報告書.14
7月12日
かねてよりオファーが来ていたゲーム出演についての打ち合わせ。
海外の会社とのやり取りになる為、通訳の平田さんが来てくれた。
以前一緒に仕事をした時からは随分間が空いたが、元気そうで何より。
聞けば70歳になったらしく、確かに白髪と顔の皴は年齢を感じさせるものの足腰はしっかりしており、話し方も紳士然としたダンディーさを醸し出していた。
しかもこの歳になっても海外のゲーム会社との打ち合わせという専門用語が飛び交うであろう話にもばっちりついていけるというのだから大したお爺様だ。
たまに平田さんの昔の話を聞く事があったが元々好奇心旺盛な性格だからか、どの話題もバラエティに富んでいて時間が許すならずっと聞いていたいくらいだった。
歳を取ったらこんな人の様になりたいものだが、怪獣の身で果たしてどこまで生きれるかどうか。
話が脱線したので本題に戻る。
今回は私の3Dモデルのお披露目とそれについての意見交換が主な目的だったが、開始早々なにやら向こうの雰囲気が良くない。
話を聞いてみるとどうやらパブリッシャー側(企画)とデベロッパー側(開発)で対立があったらしい。
その内容はゲーム内での私の『強さ』をどうするかという事だ。
今回コラボレーションするゲームは戦車を操作して戦う勝ち抜きゲームであり世界各国の多数の機体がエントリーされている。
その中に、ある種のお遊び要素として私が加わる事になったわけだが、何とこの決定がそもそもの対立の始まりだったらしい。
リアルな戦車対戦を追求するつもりだった開発側に、派手で旨みのある宣伝を打ちたい企画側からコゲラ参戦を告げられた時は数時間に及ぶ口論となったらしい。
結局開発側が折れて資料を基に私のモデルを作ってくれたらしいが、そこへさらに企画側から私のゲーム内での強さを上位に設定しろとお達しが来て、いよいよ開発側が暴動を起こさんばかりに激怒したそうだ。
何度も書いてきたが私の体重は10トンと10メートル級の怪獣にしては軽い方だ。
しかもそこまで筋力があるわけでもないので仮にリアルさを追求したら、私は戦車に轢かれて吹っ飛び、あっさり瀕死状態だ。
あらゆる能力を駆使しても戦場を縦横無尽に駆け回る戦車に勝てる程じゃない。
だが折角のゲストユニットを弱キャラ設定にしては後々の酷評は目に見えている。
多少現実を無視しても目玉となる要素にしたいという企画側の意図も理解できる。
そんなわけで向こうの雰囲気は最悪もいいとこだった。
平田さんも時々、翻訳に困っていたようで開発側が何か喋る度に頭を抱えていた。
恐らく私に対して放送コードに引っかかる類の言葉を言っていたのだろう。
その辺りは上手くぼかしてくれたが、ニュアンスや単語で大体は分かった。
3Dモデル自体の出来は素晴らしく、特に修正指示も無いから頑張ってくれと伝えると、短い舌打ちと形だけの礼を言って開発側の人間は画面外へ消えていった。
その際も向こうでは怒号が飛び交っていたが、特に気にしない事にした。
企画側の人間から丁寧な謝罪を送られたが、なるべく現場の人間を尊重してあげてと言うと苦い顔をされた。
意見交換が終わり通信が途切れると、平田さんが大きくため息をついて久しぶりに疲れましたと零した。
私絡みの案件で余計な疲れを蓄積させてしまった。
健康を崩されないといいのだが。
資料を片付けている時も、お互いに大変ですねと笑って他愛もない話を続けた。
気分を変えたかったので大いに助かった。
どの人々も全力を尽くしたいからこそ頑張るわけだが、その方向が必ず同じであるとは限らない。
だから喧嘩が起こる。
人との交流が減った私としては久しぶりに見た対立だったが、人が大声で罵倒し合う姿を見るのは、やはり見ていて気分が悪い。
昔から嫌いな状況だ。
取り敢えず平田さんにはゆっくり休んでいただいて、向こうのゲーム会社さんも、もう少し当人たち同士でじっくり話し合って貰いたい。
たとえこの話が白紙になったとしても手を取り合えたならそれが一番良いと思う。
追記:
ゲーム会社さんから謝罪コメントが届いたらしい。
別に怒ってないよ、それより皆仲良くね、と返しておいた。
コメンタリ:
コ「現場と上の方っていっつもこんな感じですよね~」
は「まあ私達はまだ良い方だけどね。言っちゃえば私たちの仕事って国防だから、上が渋ったせいでトラブルが起きましたーってなったら大問題だもん。そのおかげで意見は通りやすい。まあ予算に関してだけはシビアだけど(笑」
コ「誰にとってもお金は大事ですからねー(笑。あれ、ていうかこの時に作ってたゲームってリリースされたんですよね?ってことはどのタイトルのことか分かっちゃうんじゃないですか?守秘義務とか大丈夫ですかね」
は「大丈夫じゃないのー?明言はしてないし、昔のことだし。まあ、たまにはこんなこともありますよーってくらいだよ」
コ「じゃ、いいですかね。まあ皆さんも極力仲良く過ごして下さい。私から言えるのは、そんくらいのもんです」
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