第40話 全員の仕事
ギギギギ、と言う鈍い音を響かせて、重厚な扉が開いていく。
部屋の中はすごく広くて、本当に玉座の間みたいね。
天井にシャンデリアはないんだけど、4つ角に置かれた大きな青い炎が部屋の中を優雅な色に染めてた。
「大きな魔石と、それを守る大きなモンスター。文献通りで安心したわ」
部屋の奥まった場所には2メートルくらいの魔石があって、中央には3メートルくらいの青いトカゲがいる。
頭からは2本の大きな角が生えていたり、牙や爪も異様に大きくなっているのだけど、どう見ても外にいたトカゲたちの親玉って感じね。
「さてと。あとはあのトカゲを倒したらハッピーエンドね。私たちの中で1番の攻撃力を持つリリがトドメを刺す。問題は詠唱の時間を確保することなんだけど……」
「「「キュ!!」」」
「あぁ、僕たちの仕事だね」
どう見ても敵の大きさは規格外で苦労すると思うのだけど、ジニやマッシュたちは元気いっぱい。
ジニなんかはついさっき知った魔力の力を試すにはちょうど良いって感じかしら?
「お嬢ちゃんたちはやる気だねぇ。しょうがねぇからオッサンも老骨にむち打って頑張ってやるか」
ムハンも口ではそんなことを言いながら、使い込んだ盾と剣をかまえてニヤリと笑ってくれた。
ここまで来たんだもの、やるしかないわよね。
「リリは一撃で倒せるような大きなやつをお願い。マリーはいつものように全体の注意ね。それじゃぁ攻撃開始よ!」
「了解しました」
「招致した」
「はい!」
「応よ!」
みんながバラバラな言葉で返事をくれる。
ジニやムハン、マッシュたちが数歩だけ前に出て、リリの詠唱が始まった。
このまま詠唱が終わるまでトカゲが動かないでくれたら……。
なんて思ったのだけど、やっぱりダメみたい。
魔方陣を展開し始めたリリの方を向いて、トカゲがむくりと顔を上げる。
「全員で前に出て敵の注意を――」
「いや、まずは俺だけ行くぜ!」
「えっ!? ちょっと!! 死ぬ気っ!?」
私の声を遮って、ムハンがたった1人で駆けて行く。
その背中を慌てて追いかけようとした私の手をマリーがつかんだ。
「Aランクの実力を見せてもらっても良いかと思われます。ムハンさんなら無謀なことはしないでしょう」
「……そうね。わかったわ」
ふぅ、と大きく息を吐いて前を向くと、ムハンがトカゲの目の前に到着していた。
遠くから見ていてもその身長の差は歴然で、長身を誇る彼が剣を伸ばしても首どころか胸にすら届かないみたい。
そんな大きなトカゲを前に、彼は剣と盾を打ち合わせた。
「若えやつらに良いとこ見せなきゃ行けねぇからよ。ちょっとだけ相手をしてくれや」
盾で覆った左手を前にして、右手の剣を引く。
いらだたしげな鳴き声を上げたトカゲが、ムハン目掛けて鋭い前足を振り下ろした。
ヒヤリとした物が心臓を走るんだけど、ムハンに焦りはないみたい。
「おっと……。早いねぇ、その巨体で早いとか勘弁してくれや」
なんて軽口を言いながら鋭い爪を避けて、剣を振るった。
「そんでもって硬いとか最悪だな」
的確に相手の腕を捉えたんだけど、数枚のウロコに傷が付いただけみたい。
攻撃を食らえば一撃で死ぬし。こっちの攻撃は効果がない。
慌ててマッシュたちを前に出そうとしたんだけど、隣にいたミリーが無言で首を横に振る。
「お嬢ちゃんたちは敵の攻撃を観察してな! 間合い、武器、動きの癖。おめーらは才能も実力もあるけどよ、経験が足りてねぇ――っと、危ねぇ。人が話してるときは静かにしてろやトカゲ野郎」
ムハンが大きく後ろに飛んで避けると、トカゲが天井に顔を向けて大きくほえた。
――直後、顔を振って巨体を揺らし、トカゲが尻尾を振るう。
紙一重で避けたはずのムハンが、後ろに流されて尻餅をついた。
「おいおい、勢い強すぎだろ。当たったらシャレにならねーよ」
風を切る音に続けて強い風が流れてくる。
余裕の表情を浮かべていたムハンの額にうっすらと汗がにじんでいるのが見えた。
たとえ盾で受けたとしても到底耐えられそうには見えない。
だけど、敵の大きくバランスを崩していて、背中を向けて足を崩すその姿は、私の目から見てもすきだらけに見えた。
動きは俊敏で攻撃力もありそうなんだけど、フェイントのような物はないみたいね。
外にいたトカゲたちを大きくして素早くした。ただそれだけ。
「みんな。敵の動きと間合いはわかったわね? ダメージは与えなくても良いから、とにかく時間を稼ぐの。いいわね?」
「「「キュ!」」」
剣や盾を大きく掲げたマッシュたちが、青いトカゲの元に走って行く。
その先頭には足に魔力を集中させたジニの姿があった。
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