第44話 依頼を終えて

 そうして無事にショタ長からの依頼を終えた翌日のこと。


 お昼過ぎにモソモソとベッドから抜け出した私は、大きな魔石を前に腕を組んでいた。


(約束通り全部くれる、って言われても、使い道がないわよ……)


 はぁ……、って小さくため息をついて肩を落とす。


 爺のいる書庫に籠もって調べたりもしたんだけど、つえの核にするにも重たくて邪魔だし、砕いて剣に混ぜるってのもなんだか勿体ない気がするのよね。


 王家の書庫には何か良いアイディアが眠っているのかも知れないけど、うかつには入れないし……。


「う~ん。……あれかしら? 庭に埋めたら私専用のダンジョンが出来たり!! ……ないわよね」


 言葉にしたら頭も回るかなって思ったけどダメみたい。


 そうして私がうんうん悩んでいたら、不意に隠し扉の方が開いて、中からリリとジニが顔を出した。


「戻りましたー」


 うれしそうな笑みに続けて、リリが手を振ってくれる。


 ジニの方も口元が緩んでいるみたい。


「お帰りなさい。どうだったかしら?」


 聞かなくても表情を見たらわかるのだけど、一応、ね。


「はい! バッチリです! マッシュちゃん、お願い出来ますか?」


「キュ!」


 彼女たちに付けていた1体のマッシュが、ピシって大きく手を掲げて私の方に進み出てくれた。


 ガサガサと傘の中に手を入れて取りだしてくれたのは、1本の槍。


 剣や弓、短剣なども次々出てきて、床の上に並んでいく。


「すごい量ね。……うん、質も良いんじゃないかしら」


 もらった骨のほとんどを売ってマッシュたち用の武器を探してきてもらったのだけど、彼女たちに任せて正解だったみたい。


「物を選んだのはジニね?」


「あぁ、一応の心得はある」


「さすがだわ。これでマッシュたちの戦力も上がるわね」


 彼女たちは街にある武器屋を1軒1軒見て回って、良いものだけをよりすぐってくれたみたい。


 刃物に関しては素人の私でも、刃の輝きなんかが全然違って見えるのよ。


 だけどそれは、ジニだけの成果じゃないみたい。


「売却や購入などの交渉をしたのはリリだ。彼女のおかげで資金にゆとりが出た」


「あら、そうなの。さすがリリね。ありがとう」


「ぇっと、あの、……」


 リリの髪をなでながら目を合わせると、彼女は顔を赤く染めて恥ずかしそうにうつむいてしまった。


 口はそんなにうまくないんだけど、このかわいさで値切ったんじゃないかしら?


「さてと、後は魔石の調査を頼んだマリーが戻ったら――ん? 帰って来たわね」


 扉の向こうにマリーの魔力を感じたんだけど、なんだか少しだけ荒れているみたい。


 なにかあったのかしら? そう思わせるには十分だった。


 そんな私の心配に拍車をかけるように、扉がいつもよりも大きな音を立てて開かれる。


「姫様。ただいま戻りました」


「えぇ、ご苦労さま」


 扉の向こうに姿を見せたのはマリーで間違いないのだけど、いつもの優雅さは消え去っていて、ひどく焦っているのが一目見ただけでわかってしまう。


 本当に、一大事みたいね……。


「なにがあったの? 聞かせてもらえるかしら?」


「無論です。投票日の期日が早まりました。1週間後です」


「「「っ!?」」」


 感情を押し殺したマリーの言葉に、みんなが大きく目を開く。


 投票日と言えば季節ごとに行われる貴族たちの支持投票のことで、私たち王女や王子など次期国王候補の進退に大きく影響を及ぼす。


 特に今回の投票は、私の王家追放が決定するかもしれない大きな物。


 正式な日付こそ決まっていないのだけど、戦争などの例外を除いて4ヶ月周期になっているの。


「なぜ??」


「表向きは、戦争は明日起きるかもしない、敵は時間など守らないため、だそうです」


「……まぁ、間違ってはいないわね。それで? 本当の理由は?」


「どうやら姫様のようです」


「私!???」


 思わず聞き返しちゃったんだけど、マリーはつらそうに首を縦に振ってくれた。


 もしかして、私を1日でも早く王族から追い出すために!?


 なんて思ったけど、状況は結構複雑みたい。


「第1王子派が支持率を減らしている中で、第2王子派に逆転されないための措置のようです。王子自らが王に願い出たとか」


「……なるほど。第2王子の主力は周辺泊だったわね」


 つまりは、負けそうな第1王子が投票数の低下を狙って、1週間後にしたみたい。


 第2王子を指示する人たちは家が遠いから、1週間で仕事に都合を付けて王都に来られる人は半数も行かないんじゃないかしら?


 対して第1王子の主力は王都在住が多いから、彼にとっては早ければ早いほうが良いんでしょう。


 けど、そんな暴挙、王が許すわけない。


 なんて思ったのだけど、そこで私の話が出てくるみたい。


「姫様がダンジョン討伐を成されたと貴族の間に知れ渡り、得体の知れない成長を見せているのかも、と言う憶測が飛び交っているようです。平民からの支持率が上がっている現状を危惧して、早々に追い出したいと、第2王子派が容認したと聞いております」


「……兄との決着は、私を追い出した後でも出来る、ってことね」


「そのようです」


 聞けば聞くほど面倒な話なのだけど、王と2人の王子が認めちゃってる現状じゃ、覆すのは不可能かな……。


「1週間後……。やれるだけのことをやるしかないわね。こんなにステキな仲間が集まってくれたんですもの。バラバラになるのはもったいないじゃない」


 そう心に強く持って、私は頼もしい仲間たちを見詰めた。

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