第23話 これでも王女ですから
第4王女の闇討ちを狙った者を捕まえた、って書いた紙をマッシュに託して、ショタ長に届けてもらう。
いまだに意識のない彼らが行き着く先は、炭鉱送りか、最前線送りね。
王族に対する闇討ちなのだから、処刑よりもつらい刑になると思うのだけど、リリの話だと日頃から悪事を働いていたみたいだから、私の立場を使わせてもらうことにしたの。
「悪事を続けてたって、ギルドはなにしてたのよ」
なんて思ったのだけど、リリの話だと、あの骨折男。貴族の五男みたい。
私からしてみれば家名も知らない弱小貴族なんだけど、報復が怖くて手を出せなかったらしいのよ。
「マリー、悪いんだけど、敵対する派閥に情報を流しておいてくれるかしら。王女を暗殺しようとして捕まったバカがいる、って」
「かしこまりました。至急、手配いたします」
「うん、よろしくね」
確かに貴族の報復は面倒なんだけど、私なら利害関係が一致する相手がいる。
女王の誰かがお忍びで~、ってことにしておけば、敵対する貴族たちがうまく覆い隠してくれるでしょ。
なんだよ、無能姫かよ、って成らないように、うまく炎上させてくれると思うしね。
「さてと、予定よりも遅れちゃったけど、城に帰りましょうか」
「はい!」「かしこまりました」
どこかスッキリとした表情を浮かべるリリを頼もしく思いながら、私たちは城にある部屋に帰るために、秘密の通路へと入っていった。
そうして迎えた翌日のこと。
夜のうちに密告書を各地に届けた私たちは、いつものように秘密の通路を通って街に出た。
行き先は、南側にある正面門。
目的はショタ長から依頼された森の調査ね。
「ん? あんたら冒険者かい。気をつけて行ってこいよ」
「えぇ、ありがとう、オジサン」
ショタ長にもらったC級のカードを見せて、街を脱出する。
私が王女だってバレると、警護の観点から~、とか言われて出られないんだけど、案外あっさりなのね。
門の先には石を敷き詰めた大きな道路がまっすぐに伸びていて、その両脇には収穫を待つ大麦が揺れてた。
収穫前の麦ってはじめて見るんだけど、すっごくキレイ。
なんだかワクワクするわ。
っと、いけない、いけない。
ここに来たのは観光じゃなくてお仕事!
一時的な感情を胸の奥に引っ込めて、私は横に並ぶ2人に視線を向けた。
「それじゃ行きましょうか」
「はい!」「かしこまりました」
1体のマッシュに出てきてもらって、畑の奥に見えた森の中に入っていく。
休憩所を建てたいつもの森より木がまばらで歩きやすく、差し込む光も優しく見える。
魔物さえ出なければ、のんびり森林浴でも楽しみたくなるわね。
だけど、やっぱりそうはいかないみたい。
森に入って5分も経過しないうちに、進行方向にある小さな茂みが不自然にガサゴソと揺れていた。
「さてと、早速のお出ましかしら」
愛用のナイフやつえを握る2人を尻目に姿を見せたのは、大きな角が生えた赤いトカゲ。
マッシュの2倍はありそうな体を揺らして、敵意のある視線を向けていた。
「マッシュー、おいでー」
私たち以外に人がいない事を確認して、4体のマッシュに来てもらう。
盾や剣、弓、短剣などを傘の中から取り出す彼らを横目に、もう一度赤いトカゲに視線を向けた。
「赤い大きなトカゲなんて知らないわね。2人は何かわかるかしら?」
「申し訳ありません……」
「私もわからないです……」
このトカゲが、大量発生している、って言っていた魔物かしら?
ペロリと舌を出す口元には、大きな牙が見え隠れしていて、魔物の類いだとは思うのだけど、それ以上の事はわからないわね。
ハッキリしているのは、交友的じゃないってこと。
「マッシュ。お願い出来るかしら?」
「「「キュ!」」」
私の要請を受けて、大きな盾を構えたマッシュが駆けていく。
そんな彼の動きを警戒するように低いうねり声を上げていたトカゲが、大きな口を開けてマッシュに飛びかかった。
一瞬の後に、マッシュが体ごと盾を斜めにする。
勢いに流されたトカゲが、盾の表面を滑っていった。
地面に着地したトカゲ目掛けて矢が飛ぶ。
「ク゛カ゛ッ゛」
1本、2本、3本って当たった矢が、トカゲの長い尻尾を地面に縫い付ける。
次いで飛びかかったマッシュが背中に短剣を刺して、別の子が首をスッパリと切り捨てた。
「ク゛ッ゛…………」
小さな声を漏らしながら、トカゲの体が地面に横たわる。
「きゅ!」
「「「きゅーーーー!!」」」
クルリと振り向いたマッシュが、やったどー! って感じで剣や盾を掲げてみせる。
どうやら無事に終わったみたい。
「お疲れ様。良い連携だったわよ」
「「「キュ!」」」
予想よりも早い敵の登場のせいでいきなり本番になっちゃったけど、マッシュたちにいろんな武器を持たせて正解ね。
城の兵レベル、とまでは言えないけど、素手だった頃と比べれば段違いに強くなってくれたわ。
スライムより強そうに見えたトカゲ相手にも、危なげなかったわね。
さすがは私のマッシュ!
「んーっと? このトカゲ、どうする? って思ったけど、息つく暇もないのね……」
息絶えたトカゲを眺めていたら、3方向からガサゴソって大きな音が聞こえてきた。
せめて作戦会議くらいさせて欲しいんだけど、ダメみたい。
「リリ、左側をお願い出来るかしら? サポートに盾の子を1体付けるわ」
「はい! 任せてください!」
「正面と右手はマッシュに頼むわね。マリーは全体に目を光らせていて、どこかが危なそうなら助けに入って」
「かしこまりました」
「「「きゅ!」」」
頼もしい2人にうなずきを返して、今出せるすべてのマッシュに出てきてもらう。
そんな私たちの前に、1匹、2匹、3匹と、大小様々な赤いトカゲが姿を見せ始めた。
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