第14話 クリームたっぷりで

 枝の隙間から見え隠れする太陽が傾き始めた頃。


 森の中に行って貰ったマッシュたちが帰ってきてくれた。


「「「キュッ!」」」


「うん、みんな無事でよかったわ」


 今日の成果は、6体増加の合計12体。


 薬草を3本と、魔力の回復に効果のある青いリンゴ3つもあるみたい。


(結局、今日も私の負けね)


 なんて思いながら、6体の召喚を解除して、大きな葉っぱの上に載せてもらう。


 昨日は5体、今日は6体。


 私の魔力も増えているのだけど、明らかにマッシュたちが増える方が早いわね。


 今日もトレーニングルームに行かなきゃ、マッシュの増えるスピードに追いつかないみたい。


「リリ。光の玉をそのまま維持することは出来そう?」


「はい! がんばります!」


 そんなマッシュたちと同様に、リリも大きく成長してるわ。


 大きさは手のひらくらいにまで縮小出来ていて、継続時間も大幅アップ。


 次は動きながらの維持、ってことで、マッシュに乗せてもらっている間も彼女にはがんばってもらう。


(この葉っぱも3人だとちょっとだけ小さいかしら? 6体で頑張ってもらってるけど、持ちにくそうに見えるわよね?)


 額に大粒の汗を浮かべながら頑張るリリの隣に腰掛けて、周囲で頑張るマッシュに視線を向ける。


 専用の荷台でも購入しようか?

 いっそのこと、森に住んでしまおうか?


 さすがにそこまでは出来なくても、あの森に小さな拠点を造るのもありよね?


「ちょっと思ったんだけど、あの森に家を建てないかしら? ちょっとした休憩所には良いと思わない?」


「そうですね……。良い案だとは思いますが、我々だけでは不安が残ります」


 確かにそうね。本で得た知識はあるのだけど、それだけじゃさすがに無謀かも。


 人手は沢山のマッシュに手伝って貰うにしても、専門家は必要よね……。


「そこはあれかしら、ギルド長に斡旋してもらうとか?」


 他に候補もないし、薬草を売りに行った時にでも聞いてみようかしら。


 なんて思っていたら、街へ向かう分かれ道を通り過ぎた。


 これで残りは半分。


「昨日と比べて早くなったかしら? もうちょっとだから頑張ってね」


「「「きゅ!」」」


 足元から聞こえるマッシュたちの声は、普段よりも元気そう。


 その代わりに、前方を照らす光の玉が時折いびつに揺れていた。


「部屋についたらケーキと紅茶で休憩ね。リリも一緒にどうかしら?」


「けーき、……いいんですか?」


「もちろん。マリー、リリの分もお願いね?」


「かしこまりました」


 ケーキなどの甘みは貴族だけに許された贅沢品。

 飴とムチじゃないけど、真面目な彼女へのプレゼントね。


 マッシュたちへのご褒美は、魔力のおすそ分けなんだけど、さすがにこの人数相手だと厳しいのよ。


(それにしても、私の魔力が有効に使われる日が来るなんてね。これがうれしい悲鳴って事なのかしら?)


 最大量を増やしても意味なんてなかった3日前と比べると、すっごく楽しいわね。


 こんな日々がずっと続いてくれたら良いんだけどな……。


 なんて、無理な願いをぼんやりと思い浮かべていたら、私の部屋の入り口が見えてきた。


「それじゃ休憩ね。リリはベッドにでも腰掛けててくれるかしら?」


「はわっ! はっ、はひ!」


 突然ギクシャクとし始めたリリが、壊れたおもちゃのようにベッドに腰掛ける。


 私の部屋の様子に驚いているのか、恐る恐ると言った様子ながらも、彼女の瞳がキョロキョロと周囲を見渡していた。


「ベッド、ふかふか。お姫様の部屋だ」


 なんて言葉が、彼女の口から漏れ聞こえてくる。


 無能姫である私の部屋は、母違いの兄妹と比べると控え目なんだけど、それでも彼女には刺激が強かったみたい。


 そんなリリを尻目に、マッシュたちはテキパキと動き出していた。


 テーブルを拭く者、お湯を沸かす者、マリーが切ったケーキを運ぶ者。


「私の仕事のほとんどがなくなりましたね」


 あっという間にお茶会の準備が整って、苦笑いを浮かべたマリーが呼びにきてくれる。


 内側の扉の前にナイフを持った2体が警備員のように立っていて、私たちの背後に1体ずつ。


「「「きゅっ!」」」


 残りの子たちは敬礼のようなポーズをしたあとで、元の世界に帰ってしまった。


「……うちの子たち、ちょっと優秀すぎじゃないかしら? 私はそんなこと教えたりしてないわよ?」


「さすがはマッシュ様、と言う事ですね」


「…………まぁ、そう言うことにしておきましょうか」


 なんとも釈然としないけど、優秀なことは良いことよね。


 わからないことは1度頭から放り出して、お茶会の席に着く。


「リリ、今日の主役はあなたよ。遠慮なんてしなくて良いんだからね?」


「え? はい……」


 戸惑いながらもちょこんと席に座った彼女の前に、背後に控えたマッシュがすかさずナイフとフォークを差し出した。


「えぇっと……」


「大丈夫。そのまま、ガブッといっちまいな」


「はい……」


 見よう見まねなのか、幼い手つきでケーキにナイフを入れる。


 はむ、って小さな口にクリームを付けながら、リリがケーキを頬張った。


「おいしい……」


「でしょ? どんどん食べちゃって良いからね。明日も魔法の訓練だから、今のうちにいっぱい栄養を確保しとくのよ?」


「はい! がんばります!」


 とろけていた笑みも、魔法の訓練と聞いて引き締まる。


 結局その日は、ケーキを食べて終了。


 眠そうに目をこするリリを私のベッドに引っ張り上げて、一緒に眠ることにした。


 マリーのことをずっと姉だと思っていたのだけど、この子は仲の良い妹感かしら?

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