第16話 嫌がらせ以上の意味

 結局その後も、さっきのイライラが頭から離れなくて、終了の時間が来ちゃった。


(忘れたい事があった時は、やっぱり甘いものよねー)


 ってことで、自室に戻り、青いリンゴのパイを3人で頂く。


 ナイフやホークなんて使わずに、直接手で豪快に!!


 周囲の目なんて忘れて、大きなお口を開けて頬張ってみた。


「すごいです! サクサクのフワフワです!」


「あらほんとね。もしかすると、城の料理人が作るものよりもおいしいんじゃないかしら?」


 パイ生地もジャムもお留守番をしていたマッシュが作っていてくれたんだけど、これがほんとにフワフワのサクサク。


 リンゴのジャムもいい感じね!!


「魔力の回復効果も増えてますね。これも秘匿が妥当だと思われます」


「そんな感じよね。さすがはマッシュ、ってことで片付けて良いのかしら?」


 自分の魔力を見つめながらマリーに問いかけたんだけど、苦笑混じりの笑みだけが返ってきた。


 理由が特定出来るのならしてみたいけど、マリーでもさじを投げるレベルのならお手上げね。


 最後の望み、ってことで作り手のマッシュに目を向けたけど、彼は使った容器をバシャバシャと洗うだけで、答えなんてくれいみたい。


「お昼ご飯なんかも、マッシュに頼もうかしら? 出来る?」


「「「キュッ!」」」


 冗談半分に問いかけたんだけど、任せろって感じで胸を叩いてくれた。


 本当に素敵な子たちね。さすがは私のマッシュだわ。


 だけど今は、料理よりも部屋の警護が優先かしら。


「洗い物はほどほどにして、私たちが帰ってくるまで誰も部屋にいれないこと。お願いしてもいいかしら?」


「きゅ!」


「うん、よろしくね」


 元気に返事を返してくれたマッシュの傘をなでて、お昼の休憩は終了。


 私たちはいつものように葉っぱの上に乗って、秘密の通路に入った。


 残してきたのは1体だけだけど、もしこのままマッシュも魔力も増え続けるようなら、数体に増やして料理を頼むのもありよね?


 そんな事を思いながら、私たちは街に向かった。




 この前もらった鍵を使って裏口からギルド長の部屋に行く。


「ん~? あー、お姉ちゃん、いらっしゃーい。薬草の販売??」


 相変わらず子供にしか見えないギルド長が、可愛く手を振っている。


 前回私が勝ち越した事を気にしている見たくて、最初から黒い笑み全快なんだけど、組み合う気はないわよ?


「今日は2本ね。ついでに魔力の実もいいかしら?」


 王族の優雅な仕草で、薬草と青いリンゴを取り出してあげた。


 薬草もリンゴも、長期保存が出来るようにマッシュが乾燥まで終わらせてくれたみたい。 


「……うわぁー、またすごいもの持ってきたね」


 薬草よりも青いリンゴの方が貴重で見つかりにくい、って聞いたことがあるのだけど、ショタ長の反応を見る限り本当みたい。


「ん~。小金貨3枚じゃダメ?」


 結局提示されたのは、前回よりも1枚分高い値段。


 ショタ長の表情を見る限り、交渉の余地あり、って感じなんだけど、今日のメインはお金じゃないのよ。


「そうね。それでいいわ。その代わり、私のお願いを聞いてくれるかしら?」


「お願い? お姫様が?」


「えぇ、口の堅い大工をかしてほしいのよ。家を建てたいのだけど、私たちだけじゃ知識が足りなくて」


 あのときはその場の思いつきだったんだけど、やっぱり城に居るよりも森の中の方が気持ちがいいのよ。


 ショタ長なら顔が広そうだし、誰か居るでしょ、って思ったんだけど、人生ってそう簡単じゃないみたい。


「ごめんね。大工は無理かなー。そっちって、商業ギルドの担当なの。ボクが斡旋すると最悪戦争になるからねー」


 そんな言葉と一緒に、ショタ長が見た目に似合わないため息を吐いた。


「必要なら紹介状書くよ?」


 なんて言いながらギルド長が真っ白い紙を取り出してくれるけど、その手をやんわりと止める。


「そこまでは必要ないわね。出来そうならやりたいな、ってくらいの思いつきだから」


「そうなの? お役所仕事でごめんね……」


「いいのよ。ダメもとで聞いただけだから。でももし、良い人がいたらお願いね」


 さすがに商業ギルドのトップとまで知り合うのは、情報漏洩の観点から好ましくないのよね。


 仕方がないから帰りましょうか。


 なんて思いながら席を立ったんだけど、何かを思い出したように、ショタ長がポン、って手を叩いた。


「そういえば、道具だけなら倉庫に寝てたかも!! 欲しい?」


「道具?」


「うん! 昔向こうと口喧嘩した時に奪ったんだー。けどうちじゃ使わなくて、倉庫で寝てるの」


 ……それ、嫌がらせ以上の意味ないよね??


 奪うのは仕方ないにしても、せめて何かに使いなさいよ。


 なんて思うけど、それはまぁ、私には関係ないお話ね。


「安く譲ってくれる、ってことかしら?」


「うん!! 計算面倒だから、今回の報酬額と一緒でいいよ?」


「……そうね。まずは商品を見せてもらってからかしら」


 高いのか安いのかもわからないけど、持っていても腐る物じゃないし、手の器用なマッシュなら、案外すぐに使いこなせるかもしれないしね。


 なんて思いながら、倉庫に案内してくれるというギルド長の後に続いて部屋を後にした。

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