第43話 大きな魔石
ダンジョンの奥にあった大きな魔石に触れると、周囲に燃えていた松明が消えた。
文献通りならダンジョンが機能を停止して、作り出した魔物も消えたはずなのよ。
魔力で探ってみたんだけど、ダンジョン内に残してきた子も外にいる子たちも戦闘を終えたみたいだから大丈夫だと思う。
「任務完了だな。お嬢ちゃんたちは休憩してから帰ってこい。俺は一足先にギルドに報告してくる。みんな気が気じゃないだろうしな」
チラリとみんなの様子を流し見たんだけど、ジニは疲れてぐったりしているし、リリも魔力を使い果たして青い顔をしてるわね。
「そうね。そうするわ。報告は任せるわよ?」
「おうよ。こいつの頭があれば信じねぇやつはいねぇだろうしな」
「まぁ、それもそうね」
ダンジョン停止と同時にその肉体はなくなっちゃったんだけど、骨だけはその場に残ったのよ。
大きさも堅さも規格外だから、その骨を使ったらきっとすごい防具や武器を作ることが出来るんじゃないかしら?
その中から特に見栄えのする頭蓋骨だけを収納袋らしき袋に放り込んで、ムハンだけが先に王都へ帰っていった。
外に散らばっていたマッシュたちとも合流してゆっくりと休憩した後に王都に帰ったんだけど、
「「「ミリアン様、バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!」」」
「何でお祭り騒ぎなのよ……」
「す、すごい人です……」
南の門には魔法で作ったと思う横断幕が掛かっていて『祝ダンジョン制覇。ミリアン様、ありがとう』なんて文字がゆらゆらと風に吹かれていた。
道の端には人々が列をなしていて、バンザイを繰り返している。
1番問題なのは、道の中央。
ついさっき倒したばかりの頭蓋骨が、パレード用の豪華な馬車の上にくくり付けられていた。
「私には凱旋パレードに見えるのだけど。しかも、私たちの……。気のせいかしら?」
「ご安心ください姫様。私にもそのように見えます」
ですよね……。
ってか、ムハン!! 何してるのよ!!!! ショタ長も止めなさいよ!!!!!!!!
なんて思っていたら、主犯だと思う2人が道の中央を歩いてきた。
「キノコ姫様のお帰りだーー!!」
「「「おぁぁぁああああああああーーー!!」」」
右手を掲げて宣言するムハンの声に、歓喜が重なり合う。
「強くてかわいい第4王女様。バンザーイ!!」
ギルド長があおるせいで、またバンザイが始まっちゃった……。
この2人、どうしてあげましょうか。ふふふふ。
「ぐぇ……、くるし、くるしいよ、お姉ちゃん……」
「いっ、いや、俺は、悪く、ねぇ。ギルド長がどうしてもって……、ヒッ!!」
ギルド長の首を絞めながらほほ笑んであげたんだけど、2人の顔が青く染まっちゃった。
私の天使のようなほほ笑みに顔を引きつらせるなんて、失礼しちゃうわよね。ふふふふ。
「あの、ね。お姉ちゃん。みんな、ね、つらい思いをしてきたんだよ」
私を見詰める彼の瞳が、悲しげに揺らいでいた。
「集まってくれた人の中には、今回の件に関わって家族を失った人もいるの。だからね。みんな楽しくしたいんだ。今日からまたいつもの日常に戻れる。そのきっかけが欲しいんだよ」
「…………」
周囲に目を向ければ、似つかわしくない剣を握って涙を流す女性の姿が見えた。
きっと彼女の大切な人は……。
「……そうね。わかったわ」
「ありがとう。無理言ってごめんね。行き先はお城じゃなくて冒険者ギルドまでだから。それにさ、きっと姫様のためにもなると思うよ」
そう言い残して、ショタ長が御者席にフワリと乗り込んだ。
ムハンが深々と頭を下げた後で、馬車の前へと走っていく。
「……みんな、頼めるかしら?」
「はい」
「かしこまりました」
「承知した」
軽く目を閉じてみんながうなずいてくれた。
マリーの差配でジニが馬車の右側、リリが後ろ、左側をマッシュを抱いたマリーが務める事になった。
私は馬車の中から周囲に手を振る役目ね。
本来なら100人とか、1000人とかでやる物なんだけど、まぁ、雰囲気だけ感じられれば良いんじゃないかしら。
楽しく、元気に。
お忍びとか、貴族たちの顔を気にしてとか、そんなわがままを言っている場合じゃないわよね。
大きな窓が取り付けられた馬車に乗り込んで前を向けば、本当にゆっくりとしたスピードで車輪が回り始めた。
「リリ。豪華に行きましょう。光の玉を浮かべるだけの魔力はあるかしら?」
「はっ、はい! 大丈夫です。えい!!」
「「「……ぉ、ぉぉぉおおおおおおおおお!!!!」」」」
リリがつえを軽く掲げたら、私たちの周囲に50個ほどの小さな光の玉が浮かんだ。
淡い光を周囲に振りまきながら、観客たちの隙間を縦横無尽に走り回ってくれる。
「1人で50個とかすげー!!」
「かわいくて、すごいとか反則だろ! やべーー、ほれるわぁーーーー!!」
「あぅ……。あっ、ありがとう、ございます……」
観客たちの反応も良い感じで、リリも悪い気はしてないみたいね。
そうして頑張ってもみたんだけど、好意的な視線だけじゃないみたい。
体格の良い男たちはジニ、豪華な衣装を身につけた人たちは私をにらんでくる。
前者は城勤めの兵士で、後者は貴族ね。
そんな彼らも、馬車につながれた大きな骸骨を眺めて何も言わずに帰って行った。
「ショタ長さん。なんか、いろいろなところに目を付けられているみたいなんだけど、大丈夫なの?」
「ん? あー、うん、大丈夫。誰になんて聞かれても、そのような事実はありません。って応えるから、お姉ちゃんもそう答えてねー」
いやいや、どう見てもパレードしちゃってるでしょうよ。そんな事実はありませんってあなた……。
「大丈夫。第4王女様なんて言う超大物が、平民の場所に来るはずないじゃん」
「…………まぁ、それもそうよね。わかったわよ。そういうことにしておくわ」
なんとも苦しい言い訳なんだけど、仕方ないわね。
あれだけつらそうにしていたリリとジニがみんなに褒められてうれしそうに笑っているんだもんね。
マリーも時々私の表情を見てうれしそうにしているし、後悔はないわ。
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