第48話 残った者者
「……ごめんなさい。残っちゃいました」
魔力を使い果たして額に大粒の汗を浮かべたリリが、悔しそうな表情を見せる。
3軍が入り乱れてた城跡に残ったのは、第1王女のクリナただ1人。
それに1部屋残ったって言っても、壁は無数の穴があいてボロボロ。
開幕の合図には申し分のない威力よね。
「大丈夫よ、良くやったわ。さすがは私のリリね。それに彼女の性格なら……」
1度言葉を切ってクリナがいる小屋を眺める。
すると大きく開いた穴から、降伏を示す白い旗がぴょこりと出てきた。
クリナの魔法は周囲を強くさせるもの。
すべての騎士を失えば、どれほど堅ろうな城を築いても仕方がないのよ。
「それにほら、貴族たちがお葬式みたいよ? 良い気分じゃないかしら?」
「え??」
キョトンとした表情を見せたリリが、周囲に目を向ける。
熱気に沸いていた会場は、いつの間にか不思議な静けさに包まれていた。
「ひっ……!」
「今の魔法をへいみ――彼女が……?」
私たちをバカにしていた声も、兄弟たちをほめたたえていた声も、いまはすべてが消え去っている。
バカな貴族たちでも、私のリリのすごさがわかったみたい。
「さてと、次は私たちの時間ね。リリは観客たちに手を振って休んでいてちょうだい。そうね、最初は平民、平民、って言い続けてたあの男爵なんてどうかしら??」
そう言って肥え太った第2王子指示の男爵を指さしたんだけど、呆然としていたその男が突然飛び上がって、顔を青くした。
「いや、我は――ひッ!! ……どっ、どけ!! 領地で急用が……!!」
何か言いかけた男が、リリを見て席を立つ。
自分より身分の高い者すら押しのけて、会場を飛び出して行った。
何事かと思って隣を見たんだけど、彼女は天使のほほ笑みを浮かべて手を振っていたみたい。
「ふふっ。逃げられちゃいました」
「あらあら、急なお手洗いかしら?」
そこまでおびえるのならリリのことをバカにしなきゃ良かったのに。
ほんと、貴族って面倒な生き物よね。
「さてと。残るのは第1王子だけなんだけど……」
仲間たちに視線を向けてどう攻めようかと頭をひねっていたんだけど、先に向こうが動いたみたいね。
すべての騎士を連れて第1王子がゆっくりとこちらに向けて歩いてくる。
王子は悠々と1番後ろを歩いていて、先頭には見覚えのある1人の男がいた。
それはいつの日か、ジニを部屋の隅に追い払っていた男。
「ミリ様。ボクが出てもいいだろうか?」
「えぇ、それでいいわ。向こうもそのつもりみたいね」
王子をはじめとした全軍が止まり、先頭の男だけが前に進み出る。
「今までの思いをすべてぶつけて来なさい。あなたなら出来るわ」
「……承知した」
コクリと首を縦に振ったジニが、男の前に進み出た。
腰の剣を抜きながら、男がジニに鋭い視線を向ける。
「逃げずに来たか。その度胸だけは認めてやろう。だがな。雑魚は雑魚らしくしてればいいんだ。軍の足並みを乱すな」
「残念だけど、ボクは雑魚じゃない。それを今から証明しよう」
「ふん。粋がったことを後悔させてやる」
ジニも腰に刺さった剣を抜く。
なんの前触れもなく、2人が同時に地面を蹴った。
だけど、足に魔力を集中させたジニの方が速いみたい。
驚きに目を開いた兵士長が足を止めて、2人の剣が交わった。
「……貴様、何をした?」
つばぜり合いに顔をゆがめながら兵士長が問いかける。
ジニの方はゆとりがあるわね。
「姫様から力の使い方を教わっただけだ。彼女はボクの力を引き出してくれたよ。あなたと違ってね」
「ちっ!! ふざけるなよ!!」
いらだたしげに声を荒げた男が剣を押し返す。
力を受け流すように後ろに飛んだジニが、次は全身に大きな魔力を流し込んだ。
今日までの数週間で増加させた魔力をすべてつぎ込んで、一般人でも見えるほどの魔力が彼女の体をまとう。
「なんだ、その力は……?」
「さっき言っただろ? ミリアン様が見つけてくれたボクの力だよ」
不敵にほほ笑んだジニが一瞬にして兵士長との距離を詰めた。
上段から振り下ろしたジニの剣を兵士長が受け止める。
次いで繰り出された突きを兵士長が弾いた。
――その瞬間、
「なっ!?」
ジニの全身を覆っていた魔力すべてが、剣の方へと流れ込む。
剣と剣とが交じり合い、心地の良い音と共に兵士長の剣が2つに折れて、切っ先が地面に刺さった。
その勢いを保ったまま、ジニの剣が兵士長の甲冑を切り裂く。
「明日からはあなたが部屋の隅に行くようだ」
清々しい笑みでホッと息を吐いたジニの前で、兵士長の体が光の粒になって消えていった。
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