第13話 増えるスピード
リリと肩を並べて、森を見る。
人差し指に魔力を集めて絞り出したら、小さな光の球がフワリって宙に浮かんだ。
「これが光の初級魔法ね。洞窟の中とかだと重宝するわ。まずはこれから始めましょうか」
「はい!」
私の言葉を受けて足を肩幅に開いたリリが、真剣な表情と共につえを構える。
衣装もつえも買ったばかりなんだけど、なんとなく馴染んで見えた。
(魔法使いだったって言うお母さんの姿をまねているのかしら)
なんて思いが頭を過るけど、聞いても仕方がないわよね。
「とにかくリラックスをするの。魔力を一気に放出するんじゃなくて、つえの中にためる感じね。出来るかしら?」
「がんばります……」
不安げな声と共にリリが瞳を閉じて、魔力を操作していく。
彼女の中に圧縮されていた膨大な魔力の一部が、その手を通じてつえの中に吸い込まれていった。
「良い感じよ。それじゃぁ、先端に付いている魔石から、ほんの少しだけ魔力を取り出して見ましょうか。さっき私が見せた光の玉を思い出しながらね」
「はい……」
不安げな返事をした彼女の額には、大粒の汗が浮かんでいて、両手にも心なしか力が入っているように見える。
焦りや力みは、失敗のもとなのだけど、ギリギリ大丈夫かしら?
「お願いします……」
懇願するような声と共に、リリが持つ杖の先から光の玉が飛び出した。
私の出したお手本と比べると、大きさは5倍くらいで形もいびつ。
だけど、初めてなら上出来だと思う。
「目を開けていいわよ?」
恐る恐ると言った様子でうっすらと目を開いたリリが、宙に漂う光の玉を視界に入れた。
「……出来た。出来ました!!!!!!」
うれしさを爆発させた彼女が、両手を大きく広げる。
思わずと言った感じで、私に抱きついてくれた。
「すごいです! 頭痛も吐き気もないです!!」
「リリは優秀ね。次は制御の練習をしましょうか」
「はいっ!! よろしくお願いします!」
彼女の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。
そんな彼女の後ろ髪を両手で包み込んで、ギュッと胸の中に抱きしめた。
「わぷっ!」
「私も制御は苦手なのよね」
なんて言いながら、片手で自分の目を覆い隠す。
――その瞬間、
まぶたの裏を焼くような強烈な光が周囲を覆った。
一瞬の後にゆっくりと目を開ければ、浮かんでいた光の玉が消えている。
「さすがの魔力だわ。接近戦の中央で今の魔法を使ったら、敵味方関係なく戦闘不能でしょうね」
手で覆い隠してもまぶたの裏に感じたほどの光を見たら、数分は何も見えなくなるのよ。
今の魔法を意図的に作り出せるのなら、強力な戦力になるわね。
「同じことを炎の魔法で行えば、大規模な被害を与えられますね。貴族ではなく軍部に取られる可能性が急浮上しました」
「あいつらなら問答無用で奪いかねないわね」
「もし火の玉で練習していたら、今頃ここは焼け野原ですね」
「風なら街まで飛ばされたかもしれないわ」
晴れやかな笑みで物騒なことを言うマリーに、私も負けじと凶器的な笑みを浮かべて見せた。
「あの、えっと、ごめんなさい……」
先ほどとは違う理由でうっすらと涙を浮かべたリリが、深々と頭を下げる。
その小さな体をもう1度抱きしめて、ふわふわの髪を優しくなでてあげた。
「大丈夫よ。むしろ上出来ね。私が初めて魔法を使った時なんて、1ヶ月近く何も出なかったんだから。誇って良いわよ」
そうして私がリリを慰めていると、マリーの手も伸びて来る。
「魔力を取り出せることだけでもすごいことなんですよ? リリさんには才能があります。後は焦らず、ゆっくりと覚えてみてください」
リリの髪をなでるマリーの瞳には、少しだけさみしさのような物が入り交じっていた。
これで反省会はおしまい、ってことで私がパチンと手を叩く。
「それじゃ、制御の練習を始めるわよ。マリーと私は魔力増加の訓練をしているから、リリは光の玉をずっと浮かべていられるように頑張ってみて」
「ずっと……、わかりました! がんばります!」
グッと手に力を込めたリリが、気合いの入った声を返してくれた。
んん~、とうなりながら魔力を操作する彼女を尻目に、葉っぱを敷いて腰を下ろす。
「マッシュ、おいでー」
周囲の警戒を頼んでいた1体を呼び寄せて、膝の上に抱え込んだ。
フワフワのモチモチを抱きしめながら、体内の魔力と向き合ったんだけど、ちょっとずつ減ってるみたい。
流れ出す魔力は合計10本。
行き先を探ったんだけど、2組に分かれた彼らが、4体ずつに増えたみたいね。
なんとなくだけど、どの当たりに居るのかもわかるわ。
(あの子たちが増えるスピードに負けなように私も頑張らなきゃ)
そう自分に言い聞かせて、深い呼吸と共に意識を魔力の中に溶け込ませる。
自分の中の魔力を増やすべく、お腹にギュッと力を入れた。
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