第18話 リリの魔法で焼いちゃう?
連日のトレーニングはさすがにやりすぎだから、午後からはリリたちとお茶会で息抜きにしたの。
その合間に図書室に顔を出しに行ったけど、爺は珍しく居なくて、何事もなく数冊の本を借りただけ。
そうして迎えた翌朝。
私たちは秘密の通路をぬけて、森に来ていた。
「バッサリと切ってくれるかしら? どんな魔法でもいいわよ?」
出入り口付近にあった大木の表面を叩いて、後ろを向く。
私と視線を合わせたリリが、大きく目を開いて口元に手を当てた。
「そんなおっきな木をですか?」
「えぇ、大丈夫よ。あなたなら出来るわ」
「……、わかりました。頑張ります!」
私がその場から離れると、真剣な表情を浮かべた彼女が、ギュッと杖を握りしめた。
その口から紡がれたのは、祈りに似せた魔法の言葉。
「精霊さま、私に力を貸してください」
彼女がつえを大きく掲げたら、体を覆うくらいの大きな水の塊が目の前に浮かび上がった。
その塊目掛けて、リリが杖を振りかぶる。
「えい!」
なんて、かわいらしい声と共に、つえの先が水の塊に触れた。
――その瞬間、
空気が震えた。
すさまじい破裂音が聞こえて、水しぶきが飛び散る。
宙に浮いた水の塊から、滝を超える勢いで、水が飛び出していた。
途方もない水量が大木に当たり、しぶきを上げながらミシリという鈍い音が周囲に響く、
「倒れるわよ!」
なんて忠告よりも倒れる方が早かった。
先頭にあった4本が後ろに倒れて、隣に生えていた大木も水圧で折れる。
「わわわ……」
そして気が付けば、視界がパックリと開けて、20本以上の木々が折り重なって倒れていた。
1本だけの予定だったんだけど、一瞬で素敵な空き地が出来上がったみたい。
「やりすぎちゃいました……」
折れた株の上で重なり合う大木たちを見詰めて、リリがショボンと肩を落とす。
なんともかわいらしい雰囲気を醸し出す彼女にゆっくりと近付いて、フワフワの髪をくしゃくしゃになでてあげた。
「大丈夫よ。もともといっぱい切る予定にしてたし、問題はないわ。むしろ上出来ね」
「ミリ様のおっしゃる通り、合格点ですよ。威力を調節する訓練は必要ですが、それだけの火力が出せるのは素晴らしいことです。胸を張りましょう」
「そうそう、私からしたらうらやましい限りなんだからね?」
なんて私たちが褒めると、ショボンとしながらも、ありがとうございます、頑張ります! って、元気な声を返してくれた。
そうして出来た木々を前に、リリの髪をもてあそびながらマッシュたちを呼び出して行く。
「さてと、ここからが本番ね。やるわよ?」
「「「キュ!」」」
やる気に満ちた様子で、8体のマッシュが小さな手を掲げてくれた。
「えっと? ……まずは地盤の整備からみたいね。地面を平らにー、って話なんだけど、切り株が邪魔よね? リリの魔法で焼いちゃう?」
資料室から借りてきた本を片手に、冗談半分で言ってみたんだけど、
「山火事になりますのでおやめください」
ってマリーに真顔でとめられちゃった。
ちょっとだけ寂しく思いながら、正しいやり方を探すためにパラパラと本をめくっていく。
「んーっと、スコップなんかで回りを掘って、出てきた根っこをノコギリで切って、ロープで引っ張りあげるらしいわ……」
結構めんどくさいのね……。
解説ページには、根気よくやりましょう、なんてアドバイスまであるのよ。
予想以上に面倒で気が進まないけど、黙って眺めてても、切り株はなくならないわよね……。
「まぁ、どうせ暇な身だもんね。アドバイスに従って1本ずつ、コツコツやりましょうか」
なんて思った矢先。
トテトテと歩いて行った1体のマッシュが、自分よりも大きな切り株に小さな手を添えた。
「キュ!」
バンザイでもするかのようにマッシュが手をあげる。
ポコン、っていう軽やかな音と共に、大きな切り株が抜けちゃった。
「きゅきゅ~」
褒めて褒めてー、と言わんばかりに、マッシュが切り株を掲げてくれる。
……根っこの先で含めたら、マッシュの5倍はあるわよ?
「キュ」
「キュキュ」
別の子たちも、競い合うように切り株を抜き始めちゃった。
「……ここの地面って、普通に固い地面よね?」
「はい、普通に固いと思われます」
マッシュたちがあまりにも簡単に引き抜くから、もしかして、っておもったんだけど、私の力じゃ普通にムリね。
ピクリとも動かなかったわ。
マリーとリリも試してみたけど、やっぱりダメね。
そんな私たちをしり目に、マッシュたちは次々と切り株を抜いていくのよ。
あっという間に地面から切り株がなくなって、端っこの方に積み上げられてた。
「知らなかったけど、みんな力持ちなのね。良くやったわ。えっと……、次は、……枝を払って丸太にするみたい」
「「「キュ!」」」
傘の中から身の丈と同じくらいのノコギリを取りだして、マッシュたちが大木の方に駆けていく。
着実を越えたハイスピードで、私たちの休憩所作りが進み始めた。
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