第22話 手足、縛る?

「よぉ、会いたかったぜ。ひきょうもの」


 私たちの行く手をふさいで、6人の男が姿を見せた。


 剣2人に弓2人、残る2人は斧と短剣ね。


 それぞれが武器を片手に、ニヤニヤ気持ちの悪い笑みを浮かべてるんだけど、


 ……誰かしら? 



 全然思い出せないわね。だけど、向こうは私のことを知っているみたい……。


 城に詰める兵士?


 なんて思ったけど、こんなところにいるはずないし。


 武器の構え方が幼稚なのよね……。


「……誰?」


「あ゛ぁ゛!?」


 結局思い出せなくて聞いたら、中央にいた男がかわいそうなほど怒っちゃった。


 申し訳ないと思うけど、見覚えがないのだから仕方がないよね? うん。


「ミリ様。恐らくはギルドでリリを叩いた者と、そのパーティメンバーだと思われます」


「ん? ……あー、なるほど。そんなヤツもいたわね」


 本気で忘れちゃってたけど、言われてみたらそうかも。


「でも、右腕とかポッキリ折ったはずよね? 普通に剣を持ってるわよ?」


「回復魔法か、ポーションの可能性が高いですね」


「なるほどねー。借金でもしたのかしら?」


 回復魔法を使える人は貴重で、料金は一軒家と同じくらい。


 骨折を治すレベルのポーションも同じくらい額になるのよ。


「私に倒されるような冒険者が払えるような値段じゃない。そう思うのだけど?」


「うるせぇよ! ぶっ殺すぞ!」


 怒りに震える男が、近くに転がっていたタルを切り捨てた。


 闇討ちをしにきた人が、ぶっ殺すぞ、って脅しはどうなのかしら?


 もとからそのつもりよね?


「申し訳ないんだけど、自分より弱い人に殺されるほど暇じゃないのよ。見逃してあげるからどいてくれないかしら?」


「ふざけるなよひきょうもの! 疲れて酔った時の不意打ちで勝ったと思ってんじゃねぇよ!」


 あー、なるほど。万全の状態で挑めば勝てるって思っているのね。


「か弱い女の子を6人で襲っておいて、よく言うわ」


「死ねや!!!!!!!」


 顔を怒りでゆがませた男が、剣を大きく振り上げて走り始めた。


 そのすきだらけの姿を見ながら、私も前に出る。


 驚いて速度を落とした男のお腹に、ブーツが底が突き刺さった。


「ぅ゛ぐっ!」


 苦悶の表情を浮かべた男が、尻餅をついて地面に倒れる。


 残りの5人に視線を向けたのだけど、驚いて硬直しちゃってるわね。


 実践じゃ致命傷よ?


「さてと……。リリ、後は任せても良いかしら?」


「ぇ……?」


 せっかく生きの良い教材が手に入ったんですもの。


 リリのお勉強に使わなきゃね。


「大丈夫よ。今のあなたなら出来るわ。見返してあげなさい」


「……はいっ!!」


 キョトンとした表情を見せたリリが、愛用のつえを握りしめて元気いっぱいにうなずいてくれた。


 そんな彼女の姿を見て、男たちが怒りのあげる。


「調子に乗ってんじゃねぇよ、気絶魔女が!!」


「死ねや!!!!」


 相手がリリに変わったことで調子付いたみたい。


 勢いに任せた矢が数本飛んできて、その背後から剣や短剣を持つ男たちが突っ込んでくる。


「まずは盾ね。出来るかしら?」


「はい! 任せてください!! 水の神様。お願いします」


 えぃ!! って気合いを入れたリリが杖を大きく掲げるて見せる。


 視界を覆い尽くす水の壁が、一瞬にして姿を見せた。


 横は道幅いっぱい。上は身長の3倍はあるかしら?


 飛んできた矢が押し流されて、男たちも足を止める。


「…………」


 お互いに顔を見合わせて、攻めあぐねているみたい。


 突破口がないなら1度退けば良いのに。判断も遅いわよ?

 

「リリ。仕留めてあげて」


「はい! え――――い!!!!!!」


 可愛らしい仕草で杖が振り下ろされて、先端が壁に触れる。


 壁全体が淡い光に包まれて。ゆっくりと前に進み出した。


「てっ、撤退だ!!」


「来るな――――!!」


 道いっぱいに広がった壁を背中を追われて、男たちが逃げていく。


 だけど、そのスピードは壁の方が速いみたい。


 1人、2人、3人って壁の中に取り込まれて、1分も経過しないうちに全員が水の中に閉じ込められた。


 男たちが必死に手足を動かしてもがいているんだけど、彼らが動くたびに壁も大きくなる。


「……敵さん、動かなくなりました」


 おぼれて意識を失ったみたい。


 リリに疲れた様子もないし、本当に優秀な魔法使いね。

 さすがは私のリリ。


 そんな子に向かって『気絶魔女』だなんて、ほんとバカな男たちよね。


「殺しても邪魔なだけだから、魔法を解除してあげましょうか」


「はい」


 言うや否や、水の壁がスー……って消えいって、男たちがドサリと地面に落ちた。


 体内に入った水も壁と一緒に消えたと思うし、そのうち意識を取り戻すでしょ。


「姫様。念のために手足を縛っておきますか?」


「んー、そうね。そうしましょう。縛った後は冒険者ギルドにお任せね。リリもそれでいいかしら?」


「はい! おかげでスッキリしました。ありがとうございます」


 本当に晴れ晴れとした表情で、リリが頭を下げてくれた。


『気絶魔女』なんて言われていたし、色々な不満もあったんじゃないかしら。


「街に被害はないし、良い魔法だったわ。これからも頼りにしてるわよ?」


「はい! 頑張ります!」


 私のことを見上げたリリが、出会ってから1番素敵な笑顔を見せてくれた。

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