報告書.12

 7月8日

 ゴリタンの移送先からメッセージ動画が届いた。

 移送の日は色々と理由が重なって結局見送り出来なかったので、顔を見るのは久しぶりだ。


 映像は向こうの研究員の方のナレーション付きで編集されており、ちょっとした短編ドキュメンタリーとも言えるクオリティのものだった。

 特にテレビ会社のクレジットも無かったので恐らく映像制作が趣味の人が凝りに凝ったのだろう。

 思わず感心してしまう程だった。

 ウチの基地にもやたらオーディオ機器の扱いに詳しい研究員がいて私を撮りたがっていたのを思い出す。

 返事用に作る映像の撮影を頼んでみることにしよう。


 画面の中でのゴリタンは伸ばし放題だった体毛もきちんと整えられて体格も以前に比べて太くなっていた。

 動きこそ少ないものの表情は柔らかく、遊具で遊んでいる様子を見るにリラックスして過ごせているようだ。

 向こうの研究員とも上手くやっているようで一安心だ。

 説明によると言葉こそ喋れないものの高い知能と判断力を有しているようで、もう少し落ち着いたら手話によるコミュニケーションを試みるそうだ。


 世界でも成功例がいくつかある方法なので時間はかかるかもしれないがゴリタンなら上手く習得出来るのではと期待している。


 最近は私の映像を積極的に見ようとはしなくなったようだ。

 少し寂しいが、それだけ今の生活が楽しいということだろう。

 喜ばしい話であり、ゴリタンの傍で見守ってくれているであろう研究員の方々に感謝と労いの言葉を送りたい。


 それから昨日のマメハチとの訓練動画の一部が参考資料として送られてきたので、そちらもチェックする。

 トレーナーさんからのコメントも添えられており襲われた時の体重移動や体勢変更の遅さが気になったそうだ。


 反射神経や筋力には現状問題はないので、単純に量をこなして覚えるしかないとの結論だった。

 私としては筋肉の少なさが気になるのだがそこは逆に意識しすぎらしく現在の体格が安定しているそうだ。


 映像を見ていくと最初こそきちんとした訓練だったのだが後半になるにつれて私がただマメハチとじゃれているだけの動画ばかりになりコメントも段々可愛さをアピールするものになっていったので頭を抱えた。


 こっちは真面目に見ているつもりだが、まあマメハチが可愛いので許す。

 後でこちらにもメッセージを送っておこう。

 彼の方は相変わらず私の動画を見ると喜ぶらしいので、今度お手玉でも覚えて、その様子を楽しんで見てもらおうかとも考えている。


 最後にウェンズデーのところからも映像が送られてきた。

 彼女も、ある意味いつもと変わらずだ。

 頭を抱えて憂鬱そうに哲学的な事を呟いていたが、まったく内容が頭に入らず途中で眠気が襲ってきたので一旦停止。

 筋トレ中のBGMにでも使う事にする。

 

 博士によると何故かマニキュアセット(怪獣サイズ)も一緒に送られてきたらしく、再び頭を抱えた。

 寧ろ今欲しいのは頭痛に効く薬だ。


 ウェンズデー曰く『体毛が無いなら、せめて爪くらいお洒落しなさい』とのことだが、申し訳ないがそのような習慣はこれまでも今後もない。

 再三言っているが余計なことに予算を使わないで欲しいものだ。

 ただでさえ全てがサイズアップして金が掛かると言うのに。

 返信は暇な時でいいだろう。


 以上の、映像確認を含めて事務作業というか、今日は座り作業が多かった。

 昨日、散々訓練で動き倒したから疲労回復には丁度いい。

 それにしても怪獣になってから人間、怪獣ひっくるめてバラエティに富んだ出会いを多く経験しているものだ。

 

 まだ人生を振り返るほど歳を重ねているつもりはないが、それでも面白い一生を送っていると思う。

 願わくばもう少し平和であって欲しいところだが。


 追記:

 返信用の映像は纏めて撮る事になった。

 ウェンズデーには何を言えばいいんだろうか、困った。



 コメンタリ:

 コ「下手に言葉が通じるのも困りものですね」


 は「?…ああ、ウェンズデーのこと?」


 コ「はい。適当なこと言ったらバレますし、彼女は特にそういうの嫌ってて」


 は「話が出来るからって、ちゃんとお互いに理解してないと通じ合った事にはならないのは人間でもそうだね。結構そういう経験あるなぁ。偏屈なの多いからさー、この業界は」


 コ「割と博士も偏屈な部類ではあると思いますけどね(笑」

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