第12話 実力と杖

 魔法使いらしいローブと大きな帽子を身につけたリリが、1メートルくらいの杖をギュッと抱きしめる。


 つえの先に詰め込まれたピンク色の魔石をキラキラとした瞳で見つめていた。


 せっかくここまで来たのだからと、私の平民服と2本の短剣もお買い上げ。


「それじゃぁ、帰りましょうか。魔法の練習に寄り道するわよ?」


「かしこまりました」


「はい! よろしくお願いします! ってぇええええ??」


 5体のマッシュに驚くリリを大きな葉の上に載せて、秘密の抜け道を森の方に向かう。


 真っ暗な通路におびえていた彼女も、森に出る頃には慣れてくれたみたい。


「こんなすごい通路を使えて、5体も召喚出来るなんて、ミリ様はすごいです!」


「んー、まぁ、どっちもたまたまと言うか、気が付いたらそうなってたのよね」


 地下道は誰が作ったのかもわからないし、なぜ私の部屋につながっているのかも分からない。


 マッシュが増える原因も不明ね。


 そのおかげでこうしてリリとも出会えたのだから素直にうれしく思うけど、私の力じゃないのよ。


「マッシュー、出ておいでー」


「わっ、6体目……」


 驚くリリを尻目に6体のマッシュを横1列に並べて、さっき買った2本のナイフを渡してあけた。


「1番くんと2番くん、3番くんと4番くんの2人ペアで周囲の散策をしてきてくれるかしら? 1本ずつナイフを持っていってね。5番くんと6番くんは、ここに残って周囲の警戒ね。良いかしら?」


「「「きゅ!」」」


 番号で呼ぶのもどうかな、って思ったのだけど、さすがに全員に名前をつけることなんて出来ないし、全員がおんなじマッシュなのよね。


 1番の場所に居たマッシュくん。2番に居たマッシュくん。

 そんな感じでお願いするわ。


 2組に分かれたマッシュが森の中に消えていって、残る2体が別れてちょこんと座ってくれた。


「勝てない敵がいたら、無理せずに返ってくるのよー?」


「「「きゅー!」」」


 ガサゴソって動く草村に声をかけたら、気負いのない鳴き声を返してくれた。


(魔力は大丈夫そうね。昨日頑張った成果かしら)


 自分の中にある魔力は朝からずっと満タンで、6体を召喚しても減ってないみたい。


 今までは頑張っても仕方がなかったんだけど、こうして成長が実感出来るのなら、トレーニングも悪くないわね。


「さてと、リリの指導を始めるわ。水や風は使える?」


 炎や雷だと火事が心配だったからそう聞いたんだけど、リリの表情が凍りついちゃった。


 視線を落とした彼女が弱々しい声で言葉を紡いでくれる。


「属性魔法はどれも使えなくて……。出来ることは魔力をぶつけることだけなんです」


 魔力をぶつける? はじめて聞く表現ね。


「んー……、とりあえずは見せてもらえるかしら?」


「はい……」


 戸惑いながらも杖を草の上に置いた彼女が、足を肩幅に開いてゆっくりと目を閉じた。


 両手が正面に突き出されて、そこに尋常じゃない量の魔力が貯まっていく。


「行きますっ!」


 小さく目を開いた彼女の手から、信じられない量の魔力が吹き出して、大きな風が生まれた。


 横にいるのに立っていることさえつらくて、正面ににある木なんて粉々に吹き飛んでいる。


 大きな石も砕けて、地面がえぐれる。


「ストップ! ストップ、ストップ!!」


 私が慌てて声をかけると、魔法を解除してくれたのか、風が一瞬で止んだ。


 開けた視界に、えぐれた地面。


「はっ、はっ、はっ、はっ……、私が使える、唯一の、まほう、ですね。はっ、はっ、はっ……」


 膝から崩れ落ちたリリが、肩で大きく息をしていた。


「あおむけになって、ゆっくりと休みなさい。いま水を持ってきてあげるわ」


「ありがとう、ございます……」


 地面に横たわった彼女の元にマリーが駆け寄って、ポーションを飲ませていく。


 青白くなっていた彼女の顔色が、少しずつ良くなっているように見えた。


(すごいものを見たわね。私が今のをやろうとしたら、1秒も持たないわよ?)


 本人には決して言えないけど、今のは魔法じゃない。


 体内に圧縮してあった魔力を手のひらから放出しただけね。


 もし私が同じことをしたら、普通に死ぬんじゃないかしら。


(おそらくだけど、圧縮量はマリーを超えるわね。毎日のように今のワザを使って、死にかけていたんでしょう……)


 初級の魔法なら100発同時展開。


 マッシュの召喚なら1000体を同時に出現させるような物で、ハッキリ言えば無謀なのよ。


 だけどそのむちゃを今日まで続けていたからこそ、ここまでの魔力量に育ったんじゃないかしら。


「現状は理解したわ。まずは初級の魔法からね。あなたならきっと今日中に使えるようになるわ」


「本当ですか!? 頑張ります!」


 マリーに支えられながらもうれしそうに目を見張る彼女に、私に任せなさい、と大きく胸を張って見せた。

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