第28話 なにか、あったよー。
そうしてマッシュの居場所をただぼんやりと感じながら、木々の隙間を歩いていく。
居場所の確認にコツなんかがあったら良いんだけど、召喚魔法に関してはマリーも詳しくないみたい。
城に帰ったら資料室で調べてみようかしら?
でも、その手の資料って少なかったはずだから望み薄ね。
(まぁ、出来たら良いなって話だから、焦らず地道に行くしかないわね)
そう思い直して、森の奥に目を向けた。
薄暗い森の中を進み続けること、1時間くらい。
5個目のリンゴを食べ始めたあたりで、
「きゅ~~~~~~!!!!!!」
今までで1番大きな鳴き声が聞こえてきて、私たちは顔を見合わせた。
マリーがひどく真剣な表情でわたしの事を見詰めてくる。
「姫様、状況の把握は出来ますか?」
「ちょっと待って……。危険は、……感じないわね。何かを見つけたのかしら?」
目を閉じて意識を集中したんだけど、戦闘はしてないみたい。
周囲に居たマッシュたちもその場に集まり始めてて、興味深そうな心の高鳴りが伝わってくるわね。
『これなにー? なにかあったよー』
そんな感じかしら。
それこそ感覚共有が出来たらすぐに確認出来ると思うのだけど、今の私が読みとれるのはそのくらい。
「少なくとも強敵との遭遇ではないわね。私のことを待っているみたいなのよ。行ってみてもいいかしら?」
「そうですね。もし危険ならマッシュ様が逃げろと伝えるでしょうし、大丈夫ではないかと」
「そうよね。わかったわ。それじゃぁ向かいましょうか」
そう言うことになって、私たちは進路を少しだけ左にずらした。
私たちに付き添ってくれているマッシュが先を進んでいく。
たぶんだけど、私よりも正確にみんなの場所がわかっているみたい。
(私も頑張らなきゃいけないわね)
フワフワと歩く後ろ姿を眺めていたら、そんな思いが強くなった。
大工に戦闘、家事まで出来る彼らに召喚魔法の扱いまで負けていたら、私の立つ瀬がない。
(この調査が終わったら、久しぶりに籠もってもいいわね)
まだ小さかった頃に爺から教えてもらったトレーニング法を思い返しながら、私は小さく手を握り締めた。
そうして先を進むマッシュの背中を追いかけること数分。
お互いに背を向けて周囲に目を向けるマッシュたちの姿が見えてきた。
「あら?」
近付いてからわかったんだけど、半数近くのマッシュがいつの間にか元の世界に帰っていて、残っているのは20体だけみたい。
心の中で呼びかけたら普通に返事が帰ってきたから、誰かに倒されたとかじゃなくて、任務完了ってことで帰ったみたいね。
(つまり、この円の中心にあるものが、大量発生の原因なの?)
より1層の気合いを入れ直して、歩みを進める。
そうして見えて来たのは、見上げるほどの巨大な岩。
その足元につなぎ目のない石で固められた地下に続く階段があった。
出口の前をマッシュたちが固めていて、武器を中に向けている。
これって……。
「ダンジョンよね?」
「はい。実物は私もはじめてになりますが、城にある記録と特徴が一致しますので可能性は高いと思われます」
「なるほど、原因はこれね……」
奥の見えない階段を眺めながら、私は肩を落とした。
ダンジョンは魔力の流れが悪くなった場所に出来る災害で、排除出来ずに滅んだ国が歴史上にはいくつもあるのよ。
だけどそれはずっと放置したらの場合で、出来たばかりの物は攻略も簡単、中にはすっごいお宝がある、なんて聞くのだけど……。
「どうしましょうか? 運が良かったら魔石とか特殊な薬草なんかも見つかるって話だけど、危険よね?」
「おっしゃるとおりです。魔物だけならマッシュ様が対応してくださるとは思いますが、中には魔法を使った罠も多数見つかるとか。私たちだけでは対処出来ないかもしれません」
「そうよね……」
出来れば大きな魔石なんかを手に入れて見たかったんだけど、身の安全が優先よね。
「……決めたわ。私たちの仕事は原因調査。お城に帰ってゆっくりお風呂にでも入りましょう。リリも一緒に入るかしら?」
「えっと……、良いんですか?」
「えぇ、大きな湯船にひとりは寂しいもの。マリーにもお願いするわ」
「かしこまりました」
いつも通りに恭しく頭を下げてくれたんだけど、彼女の口元はうれしそうにほころんでいた。
マリーも結構なお風呂好きなのよね。
「マッシュー、帰るわよー。ご苦労さま」
「「「きゅ!」」」
その場には目印として1体のマッシュに残ってもらう事にして、ダンジョンの入り口に背を向ける。
私たちの前に、いつもより大きな葉っぱが広げられた。
私たちが寝ている間に大人数で探してくれたのかしら?
「まずは小屋までお願いね。荷物を回収したらお城に帰るわ」
「「「きゅ!」」」
私たちが葉っぱの上に乗ったら、10体のマッシュが息をそろえて持ち上げてくれた。
乗り心地は予想以上に快適で、頬に当たる風が気持ちいい。
森の空気を体いっぱいに感じながら、私たちは帰路についた。
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