第39話 感じていた不安

 ジニが危なげなく前線を抑えて、リリが強力な魔法を打ち込む。


 そんな一連の作業によって、新たに5個の穴を埋めることが出来ていた。


 残る穴は20個くらいかしら?


 敵を倒すたびに増え続けるマッシュたちは、いつの間にか100体を超えていて、彼らだけでもトカゲたちの対処が出来るくらいにまで増えていた。


「魔力の増加量がすごいわね。今までの倍は軽くありそうよ……」


 ここに来る前の私ならリンゴを食べても5分も届かなかったんだけど、今なら少しだけ減ってるくらい。


 どう考えても異常な増え方だけど、マリーが言うにはあり得ない話じゃないんたって。


「魔物を倒せば強くなると聞きますし、ここはダンジョンですからね。あふれている魔力の影響が出ているのかも知れません」


「その手の話って魔物狩りを推奨したい貴族たちの流言かと思っていたのだけど、すべてが嘘ってワケでもってなさそうね」


 注意深く自分の手を見詰めると、マッシュがトカゲを倒すたびに少しずつ増えているように思えた。


 100の訓練より1の実践なんて言うけれど、確かにこの増え方なら納得だわ。


 そうして着実に敵を減らしていると、先を行くムハンから声が飛んで来る。


「先に行けるぞ」


 どうやら罠の解除が終わったみたい。


「あら? 予想以上に早かったわね」


 罠の数は無数にあって手こずるって話だったんだけど、せいぜいが10分くらいなのだけど、どうやって?


 なんて思ったんだけど、彼の方を向けばその答えもわかった。


「半分以上はこいつらの手柄だな。ずっと横にいるのが不思議だったんだが、見よう見まねで覚えて、今じゃ俺よりも早く解除するぜ、こいつら」


「「きゅ!」」


 肩をすくめて笑ったムハンが、そばにいた2体のマッシュをガシガシなでる。


 どうやらそう言うことみたい。さすがは私のマッシュね。


 さてと、前も後ろも準備はOK。先に進みましょうか。


「盾の子と剣の子は、それぞれ2体ずつ着いてきて。残りの子は後ろから来るトカゲを抑えてくれるかしら? 私たちは先に進むわ。早々にボスを倒せばおしまいね」


「「「キュ!!」」」


 マッシュたちが一斉に敬礼をして動き出してくれる。


 前線で剣を振るっていたジニも私のもとまで戻ってきてくれた。


 攻撃の要として動いてくれたリリとジニの魔力は半分ほどまでに減っていて、ぶっつけ本番になってしまったジニの反動が心配ね。


 だけどみんな、気力だけは充実しているみたい。


「罠の解除を覚えたマッシュは、扱いやすい武器を持ってムハンと一緒に先頭を進んでくれるかしら?」


「「キュ!」」


 元気に敬礼をしたマッシュが、トテトテと前に向けて駆けていった。


 少し進んで彼らが罠らしき魔方陣を解除して、また進む。


 罠は定期的に見つかるんだけど、敵の姿は見えなかった。


「マリー、嫌な気配はあるかしら?」


「いえ、先ほど戦闘した場所を越えてからは感じなくなりました」


「そうよね……」


 私の感覚もマリーと一緒で、ダンジョンに入ったときに感じた不安は感じなくなっていた。


 あの場所だけに集められていたのか、それとも私たちが感じられないだけか……。


 そんな不安を抱えて周囲の状況を伺いながら、1本道をゆっくりと歩いて行く。


 そうして進むこと10分くらい。


 私たちの前に、まがまがしい細工が施された2メートル近い大きな扉が現れた。


 真ん中に取っ手があって、両サイドに引っ張って開けるタイプね。


 私たちの国で言うところの玉座の間につながる扉に近いかしら。


「これで中にボスがいなかったら詐欺よね。マッシュたちは少しの間、周囲の監視をお願い。言うまでもないけど、扉に変化があったら言うのよ? お願い出来るかしら?」


「「「キュ!」」」


「うん。よろしくね。リリとジニは魔力ポーションを飲んでおいて、私も貰うから、みんなの魔力が回復したら扉を開けるわ。マリーもムハンも、一眠りするくらいの心持ちでね。いいかしら?」


 一応問いかけてはみたんだけど反対する人なんているはずもなくて、みんなが無言でうなずいてくれた。


 目の前の扉のせいで気持ちが高ぶっているってのもあるのだけど、どっちかって言うとほんのちょっとでも体力を残しておきたいってところかしら。


 魔力を消費する3人でマッシュ特製のポーションを飲んで、石の地面に体を横たえる。


 目を閉じてふぅ、と息を吐き出すと、自分が予想以上に疲れているのがわかった。


 なんだか本当にこのまま眠ってしまいそう。

 そんな思いを持ちながらも背後に残してきたマッシュたちの事が気になってしまう。


「……体の方はわからないけど、魔力は万全ね」


 時間にして5分くらい。


 気合いを入れ直した私たちは、重厚な扉に手を伸ばした。

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