応えを感じない。

 暖簾に腕押しとはこの事かと怪獣の身を以てことわざの真意を学ぶ。


『次は思い切り蹴ってみてくれ』とのリクエストに応え、助走をつけて跳躍。

 爪先がアーマーの胸骨の辺りを抉り、マネキンは派手に吹っ飛び壁に激突。

 無数の強化プラスチックの破片と化してしまった。


 だが驚いたことにボディアーマーは無事であった。

 研究員達が駆け寄りマネキンの胴体であった部分(アーマー付き)を見せてくれたが確かにへこんではいるものの貫通はしていなかった。

 見た目からは想像もつかない程の堅牢さだ。

 しかし小躍りする彼らには悪いが、陥没具合からいって相当な骨折は免れないし、そもそも衝撃で即死するのでは、と半欠けになったマネキンの頭に対し独りごちた。


 替えのマネキン2号に新品のアーマーを着せて足元をがっちり固定。

 いよいよ耐熱実験である。

 研究員の皆さんの安全を再確認し、十分に離れてもらう。

 実験開始を告げる警告ブザーが鳴り響き、そして一瞬の静寂。

 準備完了。


 酸素を大量に吸入し呼吸器官の近くの放射器官の開きを自覚する。

 喉の奥の熱さにギリギリまで耐えて、口を目一杯開き、発射。

 光線状の炎が一瞬でマネキンを包み込む。


 熱光線を出している間は息が出来ないが、それでも限界まで続ける。

 5秒、10秒、15秒、流石に無理だ。

 放射を切り上げ、足りなくなった酸素を補うべく、呼吸を整える。


 結果は、研究員の歓声で察した。

 見ればマネキンはズルズルに融け落ち、アーマーは赤熱しているものの原型は保っているようだ。

 皆が喜びの声を挙げる中、これは本当に成功したと言えるのかと疑問を抱いた私はじゅうじゅうと音を立てるアーマーに近づき、足で『ごんっ』と小突いた瞬間、


 割れた。

 粉々に割れてしまった。


 床に散らばる研究成果。

 笑いは消失、失望のため息、博士は床に五体投地。

 余談だがこの時の博士の嘆きっぷりはぜひとも記録しておきたかった。

 申し訳ないが見ていてとても面白かったことを正直に報告しておく。


 しかしアーマーで守られた部位は他と比べて損傷が少なく、まったくの無駄というわけではなかった。

 仮に全身を着込むタイプのものであれば生存の可能性は一気に高まるはずだ。


 その後も休憩を挟みながら数回実験を繰り返し、夕方頃お開きとなった。

 疲労困憊だ。

 この報告書を提出したらすぐに寝る事にする。


 結びになるが、失敗は成功の母だ。

 他人事のように聞こえるかもしれないが、ぜひとも再開発を頑張って欲しい。

 必要なら存分に力を貸そう。


 追記:

 ただし夜中に呼び出すのはやめてくれ



コメンタリ:

 は「ヒドイじゃないかー、人が折角苦労したのに面白かったとかー」


 コ「そりゃあ床に寝転んで手足バタバタさせながら奇声あげてたら面白いに決まってるじゃないですか。今だから言いますけど研究員の皆もちょっと笑ってましたよ」


 は「なにっ!あいつら共に苦労を重ねた仲でありながら~!許さんぞー!」


 コ「まあまあ。配合の比率調整したら熱光線食らっても割れにくくなったから良かったじゃないですか」


 は「過労で死にかけたけどな…」

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