報告書.10

 6月30日

 フェイチウ飛来後の瓦礫除去任務。

 離島の為、船での移動となったが相変わらず揺れは苦手だ。

 人間の頃から船酔いしやすい体質だったが、残念なことに怪獣になってもそれらの症状は改善されてはくれなかった。


 頭痛と吐き気を薬で抑えつつ、船内で大人しく過ごす。

 余りに動かな過ぎたので同行の隊員から死んでないか確認されたが、いっそ昇天したいと呟いたら渇いた笑いが返ってきた。


 何とか粗相もなく島に到着。

 酔い覚ましも兼ねて島を一通り見廻ってみるが、かなりの数の木が薙ぎ倒されており痛ましい状況だ。

 その後、現地の研究者に映像を見せて貰ったが、相変わらずひょろ長いバッタのような見た目をしておきながら驚異的な咀嚼能力と運動能力を持っている。

 作物を食い荒らし、暴れることでさらに土地の被害を拡大させる厄介な奴だ。


 今回は博士も同行してくれており、現地の方々と協力して足跡などから情報を探れないか調べてみるそうだ。

 私は邪魔をしないように許可が出たところから片付けに入った。


 折れた木の中でまだ使えそうなものは木材として、そうでないものもさらに細かく砕いた後に肥料に転用する為、ノンストップで仕分けていく。

 崩れた家屋は出来る限り住人の家具や想い出の品を壊さないように、そっと瓦礫を取り除いていく。

 そんな私の様子を現地の住民の方々が複雑そうな顔で見上げていた。


 怪獣に蹂躙されて、怪獣が復興活動をしているのだから無理もない。

 いっそ私が来なかった方が、まだ好きに文句も言えただろうかと思うと心苦しい。

 日焼けした子供が泣きながら私を罵倒して、親御さんに叩かれながら引っ張られていったのが忘れられない。


 フェイチウの被害は今や全世界に及んでいる。

 羽を利用した広大な活動範囲に加えて、素早い作物の摂取とエネルギー変換、そして何よりも危機察知能力の高さがネックだ。

 とにかくあらゆる機能がスピード重視に特化しており、各国で追跡部隊の到着までに逃げられたという報告が相次いでいる。

 かく言う私も煮え湯を飲まされた内の一人だ。


 フェイチウの体組織が虫に近く私の熱光線はかなりの有効打になるはずなのに、如何せん当てられたことが無い。

 一度だけ飛び立つ前に間に合い、トレーラー上から熱光線を放ち、ギリギリで羽の一部を焼き切った時があった。

 逃げられはしたものかなりの致命傷になったはずだと喜んだのも束の間、すぐさま別の場所で被害が報告された挙句、羽はすっかり元通りになっていたと聞いて心底がっかりしたものだ。


 神出鬼没な上に森の中に隠れられると発見はほぼ不可能。

 私並み(羽を広げれば多分私より大きいと思う)の体躯でよくもまあ、この現代社会で隠れて生き延びられているものである。

 今回も15分ほど散々蹂躙しどこかへ飛び去ってしまったという話だ。


 一体どうすればフェイチウを止めることが出来るのだろうか。

 博士曰く、相手の立場になって考えてみれば答えが分かるかもしれないとのことだが、想像してみても『ただひたすら生存することにだけ特化している』だけの生活は私には理解できず未だ何も分からないままだ。


 ある程度の折れ木の仕分けが終わり残りは後日となった。

 夜を徹して作業しても良かったが、休むのも仕事だと言われ、仮住まいのテントに戻り、持ち込んだタブレットで現在この報告書を書いている。


 果たして、こうやって書くことに意味はあるのだろうか。

 ただの趣味で始めたものだから義務ではないし、間に合わなかったという実質的な敗北宣言を綴るのはやるせなさが募る。


 それでも自分が辿ってきた過去がやがて歴史となり後の人達にとって貴重な財産になるかもしれないという事。

 もう一つ、内面を書き出すことで自分自身の心を整理出来るという事。

 どちらも博士から受けたアドバイスだが、この二つは自分にとって報告書を続ける大きなモチベーションとなっている。


 いつかこの報告書が事態解決に繋がる事を信じて今日一日の事をここに残しておきたいと思う。

 明日の作業に備えて今日は早めに就寝する。


 追記:

 博士が貴重な手掛かりが得られたと熱心に皆と話し合っていた。

 一歩前進だ。



 コメンタリ:

 は「歯痒かったねぇ、フェイチウ関連は」


 コ「ホントに昔、熱光線を当てきれなかったのが無茶苦茶悔しかったんですよ。あーもー、何であそこで直撃させられなかったかなー…」


 は「世界レベルで手こずらせる奴だからね。中々こういう単純なパワーじゃない奴がここまでしぶとく生き残るって殆ど無いんだけど、コイツは凄い例外」


 コ「いやー、今思い出しても悔しい。もっと鍛えないとなぁ」

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