報告書.6
6月9日
怪我の療養の為、自室の格納庫で大人しくする日々。
激しい動きが出来ない為、トレーニングもNG。
見たいと思っていた海外ドラマや映画を流し続けるが流石に連続は疲れる。
だらだらし過ぎるのは後ろめたさや精神的な疲労が溜まってよろしくない。
少しは脳を動かしてみようと博士とアプリのオセロをやりつつ(タブレットを手に入れてから対戦遊技がとてもスムーズになった、助かる。)昨今の怪獣事情についての意見交換をしてみる。
まずゴリタンの移送先が決まったらしい。
以前から怪獣の研究をしている施設が受け入れ先になったらしく、敷地も広いので伸び伸びと暮らせるのではないかと博士も太鼓判を押している。
ちなみに前に住んでいた怪獣は残念ながら病気で亡くなったらしい。
怪獣と言えども体調不良とは無縁ではいられない(それこそゴリタンも栄養失調で餓死寸前だった)上に、既存の生物に似通っているようで常識から外れている体質を持つのが殆どなので打つ手が見つからないまま死に至るのはままあることだ。
かく言う私も言葉が通じていなければ治療方法が分からず死んでいたな、と思うことが数回あったので自我やコミュニケーション能力、そして何より優しい職員の方々に恵まれたことは本当に幸運だった。
現代において怪獣が命を全うできるかは様々な条件のクリアを必要とする。
いかに法律で生け捕りや保護が第一とされていようが、その時の状況次第で取るべき手段はころころ変わるのだ。
発見された時点で駆除されるか、私に駆除されるか、移送先で暴れるので駆除されるか、人間社会で生きていく以上、常に付きまとう話だ。
私だって時代が変わればあっさり駆除されるかもしれない。
覚悟が出来ているわけではないが、適度に諦めを持ちつつ生きているのが現状だ。
怪獣と人間が真の意味で共存するには、それこそ原始時代にでも戻らないと不可能かもしれない。
そんなことを博士に話すと、ちょっと悲しい顔をされた。
頑張ってくれているのに暗い話題をしてしまって申し訳ない。
博士も私に対するネガティブな意見が届かないように苦労しているのだろう。
SNSへの登録も勧めてはきたものの積極的でない辺り、私のネットでの評価はなんとなく想像出来る。
そこまでメンタルが強い方ではないのでそういったものを極力見ないようにしているが、完全にシャットアウトしてしまうと世間と意見がズレかねないので悩み所だ。
だが今は取り敢えず身近で大切にしてくれる人への感謝を忘れずに過ごそうというミニマムな結論で気持ちを固めることにした。
移送予定日までに怪我が治っていれば見送りにいけるかもしれないが下手に未練を残すのも良くないかもしれない。
ゴリタンは私の写真や動画を見るのがお気に入りらしい。
食事を与えたことで仲間だと思われているのだろう。
それで気持ちが安定しているのなら余計な刺激は与えない方がいい。
ともかくゴリタンの未来がより良いものになる事を祈っている。
次にグニャーについてだが、正直今は思い出したくない。
心身共に疲れさせられた相手だ。
被害の復興状況も気になるが、現段階での死者は確認されていないらしい。
出来れば怪我人も出したくなかったが。
グニャーがどういう経緯を辿って怪獣化したのか、ということについては博士も知らないそうだ。
情報が出揃ってない上に、そもそも機密扱いだろうから期待はしていない。
知ったところで私に出来る事は何もないわけだし。
仮にあそこに住んでいたのが家族で、その内の誰かが怪獣になったとしたら。
親しい人に言葉も意思も通じなくなった、その事実を受け止めきれるのだろうか。
想像上の存在に想いを馳せるのは意味がないかもしれないが、思考の放棄は他者への無配慮に繋がりかねない。
怪獣の背景には何かが必ずある事を忘れないでおきたい。
グニャーは現在、収容船で超音波発声器官に処置を受けて拘束されているらしい。
かろうじて効き目のある睡眠ガスがあったらしく、それらを駆使しながら落ち着かせているようだが研究が困難であれば駆除となるだろう。
そうでなくても私のように再生能力が高ければ、器官再生防止の為に金属板を埋め込まれることは間違いない。
よく残酷だと槍玉に挙げられるが、戦った身からすると仕方ないとしか言えない。
何度も繰り返して言っているが人間社会において自然のまま野放しというのが怪獣の命を一番縮めることになるのだ。
『怪獣保護』というのは優しさだけでは決して成り立たない。
私自身を守る為という意味でも、この考えを覆すことは無いだろう。
博士も直接的な明言は避けているが、同じ考えだと思う。
久しぶりに真面目に意見交換が出来て、とても有意義な時間を過ごせた。
冒頭で退屈と述べたが、こういった平和な日々が続くのがやはり一番良いことだ。
追記:
オセロは全敗した。
地味に悲しい。
コメンタリ:
は「この時期、立て込んでたから久しぶりにホッと出来たよね」
コ「他の予定が中止とか延期になっちゃったのが申し訳なかったんですけど、気持ちの整理という意味では良い時間を過ごせたかなと思います」
は「そうだねぇ。あー、私も結構、怪獣に対してドライだって言われるけど、要はこういうことだからねぇ」
コ「やっぱ、そうですよね。例えばですけど熱光線出す奴が、そこら辺のスーパーに来ちゃ、そらぁ駄目でしょって。私の方が『無理!』ってなっちゃいますもん」
は「言いたくないけど、そこは、ねぇ…ふふふっ、ごめんオセロで笑っちゃった」
コ「未だに博士に勝てませーん(笑」
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