第38話 ジニの才能
間に合わない者は元の世界に帰ってもらって、迫り来るトカゲたち目掛けてリリが杖を回す。
すると、彼女の周囲に、手のひらほどの光の玉が40個くらい散らばった。
「えーぃ!!」
気合いの声と一緒に杖が振り下ろされて、光の玉が矢に変わる。
横1列に伸びたその矢が、トカゲたちに向かって飛んでいった。
先頭にいたトカゲたちのおなかを貫通して後ろの子にも突き刺さる。
貫いてまた後ろへ。
前の方から順番にトカゲたちが倒れていった。
「……良くやったわ」
見渡す限りの敵が地面に伏していて、道の上に動く陰はない。
1本道だった場所には倒れたトカゲたちが折り重なっていて、300体近くを一瞬で倒せたんじゃないかな、なんて思う。
だけど、すべての敵を倒せた訳じゃないみたい。
「はぁ、はぁ、はぁ、……まだ、こんなに……」
「大丈夫よ。リリの魔法はステキだったわ」
そんな会話をしている間にも開いた穴から次々とトカゲが飛び出していて、さっきみたいに列が出来上がりそう。
(きりがないわね。先のことを考えると体力も魔力も残して起きたいのだけど……)
なんて思っていた私の横を20体近くのマッシュたちが駆け抜けていった。
「え? ちょっと!?」
予想外の行動に驚いたんだけど、私が思い付くより先にマッシュたちが良い作戦を考えてくれたみたい。
倒れるトカゲたちを飛び越えて行って、穴の前に居たトカゲを一斉に切り捨てた。
穴の中に向けて一斉に矢を打ち込んで、大きな盾で穴を塞ぐ。
1つ目が終われば2つ目、3つ目。
トカゲたちが列を作る間に10個の穴を塞いで、前線を押し上げてくれた。
「行けるわ! リリ、さっきと同じ魔法をお願い。盾と弓の子はかまえて、剣の子は……」
私が告げるより先に剣の子たちは倒れたトカゲを食べて数を増やし始める。
ほんと、私にはもったいないくらい優秀な子たちね。
「それでいいのよ、ありがとう」
さてと、私たちの方も戦力の強化ね。
マッシュたちみたいに数を増やすなんて事は出来ないのだけど――、
「ジニ、今からあなたを強くするわ。先に要点を言うわね。あなたは魔法が使えるの。正確に言えば、魔法を使えるだけの素質が出来上がってる」
「何を……??」
私の方を向いたジニは、顔いっぱいに驚きの表情を浮かべていた。
魔法は1種の権力だから5歳になった貴族はみんな魔力の有無を計って、出来るだけの魔法を覚えるのが一般的ね。
魔力があまり増えない者は魔法を諦めて、剣や弓、槍をたしなむの。
ジニも魔法の才能がなかったから剣の道を目指したんだと思う。
だけどそれは、魔力が全くのゼロって事じゃない。
「剣を握りながら目を閉じて、体内に水のような物を感じないかしら? 熱かったり、冷たかったり。おなかの中にある物を感じ取ってちょうだい。私の予想なのだけど、お日様のような暖かさを感じるんじゃないかしら?」
「…………なんとなくだが、この辺りに」
そう言って、ジニがおなかの下の方を手のひらで押さえた。
私の目に狂いはなかったみたい。
「その温かい物をどこかに移動することは出来る? 足、腕、胸。手に持った剣に集めてもいいわ」
「移動…………」
難しい顔をしたジニが、ギュッと目を閉じる。
眉をひそめてつらそうな表情を見せているのだけど、手応えがないって訳じゃなさそうね。
「全部じゃなくていいの。ほんの少しだけ、ちょっとだけでも大丈夫よ」
「すこしだけ……」
大きく息を吸い込んだ彼女が、全身から力を抜くように息を吐き出した。
その吐息に合わせて剣が淡いピンク色に染まっていく。
「これは!?」
手元を見詰めたジニが、驚きに声を上げた。
体内じゃなくて1番難しい剣を無意識に選んだのは、彼女の性格の影響かしらね?
「強化の魔法よ。体内にある魔力を集中させて補助してもらうの。足にまとえば筋力が増加して、剣にまとえば石でも切れる。過去には攻撃範囲を増やせる者もいたらしいわ」
遠距離の大型魔法が主力になった影響で魔法使いが主力になったのだけど、過去には魔法使いを超える魔力を保有した剣士がいたって王家秘蔵の文献にあったのよ。
いわく、彼は一振りで100のオークを切り捨てた。
「幼い頃計った通り、マリーやリリと比較すると魔力の増加量は少ないわ。だけど、増えない訳じゃないの。あなたはずっとトレーニングルームに籠もって訓練をしていた。時にはスライムの床に座り続けることもあった。意図して使えば全身の強化が可能なくらいの魔力量になっているわ」
「全身……」
「そうよ。魔法使いも敵に近付かれれば、槍や弓を持つわ。剣士が魔法を使ってもいいじゃない」
「ふふ、……そうだな。ボクが魔法使い、いや、魔法剣士か」
肩を震わせて笑った彼女が、剣を握り直して地面を蹴る。
今までになかった速度で前に出て、盾をかまえるマッシュたちの頭上を大きく飛び越えた。
着地の前に3体のトカゲを切り伏せて、舞い踊るように剣を振るう。
「……ボクが過ごしてきた時間は、無駄ではなかったのだな」
そうつぶやいた彼女の剣には、淡い光が揺らめいでいた。
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