第21話 敵、かしら?
自分より大きな弓を構えたマッシュの姿はすっごく可愛いんだけど、不思議な安定感もあるわね。
なんだか凛々しくて可愛いくて、頼りになる感じなのよ。
「それが気に入ったの?」
「きゅっ!」
うれしそうな返事と一緒に、コクリって傘を震わせてくれた。
短剣以外も扱えるだなんて驚きね。
けど、よく考えると、ノコギリやカンナ、ノミなんかも器用に使いこなしていたし、ほかの武器なんかも扱えるのかしら?
「ギルド長さん、申し訳ないんだけど短剣以外も見たいのよ。長時間になりそうだから席を外してくれるかしら?」
「え? いや、大丈夫ですよ? すっごい暇なんで! ものすっごい暇なんで!!」
なぜかすがりつくような瞳でショタ長が見上げてくるけど、多分、書類仕事がやりたくないだけよね?
「机の上に書類の山が出来てたみたいだけど、サボってるって職員の人に言いつけるわよ?」
「えっと、あのね。これもギルド長の立派なお仕事!! 僕以外には出来ない重要な仕事だから――」
「ほら、さっさと行きなさい」
「……はい」
私が少しだけ強く言うと、肩を落としたギルド長がしょんぼりとした雰囲気で部屋を出て行った。
3人と1体だけが残った部屋の中に大きな魔方陣を思い浮かべる。
「マッシュー、おいでー」
「「「きゅ!」」」
自室の警備や小屋の増改築に残しておいた子もすべて呼び出して、合計32体のマッシュが私の前に並んでくれた。
まずいわね。体内の魔力がゴリゴリ減ってるわ……。
「1人1本ずつ、この部屋にある武器の中から気に入った物を選んでくれるかしら?」
「「「キュ!」」」
ピシッ、って敬礼のようなポーズをしたマッシュたちが、思い思いの武器へと群がっていく。
短剣を選んでくれていたマリーには悪いのだけど、使う本人に選ばせた方がきっとうまくいくわよね。
「マリーもリリも、気に入った物があれば言うのよ?」
「かしこまりました」「はい! ありがとうございます!」
真剣な表情で短剣を眺めるマッシュの中にマリーも加わって、リリは魔道具関連のネックレスなんか楽しそうに眺め始めた。
(私も何か武器を持とうかしら? けど、どうにもうまく扱えないのよね……)
それに武器の練習をするくらいなら、マッシュたちへの指示をうまくなるか、魔力を増やすかした方が無難よね?
んー、やっぱり私に武器はいらないかな。
「っと、危ない危ない。……マリー、青リンゴをくれるかしら?」
「かしこまりました」
倒れる前に魔力の補給。
……早く終わってくれないと、太るんじゃないかしら?
そうしてしゃくしゃくりんごを齧りながら、武器選びの風景を眺めていると、剣や盾、弓などを手にしたマッシュが4人1組で分かれ始めたみたい。
先頭の子が盾を持って、剣、短剣、弓を持った子が続く。
中には短剣の代わりに槍を持ったグループや、剣の代わりに斧を持つグループもあるけど、大枠はほとんど一緒ね。
「うん、良いんじゃないかしら? みんな頼もしいわ!」
「「「きゅ!」」」
確か、城の兵士も同じような構成だったと思う。
こうなったら、この子たちに武器の使い方を教えてくれる人も雇いたくなるわね。
薬草なんかを売ったお金で雇えば貴族たちにバレないし、良い案じゃないかしら?
まぁ、人材に心当たりはないのだけど……。
「とりあえずの目標は達成ね。ショタ長を捕まえて購入の手続きをしたら、屋台をふらりと眺めで帰りましょうか。南の森に行く準備もしなくちゃいけないしね」
「かしこまりました」「はい」
結局2人のお眼鏡にかなう物は見つからなかったみたくて、マッシュたちが選んだ武器のお金だけを支払って、私たちは冒険者ギルドを後にした。
青空の下で笑い合いながら買い食いをして、虫除けや日焼け止めのクリームなんかも買い求める。
一応の準備として、野営用のテントなんかも買って、マッシュの傘の中にしまってもらった。
そうして夕暮れの中を抜け道の入り口に向けて歩いていると、不意に眉をひそめたマリーが顔を寄せてくる。
「つけられています」
小声で告げられた言葉に思わず声を漏らしかけたけど、気合いで抑えて前を向いた。
リリが不安そうに私の手を握ってくれる。
「敵かしら?」
「恐らくは……。ですが、プロではありませんね。足音が消せていません」
「まぁ、そうよね。追放を目前にした私を暗殺なんてする必要なんてないもの」
それじゃぁ、誰が?
もしかして冒険者ギルド?
ショタ長の指示で何かを探ってる?
なんて思ったりもしたのだけど、ショタ長は私の正体を知っているのだから、尾行をつけてまで何かを探る必要はないのよね……。
(私が城下町に出ることを面白く思わない者、不利益が生じる者? ……ダメね、心当たりがないわ)
これで私が次期国王候補のトップ争いをしているのなら、兄妹の誰かが、って思うのだけど、0票の私を殺したって無駄でしかない。
そうして敵の姿が見えないままに私が首をかしげていると、前方から何者かが駆け寄ってくる足音が聞こえてきた。
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