報告書.11
7月7日
七夕。
基地内に飾る短冊の願いを私も提出する。
特に欲しいものが思いつかなかった為『筋肉増量』と書いたら少しは真面目に考えてくれと回収しに来た隊員の方に呆れられた。
細身の自分としては割と真剣悩みなのだが、こればかりは自分にしか分からない事なので仕方がない。
その後、定期戦闘訓練の為、別の基地へ移動。
毎回空気が薄くなる感覚に陥る為、そこそこの高地ではと予想している。
検索すれば場所を特定できるかもしれないが、大事なのはどこなのかではなく何をしたのかなので余り気にしていない。
トレーラーから降りると、天気は曇り。
だだっ広いコンクリート打ちっぱなしの床に、格納庫が幾つか。
戦闘機もなければ常在している隊員と思わしき人なども見受けられない為、閉鎖されたか、あるいは訓練用に作られた専用スペースかもしれない。
いつもの『相手役』であるマメハチは既に到着しており大人しく座っていたが、私を見つけると一目散に駆け寄ってきて跳び付いてきた。
見た目だけでなくこういうところも犬っぽいのは相変わらずだ。
久しぶりに会ったので少し長めに撫でてから訓練を開始した。
ちなみに藤戸さんも同行しており、じゃれている姿をばっちり撮られた。
手袋と靴の着用はいつも通りだがマスクのみ例の低酸素マスクに換えてみる。
ただでさえ酸素が薄い中でさらに自分を追い込むことになるが、実戦ではバッドコンディションでの戦いを要求されることもある。
少しでも危機的状況に慣れておくことが大切だ。
まずは私の格闘訓練から開始。
序盤はマメハチのタックルに対しての受け流し、そして受け止め。
次に組み伏せられてからの脱出と、抑え込みからの拘束を何度も繰り返す。
それからランダムで全方位から飛びかかって貰い、体捌きと技をかける練習だ。
反省点として制限付きだからとはいえ、今日はやたらとマメハチに引っ繰り返されることが多かった。
筋肉量は落ちていないはずだから単純に向こうが強くなったのかもしれない。
とはいえ、抑え込むための力と技術をさらに身に付けなければならない。
グニャーの一件もあり最近は改めて近接格闘術の必要性を意識している。
怪獣は強さでねじ伏せればいいという考えは残念ながら現実では通用しない。
映画は好きだが実際に戦うとなると怪獣プロレスで済ますわけにはいかないシチュエーションが多々あるのでこういった時に多種多様な技を体に馴染ませておく。
短冊に書いた『筋肉増量』もそういった危機感から出た気持ちだ。
決して貧弱とまでは思わないが、それにしたって私は軽すぎる。
いつか腕の長い怪獣などが現れたりした場合、投げ飛ばされるかもしれない。
想像の範疇でしかないので考えるのは無駄かもしれないが、いざという時に対応できるようにはしておきたいものだ。
最後はウレタンを建築物に見立てた模擬戦を行い私の訓練は終了した。
結果は、町を半壊させてしまった。
というかマメハチは好奇心旺盛で色んなものにすぐに飛びつく癖がある上にパワーがあるので、本気で抑え込んでも動きを止めるのに苦労する。
聞き分けの良い子で本当に良かったと心底ホッとする。
休憩を挟んで今度はマメハチの訓練、改めレクリエーション。
巨大フリスビーを投げると一目散に駆けていき空中キャッチして戻ってきた。
撫でると目を細めて顔を緩ませる様は、どう見ても飼い犬のそれだが仮に直立すればサイズは私くらいあるので、れっきとした怪獣だ。
悪意はなくても放っておけば必ず何かしらのトラブルを起こしてしまうだろう。
かと言って大部分の生活を狭い部屋で過ごすのでどうしてもストレスが溜まる。
なのでこうして私と遊ぶのはマメハチの体調を管理する上でも重要な事柄だ。
そういえば以前マメハチの担当者さんから私がいてくれて本当に良かったと感謝されたが、私こそ感謝したい。
人間と遊ぶのは大変だからサイズ的に近くてコミュニケーションも取れる私が抜擢されたのだろうが、どんな理由であろうとこうやって一緒にいられて彼が喜んでいる姿を見ると自然と私も幸せな気持ちになる。
だから私もマメハチがいてくれて本当に良かった。
遊んでいる途中で雨が降ってきたので中止しようかと聞かれたがマメハチが構わず遊びたがるので続行する事にした。
少し体が火照っていたので冷やしたかったというのが本音だ。
折角なのでマメハチと並走してみたが当たり前だが追いつけず、遠くに行ったマメハチが、膝をついた私のところにUターンして跳び付いてきたので、またわしゃわしゃと撫でた。
水を含んだ毛は重たいがこれはこれで良い触り心地だった。
それから暫く遊んでから格納庫に入って水を拭き取る。
が、途中でマメハチが体を震わせて大粒の水滴が爆発の様に飛び散って私を含めた皆に降りかかったので、さらに時間を費やした。
というか割と凄い勢いだったので怪我した人がいないか心配だったが、コケた人はいたものの特に怪我は無かったそうだ。
安心したが今後、同様の状況に遭遇した場合の事を考えておきたい。
ちなみに藤戸さん的にはかなりの撮れ高があったそうでベストショットだと自信を覗かせていた作品をありがたいことにデータでいただけた。
後で確認してみると雨の中でマメハチを抱きしめているところで、私の背びれから湯気が昇って、それが羽のように見えた。
えらく格好良く撮られてるので、博士と一緒にちょっと笑ってしまった。
藤戸さんに感謝である。
名残惜しさは残るものの、マメハチとの共同訓練は終了し、寂しそうな顔をした彼を見送った。
色々と得られることが多い訓練なので今後も続けていきたいが、何よりも彼の笑顔を見るのが楽しみなので、私も頑張っていきたいと思う。
追記:
藤戸さんから『ついでだから』とマメハチの写真がいっぱい送られてきた。
可愛い。
コメンタリ:
は「我々のアイドル、マメハチくんですよー」
コ「いやー、可愛い。ホントに可愛い。彼を撫でられるの、すんごい幸せ」
は「いいなぁ、それ出来るのー。話の中にも出てきたけど実際、君の写真集の中で、この時のマメハチくん抱いて湯気昇ってるのがダントツで人気だもんねー。藤戸さんの怪獣写真集第二弾が彼なのは納得だね」
コ「早く見たいなぁー。ちなみにタブレットの壁紙はこの時に貰った写真です」
は「公式サイトでもいくつか配布してるから気になった方は是非!(宣伝」
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