第17話 やったぜ、ウェーイ!?
細い通路を抜けたギルド長が、背伸びをしながら両手でドアノブを握る。
(あら、かわい……くない! 落ち着くの私。あれは養殖、養殖……)
その仕草に思わず揺れてしまった自分の心にしっかりと蓋をして、彼と共に中をのぞいた。
ちょっとだけホコリっぽい倉庫にあったのは、剣や盾、弓などの武器たち。
「ここにあるすべてが貸出品なんだよ。販売もしてるんだー!」
「貸し出し?」
「うん。引退した冒険者から譲ってもらったやつ」
近くにおいてあった1本の剣を拾い上げて、ギルド長がぼんやりと目を細める。
幼い見た目とは裏腹に、その姿は遠い昔を思い出しているようにも見えた。
安いのなら増え続けるマッシュ用にいいのかな、って思ったけど、ここにある物はきっと、先輩冒険者から後輩たちに渡された物なんじゃないかしら?
だとすると、私が買うのは違うわね。
「それで? 奪ったって言ってた大工道具はどこかしら?」
「えっとね。こっち!!」
パタパタって走って行ったギルド長が、
『戦利品。やったぜ! うぇーい』
なんて文字が書かれた棚を指差した。
筆にそろばん、文鎮などなど……。冒険者には縁遠い物が所狭しと並んでる。
(いやいや、うぇーい、って、どれだけ向こうのギルドと仲が悪いのよ……。逆に仲良しなのかも、って勘ぐりたくなるじゃない)
なんて思ったりしたけど、仲良しでもなんでも私には関係ないから、見なかった事にする。
もちろんそこに、お目当ての品もあったわ。
(いっぱいあるわね? ノコギリだけでも6本はあるかしら?)
パッと見ただけでも、カンナは4つあるし、きづちも5つ。
杖や剣ならある程度の知識はあるのだけど、この辺は専門外ね。
小金貨3つでどれが買えるのかなんて検討も付かないわ……。
(マリーでもさすがに知らないでしょうし、だまされてても気が付かないわね。素直に聞くのはしゃくだし……)
どうしましょう、なんて思っていたら、ショタ長が5本のきづちを両手で抱えた。
「持てるだけ持ってって良いよー。冒険者ギルドが抱えていても意味ないし」
なんて気前の良い事を言って、ショタ長が笑ってくれる。
それなら何で奪ったのよ! って話よね。
「商業ギルドに返してあげたら? 困っていると思うわよ?」
「んー、そうなんだけとさー。それはなんか、負けたみたいで嫌じゃない?」
ぶーぶー、って唇をとがらせて、ショタ長が不満を口にする。
その姿はどう見ても子供だった。
「……まぁ、どんな因縁があるのかも分からないからいいんだけどね。それで? 持てるだけ、って好きなだけ持ってってもいいのかしら?」
「うん。あっても邪魔だもん」
「それなら何でもらってきたのよ」
「むしゃくしゃしたから!」
クスリとも笑わずに、真顔で言い切られちゃった。
奪ってきた物を邪魔って言うのもすごいわね。
こんな人がトップとか、このギルド大丈夫かしら?
部下の人たちの苦労が目に浮かぶわね……。
なんて思いながら肩をすくめて、脳内にいつもの魔方陣を思い浮かべる。
「マッシュー。お願い出来るかしら?」
「キュッ!」
一応は、それぞれのカバンの中にも1体ずつ居るんだけど、変に鋭いギルド長に勘ぐられても面倒だから、新たに1体を呼び出した。
小さな手をシュタッ、って掲げたマッシュが、トテトテと走っていって、きづちを傘の中にしまってくれる。
「限界までがんばっちゃって」
なんて言いながら追加で魔力をプレゼントすると、ノコギリにカンナ、筆などが片っ端から傘の中に消えていった。
傘の直径よりも大きなノコギリが、スルスルって吸い込まれて行く。
「ぅ゛ぇ?」
驚きの声がギルド長の口から漏れるけど、マッシュは何事も無かったかのように次の獲物に向かったみたい。
「キュ!」
そして気が付くと、見上げるほどの棚に収まっていた物がすべて消えていた。
うぇーい、って書かれた紙だけが残されてて、なんだか寂しく見える。
「…………」
そんな棚を見つめて、ショタ長があぜんとした顔をしていた。
ぜんぶ持って行くなんて思ってなかったのかもしれないわね。
「ショタ長さん? もらっていいのよね?」
「え? ……えぇ、構いませんよ」
なんて言うけれど、その笑みが引きつっていた。
ショタの演技も忘れちゃってるし。
ちょっとかわいそうなことをしたかな、なんて思うけど、このまま強奪しても良いわよね。
だってショタ長だもの。
だけどさすがにギルド長の立場もあると思うから、助け船だけは出してあげようかしら。
「そういえば、前回言ってた依頼ってのはないのかしら? 何かあれば受けるから、次に来るときまでに考えて置いてちょうだい」
なんて言葉を残して、大活躍のマッシュを両手で抱え上げる。
うらめしそうなショタ長の視線に気付かないふりをして、そのままギルドを後にした。
一応の知識はあるし、ダメもとでお家を作るのもありかも知れないわね。
帰ったら計画を練ってみようかしら。
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