第49話 いまの魔法は?

「ウソだろ? 兵士長が??」


「本当にあのジニか!?」


 彼らの中で1番の強さを誇っていた兵士長を倒したことで、兵士たちの中に驚きの声が漏れ始める。


 今の魔法は何だ?

 なんて声も客席から聞こえていた。


 会場全体がジニの強さに驚いているみたい。


 そんな彼女も今の戦いで魔力をいっぱい使っちゃったから、疲れているわね。


「残りは私とマリーの仕事よ。最終決戦を始めましょう」


 ジニの方にそれ以上兵士が近寄ってこないように、第1王子に向けて高らかに宣言して見せた。


 前方に大きな魔方陣を描いて、中から10体のマッシュに出てきてもらう。


「っ!!」


 同時召喚に驚いた観客たちが、珍獣でも見るかのように大きく目を見開いた。


 3度目の静けさの中でマッシュたちが傘の中から大きな剣を取り出して、腰を据える。


 そんなマッシュたちの様子を見て、後方に控えていた第1王子が突然笑い声を上げた。


「ふははは。なんとも面白い! 最弱と言われたおまえがここまで成長したか。良かろう。長男である俺がすべてを受け止める。全力で攻めてこい!!」


 驚きに包まれていた兵士たちの顔が、一瞬にして引き締まっていく。


 王子の指示に従って兵士たちがキレイな隊列を組み直し始めた。


 そんな彼らのまえで、私たちも負けじと戦いの準備に入る。


「マリー。お願い」


「かしこまりました」


 小さな魔方陣から飛び出してきた羽の生えたマッシュが、マリーの腕の中に収まり、ふわりとした優しい魔力がマリーの手から流れ出した。


 そしてマッシュの頭上に光の球がきらめき始める。


「ミリアンの召喚獣たちが光に包まれていく……。これは先ほど見た兵士と同じ物か!?」


 残念だけど、第1王子にはバレたみたい。


「そうよ。私のかわいいマッシュを強化したの。話はここまでね。みんな、頼んだわよ!」


「「「キュ!!」」」


 10体のマッシュが一斉にかけだしていった。


 その速度はジニと比べると遅いんだけど、隊列で動く兵士たちと比べたら雲泥の差。


 飛び込んでくるマッシュの攻撃を盾で受けようとし7名が、魔力がまとった剣に盾ごと切られて消えていった。


「マリー」


「かしこまりました」


 マッシュたちが消費した魔力を後方のマリーが送り込む。


 薄れかけていた魔法の光が、再び強い輝きを放ち始めた。


 だけど、そのまま押し切れるほど、敵も甘くはないみたい。


「敵の魔力切れは狙えないのか……。隊列を崩して攻撃を避けろ! 剣や盾で受けるな。体術で避けて反撃を狙え!!」


 王子の指示が飛んで、兵士の動きが変わった。


 斬りを回避されたマッシュがバランスを崩し始める。


 1体、2体と、召喚したマッシュが兵士に斬られて元の世界に帰って行った。


「また明日ね……。みんな、出てきて頂戴!!」


「「「キュ!!」」」


 つらい思いに蓋をして、新たに36体のマッシュに出てきてもらう。


 驚きの表情を浮かべる敵目掛けて、30体が背後から一斉射撃。


 マリーの魔力を乗せた矢が、盾や鎧を貫いた。


「くっ!!」


 矢を避けようとしゃがんでも、身長の低いマッシュたちが、矢の下をくぐり抜けて襲い来る。


 オマケとして、王子の背後に最後の1体を召喚してあげた。


「しまっ……」


 部下を助けようと頭を働かせていた彼のおなかに、マリーの魔力を乗せたマッシュの剣が突き刺さる。


 悔しそうな表情を見せた第1王子が、最後は口元だけに微笑みを浮かべて消えていった。


「…………終わった、わよね?」


「はい。舞台に残っているのは我が軍だけですね。姫様の勝利です」


「……そう、それは良かったわ」


 ふぅ、って肩の力を抜いて空を眺める。


 薄らとした雲が静かな空に流れていた。


「みんなのおかげね……」


 周囲に目を向ければ、マリー、リリ、ジニ、沢山のマッシュたちがほほ笑んでくれる。


 かけがえのない私の仲間たち。

 少しは認められて生きやすく成ったんじゃないかな、って思う。


 観客席にいる貴族たちは、あっけにとられていたり、信じられないものを見たって感じて、気持ちが定まっていないみたい。


 VIP席にいる王の表情はうかがい知れないのだけど、私の成長に驚いているのか、自慢の子供たちが私なんかに負けて悔しがっているのか、どっちなのかしら?


 まぁ、そのどちらでも構わないかな、なんて思いながら、最高の仲間たちの中央で私は拳を掲げて見せた。


「それじゃぁ帰りましょうか。プライベート温泉で祝杯よ」


 ようやく事情が飲み込めたのか、ざわめきが大きくなる会場を無視して、仲間たちの背中を押す。


 すがすがしい気持ちで心を満たしながら、私たちは闘技場を後にした。

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