報告書.17
7月20日の会話記録
「―っ!―――?」
「――は…―だから――だ―。―」
「―はぁ?必要ないでしょ?」
「記録の為に録音する決まりだろうが、いつもやってんだろ」
「いやいやいや、だからって外でもやる、それ?うーわぁー、真面目通り越してバカ過ぎ。アンタ人間の時モテなかったでしょ」
「はっ、気にしたこともないな。一人で十分、幸せだったからねー」
「うーわぁ、寂っしいぃ~、何て寂しくてイタイ男。そりゃ怪獣にもなるわぁ」
「うるせぇな、このバカデカ阿保鳥が。大体ここで何話すんだよ、キツいんだから帰らせろよ」
「まだ片付け終わってないから無理よー。どうせ暇なんだから話相手にくらいなりなさいよ」
「寝てぇよ、トレーラーの中でもいいから」
「アンタねぇ、少しは私を心配する気はないわけ?」
「ん、まあちょっとは危ないかなとは思ったけどさ。でも、そんだけ元気なら大丈夫だろってなった」
「大丈夫なわけないでしょ。見なさい、ボロッボロよ私?もー、折角染め直したのにぼさぼさじゃん、最悪」
「何?また色増やしてたの?お前もう止めとけよぉ。これ以上やったら、お前さらに南国感増すぞ。もうどこの国の奴だかも分かんねぇよ」
「あ~、うっさいなぁ~。アンタが地味過ぎんのよ。ってかこの前送ったマニキュア何で使ってないのよ?」
「使うかバータレ。んな暇あったら、遊ぶか筋トレするか寝るわ」
「はぁ~、これだからお洒落に鈍感な奴は。写真集出す予定のヤツとは思えないわ」
「俺はありのままの姿を見て欲しいタイプだからいいの。まあ気が向いたらイベントの時とかに使うか」
「やったら写真送ってね」
「知らんがな…じゃあ藤戸さんに撮って貰うよ、ったく。てかお前よく見たら結構、血出てんな?治療しなくていいの?」
「ん?うん、薬塗ってもらったし後は自然治癒。アンタの再生力が羨ましいわ。私、治るの遅いし。お風呂入れないかもしんないんだって。暫く会いに来なくていいわ」
「なんだよ、見舞いくらい行くぞ?」
「いいって言ってるでしょ…治ったら呼ぶから、そん時はお洒落して来なさい。あー、いや私がやってあげてもいいかも。怪獣になってから誰かのメイクとかしたことないし」
「いや、怪獣になる前もやったことねぇだろ?お前、自分の事インコだっつってたじゃねーか」
「あー、そんなこと言ってたっけ、私?」
「俺な、一応報告書書いてんだよ。その時のことちゃんと書き残してるからな。見返したら一発で分かるぞ」
「え、そんな事してんの?うわ暇人ー」
「暇じゃねぇよ。生き甲斐とまではいかんけどさ、やってて落ち着くんだよ」
「あそ、好きにすればいいんじゃない。」
「…腹立つわぁ。お前の毛染めとか香水とかも似たようなもんだろうが」
「だーかーらー、あれは心の栄養補給なの。…ってかさ変な臭いしない?」
「は?しねぇけど」
「ホントに?ホントよね」
「ねぇよ、お前のその良く分かんねぇ香水の匂い以外しないから」
「あー、そう。なら良かった、結構うがいもしたし」
「何、お前まだ毒の臭い気にしてんの?」
「ずっと喉の奥が腐ったような感じがするのよ。ああ、もうムカツク。だからやりたくなかったのに」
「だから気にし過ぎだって、お前が思ってるほどのことは無いから」
「…熱光線っていいわね、撃っても口臭とか気にしてなくていいんでしょ?」
「そうだけどさ、かなり危ないぞ?今日だって羽ンとこ撃ってたら突き抜けて浜辺に穴空いてたかもしんないだから。まあ、でもあれか、毒も毒で他に被害出さないようにしなきゃならんから大変だよな」
「もうホントこんな能力いらないんだけど」
「ん…そのー、お前にとっちゃ疎ましいのかもしれんけどさ、少なくとも今日はそのお陰で俺は助かったし。そこは素直に感謝したいよ、サンキューな」
「気持ち悪っ」
「おい」
「でも、まあアンタが、そう言ってくれるなら。これからも元気にやってけるかも」
「?どうした、何かあったか?」
「んー、いやちょっとアイツのことでね、聞いて欲しい事があって」
「アイツ?ああ、今日のヤツ?てか喋るとは思わんかったわ、ビックリした。多分、女性だと思うんだけど名前分かんねーから、どう呼んだもんかね。」
「分かんないけど…でもアイツね、妊娠してたらしいの」
「ッ!?」
「体の中に、多分、卵?かどうかは知らないけど、とにかくいるんだって。戦ってる最中に言ってた」
「それはつまり、父親がいるってことか?」
「しかも人間のね。どういうことか分かるでしょ?」
「ああ…妊娠中に、なったのか」
「何とか子供だけは守りたかったみたい。それで逃げ回っていたらしいわ。私の方も必死だったから、きちんと話は聞けなかったけど。もうアイツにはその子しか味方がいなかったのよ。自分を愛してくれてたはずの人達が、怪獣になった途端、いなくなっちゃったんだから」
「……」
「でも、もしかしたら私その子を殺しちゃったかもしれない。薄めだからって毒入れちゃったら、どんな影響が出るか」
「それを言ったら俺もだ。何も考えずに投げ飛ばして熱光線までやっちまった」
「ねぇ、もし無事に生まれたとして、怪獣の子供ってどうなるの?」
「少なくとも俺は聞いたことが無い、博士なら分かるかなぁ。怪獣は基本的に一部屋に一体ってのが定説で、まあ、要はそういう事を防ぐ為でもあるんだろうけど」
「ただでさえ、お金が掛かるのに増えられちゃ困るものね」
「もし生まれたら…生まれたとしても、引き離されるだろうな。世間的にはアイツは世界中に被害を出しまくった敵だからな。収容船で子育ては認めて貰えないだろう」
「…そうよね」
「だからと言って最初から国を頼っていれば良かったかっていうのも、ちょっと分からないな。国によっては怪獣の扱いが、その、アレなとこも、あるからな」
「うん。疑心暗鬼になるよね」
「そっかぁ、そうだったかぁ。あー、でもそれ知ってたら躊躇したかもしれないってのが、またちょっと、んー、ヤなんだよなぁ」
「私もお母さんだって分かってたら、空から叩き落とせなかったと思う」
「それでもやらにゃいかんからな」
「あー、しんどいわねホントに。でもちょっと話せて楽になったわ」
「これ音声提出するけど、いいか?」
「何、今更そんなこと気にしてんの?どうせ検査すれば妊娠してんのなんて、すぐ分かるでしょ」
「あ、うん。まあ、まあ、そうか」
「日和ってんじゃないわよ、
「おお、結構言ってくれるなぁ、たまにしか出てこない癖に」
「箱入りだから私」
「やかましいわ、ちょっとは外で運動しろ。暫くは休んでていいけどな」
「うん、出来れば一生そうさせて貰うわ。あー、でも時々はこうやって海を見るのもいいかもねぇ。磯の香りが懐かしいわ」
「いや、だからお前、室内鳥じゃなかったの?」
「さあ、どうだったっけ。もう忘れた」
「はぁ、俺もそんくらいふわっとした生き方出来ればねぇ」
「もうちょっと我が儘になればいいじゃない。誰かから咎められようが結局、怪獣になっちゃった人の気持ちなんて、なってみなきゃ分かんないし」
「ん、まあそうだけどさ。でも暫くは真面目に生きてみるよ。性に合ってるし」
「あっそ、じゃそれでいいんじゃない」
「何か悪いな、折角アドバイスしてくれたのに」
「別に。待ってたのも呼んだのも私だし。あーあ。ってか、いつになったら片付け終わんのかしらねー」
「気長に待ってりゃいいさ。終わったら『ご苦労様』って言って、のんびり帰ろう」
「羽がベタついてる気がするわぁ、これだから潮風ってイヤ」
「時々は海に来ても良かったんじゃないのか」
「それとこれとは別ー」
以上、7月20日の会話記録より抜粋。
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