報告書.18
7月23日
出張から帰ってきて少し体調を崩したので大人しく寝ていた。
目を覚ましたのは夜中の2時。
監視を兼ねている通信ルームには夜勤の隊員がいると思うが特に話しかけるような事も思いつかないのでまた眠くなるまで報告書でも書いておくことにする。
寝ている間に夢を見た。
高校の教室に何故か人生で出会った人々が学生として大集合し(博士までいた)全員で掃除道具などを使ってカーリングをするというわけの分からない内容だった。
得てして夢は支離滅裂なものだが今回はより不思議な感覚を味わったと言える。
私が濡れ雑巾に足を滑らせて仰向けにひっくり返ったところで目が覚めたのだが、その時に少しの間だけ重力の方向を見失って混乱した。
基本的に今の私は背びれの関係上、仰向けになることが出来ないので寝る時は常にうつ伏せの状態になっている。
だが夢の中で天井を見上げていたせいで起きた時に脳が誤作動を起こしたのだ。
真っ暗闇の中で、あれは夢だったかと理解し始めると同時に今の私は思い切り寝そべって太陽の光に目を細める事も出来なくなったのだなと改めて寂しさを覚えた。
怪獣になって出来るようになったことは様々だがそれ以上に人間でなければ出来ないことに惹かれる理由は、私自身の置かれている立場や状況に少なからず不満や悲しさを抱いているからだろう。
これに関しては嘘をついても負の感情が増すばかりなので正直に記載しておく。
私だって怪獣になりたくて生まれてきたわけではない。
あの飛行型怪獣も、いや彼女は私以上にそうだったに違いない。
幸せの絶頂で怪獣となってしまった事を想像すると、彼女の絶望感と子に希望を見出し必死で逃亡を続けてきた経緯に一抹の同情を抱かざるを得ない。
お腹の子は無事だっただろうか。
仮に何事もなかったとしても、この先平穏に暮らせるのだろうか。
収容船の管轄は国家間の境界を排した国際的な組織によって行われている。
厳しくはあるだろうが特定のイデオロギーに左右されて怪獣の運命が決められることはないと言われている。
しかし前例がないことに対し、人々が新しい価値観を打ち出せるかどうかは結局のところ運次第と言える。
どんなに優れた人物が革新的な考えを打ち出したとしても時代や組織と齟齬を起こせば何一つ変わる事なく闇に埋もれていく。
彼女や彼女の子もそうなってしまうのだろうか。
私にできる事は二人(敢えてこう書く)の今後に寛大な処置が下されて欲しいと祈る事と、逃亡劇に巻き込まれ犠牲となられた人々に対して哀悼の意を捧げる事。
後は犠牲を最小限に抑える為に鍛える事しかない。
そういえば今回はウェンズデーが珍しく出動し先に戦っていたが、一体どんな会話を交わしていたのだろうか。
そも人間時代から女性同士の会話に入る事は苦手だったが今回の事も根掘り葉掘り聞くのは野暮かと思い深く追求する事は控えた。
きっとそれが正しかったと思う。
それでもウェンズデーが飛行型怪獣についての意見を求めてきたのはどんな想いからだったのだろうとは考えている。
きっとこの先も時々思い出しては頭を悩ませるのかもしれない。
そろそろまた眠くなってきたので提出は明日にして、また就寝する。
次に起きた時は体調が戻っていることを願う。
追記:
マメハチと遊ぶ夢を見た。
夢の中でも彼はモフモフしている、可愛い。
コメンタリ:
コ「ちょっと疲れててぼんやりしてたせいか日記感が増してますね」
は「いいと思うよ。前も言ったかもしれないけど気持ちを内に溜め込むのは健康上良くないし、書く事は心を整理する事に繋がるからね。古くからの知恵だよ」
コ「飛行型怪獣については特に情報も入ってきてないし私も詮索しないようにしています。でもお蔭で名前が付いているのかも知らないんですよね」
は「私も知らないんだよなぁ。無事で、ってのも変だけど納得出来る落しどころになっていればいいかなって思うよ」
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