報告書.25
※注意:この報告書には怪獣個別のプライベートな部分が書かれています。
関係者には掲載許可を頂いておりますが読者の皆様におかれましては、そういった事柄をご承知の上で、お読み下さい。
8月10日の会話記録
「―準備出来た、本当に録るんだな?」
「―うん」
「提出するんだぞ、これ」
「―うん」
「じゃあ、さっきも言ったけど無理そうに見えたらこっちで止めるからな?」
「―うん」
「まあ、じゃあ、まずは…生きてて良かったよ」
「ありがとう」
「本当に手遅れになんなくて良かった」
「ごめん」
「謝るこたぁないよ。まあ、色々あるだろうけれど、まずは休めよ。ちゃんと傷とか、悩みとかさ、そういうのがきちんと良くなってから考えればいいからさ、今後の事とかは」
「私、処分かな」
「別にどこかに被害出した訳じゃないんだから、部屋はまあ…ご覧の通りだけどさ。暫く慎ましやかな生活しとけばいいんじゃないの」
「そうする。どうせ動けないし」
「この前の傷は治った?海で戦った時のやつ」
「ああ、うん。あれは、もう大丈夫だったんだけど」
「そっか、なら良かった。長引いてないか気になったからさ」
「大丈夫、でも折角生え変わったのにまた抜いちゃった」
「ちょっと待ってりゃ、また生えるだろうから。そしたらまた好きな色にしなよ」
「…うん」
「―ねえ」
「んあ?」
「何があったか聞かないの?」
「…んー、正直に言えばそりゃ知りたいよ。訳分らんまま、お前が死にそうになってさ、このまま、終わっちまうかと思ったし」
「…」
「でも言いたくないなら別に良いよ。そんな無理して言う事も無いから。ただ、これだけは約束して欲しいんだけどさ、次またパンクしそうになった時は呼びな?流石に任務中とか治療中の時は難しいけどさ、少なくとも悩んだ時の聞き手くらいにはなるから」
「うん」
「また、変な話聞かせてくれよ」
「変じゃないし、事実しか言ってないから」
「いやいや、インコってのはどうなのよ」
「マジだって言ってるでしょ。昔の事しっかり覚えてるのよ。私の御主人、綺麗な人だったわ。時々私を籠から出して雑誌を見せながら、こう言うの『ねぇねぇ、これとこれどっちが似合うかな?どっちにしたら喜んでくれると思う?』って。私に分かるわけないのに、ちょっと首を傾けたら喜んで『じゃあこっちにする!』って。バカみたいでしょ?でも好きだったわ、間抜けだけど一生懸命な人」
「ああ。いい人そうだな」
「そう、とてもとても良い人だったわ。良い人過ぎたから本当にバカを見たのよ。ある日帰ってきて、真っ暗で何も分からなかったけど彼女泣いていたの。『アイツは私を愛してなんていなかった』って。私をいつものように籠から出して、あの人の顔はまったく見えなかったのに何故かとても恐ろしく思えて。私を放り出して、どこにいるか分からなくなったの。必死で飛び回って探したわ」
「飛び続けて疲れて、多分眠ってしまったんだと思う。次に気が付いた時は窓の外が明るくなってた。もう一度、飛んで部屋を見下ろしてやっと見つけたの。彼女、血を流して机に突っ伏してた。包丁を握って手首を切っていたわ。そうと知らずに私は飛び疲れて寝てたのよ」
「彼女の肩に止まって鳴いても、ぴくりともしなかった。クチバシで突いても、
「―ああ」
「私、もっと大きな声で起こさなきゃって、大きく揺らして目覚めさせなきゃって、朝だよ朝だよって声をかけて駄目だったから、もっと大きな羽だったら、もっと大きなクチバシだったら。そんな風に思っていたら、私の体は部屋を突き破って、気が付いたら私は空を見ていたの。ご主人様は、私の下敷きになって血の染みになってた」
「それからは成り行き任せ。私は私の知る限りの事しか話せなかったし、ご主人の家族はどうだったのかとか、ご主人の言ってた『アイツ』が誰だったかとか、そんなこと知ったことじゃなかった。ただ、雑誌の真似をしてお洒落したご主人の笑顔が本当に素敵だったことと、血だらけになって冷たくなっていたことだけは、今でも覚えているの」
「ウェンズデー、か」
「ええ。もう廃刊になっちゃったけど、電子書籍でバックナンバーが出てたから全部買ったわ。時々読み返して気に入った色があったら染めてるの。そんなことをずっと繰り返して、私もバカね。そうすればご主人と同じ気持ちになれるかもって、そんな…バカみたいなこと…けほっ、けほっ」
「おいっ」
「だ、い、だい、じょう、ぶ。でも、でも、分から、ないの」
「何がだ、何が分からない?」
「辛いの。ご主人の真似をするのも、思い出すのも。でも生きなきゃ駄目だって、生きてなきゃいけないんだって皆が言うの。私がどんなに我が儘を言っても皆、困った顔して、でも最後には望んだ通りになっちゃうの。どうして?うんざりするはずでしょう?あなただって愚痴ばっかり聞いて、私を殺したいって思わないの?」
「そんなことは」
「処分されるのはイヤ。でも生きたくない。自分でもどうしていいか分からなくて、暴れても、殺されなくて、自分で首を切って、でも何で私まだ生きてるの?どうして生かされてるの?どうしてなの?私が怪獣だから?珍しいから生きなきゃいけないの?手に負えなくなったら殺すけど、それまでは生きていなきゃならないの?人間は自分で自分を殺せるのに、怪獣はしてはいけないの?」
「ウェンズデー、落ち着け」
「違う、違うわ。私は、私の本当の名前は、名前が―分からないの。一番大切な人が呼んでくれてたはずなのに、忘れてしまったの。このままじゃ、あの人のことも忘れちゃう。だから綺麗にならなくちゃならいの!私の体であの人のことを覚えてなくちゃ、いけな、ごほっ!、ごほっ!」
「起きるんじゃない!落ち着くんだ!」
「えほっ!えほっ!それとも、全部っ、妄想なの?鳥頭の、私が、げほっ!無い知恵絞って、悲劇をでっち上げて、だとしたら、あはっ、あはっ、本物のバカね!」
「ウェンズデー、大丈夫だ!覚えてる!お前の話は全部記憶してる!」
「はぁーっ、はぁーっ、意味、ない、そんな、えほっ。何の役にも、立たないのに。皆、私の毒にしか興味が無いの。あんな、あんなのいらないのに。いらないものばかり与えられて。いやよ、いや、もう、生きたって、何が、楽しいの、よ」
「俺は、楽しかった」
「…ごほっ、えほっ」
「しょうがねぇなって思う事も一杯あったけど、お前との想い出を振り返ると、どれも楽しかったなってなるんだよ。ただ遊ぶだけだったり、海でだらだら話してたり、正直、人間だった時より素直な自分を出せてた」
「はっ、はっ、けほっ」
「お前に助けられたことだっていっぱいあった。本当に俺一人じゃどうしようもないことだって沢山あったんだ。能力がどうとかの話じゃない。お前がいてくれたから、俺は途中で腐らずに持ちこたえられたんだ、だから頼む。生きてくれ」
「あん、た、ね」
「ごめんな、我が儘で。でも、死なれるのは嫌だ。俺一人じゃどうやって生きていいか分からない。お前とぎゃあぎゃあ言い合える日がこの先一生来なくなるなら、そんなの俺は、辛い。死んだ方が、マシだ」
「はっ、よく言う、わ、ね。いっつも、憎まれ口、ばっかりのくせに」
「すまん、こんな時ばかり」
「じゃあ、死なせてあげるって、言ったら、どうする?」
「は?」
「私、、このまま、死にそうだし。アンタはそれが辛いんでしょ?だったらその前に、毒を、打ち込んで殺してやるわ。どうなの?」
「―首を狙うといい。太い血管がある」
「はっ、覚悟しときなさい。苦しんで、のた打ち回って、後悔しながら、私を、呪うといいわ」
「お前こそ、中途半端に終わらせるんじゃないぞ?」
「――――――」
「――――――」
以上、8月10日の会話記録より抜粋。
コメンタリ:
「―って、言ったのに、お前さ」
「はぁ?なんか文句あるわけ?」
「いやいやいやいや、どうよ?今のこの俺達の有様」
「何が?超、元気じゃない?アンタは風邪でも引いたの」
「お前さ、ふざけんなよマジで。ここまで言わせておきながら、どっちも元気ですって、どーすんのよこの時の音声?消していいか、お前の存在もろとも」
「しょーがないでしょ。あの後、博士たちが来ちゃったんだから。さーすがにあんだけジタバタしちゃったら黙ってる訳にもいかないでしょうからねぇー。それにしても私から引き剥がされるアンタが格好良かったのなんの~!私に手ェ伸ばして、ハリウッドばりの動きだったわよ、あれ」
「うおおおおっ、消したい!今すぐ記憶からすっ飛ばしてしまいたい!バカか俺は!何だ辛いって!?死んだ方がマシて!?今こそ正に死にたいわ!」
「いやー、もう感動のあまり涙が出ちゃう。もう一回聞こう、これ」
『そんなの俺は、辛い。死んだ方が、マシだ』
『辛い。死んだ方が、マシだ』
『死んだ方が、マシだ』
『死んだ方が、マシだ』『死んだ方が、マシだ』『マシだ』『マシだ』『マシだ』
「死ね!今すぐお前が死ね!塵にしてやる!!」
「きゃー、こわー。折角、染め直したのに台無しになっちゃう~」
「っさいわ、ボケ。大体なんだこの変な黒色。地味色ブームでもきてんのか」
「ほっといてよ。乙女心の分からないヤツ…」
「ハァ?なんだよ?」
「分かんなきゃいいっての」
「ふーん?で、これマジで出していいのか?正直、一番載せられないものだと思ってたんだが」
「いいのよ、別に。何と言われようがこの時の私の気持ちだって嘘じゃないし、これで何かが変わるかとか期待してるわけじゃ無いけど、そうね、むしゃくしゃしてるのよ、今も。だからこれも一つの憂さ晴らしよ。少しは怪獣の辛さを分かれー!って感じのね」
「またそんな槍玉に挙げられそうなことを…本を出すのは俺なんだぞ?監修の人にも迷惑がかかるかもしんないのに」
「何?パンクしそうな時は協力するって言ったのは嘘なの?」
「それとこれとは訳が、ああ、もういいよ。責任は取るよ、じゃあ」
「いいわよ。何か言われたら、私が言い返すわ」
「え、マジかよ」
「何を言われようが関係ないわ。私達に文句が言えるのは私達の気持ちを分かる奴だけ、つまり喋れる怪獣だけよ。人間から何言われたってびくともしないわ」
「じゃあ怪獣に言われたらどうすんだよ?」
「その時は二人で、ぶっ倒しにいきましょ」
「俺を巻き込むなよぉ!」
「いいじゃーん、もう一蓮托生じゃないこの際。あ、そうだ。その時はマメハチも一緒に連れて行こー。あの子素直だからしっかり活躍してくれそう!」
「やめろぉ!貴重な癒し系に何てことをさせようとするんだ!やっぱり駄目だ!お前はここで消し飛ばす!俺も死んでやるから安心しろ!」
「わぁ、素敵。でも死ぬのはアンタだけだよぅ。毒殺してやるからー、けけけ」
「―やれやれ、相変わらず何やってんだい君らは―」
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